タイトル:望永 紬久 キャラクター名:望永 紬久 職業:大学生(音楽教室の講師) 年齢:22 / 性別:男 出身:日本 髪の色:希望に満ちあふれた色 / 瞳の色:わくわくが止まらない色 / 肌の色:黄色人種 身長:179cm 体重:67.3kg ■能力値■ HP:12 MP:15 SAN:75/99      STR  CON  POW  DEX  APP  SIZ  INT  EDU  HP  MP 作成時   8  10  15  16  12  14  11  11  12  15 成長等               1 他修正 =合計=   8  10  15  16  13  14  11  11  12  15 ■技能■ ------------------------ 戦闘系技能 ------------------------ 習得/名前       現在値 習得/名前    現在値 習得/名前      現在値  《回避》      32%   《キック》  25%   《組み付き》   25%  《こぶし(パンチ)》50%   《頭突き》  10%   《投擲》     25%  《マーシャルアーツ》1%    《拳銃》   20%   《サブマシンガン》15%  《ショットガン》  30%   《マシンガン》15%   《ライフル》   25% ------------------------ 探索系技能 ------------------------ 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値 ●《応急手当》60%   《鍵開け》 1%    《隠す》  15%  《隠れる》 10%  ●《聞き耳》 85%   《忍び歩き》10%  《写真術》 10%  ●《精神分析》31%   《追跡》  10%  《登攀》  40%  ●《図書館》 50%  ●《目星》  65% ------------------------ 行動系技能 ------------------------ 習得/名前    現在値 習得/名前   現在値 習得/名前    現在値  《運転》   20%   《機械修理》20%   《重機械操作》1%  《乗馬》   5%    《水泳》  25%   《製作()》  5%  《操縦()》  1%    《跳躍》  25%   《電気修理》 10%  《ナビゲート》10%   《変装》  1%    《》     % ------------------------ 交渉系技能 ------------------------ 習得/名前    現在値 習得/名前   現在値 習得/名前 現在値  《言いくるめ》5%   ●《信用》  40%  ●《説得》55%  《値切り》  5%    《母国語()》55%   《》  % ------------------------ 知識系技能 ------------------------ 習得/名前      現在値 習得/名前      現在値 習得/名前  現在値  《医学》     5%    《オカルト》   5%    《化学》 1%  《クトゥルフ神話》0%   ●《芸術(ピアノ)》 85%   《経理》 10%  《考古学》    1%    《コンピューター》1%    《心理学》5%  《人類学》    1%    《生物学》    1%    《地質学》1%  《電子工学》   1%    《天文学》    1%    《博物学》10%  《物理学》    1%    《法律》     5%    《薬学》 1%  《歴史》     20%   《》       %    《》   % ■戦闘■ ダメージボーナス:0 名称 成功率 ダメージ 射程  攻撃回数 装弾数 耐久力 / 備考                              /                              / ■所持品■ 名称                  単価 個数 価格 備考 たぬきの信楽焼(家具)            1   0   ビンゴ大会の景品 明日、処分する。名前は「清塚」 アレクサ(家具)               1   0   優秀 いつも電気を消してくれていた。 コンドーム(サガミオリジナル 0.01mm)    1   0   空箱 もう、しばらく使うことはないだろう 指輪(右手の薬指)              1   0   ペアリング 幼馴染とお揃い ※大学生に似つかわしくない高価なもの 手書きの楽譜                 1   0   幼馴染と連弾した曲を思い出しながら書いた譜面 明日、去る君へ =所持品合計=     0 所持金 預金・借金 ■その他■ メモ:    ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦    ――後朝、遙かなる希望を永久に紡ぐ    ➸望永 紬久 Mochinaga Tsumugu     男性 / 22歳 / 179cm / 67.3kg     誕生日:XXXX年8月15日     一人称:俺     二人称:名前(+~さん)     すきなもの:ピアノ、幼馴染、パピコ    ◇特徴表 …… オシャレ     常に身だしなみに気を使っている。APP+1    音楽学校の卒業を間近に控える大学生。専攻はピアノ。    幼馴染に触発され、海外留学を志していたが    母が倒れたことをきっかけに    実家の音楽教室を継ぐことを決意する。    生まれた時から天才と称された彼の技量は凄まじく    大学は推薦合格、留学は人伝のオファー等    社交的な性格も相まってそこそこ    イージーライフな人生を送っていた。    自由に生きられるよう親から干渉・制限を受けることなく    育ったため勉強の出来は平均以下。    おつむの弱さは幼馴染に告白されプロポーズを受けた際も    言いくるめられてしまう程。    オーストリアへの留学については幼馴染と    同じプログラムを受ける予定かつ    時期を見て結婚する予定――だった。    人当たりの良い明るい性格。    困っている人を放っておけない性質。    幼馴染のことは「自分に無いものを持っている努力家」と    称しており、唯一の親友だと思っている。    家庭事情とはいえ、突然の留学辞退や    別れの切り出しについては非常に申し訳なく思っている。    別れの切り出しは決して絶縁を望んでいるわけではなく    「留学に専念して欲しい」    「自分の時間を大切にして欲しい」という思いから。    「帰国したらまた一緒になろう」と約束をしていた。    ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦  我々が愛だと掲げたものを神はたやすく掬い潰す  行きたくない、と癇癪を起こす同居人を引きつれ大学の卒業式に出席した。友人のすくない彼を無理に誘うのは気が引けたが、最後だからと呟けば見放された仔犬のような顔をして、いそいそと背広に腕を通した。おろしたばかりのそれは留学のために仕立てたものだ。真新しいにおいがして、落ち着かない。職人宜しく当たり障りない言葉をかけると先刻までの不機嫌はいづこへやら、そうでしょうと微笑む紗衣 希遥は俺、望永 紬久の幼馴染であり、好敵手、そして明日が来たら別れる恋人だ。  正門に掲げられた「卒業証書・学位記授与式」の看板周りには思い出を残そうと写真を撮る者たちで溢れかえっている。俯く彼に対して記念にどうかと声をかけると後悔に怯える目が見えて息を吞んだ。なんでもない、となかったことにするには遅すぎて、勤めて明るく振る舞う希遥から絞り出された肯定が目の周りを熱くさせた。自分の身体の中でいろいろなものがぎくしゃくと歪んでいく。終わりを告げたのは俺なのに、抱く必要のない戸惑いが罪悪感を助長させていく。  カシャ、 「撮れた?」 「多分。ほら」 「あはは、へんなかお。お母さんに送っとこうかな」  それでも俺たちはカメラロールの中で精一杯、笑っていた。 ✦  奇妙な縁は母が開いた音楽教室がきっかけだ。  ピアノの調律師として名をとどろかせていた父が一目惚れをして口説いた相手は国内外でも有名なピアニストで、息子の俺が言うとマザーコンプレックスを匂わせるかもしれないが、贔屓目無しに美しく、教養を与えるに相応しいおおらかな人だった。メディアの露出は最低限に留め、ボランティア活動に多く時間を割いたそうだ。その類稀な才能と人望のおかげで、望永音楽教室は開業後まもなく熱心な生徒で溢れかえったと聞く。  そんな音に恵まれた母の腹の中で与えられた英才教育の影響は計り知れず、俺は物心がついた頃から自分に絶対音感なるものが備わっていること、一度耳にした曲を記憶並びに演奏できることを自覚していた。それ故の不幸か、世間知らずの俺は恵まれた才能を普遍的なものだと思っており、母の教えを乞う人々のきもちが微塵も理解できなかった。 「今日は紬久と同い年の男の子が来てくれるのよ」 「おとこのこ?」 「そう。おともだちになれたらうれしいわね」  運命の日は突然訪れた。小学一年生から二年生になる春の日だった。内気な雰囲気を纏った少年が愛想良く笑うきれいなお母さんと一緒に家の門を叩いた。それが希遥だった。トイレから自室に戻る刹那に見かけただけだったが、整った顔が憂いを纏って教室の部屋に吸い込まれたのをよく覚えている。どうしてそんな顔をしてその部屋に入るのか、なぜ母親はやる気の無い子に時間を割くのか、皆目見当もつかなかった。不満だけが積もり積もってのしかかる。ピアノはにこにこ弾くものよ、と目を細める母の声がこだまして、あのいとけない仏頂面がすこうしだけ腹立たしく感じた。  その翌週、頑丈な防音壁を劈く悲痛な演奏を聴いて唖然とした。 「まあ。希遥くん、とってもげんきな演奏で素敵よ」 「……すてきじゃない、じょうずにできない」  きらきら星ならぬギラギラ星の演奏後、希遥は大粒の涙を溢し震えていたらしい。後から聞いた話だが、彼は自発的に学びに来たのではなく、母親の良心或いはエゴで押し付けられた習い事に辟易としていたのだ。向上心のある生徒ばかりを相手にしていた母は動揺しつつも意欲的にさせようと言葉を選び尽力したが、これがなかなか難しかった。普段、生徒さんが来ている間はお部屋でおとなしくしていてね、と言われていたが嗚咽を漏らす声と狼狽える母の声。葛藤は短く、ざわざわする胸を抑えて部屋に押し入った。 「ねえ、どうして泣いてるの」 「……だれ?」 「望永 紬久、先生のこども」 「え?」 「いいから、ちょっと右につめて。そう、ありがとう」 「……?」 「いい?俺が今から左手で伴奏弾くから、すきなタイミングで入ってきて、どこでもいいからすきな白い鍵盤を叩いて」 「な、なんで」 「たのしいことしよう」 「やだ……もう帰りたい」 「ピアノはたのしいってこと、おぼえて帰って欲しいから」  俺はゆっくりカノン進行を弾いた。希遥はわけがわからないといった表情を浮かべ、なかなか鍵盤に触れようとしなかった。空いている右手でこうするんだよ、と適当にお手本を見せると恐る恐る白鍵に触れて、自信のない音を奏でた。それでよかった。どんな音にも調和するそのコードは音楽知識のない希遥を刺激するに容易かった。短く、長く、強く、弱く、跳ねるように、美しい旋律を奏でているのは自分なのだと自信を持ってもらう。顔色を窺えば彼は笑っていた。悲しみで熟れた赤い鼻と頬さえも喜びを讃えていた。時間にして数分、自然な着地になるようアレンジを加えて、突発的なセッションは終わりを迎えた。 「もう、おしまい?」 「うん、だってもうすぐ次のレッスンの時間だもん。お母さん、邪魔してごめんね」 「いいのよ、ありがとう紬久。希遥くんがにこにこしてくれたから。ね、たのしかった?」 「う、う……ん」 「よかった、希遥くんは紬久と同い年だから先生、ふたりがなかよくしてくれたらうれしいなぁ」 「はい、えっと……つむくん?」 「なに?」 「また、一緒にピアノ弾いてくれる……?」  もちろんだとも、胸を張る俺を見て、忽ち元気になった希遥は迎えに来た母親が珍しいわね、と驚く程ご機嫌に帰宅した。俺はまるで自分がヒーローになった気分になり、舞い上がった。やりたくないことなら俺だっていっぱいある。だから上手じゃなくて良いってことだけ、わかって欲しかった。善意の叩き売りをして悦に浸っていた俺はその晩、久方ぶりに母親に叱られた。教室のお部屋に入る時は、ちゃんとノックしなくちゃね、と。 ✦  あの日から希遥は毎週欠かさず教室の門を叩いた。覚えこそ悪かったものの凄まじい量の練習を熟し腕をあげる彼を母は一役買っていた。一方、俺はいつもレッスンの時間よりすこうし早く訪れる希遥と遊ぶのがたのしみで仕方がなかった。彼の名誉のためにも声を大にして言うが、ピアノ以外の事に関して希遥の方がなんでもできた。別々の小学校に通っていたため、あまり詳しい事は知らないが、優秀だというのは人伝に聞いていた。塾に通い、大量の本を読んでいた希遥は知識量が豊富で謎解きがメインのテレビゲームでは積極的に助言してくれたし、難しい宿題は公式の応用を教えてくれた。幸運な事に同じ中学校に進学した俺は希遥に負けるのが悔しくて、勉強をがんばった時期もあるけれど終ぞ、希遥より良い成績を収めることはなかった。 「なんでそんなに頭良いんだよぉ~……」 「俺は何も出来ないから努力してるだけ」 「へ?」 「ピアノの才能がある紬久にはわからないかもしれないけど、これっていう強みがないって、結構しんどい」 「しんどい?なんで?」 「努力して何かを成し遂げるんじゃなくて、何かをするために努力しなくちゃいけないから人よりずっと、時間がかかる」 「したいことあんの?」 「今は、特に」 「じゃあさ、付き合ってよ!」 「え?」 「俺も努力して勉強で希遥に勝ちたい。勉強、付き合って!」 「ああ……そういう」 「次の期末テストで勝負しよ!だめ!?」 「わかった、わかったから」  ようやく、人に得手不得手なるものがあるということを知ったのは座学で惨敗に次ぐ惨敗を記した後だったろうか。ばかな俺に勉強を教えようと努力した希遥は学年トップに留まらず塾の中でも上位に名を連ねるようになったと言う。母から「あの子、あの小峠高校への進学を考えているんですって。すごいわよねぇ」という話を聞きつけた時は雷に撃たれたかと思った。学問に疎い俺でもわかる立派な高校名を耳にして感じたのは焦燥感。このままでは親友と離れ離れになってしまう。何度も放り投げたシャープペンシルを強く握ったが、机と向き合うよりも気の赴くままピアノの前に座る習慣が定着していた俺には足らぬ素養を埋める集中力がなかった。幾ら「一緒の高校に行こうね」と約束したところで努力の土台すら出来ていないのが現実だ。理不尽な学力テストの前では褒められた過去の受賞歴など何の役にも立たない。これが、人生。教室に通う生徒さんたちを思い、今までより米粒ひとつ分だけ、人にやさしくすることを覚えた。  小峠高校、C判定。  やっぱりなあ、と残酷な模試の結果を見て開き直った俺は希遥に帰ろう、と言われるまで教室の窓の向こうを見ていた。 「……アイス食べたいんだよね」 「じゃあ、コンビニに寄って帰ろ」 「財布持ってきてない」 「奢ってあげようか」 「神様、仏様、希遥様」 「くるしゅうない」  俺の親は勉強に全く関与しない。俺が俺の意志で決めたことなら全力で応援するというスタンスだった。だから無理に小峠高校を目指す必要はない、けれど。 「希遥、どこの高校に行くの?」 「紬久は?」 「俺、西村高校に行こうと思ってさぁ」 「西村」 「今日返ってきた模試、小峠を第一志望にしたけど全然ダメだったんだよね~」 「ふぅん」 「西村ならがんばれば行けそうだし、制服もいい感じだし、なんか知らないけどかわいい子多いんだって」  思案して、何か言いかけた希遥の声をコンビニの入店音が掻き消した。真っ先にアイスケースに向かって希遥が好きな雪見だいふくにするか、俺の好きなのにするかで悩んでいると彼が光の速さでやって来てパピコを一袋購入した。行くぞ、と若干不機嫌な優等生につまみ出されて帰路に戻る。まだ、かたいアイスを揉んでいると希遥はさっきの話だけど、と言いながら氷菓子を咥えた。 「ほへほ、ひいふあひひふ」 「なんて?」 「おれも、」  西村に行く、と長い睫毛をはためかせ、真っ直ぐに俺を見ていた。最初は冗談かと思ったが、希遥に二言はなかった。木陰を思わす穏やかな見た目とは裏腹に歴とした漢は西村高校を首席で合格した。ギリギリのラインで合格した俺を置き去りにして。 ✦  高校二年生、夏休みの前のこと。母は発表会の開催を宣言した。普段、交流をもたない教室の生徒たちを集め老若男女問わず関わりを持たせることを計画したのだ。俺は言わずもがな一、演奏者として参加するように頼まれ、ふたつ返事で了承した。コンクールとは違って評価されることのない演奏会は自由参加だ。希遥は暫しの間、勉強に専念したいとの申し出があったため不参加だったがレッスンには通ってくれていた。  俺は母親の知り合いを名乗る音楽系の大学教授から声を掛けられ、放課後に個別レッスンのようなものを受ける機会が度々あった。その教授からリクエストされた曲があり、夏の発表会ではどちらかすきな方を選んで弾いてくれないかと頼まれて今に至る。 「希遥、今日も塾?」 「今日はないけど、やらなきゃいけない課題が進んでなくて遊びには行けない」 「あー……じゃあさ、その課題やりながらでいいから次の発表会でどっちの曲を弾くか悩んでてさ、聴いて欲しいんだよね」 「前に言ってたコンクール?」 「そ。ちゃちゃっと弾いたら帰るわ」  高体連を前に合唱部や吹奏楽部はよく遠征に出ていたから、夏になると帰宅部の俺たちはちゃっかり音楽室で時間を潰した。 「選曲は?」 「ロベルト・シューマンの飛翔か、ラヴェルの『マ・メール・ロワ』から妖精の園」 「どっちも聴いたことないな」 「飛翔はなんか、ドーンって感じで妖精の園は子供達がすきそうなやつ」 「ふうん」  課題教材を机に出す希遥の横で、キーカバーを軽く畳む。指のトレーニングで子犬のワルツを弾いている間、俺は夕飯のことを考えていた。俺の家では父が主夫をしている。ロールキャベツだったら良いな、と思いながら飛翔を奏で、次いでなめこの味噌汁と焼き魚でもいいな、と思いながら妖精の園を弾いた。 「二曲目の方がすき、かな」 「妖精の園?」 「うん。昔、読んだ絵本を思い出した」 「どんな話?」  希遥は古典の、助動詞の活用一覧のページをなぞりながら、桜貝の唇を開く。彗星に攫われたお姫様が妖精に助けられ、恩返しに彼等を厄災から救う。そして、功績を讃えられると共に妖精の王の側妃に選ばれ、しあわせに暮らすという話だった。 「でも、実はその主人公には好きだった人間がいて、妖精の国の王女になるって決めた日の夜に手紙を書くんだよ」 「それも覚えてんの」 「まあ……その本は母親がすきでさ、何度も読み聞かされたから。たしか――」  偏に其方を想ふ。時に心揺るがすであろう君を。されど、この別離は悲劇にあらず。永遠の刻流れる妖精の国にて新たな器を授かりて、この魂は未来永劫守られるが故に。 「つまり、何?どういうこと?」 「紬久にはまだ難しいかもな」  説明を求めたが希遥はそれ以上語らなかった。課題があるから、と帰宅を促され、俺は帰路に着いた。その日の夕飯は酢豚だった。キッチンに立つ父はとろとろの中華料理を前に腕を組み、最高傑作が出来てしまった、と自分の才能に感嘆の声をあげていた。究極のロマンチストで、最強の自信家なのだ。仕上げにまごころの念を注入していた。現役の愛妻家である父は母の口に入る料理全てに愛情を注がねば気の済まないちょっと変わった人だ。ただいま、と声をかけると母の遺伝子を受け継ぐ俺を見てこれ以上にない笑顔でおかえりと迎えてくれる。 「紬久、おかえり。発表会の曲はもう決めたのかい」 「ああ、うん。妖精の方にする」 「マザーグース!いいじゃないか!『眠れる森の美女』で眠りについたお姫様が王子様の口づけで目を覚ますシーンのために作られた名曲だ……」 「そうなの?」 「妖精の予言通り、百年の眠りに就いたお姫様が試練を乗り越えてきた王子様と結ばれるしあわせを表現したんだって。美しいだろう。是非ともその背景を理解した上で演奏して欲しいな」  どうやら、希遥が言っていたお話と実際にイメージして描かれた話は違うらしい。はて、『眠れる森の美女』はどんな話だったか、と思いながら夕飯の支度を手伝った。スイッチが入った父はキッチンカウンターに身を乗り出し、いつもの演説をはじめていた。 「理論的な理解だけじゃ深みは出ないし、理解したとて伝達力、つまり演奏技術がなければ観客に届けることはできない。その点、ママは最高の奏者だ。二十年前のベルリンのコンツェルトハウスで――」  観客全員を魅了し、ベルリン市内の花屋がすべてクローズする程の大量の花束をプレゼントされた逸話は十七年間毎日聞かされている。こうなってしまった父は止められないので、適当な相槌をうちながら希遥に教えてもらった恋文を反芻する。なんて言ってたっけ。たしか、そう。ひとえにそなたをおもふ。ひとえに……。ひとえってなんだっけ。 ✦ 「一重じゃない、偏に。そのことだけで他に理由がない、そのことだけをするとか、つまり……ひたすらってこと」  呆れた顔をした友人はそれくらいスマートフォンで調べればいいだろ、と言いながらオレンジジュースをコップに注いでいる。ああ、確かに。盲点だった。いや、しかしそんな簡単なことを忘れるくらい色々あったのだ。  時刻は既に夜の九時を回っていた。ピアノの発表会の本番を終えた俺は母が気合を入れて用意したスーツを着たまま信頼のおける友人のもとへ急いだ。こうすればもっと良くなるぞ、と父がセットした髪型を崩すいとまを惜しんだ結果、住宅街の一角にあるコンビニでは大層浮いた。でも、そんな些細な事はどうでもよかった。今日あったこと全てを伝えたくて、休日にも関わらず一日の大半を塾で過ごした希遥の家に押しかけた。不躾な時間に訪ねることを気遣って適当なお菓子とオレンジジュースを買って行ったが、希遥のご両親は高校時代の恩師の告別式だかなんだかで地方へ向かったらしく、不在だった。 「で、王子様みたいな格好して、わざわざそんなこと訊きに来たわけ?」 「そうじゃなくて!俺、大学決まった」 「えっ」 「レッスンしてくれてたおじさん居るって言ってたじゃんか、あれなんか知らないけど音大の教授だったらしくて」 「お、おお……」 「その人となんか他にも知らないおじさんたち何人かで今日の発表会見に来てて」 「はあ」 「終わったらお父さんとお母さんに呼び出されて、応接間でおじさんたちが自己紹介はじめて……そん時はじめて教授だってわかって、もしよかったらうちに来ないかって言ってくれて……試験は形式上受けるけど、よっぽど悪いことしない限りこのまま合格だって。俺、うれしくて。希遥にいちばんに伝えようって思って、それで」 「……おめでとう。すごいじゃん」  ふいに、距離を置かれたような感覚になり、こころの友と祝福を刻むあつい抱擁を交わした。着古されたしわくちゃの寝巻から彼の家の匂いがして、首元からはボディーソープの香りがした。バンバンと背中を叩かれ我に返る。力を込めていたからか、顔を赤くした希遥がよたよたと離れて、座った。音大か、と呼吸を落ち着かせながら譫言のようにぽつりと呟く。その言葉の意味を理解するのはまだ当分先の事だった。  ※一旦、力尽きました。   通過中・通過後に追記の可能性あり    ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦    ※あくまで自己満足で書いたものです。    上記により事故が起きる可能性があれば    ご指摘いただけますと幸いです。    長文並びに末筆ですがご査収の程    何卒よろしくお願い申し上げます。    ▽Image Song I : さよならミッドナイト    https://www.nicovideo.jp/watch/sm15965793    ▼Image Song II : らしさ    https://www.youtube.com/watch?v=wol-XHb1VhM    ▽仲谷地ぺちの 2021/10/10    ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ✧ ✦ ■簡易用■ 望永 紬久(男) 職業:大学生(音楽教室の講師) 年齢:22 PL: STR:8  DEX:16  INT:11 アイデア:55 CON:10  APP:13  POW:15  幸 運:75 SIZ:14 SAN:99 EDU:11 知 識:55 H P:12  M P:15  回避:dex*2  ダメージボーナス:0 ―――――――――――――――――――――――――― [技能](職業技能点:220 個人技能点:110) (書式:職業/個人<成長>[その他]) ―――――――――――――――――――――――――― [持ち物] ・武器 ――――――――ここに記入―――――――― ・防具 ――――――――ここに記入―――――――― ・所持品 ――――――――ここに記入―――――――― [プロフィール]