タイトル:仮作成エルフ キャラクター名:デンクレス=ミッドフィル 種族:エルフ [特徴:暗視、剣の加護/優しき水] 生まれ:魔術師 ■パーソナルデータ・経歴■ 年齢:60くらい 性別:男 髪の色:蒼(元は白) / 瞳の色:藤色(魔術で変えた) / 肌の色:褐色(海エルフ) 身長:168 体重:62 経歴1:同じ夢を何度も見る 経歴2:忘れられない恐怖を体験したことがある 経歴3:監禁されたことがある 穢れ度:0 ■能力値■      技     体     心 基礎   10      3     13    器用 敏捷 筋力 生命 知力 精神 A~F   5  10   1   9   7   7 成長            3   1    →計:4 修正 =合計= 15  20   4  15  23  20 ボーナス  2   3   0   2   3   3    生命 精神    抵抗 抵抗  HP  MP 基本   5   6  24  29 特技         0   0 修正 =合計=  5   6  24  29 ■レベル・技能■ 冒険者レベル:3 Lv ソーサラー 3 Lv  / スカウト 2 Lv セージ   1 Lv  /       Lv ■戦闘特技・値■ [参照] 特技名   : 効果                             : 前提 [p223]魔法誘導  : 射撃魔法で誤射しない、完全に隠れ切れてない対象に射撃魔法可能 : [p226]魔法拡大/数 : 対象を拡大するごとにMP倍増、達成値は個別           :    魔物       全力    知識 先制 移動 移動 基本   4   5  20  60 修正 特技        0 =合計=  4   5  20m  60m ■呪歌・練技・騎芸・賦術・鼓咆・占瞳■ [参照] 特技名: 効果: 前提 ■装備■ ・基本命中力、追加ダメージ、基本回避力        Lv 命中 追ダメ 回避 ファイター : グラップラー: フェンサー : シューター : ・武器 価格 用法 必筋 修正 命中 威力 C値 追ダメ [カテゴリ・ランク] 名称(*:装備している) / 備考 (参照) 50   1H   3      0   3  10   0 [ソードB] *ダガー / 魔法の発動体:蒼い幾何学模様が刻み込まれている短剣。自作。攻撃力はしょっぱい (232p) =価格合計= 50 G ・防具    必筋 回避 防護  価格  名称 / 備考 鎧 :  1      2   15 クロースアーマー / ぬののふく 盾 :  1   1      60 バックラー / ないよりはマシ 修正: = 合計 =    1   2   75 G (回避技能:) ・装飾品    価格 名称      / 効果 頭 :           / 耳 :           / 顔 :           / 首 :           / 背中:           / 右手:1000 能力増強の腕輪 / 左手:500  能力増強の指輪 / 腰 :           / 足 :           / 他 :           / =合計=1500 G ■所持品■ 名称         単価 個数 価格 備考 魔香草        100  3   300 救命草        30  5   150 冒険者セット     100  1   100 魔法の発動体     100  1   100  魔法発動の触媒。100Gの材料さえあれば自分で加工できる スカウト用ツール   100  2   200  いのちづな。万が一のために2つ持ってる。譲渡:ゼロ アウェイクポーション 100  1   100               1   0               1   0 =所持品合計=    950 G =装備合計=     1625 G = 価格総計 =    2575 G 所持金    2242G 預金・借金    G ■魔力■ 知力ボーナス: 3 特技強化ボーナス: 0 武器ボーナス: 0  名前  Lv 追加修正 魔力 真語魔法 3       6 ■言語■       話 読            話 読 共通交易語 ○ ○ / 巨人語       - - エルフ語  ○ ○ / ドラゴン語     - - ドワーフ語 - - / ドレイク語     - - 神紀文明語 - - / 汎用蛮族語     - - 魔動機文明語- - / 魔神語       ○ - 魔法文明語 ○ ○ / 妖魔語       - - 妖精語   - - / グラスランナー語  - - シャドウ語 - - / ミアキス語     - - バルカン語 - - / ライカンスロープ語 - - ソレイユ語 - - ・地方語、各種族語     話 読 名称 初期習得言語:交易交通語、エルフ語 技能習得言語:魔法文明語、1個の会話or読文 ■名誉アイテム■ 点数 名称 所持名誉点: 35 点 合計名誉点: 35 点 ■その他■ 経験点:660点 (使用経験点:5500点、獲得経験点:3160点) セッション回数:4回 成長履歴: 成長能力 獲得経験点(達成/ボーナス/ピンゾロ) メモ 1- 知力    3160点(1000 /2160 / 回) 2- 生命力    0点(   /   / 回) 3- 生命力    0点(   /   / 回) 4- 生命力    0点(   /   / 回) メモ: 「どうでしょうか、先生。先生が教えてくれた魔法、ちゃんと使えていますか?」 鳴る雷に緑の瞳が光る。獣の哭くような、鈴を転がすような、相反するような少女の声が脳髄を溶かす。 「いけない先生。逃げちゃダメですよ。もう、すぐ私をそうやって困らせるんですから」 体は押さえつけられ、動かすことはままならず、少女は牙を剥き、その牙を突き立て―――― 「愛しています、先生。これで私たちは――――永遠に」 「うわぁああああああああああ!! ……あああ、夢、夢……、夢か、夢だ、これは」 首筋に触れる。そこに傷はない。いつもどおり。いつもどおりだ。 この十年、何度も見た夢。目を覚ますたびに汗を掻く。何度も繰り返した、いつもどおり。 小屋の窓から外を見る。朝だというのに空は不機嫌そうに暗く曇っている。遠く雷が鳴った。 「今日は、釣りは無理だな」 夢を振り払うように一人呟く。忌々しい気分だった。きっと雷の音が、あの夢を呼び覚ましたに違いないのだ。 ◆―――――――◆ 俺は10年ほど前、テラスティア大陸で教師の真似事をしていたことがある。 当時は今と違う名前を名乗っていたが、月と凪を意味するそれを俺が名乗ることはあと100年ほどはないだろう。 エルフは無駄に長生きだ。いや、ありがたいことではあるのだ。お陰様で適当に生きていても知識は深まる。 それを買われ、町から町へ時に善意で、時に報酬目当てで教師の真似事をしていた。 故郷の友は冒険者稼業に夢中なものが多かったが、俺はそんな危険な仕事に興味はない。 戦う術など最低限で良い。目眩まして逃げられればそれでいい。 それでいいと思っていたのだ。あの忌まわしき館に行くまでは。 ザルツ地方はルキスラ帝国その南。リュキア、だったか。そこに立ち寄ったときのことだ。 俺はいつものように旅の教師をして路銀を稼いでいた。そんなある時、俺宛に奇妙な依頼が来た。 街から外れた森、そこに館を構えるさる貴族の子女のために家庭教師をしてほしいという。 疑わしい依頼だったとは思う。だが、知り合いに確認して裏を取れたことで、俺は安心してその依頼を受けたのだ 深い森の奥。高そうな馬車に揺られ館へ向かう。その日は、とても濃い霧が出ていたのを覚えている。 霧に包まれた館は神秘的で、よく手入れのされた庭もまた美しい。 館に招かれた俺は応接室でしばし待たされた。格式高い調度品に囲まれ、柄にもなく緊張した。 やがて、扉が開き、使用人を連れ、館の主が姿を見せる。 銀髪の、美しい少女だった。 「『初めまして』。ハーティミア=ウルティス=ノルンと申します」 ―――俺は一生忘れないだろう。彼女の名前を、揺れる白銀の髪を。 「これからよろしくおねがいしますね――――『先生』」 ーーー俺を見て笑った、緑の瞳を。 ◆―――◆ デンクレス=ミッドフィル テラスティア大陸出身のエルフ。諸事情あってアルフレイム大陸に逃亡してきた。 犬や狼が苦手。苦手な色は白。趣味は釣り。 漁師(フィッシャーマン):Lv3 学者(スカラー):Lv4 武器職人(ウェポンスミス):Lv3 ◆―――◆ 少女――ハティはとても聡明だった。人間の、それも成人でない12歳程度の少女としてはだが。 まさしく水を吸い込む海綿。文学、歴史、魔術、自然学、分野は多岐にわたるが、ハティはその全てをすぐさま吸収した。 反面ハティは無邪気に何度も旅の話をせがむのだ。その時ばかりは聡明さは姿を消し、年相応の表情が垣間見える。 見た目に似合わぬ聡明さと、年相応の感性。 先生と生徒、労働者と雇用主という関係ではあったが、俺は妹ができたような気分になって、いい気になっていた。 食うに困らず、雨風を凌げ、手のかからない、優秀な生徒に教える日々。 住み込みで数週間。これほどまでに美味い条件など当たったことがない。……今思い返せば、余りに話がうますぎた。 館をおかしいと思い始めたのはほんの些細なきっかけからだった。 ふと気がついたとき、使用人の話し声がほとんどしない。そんな程度だった。 人族蛮族に限らず動物は共同体を形成することを好む。コミュニケーションをする。 だから、きっとその静寂が、耳に残るのだ。何も、無いがゆえに。 使用人たちは機械的に仕事をこなす。挨拶をしても丁寧な礼で流され仕事に戻る。 訪れてそろそろ一週間が経つ。会話らしい会話などした記憶もない。マトモに喋った覚えがあるのは、ハティだけだ。 一つの違和感に気づくと連鎖的に気になるものだ。 俺の部屋の廊下ではいつも誰かしらが作業をしている。邸宅にお邪魔したことなど初めてだったが、 本来こういったことは食客に見えないように行うものではないか? そしてメイドたちは皆、何かの甘い香りの香水をつけている。それ自体は構わない。 だが、その匂いの奥には、動物が本能的に忌避する匂いが混じっているような気もするのだ。あれは何の匂いだ? 使用人たちはいつ食事をとっている? 門扉を締める錠のかけ方はおかしいのではないか? そして、館の中、いや庭園でさえ――――ずっと何かに見られているのは気のせいか? 家庭教師をしながら、俺は空いた時間に館を見て回ることにした。 杞憂であればそれでいい、と祈りながら。 だが、俺の祈りは呆気なく裏切られる。使用人たちを、俺は人間だと思っていた。 腐臭。穢れ。淀んだマナ。奴らは、アンデッドだ。この館はアンデッドを使役している。香水は腐肉の匂いを誤魔化すためのもの。 食事の必要はないから食事もしない。意志もないから複雑な会話もしない。 そして奴らは、俺を監視していた。部屋を出るとき、廊下を歩くとき、庭を歩くとき。 何のために? 獲物が逃げないように。誰の命令で? そんな者は一人しか居ない。 操霊術師ならば、初めにそう言えばいい。だがハティも、仲介者も、俺に何も言っていない。 つまりは「そういうこと」なのだ ここから逃げなければ。とにかくその考えだけが俺の頭を支配した。 ハティに事情を聞くことも考えた。だがそれは賭けだ。それもかなり分の悪い類の。 授業を何事もなかったかのようにこなし、監視のアンデッドの巡回タイミングも把握した。 荷物はさり気なくまとめ、必須のもの以外はあえてそのままにしておく。 給金はもらっていないし、予定の日数をかなり繰り上げている。ハティの顔を曇らせる事になるかもしれない。 だがその逡巡は一瞬。俺は利己的で気ままなエルフだ。ナニカの巣穴で悠長に寝られるほど図太くはない。 だから雨の降る真夜中。監視の目を盗み、予め目星をつけていた廊下の窓から抜け出そうとして―――― 「こんな真夜中にどうされたのですか、先生」 ――――心臓が飛び出すかと思った。 ゆっくりと振り返る。闇夜の中で淡く光を放つようにも見える少女の姿に、俺は言いしれぬ恐怖を覚えた。 少し夜風に当たろうと思って、と口が動いた。かなり苦しい言い訳だと思う。だが表情は極めて自然に、汗の一滴も流さぬように。 ハティは、まあ風流ですね、と笑い、俺に近づく。疑われていないことを祈りながら、俺は言葉を紡ごうとした。 「――――――うそつき」 次の瞬間、俺は床に倒されていた。 ハティにのしかかられるようにして、抑え込まれている。 人間の少女、しかも成人していない12歳程度の少女だ。いくら俺が筋肉量の少ないエルフとは言え、力負けをするわけがない。 だが現実はどうだ? 全く動かない。かつて積荷に埋もれたときだってもう少しマシだった。 明らかな異常に狼狽える俺の前に答えは現れる。 ハティの頭部に、少しずつ獣の耳が伸びている。 その目は淡く燐光を放ち、その腕は頭髪と同じ色の獣毛に覆われている。 伸び始めた八重歯。それを見て俺はようやく理解する。 「ああ、見てしまいましたね、先生」 鈴を転がすような、獣が哭くような、相反する響きで、少女が笑う。艶然と、その年齢に見合わぬ表情で、笑う。 目の前の少女は、蛮族種。人間を噛み、血族に取り込む『ライカンスロープ』だったのだ。 「はしたない真似をすることを、お許しください」 恍惚としたハティの表情が迫り、俺は口をこじ開けられる。自分のものではない生暖かさに紛れて、何かが流れ込む。 何かが喉を通る瞬間、襲い来る強烈な眠気、だがこれは魔法によるものではない。微かな痺れは、薬毒だ。 気づいたときにはもう遅い。俺の意識は落ちていく。 眠りに落ちる前に雷が鳴る。雷光を反射した銀色線がぷつりと切れるのが見えた。 ◆―――――――――◆ 気がついた時、俺は閉じ込められていた。表面の錆びた鉄格子。寝具だけの部屋。有り体に言って、地下牢と呼ばれるモノ。 寝具は清潔だが、部屋の微かなカビ臭さがここが普段使われていない場所であると主張していた。 そして、俺は目を覚まして気がつく。腕に奇妙な文様が描かれている。 それは両腕にとどまらず、足、腹、胸、下半身、その他目に見える範囲全てに書き込まれていた。、 知識と、そして今、牢の前に立つ少女の特徴から、文様がなんであるかを理解した。 「さすが先生です。ええ、秘伝の書を手に頑張ったんですよ」 授業をしているときと何も変わらぬかのように、ハティは笑う。 ライカンスロープは、これと見込んだ人間を自分たちの血族に取り込む蛮族だ。 そのために特殊な呪術的手順を踏む。主な構成要素は、呪印と満月、そして人狼による咬傷。 これらを以て被害者の内に汚れを誘引し、人為的な変異を引き起こすのだ。 だが、彼らは基本的に自尊心が高く、取るに足りない人間をその対象とすることはない。 ……つまりハティは、俺の(どこかはわからないが)何かしら惹かれる部分ゆえにこのような凶行に及んだのだ。 ――――なるほど。だが、君は一点間違えている。僕は『人間』じゃない。『エルフ』だ。 なるほど。確かにハティの聡明さを考えれば、手本のある図柄の模写など容易だろう。 だが、そもそもこれは前提条件から破綻している。 なぜなら、ライカンスロープは人間以外を同族にできないのだから。 ハティがいくら精巧に模倣したところで、俺は人狼にならない。 俺がこのような状況にあって落ち着いていられたのは、それを知っていたからだ。 ……少しだけ、俺は想定が甘かったのだと思う。相手を、たかが12歳の子供と、侮っていたのだのろう。 「ええ。存じております。なので、――――エルフ族向けに改良したものを参考にしました」 一瞬、思考が止まった。脳が、理解を拒んだ。 止まった俺を気にした風もなく、ハティは楽しげに語る。 ノルン一族は遠い昔から、人間以外を取り込んできた異端の人狼族だと。 ハティの母も、その母も、その前の先祖も、皆そうやって血族以外を取り込んできたのだと。 まるで、夢見る少女のように、語る。花嫁に憧れる市井の少女のように、語る。 なぜ、と声を絞り出すのが精一杯だった。それは、彼女と、彼女に連なる血脈全てへの『なぜ』だった。 ハティは、一瞬呆けて、 「愛しているからに、決まっているではありませんか」 嫣然と、女の貌で、微笑った。 ◆―――――――◆ 「満月まで、あと数日。それまでゆっくりしていてくださいね」 固まったままの俺を置き去りにして、ハティは地下牢から出ていった。 ハティが立ち去ってから、俺は思考する。愛、ノルン一族の来歴、その他諸々を一度脇に置き、思考する。 まず呪法が真実かどうか。これはすぐに結論が出た。『そうだと思って行動するべきだ』 ハティの言動はしっかりとしていた。幼さ故の確信か、あるいは実例を知っているからこその落ち着きのように見えた 次に人狼となることをどう思うか。お断りだ。俺はエルフであることに少なくない自負がある。 加えて俺の人生はまだ始まったばかりだ。人狼となることで寿命がどう変遷するかは不明だが、 短くなると考えておいたほうがよい。まだまだ旅をしたいのだ。大陸を渡りもせずに骨を埋めるなど以ての外だ。 最後に、ハティの告白について。……微塵も心揺れなかったかと言えばそうではない。 だが、あまりに性急すぎるし、あまりに乱暴すぎる。俺はそれを受け入れられる度量を持たない。 逃げよう。―――そんな当初の決意が更に強まった。 言葉にすればたった4文字の決意だが、『言うに易く、行うに難し』という言葉そのものだった 牢からの脱獄、亡者からのスニーキング、ハティとの命がけの鬼ごっこ。 逃げるために俺は様々な知恵を駆使し、時に運と『先人』の遺産に助けられた。 どうもハティの曽祖父が俺と同じような目にあったらしく、後に囚われる者のために様々なモノを残していてくれたのだ。 それは隠し通路や、魔動機文明時代の地下遺構、屋敷のギミックなどの情報だった。 一部は百年以上昔の情報故に塞がれている場所などはあったが、今の俺には値千金の情報なことに変わりはない。 ドワーフの金細工師であったらしい彼はすべての情報を細かく分けて記していた。 それでも、ダメだったのだろう。最後の手記はもうすぐ出口にたどり着ける、というものだった。 それ以降は、なかった。 屋敷で所持品を回収し、迷宮のような地下を掻い潜り、そして俺はついに出口へと辿り着く。 森の外れにある、小さな礼拝堂。地下の大冒険の果てに辿り着いたその場所で、俺は倒れていた。 待ち伏せされていたのだ。よく考えれば当たり前だ。彼女の曾祖母は、ここで『先人』を狩ったのだから。 ハティが知っているのは当たり前だ。そのことに思い至らず、俺はエネルギーボルトの直撃を受けた。 本当に大した威力ではない。まだ覚えたてで、その上殺すことが目的ではないからだろう。 当たるとも思っていなかったに違いない。だが疲労困憊の俺にはこれ以上無い痛打だった。 叫び、転がり、呻く。視界の端でハティが驚愕する。その数瞬後には慌てた顔でこちらに駆け寄るのが確認できた。 俺は小さく息を漏らす。観念した――――わけじゃない。 ――――君が優しい子で、良かった ハティが手を伸ばした瞬間、俺は隠し持っていた短剣でその手を切った。 それも、ただの剣ではない。人狼特攻の、銀の短剣だ。 それは探索の途中で見つけた、古い時代の銀細工。『先人』よりも更に古い『先人』が残した儚い蜘蛛の糸だった。 煙を上げる傷に、ハティが絶叫する。これまでの苦し紛れの反撃の中で、一番効果があったとさえ言えた。 だが、これだけでは足りない。ハティはライカンスロープだ。こんな傷、すぐに物ともしなくなる。 ゆえに最後の一手は確実に。 ――――“ヴェス・セガ・ラ・ガス。ウィスプ・デルプ――ストリール” スリープ。相手を眠らせる魔法。真語魔法でも簡単な、本当に簡単な呪文。 精神力の強い相手にはまずかからない。だが、慣れない傷に叫ぶ今のハティにならば通る。 そして、魔術師としては、俺のほうが上だ。 「せん、せ、――――やだ……、まって、いかないで――――せん、せ」 手を抑えながら、目尻に涙を浮かべ、ハティがその手をこちらに伸ばす。 だがその意志とは裏腹に、その足から力は抜け、意識に混濁が起き始める。 ――――…………。さよなら、ハティ 眠りに落ちる直前のハティに、俺は一方的な別れを告げ、扉の外へ出る。 礼拝堂の扉に、何重にもロックの魔法をかけて、走る。 ほどなく街道に出て、運良く行商人の馬車に出会えたおかげで、すぐにリュキアに辿り着くことができた。 とはいえのんびりなどしていられるはずがなかった。 俺は行きがけの駄賃を行商人に支払うと、すぐさま資金を調達して、服を着替える。 着替えた元の服をレーゼルドーン方面に仕込み、自分は港街へ向かう馬車に乗る。 ノルン一族は公的には土地を持つ貴族だ。権威、人脈、その他あらゆる面で俺が及ぶような存在ではない。 彼らが蛮族であると公表するのも考えたが、後ろ盾のない根無し草の発言に信憑性も何もないだろう。 下手すればノルン一族に捕まる前に絞首刑だ。だから今回のことは運が悪かったとして泣き寝入るのだ。 …………それに、もし仮に密告が真実であると受け入れられたとして、その場合、ノルン一族は族滅だろう。 その中には当然ハティも含まれる。軍勢を差し向けられるか、精鋭による暗殺か、公開処刑か。 その未来を想像して、とても嫌な気分になった。だから、やめた。 遠ざかるリュキアの町並みを眺め、一ヶ月に満たない館での日々を、その締めくくりとなった逃走劇を思う。 きっと、俺はこの記憶を一生抱えて生きるのだろう。 きっと、俺はあの少女をずっと夢に見るのだろう。 恐怖と、一抹のほろ苦さとともに。 ―――――――――――――― そこからのことは大した話ではない。 ノルン家の手の者に街道を追われたとか、アルフレイム行きの船にロープ一本で密航したとか、 途中で船が海賊の襲撃と嵐に巻き込まれたせいで赤道直下の孤島に流れ着いたとか、 封印されていた魔神とドつきあいながら一蓮托生の大冒険をするハメになったとか、その程度の話だ。 それはそれで一つの物語にはなるだろう。得難い記憶でもある。 しかし、あの館での日々よりも強いかと問われれば、少し考えてしまうのだ。 忌まわしい記憶だ。色々な意味で。 アンデッドに追われ、陰に息を潜め、ライカンスロープに捕まり、噛まれ、すんでのところで脱出できた。 仕方のないことではあるのだが、好意に対してナイフを振り回すという体験が想像以上の重圧だったらしい。 そして合意無き、一方通行の好意に絡め取られるという体験も俺の魂は恐怖として記憶してしまった。 得難い経験ではあったが、叶うなら一生体験したくはなかった。 「おかげさまで雷雨の度に夢に見るし、リカントを見てビクビクするようになったしホント最悪だよ!」 …………ともあれ、あれから10年が経過した。 エルフにとっては大した時間ではない。精々が人間にして2年程度。だが人間社会が動くには十分な時間だ。 あの家の社会的地位を考慮すれば、ハティはもう結婚していてもおかしくはない。 種族的には難しいだろうが、人に隠れ潜む『彼ら』の特性上、疑いを避けるためには不可避のイベントだ。 幼い頃の恋など“はしか”のようなものだ。その多くは憧れの見間違い。そして叶うのは極一部。 大多数の人間はそんなものなど忘れて新しく生きていくのだ。 そして高貴な身分とは往々にして、その大多数に組み込まれる存在である。 彼女もそうなっているはずだ。なっているに違いない。じゃないと困るから本当に頼む。 「……まあ、そろそろ大丈夫ってことで良いんじゃねえかな」 すぐさま本名を名乗りはしないが、そろそろこの世捨て人のような生活をやめる頃合いかもしれない。 廃屋に住み着き、魚や獣と格闘してきたが、もう十分だ。これはこれで楽しいが、一生やるとなると話は別だ。流石に飽きる。 見聞を広めるなどという意識は薄れてしまったが、新しいことに挑戦してみるのもいいだろう。 「冒険者、というのもありかもしれない」 以前なら絶対に考えなかったであろう道だ。冒険者などやるものじゃない、と公言してはばからなかったくらいなのだから。 だがあの館で自分の無力さをまざまざと痛感して以来、そういった道もありなのではないかと思うようになった。 「それに何より、『俺』と冒険者を結びつけるのは難しい。逆にそっちのほうが安全だ」 ハティのイメージは荒事お断りのモヤシエルフのままだろう。 もし仮になにかの間違いで遭遇したとしても、以前の俺と似ても似つかなければごまかせるはず。 そうと決まれば善は急げだ。とりあえずは、銀の短剣でも簡単に買えるくらいの冒険者を目指そう 丁度雨も上がった。虹は架っていないが、雲間に見える空は俺の好きな色をしていた。 ―――――『狼』がアルフレイムに来るまで、残り■■日