タイトル:Óðinn・Tír-na-nÓg・Avalon(オーディン・ティルナノーグ・アヴァロン) キャラクター名:Óðinn・Tír-na-nÓg・Avalon(オーディン・ティルナノーグ・アヴァロン) 職業:魔法使い 年齢:2022歳(見た目やや童顔の成人) / 性別:男 出身:現在で言うアイルランド 髪の色:冷たい朝露 / 瞳の色:雨上がりの空/金の鱗粉 / 肌の色:滑らかなティーカップ 身長:185cm 体重:65kg ■能力値■ HP:12 MP:15 SAN:75/99      STR  CON  POW  DEX  APP  SIZ  INT  EDU  HP  MP 作成時   7   8  15  12  17  15  18  21  12  15 成長等                     1   2 他修正 =合計=   7   8  15  12  17  15  19  23  12  15 ■技能■ ------------------------ 戦闘系技能 ------------------------ 習得/名前       現在値 習得/名前    現在値 習得/名前      現在値  《回避》      24%   《キック》  25%   《組み付き》   25%  《こぶし(パンチ)》50%   《頭突き》  10%   《投擲》     25%  《マーシャルアーツ》1%    《拳銃》   20%   《サブマシンガン》15%  《ショットガン》  30%   《マシンガン》15%   《ライフル》   25% ------------------------ 探索系技能 ------------------------ 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値  《応急手当》30%   《鍵開け》 1%    《隠す》  15%  《隠れる》 10%  ●《聞き耳》 70%   《忍び歩き》10%  《写真術》 10%  ●《精神分析》81%   《追跡》  10%  《登攀》  40%  ●《図書館》 90%   《目星》  25% ------------------------ 行動系技能 ------------------------ 習得/名前    現在値 習得/名前   現在値 習得/名前     現在値  《運転》   20%   《機械修理》20%   《重機械操作》 1%  《乗馬》   5%    《水泳》  25%  ●《製作(御伽噺)》90% ●《操縦(箒)》 70%   《跳躍》  25%   《電気修理》  10%  《ナビゲート》10%   《変装》  1%    《》      % ------------------------ 交渉系技能 ------------------------ 習得/名前    現在値 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値  《言いくるめ》5%    《信用》  15%   《説得》  15%  《値切り》  5%    《母国語()》115%  ●《動物言語》60% ------------------------ 知識系技能 ------------------------ 習得/名前      現在値 習得/名前      現在値 習得/名前  現在値 ●《医学》     80%  ●《オカルト》   80%  ●《化学》 21%  《クトゥルフ神話》0%   ●《芸術()》    25%  ●《経理》 30% ●《考古学》    21%  ●《コンピューター》21%  ●《心理学》25% ●《人類学》    21%  ●《生物学》    70%  ●《地質学》21% ●《電子工学》   21%  ●《天文学》    67%  ●《博物学》30% ●《物理学》    21%  ●《法律》     25%  ●《薬学》 71% ●《歴史》     50%   《》       %    《》   % ■戦闘■ ダメージボーナス:0 名称 成功率 ダメージ 射程  攻撃回数 装弾数 耐久力 / 備考                              /                              / ■所持品■ 名称            単価 個数 価格 備考 ターコイズブルーの羽根ペン    1   0   マジカルステッキと同じ役割を持つ(別に無くても魔法出せるけどね☆) ベル               1   0   フギンとムニン(使役しているワタリガラスの幻霊)を呼ぶためのもの 王冠               1   0   お飾りの冠であり、実質的な権威は今のオーディンには無い。 =所持品合計=     0 所持金 預金・借金 ■その他■ メモ: ■由来、モチーフ ・Óðinn(オーディン) 北欧神話の主神にして戦争と死の神。詩文の神でもあり吟遊詩人のパトロンでもある。魔術に長け、知識に対し非常に貪欲な神であり、自らの目をミーミルの湖に捧げることでルーン魔術を得た。更に自身の命を捧げることで神槍グングニルを手にした。 各地を転々とした逸話があることから、本来は天候神としての神格を持っていたといわれる。 神々の世界アースガルズにあるヴァーラスキャールヴに住み、フリズスキャールヴに座り、世界を見渡している。 愛馬は八本足のスレイプニール。 フギン(=思考)、ムニン(=記憶)という二羽のワタリガラスを世界中に飛ばし、二羽が持ち帰るさまざまな情報を得ているという。 多くの別名を持つ。全知全能の神、詩の神、魔術と狡知の神、旅路に疲れたもの等。 現代においても水曜日はウォウドゥンの日 (Woden's day :オーディンに相当)とされている。 ・Tír na nÓg(ティル・ナ・ノーグ) ケルト神話でトゥアハ・デ・ダナーンが戦いに敗れた後に、その生存者が移住したとされる土地の名。楽園の一つで、ティル・ナ・ノーグは「常若(とこわか)の国」と呼ばれる。語り継がれている多くの話によれば、このティル・ナ・ノーグは妖精たちの好みの棲み家であり、三通りの島々、すなわち、生き物の住む島、勝利者たちの島、そして水底の島と言われている。 常若の国には、不思議の「りんご」の木、食べても生き返る「豚」、永遠の若さを授けるゴブニュの饗応(エール麦酒)、この三つがあるとされる。 ・Avalon(アヴァロン) ブリテン島にあるとされる伝説の島。戦で致命傷を負ったアーサー王が癒しを求めて渡り最期を迎えたとされる。また、イエス・キリストがアリマタヤのヨセフとともにブリテン島を訪れた際の上陸地で、後にそこがイギリス最初のキリスト教会となったという伝説の場所としても語られる。 アヴァロンは美しいリンゴで名高い楽園であったとされ、名もケルト語でリンゴを意味する「abal」に由来すると考えられている。 ・アンブローズ・マーリン 12世紀の偽史『ブリタニア列王史』に登場する魔術師。 グレートブリテン島の未来について予言を行い、ブリテン王ユーサー・ペンドラゴンを導き、ストーンヘンジを建築した。後の文学作品ではユーサーの子アーサーの助言者としても登場するようになった 『ブリタニア列王史』の著者ジェフリー・オブ・モンマスは、予言の力を持つ魔術師マーリンを登場させるためにモデルとした人物があったと伝えられている。 それは573年頃、伝説的なウェールズの隠者マルジン・ウィスルト。ウェールズではこの人物は高名な詩人であり、偉大な予言者ミルディン(Myrddin)とよばれる。 後世の文学ではマーリンは数多くの女性に言い寄る色男とされ、最後にしっぺ返しとして女妖精の一人(湖の貴婦人、湖の乙女)ニミュエ(あるいはニニーヴ、ニヴィアン、ヴィヴィアンとも)に封印されたという。 ・楽園 楽園とは肯定的で調和的で永遠である土地を表す。これは人類の文明に措定されている不幸に対立する概念であり、楽園においては平和と繁栄、幸福のみが存在するとされる。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■特徴表 ・1-5 天才 生まれつき頭の回転が早い。INT+1。 ・2-4 愛読家 あらゆるジャンルの蔵書を持っている。〈図書館〉に+20%。さらに図書館に出掛けなくても、自宅の書庫で〈図書館〉ロールが可能となる。 _________________________ ■基本情報 名前:Óðinn・Tír-na-nÓg・Avalon 愛称:オズ 一人称:私/俺 二人称:君、おまえ 通称:法螺吹きオズ、空想家のオズ、夢見のオーディン、楽園の傍観者、全てを観た者 得意魔法:幻術、精神干渉 好き:無害で穏やかで美しいもの、幸福で満たされた空間、物語 嫌い:本心を伝えること 原初の魔法使い。 学問としての「魔術」でも、神としての「神力」でもなく、奇跡としての「魔法」を世に発現させた偉大なる1人目。 伝説に残る主神オーディン、宮廷魔術師マーリン(ミルディン)本人であり、北欧・ゲルマン神話、ケルト神話、アーサー王伝説などの大部分は吟遊詩人として各地を流浪していた彼の口八丁に尾ひれがついたものである。 「法螺吹き」となじられるだけあり、常に嘘だか本当だかわからないような口振りで飄々と話す。 自身の容姿がとても優れていること、教養があることを自覚していて、時として武器にするが誇示することは無い。 かつては強大な力を持つ偉大な魔法使いであり北欧を統べる創造神だったが、今はその威光も見る影なく並の魔法使いレベルに落ちた。そのため多くの人に「オーディン」というのは偽名か、はたまた同名の別人だと思われている。 柔らかい物腰と芝居めいた仕草から優しく穏やかな青年といった印象を受けるものの、目的のために手段を問わない冷酷な面がある。生きるため、欲しいものを得るため、大事なものを守るためならどんなことでもする。 この世の全ての善を慈しんでいるが、それらに何の期待もしていない。 この世の全ての悪に呆れているが、それらに理解が無いわけでは無い。 バルトロの屋敷に来たのは今からおよそ200年ほど前。19世紀頃。フランスでは革命、イギリスでは工業化が進み徐々に御伽と神秘から遠のいていった世界では充分な力も扱えず、隠居目的で屋敷への移住を決める。2000年も舞台に居たんだ。そろそろ主演を降りなきゃ客も興醒めだろ? 現在は同じくはぐれ者の仲間たちと、穏やかかつ愉快な日々を送っている。 左目が無く、その洞には美しい金色の義眼が埋め込まれている。また、かつて受けた呪いにより味覚が全くない。何を食べても灰を噛んでいるような感覚だし、何を飲んでも泥を啜っているような感覚。しかし誰かとする食事はコミュニケーションの一環だと考えているため誘われれば食卓は一緒に囲む。 「やあやあ、夢見のオーディン、空想家のオズとは正しく私のことさ!法螺吹きだなんて心外だな。私は至って誠実だとも!」 「分かるさ。往々にして、人間とは自らより優れた存在を真に愛することは出来ない。ましてやそれが自分たちと同じ姿をした生き物だとすればね。」 「魔法使いも幻想も、フェアリーテイルもマザーグースも元々は人から産まれたものだ。悔しいが、私たちは結局のところ彼らの精神性から伸びる臍帯で息をしているのさ。」 「あー、そう。ならいいんじゃない?君がここで死のうが生きようが、100年後にはどうでも良くなってる。」 _________________________ ■魔法詳細 <概要> 遠く宇宙に存在する水星の、コミュニケーションと知の力を借りて幻影を作り出したり、人の精神に直接的な影響を与えたりする。主にバフ・デバフの役割で運用が可能。 また、能力の高さは世界に満ちる「神秘」の量に比例する。よって科学が進んだ現代では並の力(MP15程度)しか扱えず、かつて神や妖精が間近にあった世界では強大な力を持っていた。 ・水星 タロットでは、知性の魔術師、隠者を司り、創造性や経験則を表す。惑星護符でも、素早い情報の伝達、交通、旅の守護神、商業、商談、勉学に至るまで「知識・知恵」方面を補佐する。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ <呪文一覧>※ひとつに絞る必要があれば、1番最後のものを採用します ・『フロート』 消費MP:1 食器や衣類、本の片付けに使用する初歩的な浮遊魔術。ほとんどの魔法使いが習得している。 ・『グングニル』 消費MP:任意 オーディンが唯一所持する攻撃魔法。本人曰く「野蛮だし私のキャラじゃないだろう?まあ、よっぽど切羽詰まった時にしかつかわないさ☆」 実際は重いし手間取るし当たらないと格好が付かないからなるべく使いたくないだけである。 人々が思い描く神槍「グングニル」を発現させ、一時的に武器として扱う。あくまでも北欧神オーディンとしての過去の名残を形にしているだけに過ぎないため、特別な効果は無い。 ・『シー・チェシャ・チェンジャー』 消費MP: 小物に対しては1、動物に対しては2、人間や魔法使いに対しては3 対象の外見を別のものに見せる小規模な幻術。形そのものが変わる訳では無いので小さくなって木の洞に入ったり、大きくなって高いものを取ることはできない。 姿が消えたように見せる、増えたように見せることも可能であり、戦闘中に使用した際は相手の命中率を-30する。1度攻撃が当たると魔法の効果は解ける。 建物など大きなものに対しては使用できない。 「シー」は妖精、「チェシャ」は変幻自在のチェシャ猫。 ・『ビビディ・バビディ・ブゥ』 消費MP:2 主に仲間に対して使用する能力値上げの魔法。水星の持つコミュニケーションの力を利用し対象を言祝ぎ、技能の成功率に+20、ダメージに+1d3、回復量に固定で+1のボーナスを与える。 名前は「シンデレラ」に登場する魔法使いの呪文から。 ・『シュラッフ・シュラッフ・オーグンザンズ』 「月明かりの中、花も眠る。花弁を下に垂らし夢の中でざわめき揺れる。眠りの砂(オーグンザンズ)がエデンの切符。さぁ、眠れ眠れ愛しいわが子(シュラッフシュラッフ デ マイ キンデライン)」 … 消費MP:3 対象を強制的に睡眠させる魔法。補足人数は最大4人だが、それぞれの距離が半径3m以内でなければならない。対象が魔法使いであり、尚且つ抵抗する場合はPOW対抗を行う必要がある。 睡眠状態は相手が自分のターンでPOW×3に成功するか、こちらが攻撃を加えると解除される。 魔法によって眠らされている最中、対象は自分が生きてきた中で最も素晴らしい、とろけるような楽園の夢を見る。 名前はドイツの子守唄から。 ・『楽園追放(ロストインパラダイス)』 「君に贈るは最悪であり災厄の幻夢。回転木馬が止まる時、林檎は腐って落ちるだろう。原罪に囚われ踊りなさい!楽園追放(ロストインパラダイス)」 … 消費MP:5 対象(自分の視認できる範囲から選択)をおぞましい悪夢の幻術で包み、精神を削る魔法。対象は怪物や過去のトラウマに襲われSANc 1d3/1d6を行う。また、自分のターンでPOW×3を行い成功するまで技能の命中率が-30される。 ・『めでたしめでたし(ラグナ・ノーグ・アイヴェンティリ)』 「今に訪れし神々の黄昏、やがて来たる常若の楽園よ。私が語るは終末にして永久の御伽噺。遥かなるフリズスキャールヴから、有り得ざるハッピーエンドをご覧に入れよう。物語はいつだってこう終わらないとね。めでたしめでたし。」 … 消費MP:14(残りMPが14未満の場合、五感のうちいずれかを代償にすることで3MPを得られる) 自身の持つ全ての力と引き換えに、最も愛する魂を3つまで選び1冊の白紙の本に閉じこめることができる。自身の魂を閉じこめることは出来ない。 閉じ込められた魂はロスト扱い・継続不可になるが、呪文の使い手が物語を綴り続ける限り御伽の世界で生きていくことができる。 呪文の使い手は「語り部」となり、永久的に物語を綴り続けなければならない。一日でもペンを取らなかった場合「語り部」を放棄したと見なされ、24時間持続する悪夢と四肢の捻れる痛みの果てに結晶化する。 「語り部」が役割を放棄、または死亡した際には本に閉じ込められていた魂も結晶化する。本自体は「果てしなく長い御伽噺」が記された不可思議な書物となり残される。 _________________________ ■人物・性格 非常に物知りで、また機転が効く。物覚えもかなり良くどのような記憶もほとんどは「忘れられない」。 口が上手く物事を誤魔化すのが得意。輪の中で自分に求められている役割を理解してそれ通りに動くのが常。今で言うと愉快で物知り、ちょっとおちゃめな優しいお兄さん(?)といったところ。いつもどこでも道化の枠に居たい。 「真実」を明言することを避ける。 特に大事な相手にはこの傾向が強くあらわれ、本当は誰のことも信用していないのではないかと誤解されることも多々ある。くだらないことはペラペラ喋るのに大事なことはいつも言わない、あべこべな人物。 そんな真偽の入り交じった口振りは相手の反応を楽しみたいからでもあるが、自分の存在を確立させないためのもの。誰にとっても「嘘つき」で居れば、自分の発言で自分も他人も傷つかない。つまりオーディンにとって虚言は自衛、他衛の手段である。無責任と言ってしまえばそれまでだが、自分の発言の責任を2000年後も必ず持てると宣言できる人物がいるのか? ある意味虚言こそがオーディションの誠実さを表しているとも言える。そしてオーディンにとって沈黙は最も崇高な愛情表現である。 長い時を生きる中で、自分が他人に影響を与えることを極端に嫌うようになった。誰の中でも等しく、自分は無価値でありたい。自分は永い物語を見守る傍観者でありたい。 そういった思考を飛び越えて尚「守りたい」「愛したい」という気持ちができた時、それこそが魔法使いオーディン・ティルナノーグ・アヴァロンの終わりの時だろう。彼の物語はいつも「愛」を起点に終わりを迎えるのだから。 オーディンが童話や御伽噺を愛するのは、それらが「めでたしめでたし」の上に成り立つ幸福な空想であるから。勧善懲悪が前提条件のファンタジーの中でなら、何を言っても全て「めでたしめでたし」に帰結する。無償の幸福、根拠の無い空想。人が生み出したどんな作品も、その人の描いた理想が詰まっている。心の底から「幸」を尊ぶオーディンにとって、童話や御伽噺は素晴らしい世界であり、また自分の本心を「真実」にせず他人に伝える手段になった。 本当に長い間生きてきたが、死に恐怖を覚えたことは1度として無い。ただ願わくば自分の死が、自然と動物以外に認知されない静かで穏やかなものであって欲しい。 _________________________ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■経歴 【1.北欧にて-水星、或いは語るもおぞましき獣が生まれた日】 …むかしむかし、誰も知らないずうっと昔の話。 北の果ての小さな島に、一人の子どもが産まれました。 きらめく湖の傍の家、暖かな朝に産まれました。 おかあさんは少年の白い頬に優しくキスをして、涙を鼻に零します。 「ああ、愛しいわが子…。どうして産まれてしまったの?」 それから少年は黒い森に捨てられました。 少年の母は悪い人だったのでしょうか? いいえ、そうではなく、神の予言に従っただけなのです。 北の果ての小さな島の、大きな陽の神は言いました。 「やがて、鏡の湖に水星の子が落ちる。水星は知をつけ、愛を学び、慎ましく育つだろうが、いずれ強大な力でこの島を滅ぼしてしまう。」 人々は恐れ、おののき、やがて産まれる水星を湖に沈めて殺してしまえと騒ぎます。 しかし少年の母は自分の子どもを殺めることはできませんでした。毛皮でくるんだ水星を冷たい森にそうっと寝かせ、何度も後ろを振り向きながら去っていきました。 すやすやと心地よさそうな寝息を立てて眠っていた子どもは、だれかに頬をつつかれて目覚めます。 「水星の王よ、お目覚め下さい。どうかお目覚め下さいな。こんなところで眠っていては、凍えて死んでしまいます。」 「水星の王よ、お目覚め下さい。どうかお目覚め下さいな。あなたは我々の王となるのですから、死んでしまっては困ります。」 そこに居たのは2羽のワタリガラスで、彼らは自らをフギン(思考)とムニン(記憶)と名乗りました。 フギンとムニンは少年を見るや否や急いで森の仲間を集め、あたためた乳と寝床を用意します。大樹のように大きな鹿は少年をつつみ、まるまるとした駒鳥たちは歌いながら糸を編みます。動物たちは人間が嫌いでした。自分たちの園を次々に作り替えていく二足歩行のいきものが怖かったのでしょう。ですから、動物たちはやがて人間の園を滅ぼすのであろう予言の少年を歓迎しました。少年が育つまで、いつまでも傍に居て、歌と乳と温もりをくれました。 少年が立てるようになると、フギンとムニンは狩りの方法と糸のつむぎ方を教えます。少年は動物の言葉で喋り、森の仲間たちから貪欲に知識を得ていきました。予言のこと、神のこと、母のこと、この島のこと。少年の朝露色の髪を梳きながら、2羽の従者は献身的にたくさんの質問に答えました。自分を知って、周りを知って、そうして少年は確かに自らがこの土地を変える者なのだと自覚します。 「私たちの王よ、聞いてください。あなたはいずれ我々を救うのです。あの湖に赴いて、主に願うのです。私たちのために願うのです。」 ワタリガラスは言いました。 「わかった、良いぞ。俺がやろう!おまえの園を俺が守ろう。俺が15になった時、湖の王に俺が成ろう。だけどもヒトは滅ぼない。ヒトと神とおまえたちとが、諍い無く生きられる國にするんだ。」 そう語り、立ち上がった少年の瞳はらんらんとかがやいていました。彼の心には穏やかな森の賛辞と、この世界への知識欲が渦巻いています。小鳥の歌を唄う人間の子供、オーディンは、まるで物語の貴公子のようにはにかんでみせました。それから彼はどこまでも森を進み、川を下り、ヒトの営みを遠目に見て、ヒトの言葉を学びました。知れば知るほど泉のように、水星のあたまを好奇心が満たしていきました。 やがて幾度も月が巡り、陽が登り、森は白から緑へ色を変え、水星は15になりました。 華奢な体に毛皮のローブ、栗鼠がつくった花冠。森と空との祝福を受け、水星は湖をめざします。全ての予言はあそこから始まったのですから。 ♪さあ 祝えや祝え 予言の星のお通りだ ♪歌えや歌え 新たな春の始まりだ かつて、自分が産まれた土地。ここはミーミルの湖。鏡面のようなそれを覗き込むと、滅びを語った かの太陽はこちらを見下ろしていました。 ♪さあ 見せてよ見せて 「水星」の魔法を見せてくれ ♪何が起きるの?何を歌おう! 新たな春はいつ来るの? 動物たちの声を背後に、小さな王は膝をつきます。湖に映る自分と、空と、波紋だけが王の言葉を聞いています。 「…ミーミルの湖よ!私を産んだ水星よ!母よ!私の願いを聞き入れ給え。私に智慧を授け給え。」 昼だというのに辺りが暗くなり、星あかりをうけたような湖のみが眩く輝き始めました。それはおそろしい恒星の光でした。 「ミーミルの湖よ!遥かなる水脈よ!父よ!私に奇跡を与え給え。この地を裂き、新たな土地を創造する術を!この手に!」 風がごうごうと唸り、もはや誰も、彼の姿を見ることが出来なくなりました。おぞましい地の底の獣の咆哮のような風でした。 「…対価は、私の半分の世界である!私が視る世界の片割れをくれてやる!その代わりに、お前の世界の全てを寄越せ!!ミーミルの湖よ!!」 途端、雷光が弾け、風がなり止みました。ぶあつい雲が晴れて、やっと水星の姿が見えるようになります。 少年の頭の中にはざわざわと、ありとあらゆる声が反響していました。全ての想像が形になって浮遊するような全能感がありました。ぱたりぱたりと水星の左目から零れる赤が湖に濁りを作りますが、痛いとは感じません。 この時のオーディンの気持ちを例えるならば、どんな言葉が良いでしょうか?喜び?悲しみ?そのどちらでもなく、答えは「困惑」です。オーディンは左目を代償に高尚な魔法の力を手に入れました。この世全てを理解しました。そうして彼は真っ先に、やがて訪れる黄昏を知ります。ですからこの間、オーディンは瞬きをせず、ただ考えました。滅びの要因、それを回避する方法について。 はっ、と波紋に揺らぐ自分の姿を確認すると、いつのまにか毛皮のローブは上質なマントに、花かんむりは金属の王冠に変わっていました。そこでやっと、自分がとてつもない存在になってしまったことを知るのです。 「水星の王よ、ご気分如何ですか。貴方様は晴れて王と成られたのです。さあ、世界をどうされますか。」 パタパタとやってきたフギンとムニンが言いました。朝露の王はマントをひるがえし、ニコリとほほえんで返事をします。 「もちろん、夢のような楽園にしよう!」 …人から生まれ、獣に育てられた奇妙な神は、その先確かにこの國を夢のような國にします。夢はいつか、終わるもの。その通り、いずれこの北の国も優しい夕日に沈む。そう決めたのはどこの誰やら。 __やがて、鏡の湖に水星の子が落ちる。水星は知をつけ、愛を学び、慎ましく育つだろうが、いずれ強大な力でこの島を滅ぼしてしまう。 予言はそう遠くないうちに果たされるのです。 ----------------------------------------------------------------------------- 【幕間①:神々の黄昏と予言について、宮廷魔術師と王子の対話】 『……「魔法使い」という概念はこの時まだ存在せず、有るのは神秘か否かだけだった。だから俺は、当初彼ら(動物たち)と会話ができることも天気が読めることもおかしなことでは無いと思っていたんだよ。 「魔法使い」として奇跡を得る時期にはバラツキがある、というのが現在の通説だ。5歳で異端になる奴もいれば、20になっていきなり環境が変わる奴もいる。「オーディン」が魔術としてのルーン文字を得たのは確かにミーミルの湖に片目を差し出した時がキッカケだったろうが、実をいえば俺は生まれつき魔法(奇跡)が扱える体質だったワケさ。でなければ首の座らないうちから動物と心を繋げるなんて、到底できる技ではないからね。 そんなこんなで産まれてから今まで異端でありつづける俺だが、北欧で神様をやっていた時はまあ、それなりに頑張っていたんじゃないかな。だって知識を得るのと一緒に世界の終わりに気づいてしまったんだから、頑張らざるを得ないだろう?何を頑張ったかって言われると、パッと出てこないけど…。 そうだな、まずは宣言通り國を分けたよ。神々の住むアースガルズとヴァナヘイム、妖精の国アールヴヘイム、人間の国ミズガルズ…ざっと9つにね。種族の違うものは一定の距離を保ってそれぞれの楽園を築くようになった。悪しきものは悪しき国に、善き物は善い国に分けることで争いはぐっと減った。 そして俺は妻を作ってドカドカ子を設けた!…いや…この辺りの話は君にすべきではないな。もう少し大きくなったら…酒を片手に話すとしよう。え?子どもはコウノトリが……?ああ、うん、そうだね。そうだとも!そういうことにしてこの話は終わりだ! まあ、そうしていつまでも平和に…と行けば良かったんだが、俺は世界を甘く見すぎていた。 史実の北欧神話は、巨人スルトの放った炎によって黄昏を迎える。これがいわゆるラグナロクだ。この話は何も間違っちゃいないし、そもそも俺自身が吹聴したものだ。だが実際に俺が湖で視た終焉はもっと普遍的なものだったんだよ。 一言で言えば堕落と衰退。いずれ善い者の善い国から、人が消えていくんだ。 争いが無くなればヒトは堕落し、善い者のなかに悪い者が生まれる。それを火種に争いが起き、争った者は悪い国に堕ちる。それを繰り返して、とうとう9つの国はゆるやかに終わっていってしまう。 俺としても当然、こんな情けない世界の終わりは受容できない。俺は何も、人間と妖精と巨人と神とのデカい共同墓地を作りたかったわけじゃないからな。だから國を作った時にタイムリミットを決めたんだ。この國という夢の、終わる時間を設定した。要するに北欧は俺が考えた大きな創作物だったんだよ。スルトの炎も含めてね。 つまり俺が北欧を滅ぼすって予言は合ってたってコトさ。 ああ、「オーディン」は狼フェンリルに飲み込まれて呆気なく途中退場したことになってるけど、そんなのほら、飲み込まれただけで全然出てこれるしな?でももう物語に要らないから「オーディン」にはそこで死んでもらったよ。いやあ、何せ俺ったら最強の魔法使いだから、退場のタイミングがなかなか掴めなかったんだよね。腹ぺこの犬が居てくれて助かった。 ラグナロクを迎えたあと? そうだね、今も北欧が有り、ヒトの國として機能しているのは色々理由があるんだけど…。まあ、9つ国を作るくらいだし、元の1つの国に戻すくらいなんてこと無かったさ。今度は左目だけじゃなく「9つの世界」全てを代償に出来たしね!俺は文字通りありとあらゆる生物の死体を土台に新しい物語を開いた。今度は神秘のない、夢のない人類の国として北欧を明け渡した。黄昏と共に俺の楽園もすっかりおしまいにしてやった。 フギンとムニン…親愛なる従者たちもそこで死んでしまったけど、今も彼らは喚べば来てくれる。俺は魔法使いだからね。カタチだけの空想を創るのはお手の物なのさ! そこからはアングロサクソンたちの移動に紛れて西ヨーロッパを流浪し、ここブリテンに辿り着いた。ま、定住するにはそれなりに地位が必要だから色々と利用させて貰ったけど…。ほら、こうして君の話し相手になれているんだから、良いよね? さあ、アーサー。俺の話は以上だよ。そろそろ眠くなってきたかい?…瞼を閉じて。大丈夫、俺が居るのに悪夢を見るわけないだろう? ふふ、…いずれ君の英雄譚を人々に語れる日が来るといいな。君は間違いなく、名高き王になるよ。』 ああ、ミルディン、君は北欧を愛していたんですね。 だから終わりにしたんだろう、愛した世界が失敗するのが耐え難かったんだろう。 君の愛は難しい。君自身それを愛だとは認めないんだろうけど、僕の目にはそれは、あまりに哀れな愛に見えます。優しい終わりを求めること、それが君の最大の愛情なんでしょう。 誰に理解もされない孤独な魔法使いよ、君は他人に対して器用な割に、自分に対して不器用なのですね。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2.ブリテンにて-獣に愛は難しい】 放浪者は酷く疲れていた。元いた冬の世界はすっかり壊れ、作り変わってしまった。1から100まで全て己のせいである。 放浪者は酷く呆れていた。何処へいけども争い、争い、争い。西方に安住の地など無く、流浪し日銭を稼ぐことで精一杯だった。 そうして長く短い旅の果てに、男はここブリテンに辿り着いた。 男は魔法が扱えた。この頃魔法というのは魔術の発展系のような認識で、疎まれつつも高等技術として拝されていた。 男はともかく楽に暮らしたかった。楽に暮らすためには、暴君が治めるこの国では地位が必要だった。だから自身の持つ奇跡を利用して事を起こしたのだ。 … 当の暴君ヴォーティガーンは大工事を企て塔の建設を命じていたが、それは幾度となく失敗を迎える。痺れを切らした君主は宮廷魔術師の進言通り、人柱を探すことにした。条件は「1度も父親のいた事のない若者」である。 そこに名乗りを上げたのが魔法使いの男だ。男は生まれて直ぐに森に捨てられたため、父の顔を知らない。ちょうど良かった。もちろん魔法使いは自ら人柱になりたがった訳ではなく、塔の建設が上手く運ばない理由を看破していたのだ。これをあの暴君と似非魔術師の前で白日に晒し、自身の有能性を直接知らしめようというのが計画だった。 魔法使いは「カーマーゼンから来たミルディン」と名乗り、素直な青年を装って塔の建設に物申した。 「私には未来を視る力がございます。あの塔の地盤の下に池がありまして、そこに2体の竜が眠っております。1体は忌まわしき白き竜、もう1体は勇ましき赤き竜です。して、このような事にも気づかず贄を求めるとは、失礼ながら宮廷魔術師共は無能であるか?私を疑うのであれば、どうぞ地面を掘ってみなさい。」 言われた通りに地を掘ると、なんと魔法使いの言う通り竜が眠っていた。 その後ミルディンはヴォーティガーンの死を予言した。この暴君は父と長兄を殺害して王位を手に入れた為に、下の弟であるオーレリアンとユーサーに恨まれていた。それ故、悪逆を尽くした現王は弟に誅殺されると言い切ったのである。 予言はまたも的中し、オーレリアンは見事兄王ヴォーティガーンを破った。こうしてブリテンには新たな王が生まれた。 ミルディンは晴れて王お抱えの魔術師となり、当初の予定通り安定した地位を手に入れることに成功した。美しい見目と柔らかな声は人の心を掴むことに長けていて、誰もが彼を美男だと評価した。博学多才、加えて容姿端麗とくれば、人望が集まるのも自明の理である。あまりの有能さに「夢魔の子」と揶揄されることもあったが、事実ミルディンにインキュバスの血は混ざっていない。しかしながらミルディンはその噂を否定することはなく、むしろ自身の好色を誤魔化すための術として使用した。 やがてユーサーの遠征の折に、王オーレリアンが毒殺された。その墓石として作られたのがストーンヘンジである。ソールズベリーに積み上げられたこの奇妙な大岩は、ミルディンがアイルランドから魔法で運んだものだ。ミルディンの持つ高い天文学的知識と魔法の力、そして古代アイルランドの巨人がこの岩に込めた神秘の力は永い間ブリテンを守ることとなる。 … 王となったユーサーにミルディンは仕え続けた。ユーサーは人間の身でありながら政治に戦と精を出し、兄の死に悲しみながらもアングロサクソンの一派を打倒した。 そんなある日、ユーサーはコーンウォール公の娘イグレインに恋をする。良くも悪くも彼は愚直で、惚れた娘にはしつこく言い寄る質だった。それが原因でコーンウォールとの戦が勃発してしまうのだが、当のユーサー自身はイグレインの事で頭が一杯になり、戦争にも身が入らない様子だった。 そうしてとうとうユーサーはミルディンを呼び出し、 魔法で二人はコーンウォール公とその従者に化け、イグレインのいるティンタジェル城に侵入して一夜を共に過ごした。この時イグレインが懐妊した子どもこそが、後のアーサー王である。 「ミルディン、聞いてくれ。やがて愛しいイグレインが子を持ったとしたら、それは間違いなく私の子だ。しかし不義の子である故、私が育てる訳にはいかない。どうかミルディン、私がこの世を去り、ブリテンの王が居なくなった時玉座にこの子が座れるように、君が内密に育ててはくれないだろうか?」 従者であるミルディンは、彼から持ちかけられたそんな契約を断るはずがなかった。 一方コーンウォール公本人はこの際ブリテン軍にユーサーが居ないことを見抜き突撃するも、反撃を受け戦死した。 … 子が生まれ、アーサーと名付けられた。青空を閉じ込めた双眸と、早朝の朝日のような淡い髪の子どもだ。アーサーは契約通りミルディンに引き渡され、森の奥の誰も知らない小屋で2人の生活が始まった。 毛布をつまんで眠る赤子の、赤みがかった頬を撫でる。優しい朝、暖炉にくべた火がちらつく。 立って歩くようになった彼に読み書きを教える。これはアーサー、君の名前だよ。そう言って宙に文字を浮かばせてみれば、少年は嬉しそうに反芻した。 青い草が揺れる庭先で剣の練習をした。木で台をつくり2人で卵を焼いた。 まるで人間の親子のような生活だった。何処へ行っても争いばかりの世界から離れ、穏やかで無害な時間だけがミルディンを満たしていた。 「ミルディン聞いてください!さっきあそこでうさぎが!」 「おいコラお前!…コホン!泥だらけの手で服を触ってはいけないよ」 新緑の春。 「ミルディン、君の話も聞きたいです!」 「いやあ、長すぎてきっと退屈してしまうよ」 夏の湿った寝室。 「ミルディン、今日こそ聞かせてください!ほら、君がカミサマだった国の話を…」 「寝る前に時間があったらね。まずは今日の勉強を終わらせなさい」 澄んだ秋の朝。 「ミルディン、僕はやがてこの家を出て…王になるのですか?そうしたらミルディンはどこへ行くのですか?」 「王が望むなら、何処へなり着いていくよ。」 「なぜ君は僕が王になると聞くと、悲しそうな顔をするのですか。」 「……アーサー、王とはね、」 王とは冬だ。 王とは孤独、王とは重りだ。王は人では無い。人の身に王は務まらない。 ある王は暴虐の果てに死を迎え、ある王は毒を喰らった。ある王は恋に身を滅ぼし、ある王…自身は…。 アーサーとの暮らしは人間的で暖かなものだった。知識を得る快楽、女と体を重ねる快楽、そういった刹那的な熱を遥かに凌駕する心地良さがあった。 言わば愛情だ。人と魔法使いを超えて、ここには愛があった。 愛を終わりにするのはいつも自身の手だった。 ユーサーの死後、ブリテンを治める王を選定するためにミルディンは英雄の剣を作り出した。ユーサーとの契約通りの状況だ。 「この岩に刺さった剣を抜ける者こそ、ブリテンを治めるに相応しい王である。」 ミルディンの触れ込みを受けてありとあらゆる勇士がその剣を抜こうと試みたが、誰一人として剣先を拝むことは出来なかった。 「ミルディン、僕はその剣を抜くことができます。そんな気がするのです。」 「ああ、その通り。…だが君は選択することが出来る。この剣を抜いたが最後、二度と君に平穏は訪れないと予言しよう。それでも君は…」 「僕は王になりますよ、ミルディン。君には僕の惨い未来が視えているのでしょうが、僕には何も分かりません。だから、剣を抜きます。僕は僕の知らない未来のために。」 この瞬間、ブリテンには新しい王が生まれ、いとも容易く1人の少年の運命は捻れ狂った。 よく晴れた春の夕べのことである。 … アーサーはミルディンによって戴冠し、正式にブリテン王となった。彼の功績は素晴らしいものであり、ローマ帝国相手の戦争では皇帝ルシウスを破り、みずから皇位についた。彼の統治の元に国は栄え、誰もが彼を良王だと謳った。彼は妻としてグウィネヴィアを娶り、グウィネヴィアからは円卓が贈呈された。どこに座っても互いの顔が見渡せる丸いテーブルを囲み、アーサーと騎士たちは会議を行う。これが後世に伝わる円卓の騎士である。宮廷の中でアーサーは騎士たちと信頼を結び、妻と愛を育み、ときに従者ミルディンからの進言を受け国を治めていく。 然して王とはどこまで行けども冬なのだ。宮廷の空気が冷たいものになり始めたのは、騎士ランスロットが不貞を働いた頃からだった。 最も傑出した騎士であるランスロットはアーサーの妻であるグウィネヴィアを愛してしまい、ふたりの間に愛人の関係が生じることとなったのだ。関係が露見したランスロットは逃亡し、グウィネヴィアには死刑の判決が下る。しかしランスロットはなんとか王妃を救出し、大陸にあるみずからの領地に連れかえってしまう。 結果アーサーは海峡を渡り、臣下であったはずのランスロットと戦端を開くこととなった。その間ブリテンの留守は、実の子であるモルドレッドにまかせることとした。 だがそれがいけなかった。 モルドレッドは謀叛をおこし、アーサーは息子を鎮圧するために帰国する。こうして、カムランの丘におけるアーサー最後の戦いに至るのである。激しい戦いの果てにモルドレッドは倒れた。一方アーサー自身も深い傷を負い、この先が長くないと悟る。 2羽のワタリガラスから一連の戦いを聞いたミルディンは城を出て丘へと出向き、瀕死で尚立ち上がろうとするアーサーの前に立つ。 「酷い顔だなアーサー。もう死んでいるかと思ったよ。」 「まさか。死んでいないと分かっていて来たのでしょう?それで…今度は何を教えてくれるのですか、我が師よ。」 「……魔法使いであれ死者の蘇生はできない。だが君が生きている今なら間に合うかもしれないだろ…。なにせ俺はスゴい魔法使いだしな。」 「…ミルディン。」 「なあに、ちょっと呪文を唱えて傷を塞ぐだけだ!大したことじゃあ」 「ミルディン。もう、僕はここで倒れる運命、やはりそうなのですね。」 「…そうさ、そうともアーサー。君は民のためにここまでよく頑張った。良い王だった。けれど君は、君という人間は1度として民に救われることなく!ここで惨めに死ぬしかないんだ!俺が視たのだから間違いない。馬鹿らしいね全く。」 「…では我が師であり父、北欧の魔法使いオーディンよ、君ならば僕の願いを聞いてくれますか?」 「ああ、聞くよ。我が弟子であり子、ブリテン王アーサーの言うことはね。」 それを聞いてアーサーはゆっくりと語り出す。それは幼い子供が親に絵本の読み聞かせを強請るような、夜の穏やかなひとときのような様子だった。 「僕も見てみたかった。君が作った楽園を!うさぎや鳥が沢山いて、庭には毎日林檎が実る、そんな争いのない世界に生きてみたかった。9つもなくていいんです。1つでいいから、今度は僕も連れていってください。あなたの思う、幸福な世界に。」 「もう一度俺に神になれと?」 「いいえ、言ったでしょう、1つでいいと。どんな場所でもいいんです。君が楽園だと思った場所が僕の楽園になります!ですからまず、君に幸福になって貰わないと!愛だけでなく恋を、与えるばかりでなく授かることを知り、あなたは幸福になるべきなのです!」 「……はあ、俺ってそんなに幸薄そうに見えるかよ?…でもまあ、うん、いいとも!魔法使いオーディンの名にかけて、必ず君をとびきりの楽園に招待しよう。…それまでおやすみ。優しい子よ。」 後にアーサー王は小舟に乗せられ楽園アヴァロン島に送られたと語られるが、真偽は不明である。 だがなんであれ、「アーサー王はアヴァロンにて眠る」の言葉通り、彼の魂は1人の魔法使いの中に眠っているのだろう。 … アーサー王が去ると同時に、歴史からミルディンの名も姿を消した。 というのも、王の死後ミルディンは湖の魔女ニニーヴの手により幽閉されてしまったからである。 事の発端はニニーヴが魔術を習いたいとミルディンの元を尋ねてきた事にある。ミルディンの方は、これ以上弟子を持つ気は無いと乗り気でなかったどころか近いうちにブリテンを去るつもりだったが、ニニーヴは引かない。初めはのらりくらりと交わしていたミルディンもとうとう折れ、遊興程度に彼女に付き合うことにした。 これが愚かな選択だった。 ニニーヴはとても麗しい純血の娘の姿をした魔女で、ミルディンから知識を吸い取り自らの糧にしようとした。巧みに相手を誑かしてはすんでのところでその場を去り、決して自分に手出しはさせない、そうして男を籠絡することに長けていた。ミルディンも、アーサーの治世に関わるようになってからは控えていたものの元は好色な性質である。教鞭を執るのは面倒だったが、一方でニニーヴの瑞々しい美貌には好感を抱いていた。しかしミルディンとて見境が無いわけでもなく、流石に色事にまで発展させる気は無い。あくまで冷静に、淡白に彼女とは接した。 数ヶ月にわたり2人の攻防戦、もとい師弟関係は続き、とうとうミルディンは秘密の魔術を彼女に教える。それを持って師弟関係は破棄され、ミルディンはこの地を去る予定だった。件の幽閉事件はそんな矢先に起こった。 最後まで自分の誘いを断り続けたミルディンに対し怒ったニニーヴは、自身の魅力を知らしめるために湖の城に彼を閉じ込め情交に及ぼうとする。部屋には彼から教わった秘術で鍵を施し、絶対にミルディンが出られないようにした。 「強情で非礼な魔法使いミルディン!気高き魔女の私の美貌を前にしながら手を出さないとは、なんとつまらない男!」 「俺とて君が純情な乙女であれば思いを汲んでやったものを、お前は知恵目的に近づいてきた魔女だろう!約束通り秘術は教えた。さっさと帰してもらいたいな。」 はしたなく裸体を見せるニニーヴとは対照的に嫌悪感を剥き出しにするミルディンに、さらに魔女は腹を立てた。無理やりに唇を奪い、拒まれた屈辱に涙を流しながら部屋を去る。 「愚かな魔法使いめ、そこで一生自身の選択を悔やみなさい。お前が私に泣きつくその日までお前の自由と、女の味を得る権利を奪ってやる。」 そうしてミルディンは城の一部屋に永い間閉じ込められることとなり、更に味覚を失った。最後に感じた味があの口付けであるように、ニニーヴが寄越した負け惜しみだった。彼女が男に抱いていたものは一体どんな感情であったか、それを知る者は1人としていないが、これはまさしく愛憎劇と呼ぶべき一連の事件だった。 … 永劫に閉ざされた白い部屋、質の良いベッドに体をもたげ、魔法使いは目を閉ざす。彼の使役するワタリガラスの幻影は、常に外の出来事を通達してくれた。ミルディンは幽閉されていながらも外の様子を全て把握することが出来た。また、この永い時間を自身の研究に当てることにした。 ミルディンの算段では、術者であるニニーヴが死亡すればここから出られるはずだった。ここから出る目的も自身が生きていく目的も別に無いのだが、とにかくミルディンは幸福にならねばならない。それがかつての王であり弟子からの願いだったからだ。自身が幸福に生きるための研究、自身にとっての楽園を作る為の研究、それがミルディン、否、オーディンのテーマだ。 そうしてどれほどの時間が経ったか、もう数世紀は日の目を浴びていないであろう。やっとドアが開いた。ニニーヴが死んだのだ。彼女は恐ろしい魔女だったが、ワタリガラスの眼を通して視た彼女の死体は美しい宝石だった。湖のほとりで煌めく透明のガラスをオーディンは拾い上げ、飲み込む。それは罪悪感からか?怨恨からか?答えはそのいずれでも無く、ただオーディンという一人の男が、一人の女の最期を哀れに思っただけのことなのだ。 もうブリテンに用はない。最早ここはかつて栄えた騎士の王国では無く、魔法使いにも用がないはずだ。 さて、これからどうしようかと案じながら男は歩き出した。長い長い不思議な物語を抱えながら。 ----------------------------------------------------------------------------- 【幕間②:失敗した魔女の独白】 秘密を奪うことが目的だった。強大な魔法使いミルディン。宮廷魔術師であり数多の王を生み出してきた有数のキングスメイカー、ブリテンの指導者。そんな男からありったけの秘密と魔法を搾取して、自身がもっと強くなるのが目的だった。 今までみたいに見た目と体を使って騙し取るはずだったけれど、それは上手くいかなかった。どうして?彼は大変な遊び人だったと聞いたのに、夢魔の血が流れていると聞いたのに、どうして私に騙されないの? 彼は私の目論見に気づいていながら師として振舞った。大樹の下で蝶を生み出して子どものように笑ったかと思えば、冷たい目をして私の誘いを拒む。 許せなかった。この私を男ごときが愚弄するなど、到底許せることではなかった。 だから私以外の全てを奪ったというのに! 彼は最後まで私を見てはくれなかった。あの鴉を飛ばしている時でさえ、私のことは視ていなかった。 私が老いていくにつれ、私を見る目は少なくなって行った。あれほど簡単に騙せた有象無象の男たちもやがて去り、私は醜い魔女になった。魔法使いは邪悪でデタラメだと悪い噂が立つようになり、湖の外に私の居場所はなくなった。 ああ、こんなことなら唇ですませなければ良かった。もっと後悔するようなことをしてやれば良かったんだわ。無力になった私はいつかの彼のように蝶を生み出してみて、小さく笑いを漏らした。 皮肉なことに、私が死んだ時にようやく、あの男はこちらを見てくれた。 ----------------------------------------------------------------------------- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3.ヨーロッパ地域にて-それから、神は死んだ】 陽気な音楽と踊り、飲み交わされる酒。いつになく晴れやかな祭りの夜、オーディン・ティルナノーグ・アヴァロンは噴水に腰掛け聴衆に囲まれていた。 ドイツ ローテンブルクを中心に吟遊詩人として日銭を稼ぐこの青年は、甘いルックスと軽快な語り口で人々の人気を攫っていた。なんと言っても織り成される物語の数は他の詩人たちとは桁違いで、まるで見てきたかのように御伽話や英雄譚を語るものだから、誰もが目を離せないのだ。 「そうして王は楽園に辿り着き、今も目覚めの時を待っているのさ…めでたしめでたし!」 琴を爪弾く音に合わせ物語は終わり、人々は思い思いの感想を投げかける。青年は恭しくお辞儀をしてチップを受け取り、風のように去っていく。 人々は彼を「まるで魔法使いのようだ」と称した。 美しく、器用で、人を惹きつける才がある。そして何より“いい加減で話に信ぴょう性が無い”。 そう、魔法使いという存在は徐々に人間から嫌煙され始め、迫害の片鱗を見せていたのだった。 オーディンはその点賢く、魔法を軽々しく人前で扱うようなマネはしなかった。上手く生きるためには角を立てないことが一番良い。同胞が魔女裁判にかけられていても、無意味に石を投げられていても、オーディンは知らんふりだ。ただ世間とはそういうものであると肌で感じながら国を巡り歩き、詩を唄うことで金を稼いだ。 時代が移り変わるにつれて昔ほど大きな力が扱えなくなっていることに気付いた。これが単に老いなのか、それとも世界に満ちる神秘の量の問題なのかは分からないが、人の暮らしに馴染んでからは魔法はさほど使用していない。髪を乾かしたり本を片付けたりする以外に用途も無いし、自身の力が弱まっていることに対して何の喪失感も無かった。 弱まったのは魔力だけではなく、肉体の力もだった。これに関しては仕方が無いとしか言いようがないが、数世紀に渡り監禁生活を送っていたオーディンは極端に体力と筋力が無い。それ故に、軍役や農耕の仕事だけは避けて通った。結果口先だけでのらりくらりやっていく形に定着したのだ。 時が進み、詩人の需要も下がってくると今度は学者のフリをするようになった。幸い長く生きているだけあって教養はかなりある方で、また地頭もかなり良い。頭を使う仕事は自信に向いているという自覚があった。特に15,6世紀のドイツでは錬金術などという学問も発展していた関係で、魔法使いにとっても非常に生きやすい環境だった。それでも使い方を誤り処刑される同胞がいる訳だが、そういう時はただ運が悪かったな と思うのであった。 19世紀、いよいよ世の中から神秘は姿を消し、時代は完全に人のものとなった。ヨーロッパの各地で革命が起きて独立国家が生まれ、イギリスでは工業化により機械の導入が始まった。オーディンの力はいよいよ並程度になり、かつてのように世界を創っては滅ぼすなど夢のまた夢だ。 もう、この街には音楽も踊りもない。ガス灯の照らす夜の街、かつて名を馳せた王もとい神もとい宮廷魔術師もとい吟遊詩人もとい学者もとい平凡な男は行くあてもなく歩き出した。ちらりちらりと雪の降る世界はひどく色褪せていて、それでいて騒がしくて新しい。随分建物が増えたな、なんて老いぼれのような感想を抱きながら空を見上げて、“流行りの魔法使い”のように箒にでものってみるかと思案する。…いいや、どうせならもっと派手なのがいいな!指をパチンと鳴らして、風が一筋吹いた。現れた八本足の愛馬スレイプニールの額にキスをして跨る。御伽を忘れた進化の街に不似合いなファンタジーが、誰も居ない路地で浮き足立っていた。 否、誰もいないと言うのは、「人間が」の意である。 「随分毛並みの整った馬のようだが、今夜は風が冷たい。それで空を駆けるのはオススメしないよ、君。」 声をかけてきた青年こそがバルトロであった。 ガス灯がちらりと揺れ、彼の作り物めいた白肌を照らす。続いて彼の口から出た冗談めかした言葉が、オーディンの現在を決定付けるものとなった。 __疲れた魔法使いにうってつけの、隠居場所があるんだけど… ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【4.エピローグ、または何かのプロローグ】 暖炉の中で揺らめく暖かな炎が魔法によって灯されたものであっても、それに怖気付く者は一人もいない。人に見えない世界に作られたこの屋敷は、どこまでも隔絶的で絶対的な、魔法使いにとっての楽園とも言える。 窓の向こうで銀を晒す新雪を横目に、見た目20代程度のやや童顔な青年は書に耽っていた。炎の燃える音とページをめくる音、乾いたふたつだけがしばしの間この空間を動かしている。 やがて停滞に促進を促すように、階段から足音が聞こえた。恐らくは同居人による昼食の誘いだ。続くノックの音に、黒髪と鋭く光る赤い目が特徴の彼(または彼女)の姿が目に浮かぶ。はい、今行くよ、と昔に比べ幾分か穏やかになった口調で返答をし、本を閉ざした。急いで来なさい、といつになく急かされて初めて、階下から聞こえる見知らぬ少女の声に気がつく。 なるほど、行くあてのない魔女がまた1人増えたというわけか。 星が降っていた。 星を掴んだ者たちを月は笑って攫っていった。 俺たちは魔法使いだ。 無辜の魔法使いである俺たちは人々から、或いは退屈から逃れ集まった。 ここは世界の一番端っこ。 誰の目も届かぬ場所。 そんな、終わりのない終わりの世界で__ 「これからよろしくね」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・1000年生きてる/いよわ ・QUI/sasakure.UK ・刹那プラス/みきとP ■簡易用■ Óðinn・Tír-na-nÓg・Avalon(オーディン・ティルナノーグ・アヴァロン)(男) 職業:魔法使い 年齢:2022歳(見た目やや童顔の成人) PL: STR:7  DEX:12  INT:19 アイデア:95 CON:8  APP:17  POW:15  幸 運:75 SIZ:15 SAN:99 EDU:23 知 識:99 H P:12  M P:15  回避:dex*2  ダメージボーナス:0 ―――――――――――――――――――――――――― [技能](職業技能点:460 個人技能点:190) (書式:職業/個人<成長>[その他]) ―――――――――――――――――――――――――― [持ち物] ・武器 ――――――――ここに記入―――――――― ・防具 ――――――――ここに記入―――――――― ・所持品 ――――――――ここに記入―――――――― [プロフィール]