タイトル:七篠権左衛門 キャラクター名: 年齢: 性別: 髪の色: / 瞳の色: / 肌の色: 身長: 体重: キャラクターレベル:7 Lv メインクラス :ウォーリア サポートクラス:サムライ (1レベル時:サムライ) 称号クラス: 種族:アーシアン ■ライフパス■ 出自:安土桃山人/カルチャー:安土桃山時代を取得 境遇:平凡/38歳童貞。家柄普通。武芸の才なし。 目的:名誉/次こそは誉れある死を遂げたい。 ■能力値■ HP:88 MP:52 フェイト:5     筋力 器用 敏捷 知力 感知 精神 幸運 種族    8   9   8   9   8   7   8 作成時   5   0   0   0   0   0   0 →合計 5点/5点 特徴    3      3 成長等   5   2   5      5      1 →合計 18点/LvUp分18点 =基本値= 21  11  16   9  13   7   9 ボーナス   7   3   5   3   4   2   3 メインクラス   1   1   1   0   0   0   0 サポートクラス  1   1   0   0   0   1   0 他修正 =合計=   9   5   6   3   4   3   3 ■戦闘■ [キャラシート版]      能力 装備右/左 スキル  他  合計右/左(ダイス数) 命中判定   5  -1/ -1  5      9/ 10(2D) 攻撃力  --  23/ 23  2     25/  2(2D) 回避判定   6   -3          3   (2D) 物理防御 --   20    2     22 魔法防御   3    0    2      5 行動値   10    3         13 移動力   14   -2         12m ■戦闘■ [全項目版]    物理 魔法     命中 攻撃 回避 防御 防御 行動 移動 射程 種別  Lv  冊子 右手   -1  23   0   0   0   0   0 至近  刀   1 左手 腕 頭部         -1   4             防具   4 胴部         -1  11        -2    防具   5 補助         -1   5             防具   3 装身                   3       装身具   7 =小計=右 -1  23  -3  20   0   3  -2    左  0   0 能力値   5 --   6 --   3  10  14 スキル   5   2      2   2        アーシアン(事故)、トゥーハンドアタック、フェイス:グランアイン、インサイトブレイド、ウェポンルーラー その他 =合計=右  9  25   3  22   5  13  12    左 10   2 ダイス  2D  2D  2D ■装備■    価格 重量 名称 [クラス制限] 備考 右手 0   7   斬牛 []      スピリット・オブ・サムライで取得可能 左手 0      [] 腕         [] =合計=0  7 /  重量上限21 頭部 500  4  グレートヘルム [ウォーリア] 胴部 2100 11 アークィバスアーマー [ウォーリア] 補助 550  2  ファインポイントアーマー [ウォ、アコ] 装身 3000 2  迅雷の鞘 [サムライ]          刀の武器を装備している間、装備者の行動値に+3 =合計=6150 19 /重量上限21 ■所持品■ 名称        価格 重量 備考 バックパック          容量5 転送石       1      テレポートを使用する 理力符(風)     1      マイナーアクション。シーン終了まで、使用者の武器攻撃のダメージを風属性の魔法ダメージに変更 毒消し       1      毒を回復 毒消し       1      毒を回復 毒消し       1      毒を回復 ベルトポーチ          容量2 ハイHPポーション  1      HP4d6回復 ハイMPポーション  1      MP4d6回復 ポーションホルダー       重量1のポーション5つを重量0 MPポーション    0      MP2d6回復 MPポーション    0      MP2d6回復 MPポーション    0      MP2d6回復 MPポーション    0      MP2d6回復 MPポーション    0      MP2d6回復 小道具入れ           重量1の道具5つを重量0 猟犬(無銘丸)    0      ハンティングの効果に+1d 釣り竿       0      フィッシングの効果に+1d 火打石       0      着火に使う石 ランタン      0      装備部位:片、明度+1(最大3) ロープ       0      判定の直前に使用、使用者が行う跳躍・登攀の達成値+2、長さは20m 乗用馬(岩鉄号)         所持重量10、移動+5、同乗人数1 野営道具      2      簡易テント、毛布など、野営するための装備一式 調理用具      3      にくの効果を1d+2に変更 にく        1      HP1d回復 にく        1      HP1d回復 にく        1      HP1d回復 にく        1      HP1d回復 にく        1      HP1d回復 手持ち HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 HPポーション    1      HP2d6回復 にく        1      HP1d回復 =所持品合計=     0 G (重量 28/上限38) =装備合計=     6150 G = 価格総計 =    6150 G 所持金     13G 預金・借金    G ■特殊な判定■     能力値  スキル  他  合計 (ダイス数) 罠探知    4         4 (2D) 罠解除    5         5 (2D) 危険感知   4         4 (2D) 敵識別    3         3 (2D) 物品鑑定   3         3 (2D) 魔術     3         3 (D) 呪歌               (D) 錬金術              (D) ■スキル■ 《スキル名》          SL/タイミング     /判定/対象/射程/コスト/制限          /効果など 《アーシアン:事故》     ★ /パッシヴ      /-  /自身/-  /-   /            /【物理防御力】と【魔法防御力】に+2、また作成時のみ現代アイテムの価格が1%にする 《バッシュ》         1 /メジャー      /命中/単体/武器/4   /            /武器攻撃を行う。ダメージロールに+[SLd] 《バーサーク》        5 /マイナー      /自動/自身/  /3   /            /マイナーアクションで解除するかシーン終了まで、武器攻撃のダメージに+sl×3、リアクションに-1d 《スピリット・オブ・サムライ》1 /アイテム      /  /自身/  /   /            /刀をsl個取得する 《アームズマスタリー:刀》   1 /パッシブ      /  /自身/  /   /刀使用         /武器を使用した命中判定に+1d 《インプルーフ》       1 /パッシブ      /  /自身/  /   /            /プリプレイで選んだスキル一つのコスト-2 《カバーリング》       1 /パッシブ      /自動/単体/至近/2   /防御中1回       /行動済みでもカバーを行える。また、カバーを行っても行動済みにならない 《トゥーハンドアタック》   5 /パッシブ      /  /自身/  /   /刀装備         /刀の装備部位を両手にして武器攻撃力に+sl×2 《トゥルーアイ》       1 /ダメージロールの直後/自動/自身/  /4   /刀装備、防御中1回   /ダメージに-武器攻撃力÷2 《グランススラッシュ》    1 /ダメージロールの直前/自動/自身/  /2   /刀使用、シーン1回   /攻撃を指定した属性の魔法ダメージに変更する 《カバームーブ》       7 /《カバーリング》  /自動/自身/  /4   /シーンsl回       /カバーリングの射程を20mに変更する 《ボルテクスアタック》    1 /効果        /自動/自身/  /   /ウォーリア、シナリオ1回/武器攻撃と同時、対象:単体に変更、ダメージに+cl×10 《プロボック》        1 /セットアップ    /筋力/単体/10m /4   /            /対象の精神と対決、この判定の達成値に+sl×2、勝利した場合逆上を与える 《リーズンアウト》      1 /効果        /自動/自身/  /   /シーン1回       /判定と同時に使用、その判定に対するリアクションの判定に-1d 《インサイトブレイド》    1 /パッシブ      /  /自身/  /   /刀使用         /トゥーハンドアタック5で取得可能、武器を使用した命中判定の達成値に+3 《ウェポンルーラー》     1 /パッシブ      /  /自身/  /   /            /武器を使用した命中判定の達成値に+sl+1 《一般スキル》       SL/タイミング/判定/対象/射程/コスト/制限    /効果など 《アスレチック》      1 /パッシブ /  /自身/  /   /      /登攀や跳躍での筋力判定に+1d 《カルチャー:安土桃山時代》1 /パッシブ /  /自身/  /   /      /安土桃山時代に関する知識判定に+1d 《トレーニング:筋力》   1 /パッシブ /  /自身/  /   /      /筋力の能力基本値+3 《フィッシング》      1 /効果   /自動/自身/  /   /シナリオ1回/MPを2D+cl×2回復 《フェイス:グランアイン》 1 /パッシブ /  /自身/  /   /      /攻撃のダメージに+2、他のフェイス取得不可 《ファーストエイド》    1 /メジャー /器用/単体/至近/   /      /戦闘不能の対象に難易度10の器用判定、成功でHP1、行動済みにする 《トレーニング:敏捷》   1 /パッシブ /  /  /  /   /      /敏捷の能力基本値+3 《ファーマシー》      1 /アイテム /  /自身/  /   /      /sl1なら3個のHポ、sl2なら5個のHポか2個のハイHポを取得する ■コネクション■ 名前    / 関係 ガウルテリオ/ 友人       / ■その他■ 使用成長点:240点 (レベル:210点、一般スキル:30点、ゲッシュ:0点) レベルアップ記録:サポートクラス / 上昇した能力基本値 / 取得スキル Lv1→2: / 筋力、敏捷、幸運 / インプルーフ、バーサーク、カバーリング Lv2→3: / 筋力、器用、感知 / グランススラッシュ、トゥーハンドアタック、トゥルーアイ Lv3→4: / 筋力、敏捷、感知 / カバームーブ、トゥーハンドアタック、トゥーハンドアタック Lv4→5: / 筋力、敏捷、感知 / プロボック、リーズンアウト、ボルテクスアタック Lv5→6: / 筋力、敏捷、感知 / トゥーハンドアタック、トゥーハンドアタック、インサイトブレイド Lv6→7: / 器用、敏捷、感知 / バーサーク、バーサーク、ウェポンルーラー メモ: ——これはいったい、何の冗談だ。 一寸先に迫る巨体を前にして、意識に浮かんだのは誰にともない問いであった。そうか、最後に思うのはそれか。思えば短くもない我が人生、幾人かの仇をこの刀で斬ってきた。彼らもまた、最期の瞬間には斯様に誰にともなく問うたのだろうか。あるいは、某にか……少なくとも突っ込んでくる相手が言葉を解する人であれば、己へのせめてもの慰めにと、遣る瀬ない感情をぶつけることもできよう。まさかこうして、彼らのことを羨む日が来ようとは…… 某はこれでも武人の端くれである。大した謂れもない武家の次男坊に生まれ、家督を継ぐでもなしに、戦で武勲を立てることだけを誉れと信じ生きてきた。本年にて、齢三十八。女房も子供もない。色気のない人生だが、師より教わった鍛錬だけは一日たりとて欠かしたことがない。さりとて、鍛錬のみで身は立たぬ。才なき身では尚更。不出来な某に向けられる目はいつも冷たかった。それでも主君への忠義だけは人一倍と思い、今日まで身を捧げ尽くしてきた。今日、敗軍の将となり敵の手に掲げられた主の首をこの目で見るまでは。 もはや生きる意味など見出せぬ。せめて主君と共に死ぬべしと思えど、勝手に動く足に引き摺られるようにして戦場より落ち延びてきた。だがこれからどうする。主を死なせ、もはや家にも戻れぬ。落武者狩りに遭うか、生き恥を晒しながらゆっくりと飢えてゆくか……いずれにせよ、誉れある死に様とは言えぬであろう。 途方に暮れて、空など見上げていたのが悪かった。けたたましい地響きと叫び声。目線を遣った時には既に、すべてが手遅れだった。暴れ狂った牛が、牛車を曳きながら走ってくる。こちらへ、某の方へ……いや、もう某の前に居ると云った方が正しい。距離など殆どない。避けるだけの猶予も。もはや一足の間合い。山のように隆起した筋肉が眼前の土を捲り上げながら地を蹴る。 ——これはいったい、何の冗談だ。 牛車に撥ねられて死ぬなど、武士どころか人として、あまりに間抜けすぎる死に様ではないか。いっそ笑い飛ばしたいが、あいにくそんな暇もない。ゆえにただ、瞼を閉じる。それだけの時間はあったから。それだけしかなかったから。まったく、主の敵を数人殺めた程度で、地獄の閻魔様も狭量なことだ。願わくば来世では、この身を捧げるに相応しい主君と共に、三千世界の旅路を往きたいものよ…… ふいに、あれほど喧しかった地響きが消えた。どうやら死んだか……と思うも、すぐさま違和感に気づく。鳥の声がする。地獄にうぐいすが住むなど、とんと聞いたことがない。恐る恐る、瞼を開く。刹那、瞳を焦がす陽の光に思わず手を翳した。何度も瞬きを繰り返し、辺りを見回す。そこは鬱蒼と茂る森の中であった。肺に感じる澄んだ空気、腰に感じる刀の重み。眼前に翳した手の甲も、もちろん透けてなどいない。 生きている。間違いない。 しかし理解できない。ここがどこなのか、どうやって助かったのか……いや、間違いなく死んだはず。あれほどの巨体に撥ねられて、五体満足で助かる道理などないのだから。そう考えた時、ついに某の心には奇妙な確信が宿った。これは世に云う輪廻転生譚ではないか。牛に撥ねられ命を落とした某を哀れに思ったご先祖様が、現世とは異なる世に某を転生させて下さったのだと。なんと有り難きことか…… ならばこれは、某にとって望む所。この地にて尽くすべき主君を見つけ、共に旅をするのだ。三千世界を巡り、ありとあらゆる財を我が主の物としよう。ただそれのみをもって、この身の誉れとするのだ。 某は七篠権左衛門、戦乱の世を生きたもののふが一人。この異世界の地を往く者なり。 某は侍なれど異世界に輪廻転生した故、ぎるどを組んで冒険してみたで候ふ 〜苦労人幼女と行くアリアンロッド〜  第零話 落武者、異世界に立つ to be continued……  第壱話 妖魔が砦 「だから、これ以上はビタ一文出せないと言っているだろう……」 「ほーん?じゃあ今回はご縁がなかったということで」 「うぐっ……い、いやしかし……!再三言っているように、砦が掌握されれば次は王都が攻め落とされるかもしれんのだぞ!?」 「それってアタシらと何か関係ある?いやー!報酬があと100G高ければ受けたんだけどなー!」 「ぐ……ぬぬ……!」 「ま、まぁまぁランディーネさん落ち着いて!いいじゃないですか500Gで!ねっ?」 「なぁなぁ!それってちゅーる何本分だっ?!」 教会の入口付近で繰り広げられている喧々轟々の騒ぎを背中越しに眺め、ため息を吐く。はたしてこんな様子で大丈夫なのだろうかと…… 異世界へと降り立った某に最初に立ちはだかった難問、それは身銭の稼ぎ方であった。生まれてこの方、剣の鍛錬以外のことをまるで学んでこなかったこの身では、自然の中で獣を狩って暮らすような生き方など逆立ちしても無理だ。ここが文明の存在しない未開の地であったなら、半月と待たず飢えて力尽きていたことだろう。それゆえ、この世界に高度な文明が存在していたのは幸いであった。 しかし、そうなれば付いて回るのが銭の問題だ。人の治める国の下で暮らすとなれば、食うにも、寝るにも、住むにも銭がいる。銭を得るには仕事が必要だが、当然簡単な話ではない。どういうわけか言葉が通じるとはいえ、やはり文字は読めない。道ゆく人に尋ね回り、どうにか辿り着いた宿で気絶するように眠った翌朝には、仕事を探しに街に出なければならなかった。身に付けていた物を片端から売り払ってなんとか確保した当面の身銭だが、このままではひと月と経たず底を尽くであろうことは明らかだ。この世界に関して初歩の知識すらない状態でも手っ取り早く日銭を稼げるような都合の良い仕事を見つけねばならない。 そういった訳で、あちこち見回しながら歩く余所者丸出しの有様で街を探索していた際に出会ったのが、たった今眼前のカウンターに身を乗り出してゆらゆらと尻尾を揺らしている小柄な獣人である。外見は獣人と表現した通り、年端のいかぬ女子の外見に猫のものに似た耳と尻尾が生えている。このぐらんへるでんなる国では、人と似て非なる様相をした者たちが当然のように街を歩いている。ばあなだとかどあんだとか何とか、そういった人ならざる種族の者たちが、人と共に生きる国であるのだそうだ。 ともかく、訊けばそのばあなの女子もまた仕事にありつくべく教会を目指していた所であるらしかった。なんでも、教会に集まってくる依頼を受注し達成すれば、かなり割の良い仕事になるとのこと。この世界で冒険者と呼びならわされる稼業らしい。主に妖魔——人ならざる種族のうち人に仇為す者たち——との戦闘に巻き込まれることが多く、常に身の危険と隣り合わせだそうだ。となれば、某としては鍛え上げた腕っぷしが活かせて持ってこいの仕事である。某は勇んでその女子と連れ立ち、教会へ向かうこととした。 道中、女子には名が無いらしく不便であるとのことで、某はその毛並みから"ましろ"の名で呼ぶこととした。しかしこの響きをましろ殿はことのほか気に入ったようで、某に向け何度も名乗ってみせるものだから参った。元いた世界の言葉においてあまりにも安易な名付けであることは、ゆめゆめ悟られぬよう気をつけねば…… 教会に着いた某とましろ殿は、依頼の受付をしていた気弱そうな女子から、冒険者に関する一連の説明を受けた。しかし参ったことに、どうやら大半の依頼は素人が一人二人でこなせるようなものではないらしく、受注にはぎるどの結成が必須とのこと。計画が早速暗礁に乗り上げ途方に暮れた某とましろ殿が顔を見合わせていた所、年端のいかぬ幼子が声を掛けてきた。幼子はねふぃりむと名乗り、げに驚くべきことに、彼女のぎるどに入らないかと持ち掛けてきたのだ。もちろん某とましろ殿は渡りに船とこれを承諾した。しかし今にして思えば、少々早計だったやもしれない。 「あのさぁ、国の一大事だっていうのにさぁ、依頼を受けてくれそうな親切な冒険者を捕まえて、500しか出さないって舐めてるだろ。アレンディルもそう思うよな?」 「え?えぇ、まぁ……」 「アレンディルさんっ!?」 「……こ、この国の……!一国の王女が、頭を下げていると、いうのに……っ!」 「まっ、まぁまぁまぁ王女様もほら落ち着いてっ!ご依頼はちゃんとお受けしますから!ここはひとつ穏便に……っ」 先ほどから、背に大きな翼を生やした長身の女人が依頼の報酬に文句を付け、それをぎるどますたーであるねふぃりむ殿が宥めている。翼の女人は名をらんでぃーね殿といい、ねふぃりむ殿が本日結成したぎるど、新生"こーしかの弓"のぎるどめんばーである。つまり、これから某やましろ殿が命を預けて共に戦う仲間ということになる。しかし、こうして見る限りかなりの変人のようだ。はたして上手く付き合っていけるだろうか。不安だ…… ねふぃりむ殿もねふぃりむ殿で、ぎるどますたーという立場に見合わぬあまりにも弱腰な態度である。斯様な有様でぎるどなど纏めていけるのだろうか。将たるもの、もっと威厳ある姿勢を示すべきではなかろうか。 加えて、最も読めないのが彼女らの傍に立つ耳の長い男。あれんでぃると名乗っていたが、どうやらあの男もぎるどめんばーであるようだ。あれほどの騒ぎの中にいながら、どこか泰然とした様子で状況を静観している。以前は学者だったとのことだが、そのような者がなぜわざわざ危険な冒険者稼業など……どうにも腹の内が読めない。 「さぁ、行きましょう皆さん!妖魔を撃退して砦を取り戻しましょう!コーシカの弓、初依頼です!」 「冒険の始まりか……いやぁ、心が躍るね」 「ってかコーシカってなんだ?食えるのか?」 「……くそ、マジックスタッフとグリモアで金が……五人だから報酬金は一人頭100……戦利品を売ればローブには手が届くか……?」 「ほら権左衛門さん!権左衛門さん行きますよ!」 ……どうやら話が纏まったようだ。今から砦へと向かい、隠し通路より隠密に侵入する手筈とのことだが……隠密に、か…… 不安だ…… 「権左衛門さん!?」 ◇◆◇◆ ——これはいったい、何の冗談だ…… 石造の薄暗い砦の廊下で、がっくりと肩を落とす。考えてみれば当然のことだ。人と人、一対一での斬り合いのみを想定した鍛錬が、複数人で連携しての、それも異形相手の戦いで役になど立つ訳がないということくらい…… それにしたって、いくらなんでも敵の様相が想定外すぎる。砦に入って最初に接敵した相手は腕を15尺余りも伸ばして斬りつけてきたし、その後の手合いなど人型ですらない不定形の粘体だ。奴等ときたら、刀は刃が通らない、鎧は隙間を突かれる、挙句は斬った端から再生していくという最悪の敵だった。らんでぃーね殿がいなければ、じわじわと消耗させられやがては敗北していただろう。 隣を歩いているらんでぃーね殿のしっかりと筋肉の付いた腕には剣ではなく長尺の杖が握られており、腰には分厚い本を提げている。これだけの体格でありながら刀を握らぬとはなんと勿体無いなどと思っていたが、その翼を活かした高所からの投石攻撃は、某が考えを変えるのに十分すぎるほどの圧倒的な破壊力を見せつけてくれた。どうもただの投石ではなく魔力を込めた礫を射出しているらしく、あの忌々しい粘液の塊ですら、これを数発受けて原型を留めたものはなかった。 ましろ殿もまた只者ではない。種族の特性を活かした素早い身のこなしで確実に先手を取り、敵の足を正確に射抜いて動きを封じている。さらに先ほどは箱に仕掛けられていた敵のからくりを見抜き、簡単な道具だけでいとも容易く無力化してみせた。極限まで研ぎ澄まされた感覚と刃の間をすり抜けるかの如き見事な体捌きは、まさしく野生の獣のそれだ。 あれんでぃる殿は戦術や策謀に優れる他、あらゆる種族の知識に深く通じており、前衛として飛んでくる刃を防ぎながら敵の秘めた能力をつまびらかにする。その上元学者でありながら剣の腕も相当のものだ。ふぉもーるなる敵の種族や能力について解説しながらその首を刎ね飛ばしていた光景は、某が見ても怖気が止まらなかった。 そして、ぎるどの将たるねふぃりむ殿の働きたるや、互いの命を奪い合う戦場においてまさしく核たるものであった。信じ難いことに、敵の攻勢は和らぎ、こちらの刃はより一層の深手を与える、そのように戦況を大きく変えるほどの奇跡を行使できるのだ。その清らかな歌声は戦場の空気を震わせ、心に染み入るようだ。しかし、戦いの最中に突然歌ったり叫んだりしだす理由については正直なところ解せない。血を見ると気分が昂る気質でもあるのだろうか……?どうも日頃から気苦労が絶えなさそうな様子だし、ああ見えて心の内に鬱屈とした感情を溜め込んでいるのかもしれない。後で愚痴でも聞いてやろう。 とかく、近づいて斬ることしかできぬ非才の身では、このぎるどにおいて特段目立った戦果を上げることはできなかった。一人のもののふとして情けなくはあるが、しかしここは某が生きてきた世とは全くの別世界ゆえ、それも仕方なしと割り切る。 「……これ、罠だぞ……!」 砦の最奥にある部屋の扉の鍵穴を覗き込んでいたましろ殿がこちらを振り返り声を潜めて言う。またもや仕掛けられていた敵のからくりを看破したようだ。そのまましばしカチャカチャと鍵穴を弄ると、カチャリという軽い音が鳴り、扉の鍵が開いた。無事、無力化に成功したようだ。静かに目で合図すると、扉を開けて部屋の中へと滑り込んだ。一人ずつ後に続く。 部屋の中には一人の妖魔らしき男がいた。男は部屋に入ってきた我々に気づくとやや驚いた様子を見せたが、すぐに不遜な笑みを浮かべて口を開いた。 「我が名は《蛇毒》のエンドゥワ!俺が仕掛けたトラップを掻い潜ってこの部屋までたどり着くとは、見事だ!その賛辞に代えて、この俺自らが貴様らに引導を渡してやる!」 口上が終わるのを合図にしたかのように、部屋の奥から二体の悪鬼の如き異形が現れた。同時に妖魔の男えんどぅわは、何やら小瓶を取り出して中の液体を剣に塗り始める。 某は目の前の敵に対する警戒度を数段階上昇させた。毒のような搦手は、あらかじめ刃に仕込んでおいて、隠し球として使うのが定石だ。それをあえて敵に向かって宣言しているという事実は、この男がよほどの強者か自信家か、あるいは策士であるということを意味している。いずれにせよ、この男が本当に頼りにしている武器が毒以外にある可能性が非常に高い。 ……といった内容を、あれんでぃる殿が早口で解説していた。そしてそれを間近で聞いていたえんどぅわは、心なしか気まずそうな顔をしていた。あれんでぃる殿にはどうやら少し、こういった所があるようだ。某は敵軍の将たるえんどぅわに、ほんの少しだけ同情した。毒を極めた毒自慢の戦士ならば、いざ敵と相見えようという場面で、自らの磨き上げた猛毒武器を誇りたくなるのは仕方のないことであろう。きっと奴には毒以上の武器などないのだ。もし某が奴の立場だったなら、今どんな顔をして良いか分からないと思う。 敵味方の間に微妙な沈黙が流れる。均衡を破ったのはましろ殿だった。目にも止まらぬ手さばきでつがえた矢は次の瞬間には手元から消え、えんどぅわの右脚に突き刺さっている。奴の表情が痛みに歪む。 血を見て驚いたのか、ねふぃりむ殿が悲鳴を上げた。凄まじい声量で放たれた甲高い叫びが耳をつんざき、えんどぅわが武器を落として耳を塞いだ。しかし、血がそんなに怖いのか。もしかしたら、血に何か嫌な思い出があるのかもしれない。かわいそうに…… 某がねふぃりむ殿の暗い境遇に想いを巡らせていると、我に帰ったえんどぅわが慌てて武器を拾うのが見えた。同時にその後方から、悪鬼どもが魔法の炎弾を撃ち放つ。ましろ殿はすんでで飛び退き身をかわしたが、避けきれず半身を炎に炙られたねふぃりむ殿が苦しげに呻く。不思議と某の心中にも燃え上がる怒りの炎が灯った。つい今しがた彼女の不幸な境遇を想像したからだろうか。分からない。分からないが、某はその怒りに身を任せ走る。 ——馬阿砂握《バーサーク》—— 地を蹴ってえんどぅわとの距離を詰める。視線が交錯し、奴と某は互いに向き直る。激突する—— 刹那、上方から飛来した無数の礫が奴の体を貫いた。重心が大きくぶれ、膝をつく。その手に構えた剣の鎬を掠め、鎧の間隙を縫い、腹を真一文字に抉って横切る一筋の道が、見えた。 ——抜手《バッシュ》—— 振り抜いた腕の軌跡を追うように深紅の血飛沫が舞った。えんどぅわが血を吐く。しかし奴は倒れない。再び足に力を入れて立ち上がると、その手に握った猛毒の直剣を振りかぶった。不滅の殺意を湛えた目でこちらを睨み付けながら、一歩、踏み込む。 その時、視界の端を光る何かが通り過ぎた。某の横髪を斬り飛ばして走る美しい刃。それは決して戦士の剣ではなく、実戦もまだ大して経ていない、理論武装の学者の剣だった。 その計算され尽くした剣閃は、某の頬を撫でるように掠めて通り過ぎ、えんどぅわの首を見事に断ち切った。 ◇◆◇◆ 「砦の奪還、ご苦労だった。君たちは王都を救った英雄だ。本当にありがとう」 「おいおい、その救国の英雄に対して何かこう、感謝の気持ちとかそういうのはないのかよ?」 「本当にありがとう!」 「ありがとうじゃねぇよ。こちとら戦利品が思ったよりしょぼくて全然新しい装備買えないんだが?英雄が装備買えなくて死んでも王国の心は痛まないってか?」 「ありがとう!!!!!!」 「ま、まぁまぁまぁランディーネさん!王女様も感謝して下さってますし、いいじゃないですかもうっ!ねっ?報酬金なら私のちょっと分けてあげてもいいですからっ」 「よっしゃーッ!!!ちゅーる買いに行くぞちゅーる!!!」 教会の入口付近での喧騒を、某は少し離れて眺めている。依頼主に詰め寄るどぅあんの女人を、ふぃるぼるの幼子のような少女が必死に宥めている。傍では報酬の金貨袋を抱えたゔぁーなの女子が落ち着きなく跳ね回り、えるだなーんの青年がカウンターの上の物体を熱心に見つめている。 少し前にも見たような光景。しかし、以前のような戸惑いはない。今の某には行くべき道が見えているからだ。この先どうすべきか、理屈ではなく侍の魂で解るのだ。さながらそう、闇夜に閃く太刀筋のように。 「すまない、この粘液なんだが、記念に持ち帰ってもいいかな?」 「アレンディルさんっ!?」 「おまえらはやくいくぞッ!!今夜は豪遊だッ!!!」 幾つかの人影が慌ただしく教会を出ていく。ようやく解放された依頼者の女性が、心底疲れた表情で肩を落とした。その肩書きに反してあまりにも親しみを感じる様子に、受付の少女が苦笑を浮かべている。さて、某も行こうか。我らがぎるど初めての打ち上げ、参戦せずにはいられまいて。 一切の迷いのない足取りで、某は仲間達の元へと歩き出した。 to be continued…… 第弍話 霧纏ふ魔性 ——気がつくと、某は薄暗い倉庫の一角に立っている。目の前にはねふぃりむ殿がいる。ひどい怪我だ。かなりの深手のようで、手で押さえた傷口から溢れた血が足下に滴っている。某は動かない。時間の進みがやけに遅く感じる。周囲の様子は、霧がかかったようにぼんやりと霞んでいて判然としない。 霧の中から一人の男が現れる。薄く筋肉の付いた体に特徴的な長耳、理知的な光を宿した瞳。某のよく見知った人物だ。それなのに、どうしてか胸騒ぎがする。目の前の光景を止めなければという強い焦燥が体の底から湧き上がってくる。だが、それでも両足は地に貼り付いたかのように動かない。 ただ見ていることしかできない某の目の前で、男は手にした短剣を構える。突き立てられた切先は、導かれるようにねふぃりむ殿の胸へと向かっていく。叫ぼうとするが声が出ない。ねふぃりむ殿の瞳が恐怖に染まる。にわかに立ちこめた霧が視界を塗り潰していく中、殺意に満ちた刃がねふぃりむ殿の身体に沈み込んで—— 弾かれるように、某は寝台から飛び起きた。心臓が暴れるように激しく拍動している。なんという夢……いや、もう思い出せないが、何かひどく悪い夢を見た気がする。 体を支える手に、何か温かく湿った物が触れた。見ると、無銘丸が心配そうに某の手を舐めている。某は彼を抱き上げると、寝台から立ち上がった。無銘丸は猟犬として売られていた犬だ。他に何頭かの体格の良い犬たちと並んで売りに出されていた。某の目を引いたのはその毛並みであった。和犬だ。こちらの世界に来て以降、目にするのは初めてである。遠い故郷を思い出させるその面立ちに旧友と再会したような懐かしさと愛着を覚え、ついその場で買い上げてしまった。宿の主人にはかなり嫌な顔をされたが、狩りのために犬を飼う冒険者は少なくないらしく、特に宿代を多く取られるといったことはなかった。 部屋の窓を開けると、王都の街並みは濃い霧に包まれていた。このところ毎日だ。巷では妖魔の侵攻の前触れだとか噂されているが、真偽のほどは定かではない。無銘丸の朝飯を用意しながら、寝起きの頭を動かす。確か今日は、酒場でぎるどの集まりがあったはずだ。某が籍を置いているぎるど、こーしかの弓の面々の顔が頭に浮かぶ。あれから共に幾度かの依頼をこなして、今ではすっかり顔馴染みだ。もしかしたら、今日も突発で何か依頼を受けることになるかもしれない。拙者は朝の日課を終えて身支度を整えると無銘丸を連れ、宿を出て霧の街へと足を踏み出した。 ◇◆◇◆ 墨を塗ったが如き闇の中、波音に紛れて五人分の足音が響く。人っ子一人いない夜の波止場に灯りはほとんどなく、立ち並ぶ巨大な倉庫の間を、真っ黒い霧に覆われた道が伸びている。まるで、此岸から彼岸へと向かう黄泉比良坂のように。黒く冷たい霧が新たな死者を歓迎するかのように肌を撫で、体温を奪っていく。 酒場で集まり、王都を包む霧の発生源と目される魔獣の討伐依頼を受けることになったのが今日の昼頃。それから魔獣の正体や能力に関する調査やその対策のために図書館や工房を訪れたり、道中で妖魔の伏兵と思われる一団の襲撃を受け撃退したりで思いの外時間を食ってしまった。おかげで辺りは真っ暗闇だ。これ以上の調査は日を改めて行おうという意見も上がったのだが、王都襲撃までもう間がないという見立てから却下された。 そうして昼間の聞き込み調査で得た目撃情報から、とある貴族がこの港に所有している倉庫が妖魔軍の重要拠点である可能性が高いと踏んだ某ら一行は、取り急ぎ立ち入り調査という名の襲撃をかけに来たのである。 半刻ほども真っ暗闇の中を歩き、ついに辿り着いた目的の建物の前で、某らは互いに目を合わせて頷く。こんなひどい霧の夜に、扉の隙間から漏れる薄明かりと何者かの気配。ほぼ間違いなく、見立ては間違っていなかったということであろう。ましろ殿が慣れた手つきで扉に仕掛けられたからくりを解き、某ら五人は一斉に倉庫の中へと踏み入った。 僅かな灯りだけで薄暗い倉庫内、奥に人影が一つ。ふいに強烈な胸騒ぎを覚える。理性ではなく直感が、全力で警鐘を鳴らしている。何だ?何をそんなに恐れている?まだ碌に敵と相見えてすらいないのに、まるでこの場所で待ち受ける最悪の未来を体が知っているかのようだ。 「あら、こんな時間にお客さんなんて珍しい……」 全身が凍りついたかのように動けない某を他所に、人影はゆっくりとこちらに歩み出てくる。床に置かれた燭台の薄明かりに、にわかにその姿が浮かび上がる。 「……おや?あなたたちは……これはこれは、コーシカの弓御一行様じゃない」 やけに高級そうな服を着て身なりの整った男だ。その貴族然とした外見に不釣り合いな女のような話し方が、なんとも不気味だった。 「なにこいつ?オカマ?」 「ランディーネさん、人の喋り方をどうこう言うのはマナー違反ですよ」 「とにかく、彼が例のドナークという貴族で間違いないだろうね」 「えっ、じゃあこいつぶっ潰して大丈夫なのか?貴族なんだろ?」 呑気に会話する面々を愉快そうに眺めながら、男はにやにやと笑う。その薄ら寒い笑みには誰の目にも明らかな残虐で醜悪な悪意が滲んでいる。 「そういえば、あなた達には弟がお世話になったわね。不出来な弟だったけど、あれでも私なりにずいぶんと可愛がってたのよ?それをあんな……あぁ、ごめんなさい。この姿で言っても分からないわよね」 そう言うや否や、男の顔がぐにゃりと不自然に歪む。顔だけでなく体型までも、瞬く間に原型を留めないほどに歪んでいき、やがて一つの人型へと収束する。そこに立っていたのは、邪悪な気配を纏った妖魔の女だった。 「まぁ、いちおう名乗っておこうかしら。私は《千変》のエレアード。この能力、凄いでしょ?こうやってちょっと見た目をごまかすだけで、大抵のエリンはいとも簡単に騙されるのよ。そうそう、あなた達に倒された《蛇毒》のエンドゥワは私の——」 「武器を構えて。敵の目的は時間稼ぎだ」 妖魔の女、えれあーどの言葉を遮ってあれんでぃる殿が声を張り上げる。その言葉に女は初めて不快げに顔を歪ませ、ぱちんと指を鳴らす。その音に反応して、奥の物陰から獣の如きものたちが二体、目にも止まらぬ速度で飛び出してきた。それらは凄まじい勢いを保ったまま、こちらに突進してくる。 しかし、某が真に驚いたのは人型であるえれあーどが、二体の獣に寸分劣らぬ速さでの速攻を仕掛けてきたことであった。突然の接近に反応する暇すらも与えず、密集陣形を取っていた某ら五人へと突っ込んでくる。瞬きの間に、その手には隠し持っていたのであろう短剣が握られている。次の一手で陣形の中心で短剣による連撃が乱れ舞い、隊列は瞬く間に瓦解するだろう。そう予感した次の瞬間、飛ぶように地を駆るえれあーどの足下に鋭い矢が突き立つ。歩調を乱されたエレアードが足を止め、矢を放ったましろ殿に向けて舌打ちをした。同時、獣どもが牙を剥いて飛びかかってくる。薄闇の倉庫内で、魔性のものたちとの戦端が開かれた。 ◇◆◇◆ 剣が走り、矢が降り、意思を持った瓦礫が舞う。壮絶な戦場で、某は敵の一挙手一投足を見逃さぬよう目を見開く。えれあーどの動きは恐ろしく俊敏で、さらに辺りに舞う土埃がその姿を隠す。飛来した巨大な瓦礫の塊が土埃を散らし、柱や壁に大穴を開ける。頭上でらんでぃーね殿が悪態をつく。どうやらまた狙いを外したようだ。 短剣を閃かせ、ふぉもーるの女は舞い踊る。二体の獣は既に息絶え、ぎるど全員の猛攻がえれあーどへと襲いかかる。いくら素早いと言っても、五人分の猛攻を一人で捌き切るなど到底無理な話のはずだ。事実、えれあーどの体にはひと当たりごとに手傷が増えている。しかし、そのどれも深傷には至っていない。降り注ぐ無数の矢を短剣で払い、飛んでくる瓦礫の隙間を縫い、袈裟懸けに振り下ろされる刀をすんでで躱し、首を狙った長剣をいなし、研ぎ澄まされた感覚で振るわれた短剣の連撃が踊るように肉を切り裂く。 もはや生物の限界すら超えた曲芸じみた動きで五人もの敵と互角に斬り合うその身は、何か人智を超えた力に導かれるように猛攻の僅かな隙を縫い走る。まるで運命の精霊を味方に付け、襲いくる無数の必然を捻じ曲げているかのようだ。運命を司る精霊の主にして"銀の輪の女王"、ありあんろっど……以前酒場で耳にした御伽話に出てきた名前が、ぼんやりと脳裏をよぎった。そんな意味のない思考に僅かに気を取られていたその時、ふいに視界からえれあーどの姿が消えた。 「姿を変えたぞッ!気をつけろッ!」 ましろ殿がそう叫ぶより一瞬早く、目にも止まらぬ短剣の連撃が身体中を切り裂いた。目の前に短剣を振るうあれんでぃる殿がいる。いや、あれんでぃる殿は某の横で盾を構えていたはず。抜かった、いつの間にこんな間合いまで近づかれたのか。《千変》のえれあーど、その二つ名は伊達ではないということか。 その目は某達を順番に見て、最後にねふぃりむ殿を見定める。見ると味方の防御のために今の攻撃を避け損ねたせいでかなりの深手を負った様子。今某らの中で最も手傷を受けているのは彼女だろう。そして、弱った敵から狙うのは集団戦の基本だ。えれあーどが体の向きを変え、ねふぃりむ殿に向けて一歩踏み出す。まずい。追撃が来る。 庇わなければと思った。今飛び出せば、際どいが二人の間に体を差し込むことはなんとか可能だろう。某は足を踏み出した。否、踏み出そうとした。しかし、足は動かなかった。何だ?新たな敵の術か? 違う。某の足は震えていた。某とて既にかなりの痛手を負っている。碌な防御もせずあの刃の前に身を差し出せば、ただで済むとは思えない。某は死ぬのが怖かった。一度死んだ身で、この期に及んで、また何も成せずに命を落とすのが堪らなく怖い。今度はもう生き返ることはないかもしれぬのだ。いや、あのような奇跡、二度とは起きぬだろう。前に死んだ時は、怖いなどとは思わなかった。あの暴れ牛はそのような暇すら与えてくれなかった。前の世で戦に向かう時も、戦場で死ぬのが武士の誉と信じ、恐怖はあれど立ち向かうことができた。しかし今、全身の傷の痛みに耐え、こうして立っているのもやっとの状況で、某の体は死を恐れていた。 躊躇いのうちに敵はねふぃりむ殿を間合いに捉え、短剣が胸へと突き立てられる。もはや間に合わぬ。刃がその身に突き立つ刹那の間、ねふぃりむ殿の目が某を捉えた。唇が僅かに動く。声は聞こえなかった。しかし、その真意は某の心に確かに伝わった。伝わってしまった。"後を頼みます"、と。その時初めて、某は己の弱さを悔いた。 短剣がその身に沈み込む。えれあーどの表情に、どこか満足したような笑みが浮かぶ。ねふぃりむ殿の手足から力が抜けていくのが見えた。 瞬間、大量の瓦礫の濁流がついにえれあーどを捉え、その場から跡形もなく吹き飛ばした。 ◇◆◇◆ 「だ、大丈夫です。なんとか……」 ねふぃりむ殿がゆっくりと体を起こしながら言う。持っていたぽーしょんとねふぃりむ殿自身の治癒の魔法で傷は癒えたように見えるが、あれは放置すれば十二分に致命傷たり得た一撃だった。傷口が塞がったとて油断はできないだろう。ぎるどますたーの危機に身を挺して庇うことができなかった気まずさから、某は思わず視線を逸らした。 「ネフィリム!ネフィリム!生きててよかった……っ!あと2ミリ左にずれてたら死んでたんだぞっ!」 「ましろくんの言う通りだよ。本当に危ないところだった……」 「おい。そんなことより、あいつの話じゃそろそろ王都襲撃が始まるんじゃないのか?」 「ら、ランディーネさんいま"そんなこと"って言いました……?あれすごく痛かったんですけど……」 らんでぃーね殿が指差した先には先ほど目にした貴族が下着姿で所在なさげに体を縮こまらせている。えれあーどが化けていた貴族だ。先ほどはやけに格式張った礼を言われたが、当然というべきか女口調ではなかった。 「襲撃に間に合わなかったらあのケチ女が何言い出すか分かんねぇぞ?報酬がちゃんと出るかすら怪しいもんだ。この間抜け貴族も命の恩人に渡す金がないとかほざきやがるしよぉ」 「たしかに、報酬の大幅な減額くらいは十分にあり得るだろうね」 らんでぃーね殿のわざとらしい大声に貴族殿がいっそう身を小さくする。敵の捕虜となっていた人物にすぐさまたかるとは、流石はらんでぃーね殿というべきか。全く以って容赦がない。しかし金の話は冒険者にとって一大事である。こちらとて金のために命を張っているのだ。報酬が支払われないかもしれぬとなれば死活問題だ。 そんな時、倉庫の外からこちらに走ってくる無数の足音が聞こえた。敵の増援かと身構える某らの前に、扉を開いて現れたのは当の依頼者本人であった。 「……なんだ。通報を受けて来てみれば、あなたたちだったのか」 「レティシアさん!」 数人の騎士を従えて現れたその人物こそ、ぐらんへるでん王国の王女であり王立騎士団副団長のれてぃしあ殿である。王族でありながら鎧を着込んだその姿は見事に様になっている。 「それで、あぁー……そちらのその、裸の御仁は……貴族家のドナーク殿で合ってるかな?いったい何があったんだ?」 某らがここを訪れた経緯と敵の情報を手短に明かすと、れてぃしあ殿は表情を固くした。それから、えれあーどによって囚われていた貴族の男、どなーく殿も敵の話していた内容をかいつまんで話してくれた。それによると、霧の魔獣はこの港から程近い小島にいるとのことだ。話を聞いている途中、れてぃしあ殿はちらちらとどなーく殿の胸あたりに視線をやっていた。たしかれてぃしあ殿はまだ十八だったか……年若い女子としては、男性の裸はどうしても気になるのだろう。ちゃんと話は頭に入っているだろうか?やや心配だ。 「やはり本命の襲撃は今夜中だろうな……もう一刻の猶予もない。私はすぐに王都の防衛準備を整えなければならん。あなたたちは依頼通り霧の魔獣の討伐に向かってくれ。奴を倒せば、この忌々しい霧も晴れるはずだ」 それだけ言うと、れてぃしあ殿は騎士たちを連れて大急ぎで引き上げていった。遠ざかっていく背中にらんでぃーね殿が声をかける。 「もしそっちの襲撃に間に合わなかったらどうすんだよ!」 「その時は報酬は半額だ!それが嫌ならなんとかしろ!」 らんでぃーね殿が舌打ちをする。相手は仮にも王族なのだが、聞かれていたらどうするのだろうか。そして、もし間に合わなくても半額は支払うという辺り、さすがは上に立つ人間、人の扱い方が上手いなと感心する。 「私たちも急ぎましょう!」 「しかし、行き先は小島か……どうやって向かう?」 「おーいっ!こっちに舟があったぞー!」 あれんでぃる殿の問いに、ましろ殿が船着場から手を振って答える。そういえば先ほどから姿を見ていなかった。急いで合流すると、そこには…… 「おい嘘だろ……これに乗るのか……?」 「頼りないが……時間もないし仕方ないだろう。それに、舟は小さい方が敵の注意を引かなくて済む」 もやい綱で船着場に繋がれているのは、四人乗るのがやっとの小さな手漕ぎ舟だ。これから霧の海に出て敵の本拠地へと向かうことを考えると、目の前で波に揺られている小舟はあまりにも小さく見える。驚くべきことに、真っ先に進み出たのはねふぃりむ殿だった。乗り込んだ際の衝撃で舟が揺れて転びそうになりながらも、振り返ってこちらに手を伸ばす。 「行きましょう!霧の魔獣を倒しに!」 某は思った。もしかしたらこの幼子のような少女は、某が思っていたよりもずっと強いのかもしれないと。自らが命の危機に晒されている時でさえ、仲間のことを考えていたほどだ。今もこうしてぎるどの将として、先陣を切って仲間を鼓舞している。だが、そんな彼女も戦場では敵の一撃で命を落とすかもしれない。鎧を着込み鍛錬を重ねている某とは違うのだ。もし先の戦闘のように敵の剣がその華奢な身体に届けば、彼女の命など今度こそ容易く奪われてしまうに違いない。では、誰が彼女を守る?誰が代わりに敵の剣を受ける? 無論、某しかいない。 彼女の手を取る代わりに刀の鞘を握り締め、某は舟に飛び乗った。手を伸ばしていたねふぃりむ殿は体勢を崩して尻餅をつく。ましろ殿、あれんでぃる殿と続き、最後にらんでぃーね殿が舟に乗り込んだ。分かってはいたが、小さな小舟に五人はかなり窮屈だ。しかし、共にいてくれる仲間の存在が、今は何よりも頼もしい。 「おいッ!ランディーネ!おまえは飛べばいいだろッ!」 「は?やだよ疲れるし。ましろがこの舟選んだんだからこのくらい我慢しろって」 「せーまーいーッ!翼が邪魔なんだッ!もっと詰めろって!」 「うるせぇ!お望みなら羽ばたいてやるよほら!ほら満足かよ!」 「ちょ、ちょっと暴れないでください!舟が揺れ、ひぃいいっ!」 もし次があるのなら、その時は必ずや彼女を守ろう。死に直面し怖気付こうとも、この勇敢な少女の瞳を思い出して、身を投げ出してでも守り抜いてみせる。ご先祖様が某をこの世界に送って下さった意味を、最後まで信じ抜くために。 なおその後、案の定舟は転覆した。 ◇◆◇◆ 「あの……霧の魔獣は蛇だって聞いてたんですけど……」 「見れば分かるだろ。蛇だよ」 「あれは蛇なんて可愛らしいものじゃないですよ!とんでもない大きさじゃないですか!聞いてないです!」 「でかくても蛇は蛇だろ」 小島に上陸した某らの前に現れたのは、神話の怪物を思わせる巨大な身体をのたくらせた大蛇だった。突然の侵入者を睨みつけ、霧を纏う大蛇が大口を開けて威嚇する。みすとさーぺんと、霧を操る魔獣。加えて、付近には水の精霊が四体も控えている。昼間の襲撃でも戦った相手だが、周囲に水場を発生させる上に刃も碌に通らない、一体でも相当な苦戦を強いられる難敵だ。それが四体…… 「撃ってくる!構えて!」 大蛇がその首をもたげ、こちらに向けて大きく口を開く。直後、凄まじい濁流が某らを襲った。なすすべなく押し流され、木や地面に何度も体を打ち付ける。まさしく洪水であった。濁流が過ぎ去った後には、無惨にへし折れ倒れた木々だけが残される。まるで鉄砲水にでも遭ったようだった。 自らが生み出した惨状を見て満足げに首を揺らす大蛇。しかし、突如霧を裂くように飛んできた矢がその尻尾を射抜き磔にした。思わぬ痛みに奴が呻くような鳴き声を上げる。特殊な金属を纏わせた鏃は、霧に同化する能力を持った大蛇の鱗をも貫く。この金属を手に入れるために、かなり苦労したのだ。 荒れ果てた戦場に歌声が響く。聞く者の魂を揺るがし、その在り方を否応なく変えるような、そんな力を持った歌。こんな歌を歌える人間は、某の知る限り一人しかいない。ぎるどますたーの無事に安堵しつつ、某も刀を抜く。 大蛇へと駆け出した某に反応してか、辺りに漂っていた水の精霊たちが動き出し、一体が某に向けて極度に圧縮された水を噴き出してきた。地面を抉り、倒木の樹皮を吹き飛ばすその水圧は、生身で受けたらひとたまりもない。それでも体は怯むことなく大蛇へと突っ込んでいく。彼女の歌が某の背中を押してくれる。水弾が鎧に当たり、骨が砕ける音がする。激痛に歯を食い縛り、体勢が大きく崩れる。それでも足は止まらない。目の前で構えている大蛇に向かって一直線に走る。 地面からそのまま抉り出したかのような木と岩の塊が猛烈な速度で飛来し大蛇を打ちのめす様が見える。隕石の如く降り注ぐ岩塊は質量という名の暴力で奴の肉を抉る。苦しみのたうつ大蛇に肉薄し、某は下段に刀を構えた。 ——馬阿砂握《バーサーク》—— 全身に力を漲らせる。大蛇の目が某を見た。聡い獣は刀の一撃を避けようと体を動かすが、矢によって地面に射止められた尾が回避の邪魔をする。ならば敵を迎え討たんと下がる鎌首に狙いを定め、鈍色に光る刀身を振るう。 ——抜手《バッシュ》—— 銀を塗した刃が奴の胴を斜に裂いた。傷口から鮮血が噴き出る。浅い。手ごたえで分かった。すんでで身を引かれ、その首を両断するには至らなかった。奴が次の一撃を放ったら、某にそれを凌ぎきる体力は残されていない。おそらく他の面々もそれは同じだろう。もはやここまでか…… そんな諦観が脳裏をよぎった瞬間、大蛇の身体に一つの影が落ちた。空を見上げた某は、長剣を構えた剣士が軽やかに宙を舞うのを見た。まるで重力というものを忘れたかのように、その身体は高く高く跳び、持ち上げられた大蛇の首へと漸近する。勇ましく抜き放たれた剣が閃く。 「——ボルテクスアタック」 稲妻の如き剣閃が走り、どさりと音を立てて大蛇の首が地へと落ちた。首を失い力の抜けた巨体が地面に倒れ伏す。まさに一瞬の決着であった。 大蛇の絶命に呼応し、辺りの霧が晴れていく。もはや勝敗は決したと見たか、水の精たちは何処かへと引き上げていき、後には壮絶な戦いの後の静けさだけが残された。あれんでぃる殿が刀身の血を払う。その姿は、御伽話に出てくる化け物退治の英雄さながらであった。某も刀を拭い鞘に納めた。水弾に撃たれたあばらが疼くように痛む。 「いってぇ……あの野郎、蛇のくせに洪水起こすとか反則だろ……ウミヘビかよ」 「う、ウミヘビってなんだ……?くったことないけどうまいのかそれ……?」 「みなさん大丈夫ですか!?今ヒールしますから!」 慌ただしい声が戦場跡に響く。やはり彼らは頼もしい。いつだって某の予想を超えてくるのだから。あれんでぃる殿がこちらを振り返る。先の一撃、見事であった。目でそう語り掛けたが、伝わったかどうかは定かではない。某もまだ、強くならなければ。彼らを……仲間たちを、ねふぃりむ殿を守れるように。 見上げれば霧の晴れた夜空を飾るように、無数の星々が輝いていた。某の生き様を、ご先祖様もご覧になっているだろうか。ならば、これからも見守って下され。某が強くなる様を。強大な敵を討ち倒す様を。仲間たちとの冒険を。いつか傷付き倒れるその時まで、某は武士として生きてみせましょうぞ…… 某の誓いに応えるように、一筋の流星が夜空を走った。 to be continued…… 第参話 擬流魔の洞穴 うららかな陽が差す晴れた日の昼下がり。遠くで鳴いている虫の声を聞きながら、一心に腕を振るう。縁側で無銘丸が退屈そうにあくびをしている。穏やかに流れゆく午後の時間…… 「だから!違うって全然!なんでそうなんだよおかしいだろ!」 目の前でらんでぃーね殿が何やら叫んでいるが、その声すらも今の某には吹き抜けるそよ風のごとく爽やかに聴こえる。こうして無心で鍛錬をしていると、自分がこの世界と一体となっていくように感じて、とても心が落ち着く。 「あぁもう見てらんねぇって!アタシがやった方が早いだろこれ!ちゃんと魔法のイメージしてるか?グリモアの序文に書いてある基礎中の基礎だぞ!?」 らんでぃーね殿が某の鍛錬を見てもどかしそうに身悶えている。鍛え上げられた筋肉がそれほどまでに芸術的なのだろうか。某も罪な身体を持ったものだ…… 「うはははははは!!!!勝ちました!勝ちましたよ!大勝ちです!!!今夜はごちそうにし……」 ぱたぱたと足音を立てて庭に出てきたねふぃりむ殿が、某らを目にして凍りついたように足を止めた。それを見てらんでぃーね殿が声をかける。 「あ?ネフィリムお前、また賭——」 「わぁあああああ!!?ららランディーネさん権左衛門さん!!いるならいるって言ってくださいよ!びっくりするじゃないですか!」 「いや、こいつが鍛錬を見てほしいって言うから見てやってたんだよ。拙者も魔法を使ってみたいでござる〜とか抜かすから……今んとこまったく話になんねぇけどな」 らんでぃーね殿が心底疲れた表情でため息をつく。ねふぃりむ殿はそれをみて苦笑していた。 ここは某らがぎるど"こーしかの弓"のぎるどはうすである。先日の砦奪還や霧の魔獣討伐の功績が認められたことで、王都を救った英雄として郊外の屋敷を特別に下賜されたのだ。屋敷といっても築三十年は経つであろう古い建物で、長い間放置されていたために初めて来た時は廃墟一歩手前といった趣であったが、王都に拠点を持てるというのは有難いことだ。中を掃除して共有の倉庫としたり、こうして庭を稽古場として利用したりしている。 今日はらんでぃーね殿に、某の新たな剣技習得のための鍛錬に付き合ってもらっている。某としては鍛錬の方法について何らか意見が欲しいと思っただけなのだが、らんでぃーね殿は某の一挙一動に頭を抱え、腕を振り回し、声を張り上げて指導してくれている。案外面倒見の良い気質なのやもしれない。 「いいか?魔法ってのは繊細なんだよ。力任せじゃダメなの。筋肉バカには分かんないかもしんないけど、一朝一夕で撃てるようになるもんじゃないんだよ」 しかし、やはり魔法というのはどうも某の性に合わぬのかどうにも要領が掴めず、休憩しつつかれこれ二時間ほども腕を振り続けている。そろそろ腕の筋肉が限界だ。敵に魔法で攻撃できる者がらんでぃーね殿以外にもいれば、戦術の幅が広がると思うのだが……焦らず日々鍛錬を続けていくしかないだろう。 某とらんでぃーね殿が屋敷に戻ると、いつから来ていたのか、あれんでぃる殿が書物の山に埋もれていた。彼にあてがわれた一室は早々に大量の本で埋まり、今やそれらは居間にまで侵食を始めている。なんでも冒険者を始めてから妖魔や魔獣に関して調べる機会が増え、依頼の報酬も関連書籍の購入に消えているらしい。専門外のことに対しても好奇心のままに研究に没頭する彼の性格は、根っからの学者向きと言える。最近は生物学の常識を覆す新発見をしたとかで、学会を騒がせているとか……もはや何が専門なのか分からない。 某が足下に転がっている本の一冊を拾い上げ、読めない文字を眺めつつぱらぱらと捲っていると、ねふぃりむ殿が茶器と皿を持って居間に入ってくる。 「みなさん、お茶を淹れましたよ!お茶受けにクッキーも焼いてみたんです!ささっ、アレンディルさんもどうぞ!」 「あぁ、すまないね。この香りは……何かのハーブかな?」 「はい!自家製のマジックハーブをほんのちょっと入れてみたんです!疲れに効きますよ!」 「え、それ大丈夫なのかよ?なんつうか、法的に……?」 「あはは。これは大丈夫なやつですよ。今のところは……たぶん……」 何やら言葉を濁している気がしないでもないねふぃりむ殿を横目に、茶器を持ち上げて透き通った飴色の液体を口に運ぶ。元いた世界で飲んでいた茶とは何もかもが違うが、何か芳醇な香りを感じられて、これはこれで良い。焼き菓子を口にしてみると、これまた爽やかな香草の芳香が癖になる味わいだ。大層美味いと伝えると、ねふぃりむ殿は胸を張って誇らしげな様子を見せた。 「それにしても、平和だねぇ……」 「最近はギルドハウス関連でなにかと立て込んでて、しばらく依頼も受けてなかったですからね」 「アタシも久しくアースバレット撃ってないな……いいかげん景気良くぶっ放したいもんだよなぁ……」 らんでぃーね殿のぼやきに、某は内心で同意した。日頃の鍛錬はもちろん重要だが、実戦でしか得られない経験や教訓もある。冒険者を始めるまでは、実戦を通じて成長するなどという視点はなかった。戦場は両軍の明暗を分ける重要な場であり、武士にとっては人生の集大成を披露すべき、一生に数度しかない死に場所であったからだ。この世界へとやってきてからの激動の日々で、某の価値観も日々大きく変わっているのだ。 「荷馬車の護衛依頼なんてどうかな?お金を稼ぎながら遠出もできる。個人的に、前々から異国の料理には興味があってね」 「えー、それじゃ雑魚しか殺れないだろ?護衛対象がいるんじゃ全力で撃ちまくれないし物足りねぇよぉ」 「国境を越えるとなると色々と準備がいりますし、やっぱりなかなかすぐにというわけには——」 「——おまえらッ!きけッ!!!」 ばんと勢いよく扉を開いて、ましろ殿が入ってきた。声に反応して、縁側で寝ていた無銘丸がぴんと耳を立てる。ましろ殿はずかずかとこちらに歩み寄ると、何やら文字や絵が書かれた小さな紙を五枚、机に広げた。 「さっき屋台でフクビキ?とかいうのをやってトクトウ?が当たったんだッ!3泊4日の港町ツアーだ!」 机に置かれた紙をまじまじと見る。それには色鮮やかな染料で、新鮮そうな海の幸の料理や海豚のような生き物の絵が描かれていた。それらの上に、目的地の地名と思しき文字が大きく踊っている。この文字の並びは……以前に依頼書で見たことがある。たしかこの港町の名は…… 「行くぞッ!海と風の街、トワド!!!」 ◇◆◇◆ 「なんでこんなことに……ぜったい変だ……」 足下の水をじゃぶじゃぶとわざとらしく波立たせながら、ましろ殿がぼやく。 「くそ……ほんとだったら今ごろは魚の食い放題にいたはずなのに……」 「仕方ないですよ。この洞窟に住み着いたギルマンに船を荒らされて、まともに魚が獲れないんですから……」 「アタシには好都合だな。これで思う存分ぶっ放せるぜ」 「頼むから、洞窟の天井ごと吹き飛ばすのは勘弁してくれよ……」 某らはぎるまんなる魚人の棲家を壊滅させろとの依頼を受け、港町近くの洞窟へとやって来ていた。洞窟は半ば水没しており、奥へ進むほどに水位は上がると予想される。休暇気分で海に来てみたら、全身濡れ鼠で洞窟探検をしているのである。約一名を除いて、いささか気落ちしている様子だ。それでも依頼の達成のために、重い足を引きずって前に進む。 洞窟の奥へとしばらく進んだ所で、某ら一行は足を止めた。 「崖だな」 「崖ですね」 どうやら地下峡谷のような場所に出たらしい。数歩先の地面は途切れ、遥か下に川のように水が流れているのが見える。向こう岸にも通路のようになった道が続いている様子だが、進むには崖を飛び越える必要がありそうだ。 「ちょっと待ってな」 ましろ殿から縄を受け取ったらんでぃーね殿が翼をはためかせて向こう岸へと渡り、谷を横切るようにロープを張る。続いて某が助走を付けて崖を跳び越え、その後にあれんでぃる殿、ましろ殿と続く。残るはねふぃりむ殿一人となった。 「あ、あの……ごめんなさい、これ私無理な気が……」 「ネフィリムくん!届かなそうだったらロープを掴めば大丈夫だぞ!」 「それ、すごく難しいこと言ってるって自覚あります……?」 ねふぃりむ殿は不安そうな顔で足下と某らの方を交互に見ていたが、やがて意を決した表情で後ずさり、思い切り助走を付けて跳んだ。そして、そのまま落ちていった。 「んにゃあああああああああ!?!?」 「ね、ネフィリムーーーッ!!!!!」 慌てて崖下を覗き込むと、ぼちゃんと水しぶきが上がるのが見えた。ややあって、ずぶ濡れのねふぃりむ殿が水面に顔を出す。よかった。なんとか無事だったようだ。しかし、同時に川の上流から、大きな魚影が三つ泳いでくるのが見えた。それらはねふぃりむ殿から一定の距離を空けて水面に姿を現した。魚だ。人間大の魚に腕が生えたような外見。さらにその手には簡単な造りの弩のようなものを持っている。彼らは一斉に矢をつがえると、ねふぃりむ殿に向けて射掛け出した。あれがぎるまん……なんというか、思っていたより知能が高そうだ…… 「ひぃぃいいいいいい!?!?」 「ね、ネフィリムーーーッ!!!!!」 しまった、こうしてはいられない。ましろ殿とらんでぃーね殿を高所に残し、某は意を決して谷の底へと飛び込む。姿勢が悪かったか、水面に身体を打ちつけてすこぶる痛かったが、なんとかねふぃりむ殿の前に割って入った。背中に向けられる視線が『もっと早く来いよ』と言っているように感じられるが、間違いなく気のせいだろう。某は刀を抜き放ち、眼前の敵を見据えた。さぁ来るがいい、魚人の輩よ!! なおその時には、哀れな魚人たちは上方から降り注ぐ矢の雨と岩塊に蹂躙され戦意喪失していた。 ◇◆◇◆ 「うぅっ……ひどいです……あんまりです……」 ずぶ濡れの髪を額に貼り付けたねふぃりむ殿が、体を震わせながらぼやく。全身びしょ濡れで体を小さくしている様は雨の日の小型犬のようだと思ったが、口には出さないでおいた。 「こんな目に遭うなんて聞いてないです……私が何をしたっていうんですか……」 「おおかた昨日の賭場で運を使い果たしたんじゃね?」 「や、やめてくださいよ縁起でもない……っていうか言わないでくださいよそれ、隠してたんですから……」 「なんで?」 「いやその、神の奇跡を行使する人間として、ギャンブルはちょっと……」 「酒場で歌って金稼ぐのは?」 「あれはいいんですよ、祈りは込めてないので」 「賭場では祈ったんだな……」 歩みを進める某らの前に、巨大な地底湖が姿を現す。洞窟の天井から漏れた日光が差し込み、幻想的な雰囲気だ。どうやらここがこの洞窟の最深部のようで、侵入者を迎え討たんと、魚影が五つほど向かってくるのが見える。いざ決着、か。 素早く散開したこちらに向けて、隊列の後方にいる二体が魔法で作った水の槍を投擲してくる。どうやら隊列の中央にいる帽子を被った魚人が指揮をしているようだ。ましろ殿が矢を射掛けるが、隣に控えていた屈強な魚人が帽子の魚人を庇う。やはりあれが敵の首魁で間違いないな。 次の瞬間、力任せに水を掻いて泳ぐ某の目の前で、屈強な魚人が吹き飛んだ。らんでぃーね殿が飛ばした巨大な岩が直撃したのだ。あれはもはや投石などという生易しい攻撃ではない。もっと凶悪な何かだろう。 敵の隊列の先陣を切っていた槍持ちの魚人を躱し、刀で屈強な魚人の喉を切り裂く。なんとなく、魚を捌いている気分だ。そう思うと腹が減ってきた。港町に行くと決まった時から、久しぶりに焼き魚が食べたいと思っていたのだ。 迎え討つように襲いかかってきた帽子の魚人と斬り合いながら、某は想像する。目の前の魚はとんでもない大物である。これはかなり食いでがありそうだ。おまけに脂も乗っている。焼いて食ったらさぞかし美味かろう…… そんなことを考えていると、ふいに水面に巨大な影が映った。反射的に見上げると、洞窟の天井が落ちて来たのかと錯覚するほどのとてつもなく巨大な岩の塊が、某と帽子の魚人に向かって落下して来ようという所だった。あ、これ某も死ぬのでは?迫ってくる絶対的な死を前に、あの筋骨隆々の暴れ牛の姿が脳裏をよぎる。願わくばもう少しだけ、この世界で生きてみたかった…… 「リゼントメント!!!!」 岩塊が某の目と鼻の先に落下し、途轍もない高さの津波が某を飲み込む。荒れ狂う水流に翻弄され、上下すら分からない。だが、どうやら某はまだ生きているらしい。もがきながらなんとか水面に顔を出すと、帽子の魚人が瀕死の状態でふらふらと逃げようとしているではないか。逃がすものかと刀を握る手に力を込める。なんとしてもお前を倒して、最高に美味い焼き魚を食うのだ! ——紅藍素素絡手《グランススラッシュ》—— 紅蓮の炎を纏った刃が目の前の魚人の鱗を綺麗に削ぎ、肉を切り裂いた。そうか、これが魔法のいめーじ……!ついに会得した手ごたえに、某は会心の思いで一人頷くのだった。 ◇◆◇◆ 「うんまっ!うめぇぞこれっ!」 「ましろさん、食べものを口に入れて喋らない!美味しいのは分かりましたから!」 「しかし、本当によかったのかな……新鮮な魚料理をこんなにご馳走様してくれるなんて」 「あのギルマンどもを追っ払ったおかげで大漁だそうだし、このくらい貰ってもいいだろ。いやマジでうめぇなこれ」 洞窟の魚人たちを追い払ってから数日後、某らは港の漁師たちからの礼として、新鮮な魚をふんだんに使った港町料理を振舞われることになった。純日本人である某としては、このシンプルな焼き魚と貝の味噌汁こそがまさしく至高の料理だと改めて確信せざるを得ない。食材が新鮮であるというだけで、これほどまでに美味いとは……釣りを始めてみたくなってきた。 「あの、権左衛門さん」 隣に座っていたねふぃりむ殿が伏目がちな様子で話しかけてきた。その手には、海豚を模した飾りに紐を通した装飾品が握られている。先ほど土産物屋を物色していた際、ねふぃりむ殿に似合いそうだと思い、旅の思い出として買ってきたものだ。何に使えるという訳でもないが、だからこそ記念品としてはちょうど良いだろう。 「これ、本当にありがとうございます。大事にしますね」 ねふぃりむ殿が微笑む。その笑顔を見るたび、某は思うのだ。ご先祖様が某をこの世界に送ってくださった意味は確かにここにあったと。これから先もこの笑顔を守っていくために、某はここにいるのだ。それで良いのだと。 いまや、某は戦場で死なんとする武士ではない。仲間と共に生き抜かんとする一人の冒険者だ。だからきっと、某はこれからもここにいるだろう。彼らと共に。これからも沢山の冒険をして、死線を潜って強くなり、数多の宝を得て、そうやってこの世界で生きていく。 某は七篠権左衛門、戦乱の世を生きたもののふが一人。この異世界の地で生きる侍なり。 某は侍なれど異世界に輪廻転生した故、ぎるどを組んで冒険してみたで候ふ 〜苦労人幼女と行くアリアンロッド〜 —完— 斬牛 刀 レベル1 重量7 命中修正-1 攻撃力CL+6 行動修正+-0 射程至近 装備部位片 - パッシブ。装備者が使用するHP回復アイテム/スキル/パワーの効果に+3 - 牛車卸し マイナーアクション。装備者が行う攻撃の対象を範囲(選択)に変更する。この効果はメインプロセス終了まで持続する(シーン1) - 落武者魂 戦闘不能直後。HP1で復活する。未行動だった場合、未行動のままで復活する(シナリオ1) - 回避判定がファンブルした場合、装備者はダメージ軽減の効果を受けられなくなる。この効果はメインプロセス終了まで持続する - パッシブ。あなたが行うリアクションに-1D。またリアクションを放棄できない - パッシブ。全てのスキルコストに+2 - パッシブ。プリプレイから今までずっとこの武器を装備していなかった場合、クリンナッププロセスにこの武器以外の装備者の装備は全て破壊され、装備者はMP0になるMPロスを受けて更に戦闘不能になる。この効果はあなたの状態にかかわらず、この武器を装備している限りシナリオ終了まで持続する。 ネフィリムから借金500G