タイトル:藤間みや子 キャラクター名:藤間 みや子(とうま みやこ) 職業:深窓の令嬢 年齢:23 / 性別:女 出身:日本 髪の色:黒 / 瞳の色: / 肌の色:黄 身長:160 体重:45 ■能力値■ HP:10 MP:13 SAN:70/99      STR  CON  POW  DEX  APP  SIZ  INT  EDU  HP  MP 作成時   9   7  14  10  14  13  13  13  10  13 成長等 他修正        -1 =合計=   9   7  13  10  14  13  13  13  10  13 ■技能■ ------------------------ 戦闘系技能 ------------------------ 習得/名前       現在値 習得/名前    現在値 習得/名前      現在値  《回避》      20%   《キック》  25%   《組み付き》   25%  《こぶし(パンチ)》50%   《頭突き》  10%   《投擲》     25%  《マーシャルアーツ》1%    《拳銃》   20%   《サブマシンガン》15%  《ショットガン》  30%   《マシンガン》15%   《ライフル》   25% ------------------------ 探索系技能 ------------------------ 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値 ●《応急手当》80%   《鍵開け》 1%    《隠す》  15% ●《隠れる》 50%  ●《聞き耳》 75%  ●《忍び歩き》40%  《写真術》 10%   《精神分析》1%    《追跡》  10%  《登攀》  40%  ●《図書館》 80%  ●《目星》  85% ------------------------ 行動系技能 ------------------------ 習得/名前    現在値 習得/名前   現在値 習得/名前     現在値  《運転》   20%   《機械修理》20%   《重機械操作》 1%  《乗馬》   5%    《水泳》  25%  ●《製作(デコイ)》45%  《操縦()》  1%    《跳躍》  25%   《電気修理》  10%  《ナビゲート》10%   《変装》  1%    《》      % ------------------------ 交渉系技能 ------------------------ 習得/名前    現在値 習得/名前   現在値 習得/名前 現在値  《言いくるめ》5%   ●《信用》  40%   《説得》15%  《値切り》  5%    《母国語()》65%   《》  % ------------------------ 知識系技能 ------------------------ 習得/名前      現在値 習得/名前      現在値 習得/名前  現在値 ●《医学》     45%   《オカルト》   5%    《化学》 1%  《クトゥルフ神話》0%    《芸術()》    5%    《経理》 10%  《考古学》    1%    《コンピューター》1%    《心理学》5%  《人類学》    1%    《生物学》    1%    《地質学》1%  《電子工学》   1%    《天文学》    1%    《博物学》10%  《物理学》    1%    《法律》     5%    《薬学》 1%  《歴史》     20%   《》       %    《》   % ■戦闘■ ダメージボーナス:0 名称     成功率 ダメージ 射程  攻撃回数 装弾数 耐久力 / 備考 軍刀サーベル                           /                                  / ■所持品■ 名称      単価 個数 価格 備考 軍刀(サーベル)    1   0   自分の腹を刺したはず 小さなカギ      1   0   得た            1   0            1   0 =所持品合計=     0 所持金 預金・借金 ■その他■ メモ: 全体HO:あなたは、幸せな最期を迎えられなかった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ しあわせとは、巡り合わせだと言いました。 自身の状況に偶々別の状況が重なって生まれる運命が”仕合わせ”と言うのでございます。 良いも悪いも、仕合わせ なのでございます。 彼──宗一郎さんと出会ったのは澄んだ空気の、星の綺麗な夜でございました。 私はとある華族の長女として生まれました。 幼い頃より身体が弱かった私は、東京を離れ療養の為、田舎で祖母や使用人たちと静かに暮らしておりました。 東京に住まう妹とは文のやり取りがありましたし、お屋敷には沢山の本がありましたから、心細さを感じることはありませんでした。 東京の妹と比べて、常に監視の目がある訳ではない私は、むしろ自由と言えましたでしょう。 私が十一のころ、外の空気を吸いたくて抜け出した裏庭で、一匹の蛍を見つけました。 家庭教師との勉強以外は読書をして毎日を過ごしていた私にとって、それを追いかけてみるという発想はとても心を踊らせるものであり、本で読む以外の、初めての冒険でございました。 裏庭を抜け、梅雨の雨露の残る砂利に足を滑らしながらも、蛍に導かれるまま山へ登りますと、そこで私は、しじまの中池のほとりで蛍を慈しむ、幼いながらも精悍な顔立ちの少年と出会ったのでございます。 「高島 宗一郎」と名乗った彼は、私の人生で最初の友人となりました。 半袖のワイシャツと短いパンツから覗く四肢は瑞々しく、自身の青白く貧相で骨ばった体が、なんだか恥ずかしく、草の葉に隠れてしまいたい気持ちになりました。 歳は私よりも2つ程上、山の畔の小作農の家の三男坊で、朝は新聞配達、昼は勉強、夕方は家業と大変働き者の少年でございました。 それからは、初めての友人と毎日のように人目を盗んで冒険をすることが、私の一番の楽しみとなりました。 彼は口数が多い質ではありませんでしたから、私は自分がおしゃべりになったような気がして、なんだか体調も良いように感じられて、気が大きくなり無理してしまうこともありました。何事もなく遊んでいられたのは、彼が私の体に大変配慮して下さっていたからだと、今では分かります。 私は思っていたよりもお転婆だったようで、虫のとり方や、動物の捕まえ方、木の上り方等、彼に教えてもらうことがとても愉快で、私の知らないことを沢山知っている彼がとても大きく頼もしく感じられました。 しかし幼いながら、この身分の違う友情は大人達に受け入れられ難いということを私達は理解しておりました。 ところで、私の父はそれはもう厳格なお方でございました。 伝統を重んじ、藤間の名に誇りを持っている父が私の田舎生活をお許しになっているのは、一重に母の説得のおかげでございます。 妹の千代子は、器量の良い、おしゃまな娘でございました。 『――それで、私は彼にラブを感じているのです。 友人達も戀の話で持ち切りです。頭の固いお父様も、彼ならきつと認めて下さることでせう。 姉様も、千代子に戀のお話を聞かせてくださいな。』 妹からのお便りは私に沢山の知見を与えてくれました。 それは流行りであったり、恋でありました。 本で得る知識とは違う生の感情を教えてもらいました。 その感情はウブな田舎者の私たちにはずいぶんキザで、現実味がなく、照れくさいものでありましたから、お互いを想う気持ちが恋であると気づいたのは、出会ってから数年が経ち、私は十四となる頃でございました。 また時が経ち、藤間に待望の男児が産まれ、跡継ぎの誕生を皆で喜んだ頃、妹が子爵の男性と婚約致しました。度々お便りで聞かせてくれていたお方とのことで、 想いあった相手と一緒になれる、なんとも喜ばしい事だと祝福いたしました。 私と宗一郎さんも、私がこの家を出ることが出来るようになれば、愈々一緒になれるのではないかと、そんな未来に思いを馳せておりました。 そんな折、宗一郎さんの出兵が決まりました。 「待っていてくれますか」 と、私の髪を梳く手つきは不器用ながら優しく、私は泣きそうになりながら、ただ頷くだけでございました。 彼の出兵後暫くて、私は肺の病に倒れることになりました。 少しずつ弱っていく中も、彼をしのび待ち続けました。 来る日も来る日も彼に手紙を書き続けました。 今日の天気のことであったり、読んだ本のことであったり、彼に伝えたい想いは幾らでも沸いて出てきましたが、彼から一度と返事が来ることはありませんでした。 その頃にはお屋敷の皆も、東京の両親も、私の想い人の存在を知っておりました。きっとお屋敷の誰かが洩らしたのでしょう。 「いつまでも居もしない男なぞに操を立てていられると思うのか」 「彼は帰ってきます。約束したのです」 「お前は藤間の長女だ。その自覚を持たねばならん」 平民の入婿は勿論、降嫁も認めぬ父は、遂に私の意思を余所に、縁談を進めたのでございました。 華族に置いて、婚期を過ぎた病気持ちの女なぞに、嫁にしたいと思う方は稀有でございます。 つまり、私の夫になる男とは、同じ様に”訳のある”方なのでございました。 「悪くないじゃないか」 屋敷に突然押し掛けた知らない男に私は後ずさりました。 私を頭からつま先まで嘗め回すように品定めするこの下品な男が、私の夫であると伝えられたとき、目の前が真っ暗になりました。 男が人払いし、男の連れてきた使用人と私の使用人を下げますと、ずいっと無遠慮に私に近づきました。 はっと逃げ出そうとした手を掴まれ、「寝所はこっちか」と私の手を引きずっていきました。 息が、上手く出来ません。逃げ出したいのに、足が竦んで、縺れて、走り出すことがかないませんでした。 後ろ手に扉を閉めると、下衆た笑みで私を見下ろしてきました。 私を布団に押し倒すと、乱暴に服をたくし上げます。 舌なめずりの音が、嫌らしく纏わりつき、私は悲痛な思いで宗一郎さんの名前を呼びました。 「夫婦の褥で余所の男の名前を呼ぶとは何事か」 頬を張られ両腕を纏め上げられてしまいました。 精一杯の抵抗は空しく、ピクリとも動かすことができません。 敵わない、と思いました。 病弱で文弱で、非力だから? ……いいえ、私が"女"であるからでございました。 私は、私が女である限り、華族の娘である限り、"私"は存在しなかったのだと、思い知ったのでございます。 妹のように、定められた運命の中でしあわせを見つけられたら、幸福だったのでしょうか。 鳥籠の中で許された自由を探すことが、幸福の道だったのでしょうか。 ついに絶望にのまれ、全てを諦めかけたそのとき、 鳥を潰したような情けない声が短く鳴り、どさりと男の体が沈みました。 「みや子さん!」 崩れ落ちた男の向こうに、彼が、宗一郎さんが立っておりました。 それは確かに彼の衝動で、起こったこと、起こしてしまったことに一瞬愕然とする表情を浮かべながらも、「無事ですか」と私の服を正し、不器用に涙を拭ってくれる手が、精悍で大人びた顔が、その全てが、待ち続け想い続けた彼でございました。 「宗一郎さん、帰ったのですね」 「貴女に一番に会いに来ました。待たせて済みません」 男の呻き声が聞こえました。未だ気を失っているようでしたが、目覚めてしまえば、どんな理由があったとしても彼は罪に問われてしまうでしょう。そうしたら彼は……恐ろしい予想が頭の中を騒ぎ立てました。 彼も自分の行為がなんたるかを理解しているようでした。 私が、彼の人生を狂わせてしまったのです。 「逃げましょう。 この男の目が覚める前に」 私はそう言って羽織を掴み、縁側から外に飛び出しました。 庭を離れた頃お屋敷方から怒声と慌ただしい喧騒が聞こえてまいりました。 振り返ると男たちが追いかけて来るのが見えました。男が連れてきた使用人のようでございました。 私が彼を不幸にしてしまったのです。 私と違って未来ある彼の。 私は罰が当たったのでございましょうか、自らの使命を放棄し浮かれていた罰でしょうか、鳥籠から出ようとした罰でしょうか。 そもそも罪とは、私の生そのものではないのでしょうか。 私は彼の手を引き、無我夢中で走りました。 走って、走って、たどり着いたのはあの池のほとりでございました。 追っ手の声は届きません。 彼を見遣ると、脇の腹が赤く染まっていました。 追っ手の放った弾が彼の腹を抉ったのでございましょう。 彼はもう、限界でございました。 「済みません。私が貴女の人生を狂わせたのでしょう」 彼が俯いて、肩で深く息をしながらそう零しました。 私は驚いて、顔を覗き込み目を見合わせました。 「わたくしも、同じことを思っていました」 山の麓の方から、追っ手の声が微かに聞こえてまいりました。ジッとしていてはいずれ見つかってしまうでしょう。 見つかるのが先か、彼が逝くのが先か。私達に猶予が無いことを私達たちは嫌という程理解しました。 自らの運命を理解しますと、私のこころはひどく落ち着いて、むしろ爽やかな気持ちにもなって、迷いはもうありませんでした。 「……わたくしと、一緒になりませんか」 「良いのですか」 「わたくしの幸せとは、宗一郎さんと一緒になることです」 そこからの私たちは、言葉は要りませんでした。 すると、1匹の蛍がどこからか現れました。 私たちはその妙なる光景に出会ったあの日を思い出し、また、蛍に導かれるまま、山を進みました。 鬱蒼と生い茂る木々が開けた瞬間、私たちの眼前に広がったのは、深い谷と、蛍の光の群れと、重なった木々の夜露が、差し込む月光と綺羅星を反射しきらきらと輝く、それはそれは見事な、山紫水明の景色でございました。 この深い谷底には、きっと清らかな川が流れているのでしょう。 「此処にしましょう」 彼が言いました。 私は頷いて、彼の腰に差していた軍刀を引き抜き、一思いに自分の腹を刺しました。 血が溢れます。 激しい痛みに気を飛ばしそうになるのを堪え、私たちは抱きしめ口付け合いました。 月明かりを受け交わる木々のように枝を交わす。 触れ合う傷口から溢れる鮮血が混じり合い、ひとつになっていきました。 血を一つにしいたしましょう。 もう二度と離れなくていいように、 来世は同じ魂として生まれますように。 私たちは抱き合ったまま、谷へ身を投げました。 お父様、お母様、千代子、顔も知らない弟よ。 先立つ不幸を、私たちの運命をお許しください。 これが、みや子の仕合わせだったのです。 それでは永遠に御機嫌よう。さようなら。 ──赤く染った2人は星灯を纏って落ちてゆき、蛍は夜空へと昇っていった。 最後に涙と小さな言葉が一粒、昇ってゆく夜空に消える。 嗚呼、しあわせ と。 ──目が覚めると吹雪の舞う、真っ白な雪原でございました。 死後の世界とは、地獄とは。 それでも、また繋がるときまで。 prologue「ユーデモニクスと梅雨」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 以下、エピローグ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ こんな夜は、澄んだ空気を肺いっぱい吸い込んで、小走りにあの場所へ向かう。 梅雨晴間だ。雨気を含んだ雲々は昨日に置いてきた。蛍が夜を歓迎している。 ─────────────── その少女は、自ら声を掛けてきたにもかかわらず、途端に顔を真っ赤にして、恥じらうように、そわそわと、それでもしっかりとこちらを見つめてきた。というものだから、私という子供は、そんな上等な着物を着て、手入れされた髪をして、大事にされてきたであろう白い手足は土で汚れたことも、灰で煤けたこともないのだろうと、何処に恥ず事があるのだと、オラは1人目の兄、2人目の兄と着古されたシャツとずぼんを、今日も明日も履いているというのに。なんて具合に、不平を覚えてみたのである。 そうしたら、なんだか自分まで恥ずかしくなって、やはり恥ずべきはみすぼらしい自分だとも思って、そんな思いは悟られまいと声を掛けかえした。 すると、少女はひときわ目を泳がした後、あわてた様子で姿勢を正した。 「……とうまみや子ともうします。みやはひらがなで、子はこどもの子でございます」 とうま。藤間。あぁ、と一人得心する。 田舎の小さな村に不釣り合いなお屋敷。派手な広さではないが、自分の家が三つも四つもも並ぶような大きさで、そこに藤間と表札が掛けられていた。高貴な身分のお方の生家であると、父から聞いたような、そんなことを思い出した。 澄んだ空気が頬を擽って逃げていった。少女の瞳が不安気に揺れている。 これが彼女との出会いだった。梅雨の季節だった。 彼女は華族の長女で、しかしながら身体が弱く生まれたため、一族の生家であるあの家で療養の日々を送っているという。 現にあの出会いの後彼女は風邪を引き、二度目に出会えたのはそのひと月も後のことであった。 そうして、私のお気に入りの場所だったあの池の辺は彼女との遊び場になり、そこで築いた友情は誰にも替え難く、やがて彼女に若い想いをそめることに、さしての時間はかからなかった。 彼女曰く、お屋敷の人達は皆優しいと言う、友人を作れないのも、外出を許されないのも、心配をしてくれているからだと、ちいちゃな眉を下げていた。 「……でも、わたくしはこうしておそとにでているほうが、よっぽどすこやかに感じます」 そう零しながら、都の父がとても厳しいだとか、母が優しいだとか、妹が可愛いだとか、そういった話も聞かせてくれた。とくに、妹に関する話題には事欠かなく、今日届いた文であるとか、写真であるとか、嬉しそうに、興味深そうに、しかし上品に、良く語ってくれた。 慎み深いかと思えば大胆で、私の粗末な想像力では計れない少女であった。 時に、私はかなりの口下手である。更に言うなら笑顔だって苦手である。同じ年代の子供と比べて大人びていると言われることもあれば、無口でつまらないやつと言われることもしばしば、私は生きる上で、必要最低限以上の言葉は必要ないと考えていた。彼女も普段は私に近い質であるのだろう。私にはくるくると沢山の話をしてくれるが、ふとすると口を閉じ、ただ景色を眺め、緩慢な時間を過ごしていることがある。 そうやって彼女にばかり話させているのはどうにも忍びなく、不慣れにも自分の知っていることを、彼女の知らなさそうなことを、なんでも話してみせた。 虫のとり方や木の登り方なんて、深窓のご令嬢には些か粗暴である話にも目を輝かせて聞いてくれるものだから、無口だのとか、余計であるだのは忘れて何でも話し、何でも教えた。鼠が増えたから猫を飼ったと言っていたから、猫を飼う余裕のない家はこうするんだと、鼠の捕り方なんかも教えた。他者との交流がこんなにも楽しいものだと、発見の日々の中、私たちは一つ一つ、手探りな感情を育んでいた。 まだたどたどしかった彼女の口調が、澱みのない流暢なものに変わった頃には、私も自分をオラというのは辞め、わたし、と背伸びするようになった。その頃にはもう、ただただ、少しでも彼女に釣り合う相手になりたかった。 秘密の場所に向かい彼女を待つ、暫くすると、黒檀の髪を揺らして彼女が現れる、こんな時間がずっと続けば。春夏秋冬、彼女とここに居た。 とくに、出会いとなった梅雨の季節は、私たちにとって特別だった。 ─────────────── ────雨が降って欲しいと思った。遣らずの雨、片時雨。鬱陶しい梅雨も、帰る彼女を引き留められるなら何時までだって振り続けてくれと願った。いつだってそう願った。 思いが通じたのか、雨の匂いが強くなるのを感じる。 強くならないといい。彼女は身体が弱いから。 降ってくれ、強くなるな。我儘な願いに梅雨の空は機嫌を損ねるであろうか。 南西の空でより濃くくすんだ雲が燻っている。 ふたりで、雨に溶けてしまえれば。なんて。 ─────────────── 「宗一郎さんは、輪廻を信じますか?」 彼女の問いに私はうーんと唸り、ややあって「どうだろうか」と実につまらない返事をした。 彼女は微笑んで、それから曇り空を眺めながら「血の繋がった兄妹であれば、いえ、一人の人間であれば、ずっと一緒にいられるのに」と呟き、その後コホコホと咳いた。 「……今日は寒いから、体に障ったのでしょう。戻りましょうか」 私がそう言って手を差し出すと、寂しげな笑みを浮かべたのち、差し出した手を支えに山を下った。 風が吹けば無くしてしまいそうなか弱い花弁、しかし靱やかな根で土にしがみつき、時には浮つき、見えない嵐に弄ばれる彼女を、そんな雨風から守る傘となりたかった。それが私の幸福であり望みだと思った。 私が戦争へ発つことが決まったとき、待っていてくれるかとの私の問いに、彼女は頷いてくれていた。しかし、結局彼女からは便りの一通も来ることはないまま、やがて終戦を迎えた。 漸く本土へ帰還できた時には、終戦から暫く経ってしまって、7月に入った頃だった。私は祝福の声を背中で聞きながら汽車へ乗り、村へ急いだ。 もしかすると、もう私の事など忘れてしまっているのかもしれない。なにぶん、あれからもう何年も経ってしまった。それでも、逸る胸を抑えられず、帰還を喜んでくれる人達を押しのけて、あぁ、きっと私を知っている者たちからはらしくないと言われるのだろうが、体を前にのめらせて、走る、走る。顔を火照らせて、一目散に、待っていてくれると言っていたから。姿を見るだけでもいい。私を見つけた彼女が外へ出て、駆け寄ってきてくれるかもしれない。あぁ、そんな空想が止まらない。もう空は暗くなっていた。走る、走る。 お屋敷の裏の林に入り、そこから裏庭に出る、逆方向へ行けばあの山に行ける。庭の離れが彼女の部屋だ。子供の頃のように裏庭の木陰に隠れながら足を進める、彼女の気配を探る。そして──── 私は今、あの時の様な梅雨晴間の、あの山を走っている。隣には涙を堪えた愛しい彼女がいて、私の腹には赤い染みと焼けるような痛みが拡がっている。雨の名残が足元の地面を濡らしていた。 ああ、私が彼女を壊したのです!私の愚かさが彼女の人生を壊してしまった、彼女の光芒を絶ったのは私だ。不相応に彼女に恋をしたから、彼女に恋をさせてしまったから。絶望が視界を支配した。 限界だった。右腹が燃えるように熱い。脚に上手く力が入らない。 いつの間にか、あの池の辺だった。 「済みません。私が貴女の人生を狂わせたのでしょう」 顔を合わせられない。そんな資格はない。軽蔑して、罵ってくれ、許さないでと、伏せた瞼に力が入る。 ややあって、彼女が口を開いた。 「わたくしも、同じことを思っていました」 耳を疑った。驚いて目を見開くと、微笑んだ彼女が私の顔を覗き込んでいた。 強張っていた身体から力が抜ける、そうか、同じだったのだ。彼女も同じように、後悔して、私を想ってくれていた。それならば、この後悔は、絶望は、彼女のものと混ぜてしまって、このほとりに置いていこう。 「……わたくしと、一緒になりませんか」 「良いのですか」 「わたくしの幸せとは、宗一郎さんと一緒になることです」 迷いのない声風に心が軽くなる。すう、と体に柔らかい風が巡ったような心地だった。遠くに聞こえる追手の声を背中で受けながら、蹌踉とする膝に力を入れる。目の前に、一匹の蛍。 蛍に導かれ、山を登る。天への階段のように感じられた。 視界が開けた瞬間、眼前に広がる景色に目を奪われた。鬱蒼と茂る木々を此処だけ切り取ったかのような、深い谷にかかる満点の星々。蛍の群れと星明りが濡れた草木を照らしている。こんな場所があったのか。 隣を見ると、慈しむような、穏やかな表情で景色を見つめる彼女がいた。黒い瞳に致景がきらきらと反射して、この世で一番美しいと思った。 「此処にしましょう」 彼女はこくりと頷いた。 落ちながら、自らについて考えてみた。 私はどうなりたかったのだろうか、私は何を求めていたのか。彼女を守れる力と身分だったろうか、彼女を娶る祝福であろうか。いいや、彼女と一緒に居られればそれでよかった。あの場所で、隣に座る横顔を見ながら、優しい時間を共有したい。それだけだったのだ。だとしたら、既に私は幸せだったのである。自身の仕合わせを肯定する。幸せに気づいてやれる事こそが幸せなのだ。 いつかの問いに今なら答えられる。 私は信心深くないから、本で読んだような、輪廻を信じているわけではない。それでも、いつか必ず、何百年、何万年先になろうとも、また必ず、貴女と繋がるだろう。 どうしたって、今こんなにも、ひとつなのだから。 空が昇っていく。 意識を手放す瞬間、愛しい声が聞こえた気がした。 ─────────────── ────長い、長い夢を見ていた気がする。 打ち付けられた身体は、もう感覚がありませんでしたが、体の下で清流が流れていることは、耳元のせせらぎでわかりました。 幸せとは何か。夢で出会った彼等は、自らの運命を愛せたでしょうか。 遠のく意識の隙間に、梅雨が残した梔子の香りが、澄んだ風と共に鼻腔をくすぐりました。 きっと、夜が明けたのでしょう。 epilogue「恋蛍に集う」 ■簡易用■ 藤間 みや子(とうま みやこ)(女) 職業:深窓の令嬢 年齢:23 PL: STR:9  DEX:10  INT:13 アイデア:65 CON:7  APP:14  POW:13  幸 運:65 SIZ:13 SAN:99 EDU:13 知 識:65 H P:10  M P:13  回避:dex*2  ダメージボーナス:0 ―――――――――――――――――――――――――― [技能](職業技能点:260 個人技能点:130) (書式:職業/個人<成長>[その他]) ―――――――――――――――――――――――――― [持ち物] ・武器 ――――――――ここに記入―――――――― ・防具 ――――――――ここに記入―――――――― ・所持品 ――――――――ここに記入―――――――― [プロフィール]