タイトル:ARCANA HO1 キャラクター名:Prima・Stella(プリマ・ステラ) 職業:アルカナ隊員 年齢:15歳 / 性別:男 出身:イタリア 髪の色: / 瞳の色: / 肌の色: 身長:171cm 体重: ■能力値■ HP:16 MP:14 SAN:70/80      STR  CON  POW  DEX  APP  SIZ  INT  EDU  HP  MP 作成時  13  18  14  16  14  13  11   9  16  14 成長等 他修正 =合計=  13  18  14  16  14  13  11   9  16  14 ■技能■ ------------------------ 戦闘系技能 ------------------------ 習得/名前       現在値 習得/名前    現在値 習得/名前      現在値 ●《回避》      80%   《キック》  25%   《組み付き》   25% ●《こぶし(パンチ)》62%   《頭突き》  10%   《投擲》     25%  《マーシャルアーツ》1%   ●《拳銃》   50%  ●《サブマシンガン》50% ●《ショットガン》  50%  ●《マシンガン》90%  ●《ライフル》   50% ------------------------ 探索系技能 ------------------------ 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値 習得/名前   現在値 ●《応急手当》50%   《鍵開け》 1%    《隠す》  15%  《隠れる》 10%  ●《聞き耳》 70%   《忍び歩き》10%  《写真術》 10%   《精神分析》1%    《追跡》  10%  《登攀》  40%   《図書館》 25%  ●《目星》  70% ------------------------ 行動系技能 ------------------------ 習得/名前    現在値 習得/名前   現在値 習得/名前    現在値  《運転》   20%   《機械修理》20%   《重機械操作》1%  《乗馬》   5%    《水泳》  25%   《製作()》  5%  《操縦()》  1%    《跳躍》  25%   《電気修理》 10%  《ナビゲート》10%   《変装》  1%    《》     % ------------------------ 交渉系技能 ------------------------ 習得/名前    現在値 習得/名前   現在値 習得/名前 現在値  《言いくるめ》5%   ●《信用》  25%   《説得》15%  《値切り》  5%    《母国語()》45%   《》  % ------------------------ 知識系技能 ------------------------ 習得/名前      現在値 習得/名前      現在値 習得/名前  現在値  《医学》     5%   ●《オカルト》   75%  ●《化学》 11% ●《クトゥルフ神話》19%   《芸術()》    5%    《経理》 10%  《考古学》    1%    《コンピューター》1%   ●《心理学》80%  《人類学》    1%   ●《生物学》    11%   《地質学》1%  《電子工学》   1%    《天文学》    1%    《博物学》10%  《物理学》    1%    《法律》     5%    《薬学》 1% ●《歴史》     25%   《》       %    《》   % ■戦闘■ ダメージボーナス:1d4 名称 成功率 ダメージ 射程  攻撃回数 装弾数 耐久力 / 備考                              /                              / ■所持品■ 名称        単価 個数 価格 備考 スマートデバイス     1   0 マシンガン        1   0 ハンカチ         1   0 ティッシュ        1   0 簡易応急手当キット    1   0   効果としてはなくてもいいです ドッグタグ        1   0 星のネックレス      1   0   父からもらったもの 他2つは自室 =所持品合計=     0 所持金 預金・借金 ■その他■ メモ: ◆基本情報 コードネーム:Prima・Stella(プリマ・ステラ) 年齢:15歳 身長:171cm 一人称:ボク 二人称:キミ、名前+さん 三人称:みんな 誕生日:12月9日 誕生花:ポインセチア「祝福」「幸運を祈る」「私の心は燃えている」「清純」 好きな物:アルカナメンバー、美しい景色、食事、会話、ティーパーティ、童話や星空など物語的な美しさを感じさせるもの 苦手なもの:火、夏、争い、料理 ╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴╴ アルカナの隊員。コードネームはPrima・Stella(プリマ・ステラ)。イタリア語で「一番星」という意味。 自分のことを「正義のヒーロー」と称しており、童話の王子様のような立ち振る舞いをする。属性的にはヒーロー、プリンス、騎士。 どんな時でも笑顔を絶やすことなく普段から誰に対しても穏やかで優雅、微笑みを絶やさず、仲間に寄り添い続ける存在。 喋り方が独特で語尾や言葉の節々がカタカナ。大体☆もつく。「〜だヨ☆」「〜だからネ⋯☆」など。星がない時もあります。 まるで舞台の上に立つ王子のように、芝居がかったようなセリフや比喩を交える。星・光にまつわる言葉や比喩が多い。 「星のようにキミヲ導こう⋯☆」 「サァ、行こう! 星々の祝福を胸に、ボクたちの道を切り拓こうじゃないカ⋯☆」 ⚠️以下ARCANA HO1秘匿バレ⚠️ 本名:Miriel・Elirena(ミリエル・エリレナ) ・Miriel  → Mir(奇跡、祈り)+ -iel  →「祈りの奇跡」「小さな祝福」 ・Elirena  → Elio(太陽)+ Serena(穏やか)  → 「穏やかな太陽」。だがミリエルにとって太陽=灼熱、破壊の象徴。穏やかとは程遠い。 ◆家族の名前 母の名前:Alice(アリーチェ) 真実、優しい、親切な、慈悲深い、現実性 父の名前:Gabriele(ガブリエーレ)神は私に素晴らしい力を与えた 妹の名前:Noelis(ノエリス)「noël(聖なる・祝福)」+「lis(百合)」 祝福されし純白の花。燃える家の中で、その花は黒く焼かれた。 妹のぬいぐるみの名前:Neve(ネーヴェ)雪 ◆参考職業技能 看護師【化学、生物学、応急手当、言いくるめ or 説得、薬学、心理学、聞き耳、目星】 ◆クトゥルフ初期値1d10→9 ◆経歴 イタリアの片田舎、小さな丘の上石造りの家に母、父、自分、妹の4人暮らし。 オレンジ色の屋根、白壁の外壁、バルコニーには母の好きな花、ピンクのゼラニウムが並べられ、風にゆれるたび、かすかに甘い香りが漂っていた。 リビングには古いけれど音色の美しいピアノがあり、母はよく夜になると短い曲を奏でた。 父、ガブリエーレは大工職人。不器用ながらもみんなを真剣に愛している。母がニコニコしながら何度も言ってきたことだ。 日中は町の人たちの頼み事を黙々と片付け、夕方になると「今日の学校はどうだった?」とボクたちの頭を優しく撫でてくれる。今が住んでいる家も、自分たちが生まれるよりも前に父が建てたものだ。 母、アリーチェはピアニスト。とても優しくて、お花や料理が好き。ティーパーティをするのも好きで、美味しい紅茶やお菓子をよく出してくれる。季節の行事が好きで、春になったらみんなをピクニックに連れていってくれる。 妹、ノエリスはボクより3歳下の元気な子で、好奇心旺盛。けれど、体が少し弱いためあまり外に出ることはなく、家の中で遊ぶことが多かった。ボクが読んでいる絵本を覗き込んだり、星を指差しては「きれーい!」と笑っていた。 夜、母はいつも寝る前に絵本を読んでくれた。 特にお気に入りだったのは、「一番星の王子さま」という童話。 「どんな夜も、暗闇に負けず、一番最初に光る星が、みんなを導いてくれるんだよ」 その言葉を、母の声を、ボクは何度も何度も聞いて育った。 リビングの中央には母のピアノ、父が手作りした棚、壁に飾られた家族の写真。 2階にある子供部屋は兄妹で半分ずつ。ボクの側には星や月のステッカーが壁に貼られている。 妹の側にはぬいぐるみがたくさん。特にお気に入りなのが、小さな白いうさぎのぬいぐるみ。 母が幼い頃に縫ってくれたもので、耳の先が少し曲がっているのが特徴だった。ノエリスはそのうさぎをNeve(ネーヴェ)と名付けた。意味は雪。「白くてふわふわだから!」ととても喜んでいた。 ボクが部屋で絵本を読んでいると、ノエリスはそのぬいぐるみを抱えて隣に座り、「にいちゃ、見せて!いっしょに聞くの!」と笑って膝に乗ってきた。 夜寝るときも、病気で寝込んでいるときも、そのうさぎをぎゅっと抱きしめて離さなかったし、よく「ノエリスとネーヴェと一緒に寝て!」と抱きついてきた。 台所では母が料理をし、父が笑いながら「また作りすぎだな」とからかい、「いつも沢山作っちゃうのよね⋯でも、お父さんが沢山食べてくれるじゃない!」と笑い合うのが日常。 母が読み聞かせてくれた本の影響で、星を眺めるのが大好きになって、寝る前は屋根裏部屋に出て夜空を見上げていた。母も時折隣に来て、「今日は何個見えるかな?」と数えてくれた。最終的には家族全員が肩を並べて星を眺め、「あれは⋯何座だ?」「ふふ、もう、また同じこと言ってる!」「お父さん、あれは夏の大三角だよ!」「デネブと、アルタイルと、ベガ!」と星を見るのが好きだった。 春の風が、丘をそっと撫でていく。 草の匂い。花の香り。 小鳥たちの声が青空に溶け、白い雲がゆっくりと流れていった。 「明日は晴天で、太陽がよく見えるから――」 そう提案したのは母だった。 この丘の上から見える街並みが、彼女は昔から大好きだった。 「青い空の下で食べると、同じお弁当もずっと美味しく感じるのよ」 母がそう笑うと、父は「それならオレは大きいバスケット持っていかなきゃな」と頷き、ノエリスは「ピクニック!ピクニック!」と手を叩き、ボクはそんな家族の様子を見て、自然と頬がほころんでいた。 きっと、特別な日じゃなくてもいい。 家族みんなで過ごせるだけで、それが何よりの幸せだった。 「パパ、はやくー!!!」 「ちょっと待て、ノエリス……!」 父は大きめのピクニックバスケットを抱え、笑いながら後ろからついてくる。 ピクニック帽を被り草むらの中をぴょんぴょんと跳ねる妹の背中は、小さな陽射しの精霊みたいにきらきらしていた。 「こら、ノエリス?転んだら危ないわよ?」 後ろから母が微笑み、優しく声をかける。 ボクは妹の小さな手を握り、歩幅を合わせた。 「ほら、ノエリス、ちゃんとボクと歩こうね」 「えへへっ、はーい!」 ノエリスは笑顔で頷き、でもすぐまた走り出したそうにピョコピョコ足を跳ねさせる。 「そんなに急がなくても、丘は逃げないよ」 ボクが苦笑すると、ノエリスは「でもお空が待ってるんだもん!」と誇らしげに言った。 丘の上、見つけた木陰の下にシートを広げると、ふわっと花の香りが漂ってきた。 母の作ったパニーニとパイ、お米のサラダ、父特製のフルーツジュース。 包みを開けた瞬間、ノエリスは「わあい!」と手を叩き、父に「これ食べていい!?」と身を乗り出す。 「お兄ちゃん、パニーニ半分こしようね!」 「うん、いいよ。どっちがいい?」 「ハム!ぜったいハム!」 「ふふっ、わかったよ。」 母が「食べる前に手を拭きなさい」と笑い、父が「ノエリス、ほら、ジュースはゆっくり飲まないとこぼすぞ?」と声をかける。 ボクはノエリスの口元をそっと拭きながら、つい笑みがこぼれた。この瞬間が、いつまでも続けばいいのに。 風が吹くたび、ゼラニウムの花の香りが漂い、蝶がひらひらと舞い、木々のざわめきがやさしく耳をくすぐった。 父は「この街の屋根の色は、やっぱりきれいだなぁ」とつぶやき、母は笑顔で「あなたが作った家が並んでるんだもの」と返す。 ノエリスは「おにいちゃん、あれなに?」「あれは教会だよ」「じゃあ、あれは?」「あれは市役所かな?」と、ボクに次々質問をしてきて、ボクはできる限り優しく教えてあげた。 「おにいちゃん、物知り!」「そうでもないよ?」「ノエリスはあんまりお外出られないから、おにいちゃんが先生!」「大役だなぁ」 食後、ノエリスは父に肩車をせがみ、 「たかーい!街、みえる、みえる!」と大はしゃぎ。 父は「おっとっと……!」と笑い、母はその様子をカメラに収め、ボクはそっと木陰で、風に揺れる葉を見上げた。 (……こういう時間が、ずっと続けばいいな…… ボクは、ずっとみんなのそばにいて、笑い合って、幸せで…………ずっと、ずっと……) 「お兄ちゃん、なにしてるのー!」 肩車から降りたノエリスが駆け寄り、ボクの手をぎゅっと取る。 「いっしょに遊ぼー!」 「うん、今行くよ!」 草の上を駆け、花を摘み、ノエリスの笑い声が風に乗って広がった。 「ねえ、お兄ちゃん」 花を編んでいたノエリスが、そっと耳打ちしてきた。 「パパとママに、花冠つくろっか!」 「いいね。ノエリス、どんな風に作るの?」 「うん!おにいちゃんは王子さま!ママはお姫さま!」 「じゃあ、パパは?」 「……勇者!!!」 思わず笑ってしまい、ノエリスも釣られて笑った。 「ネーヴェにも作るの!」 「きっと喜んでくれるね」 「できた……!」 ノエリスがぱっと顔を輝かせ、小さな手に編んだ花冠をそっと掲げた。 つたない指先で必死に編んだ、たくさんの小さな花たち。 ちょっと歪んでいて、ところどころ緩んでいるけれど、その姿は春そのもののように、愛らしく、まぶしかった。 「お兄ちゃん、はいっ!」 ノエリスが嬉しそうに差し出してくる。 「これ、お兄ちゃんにあげる! 王子さまだから!」 「えっ、ボクに……?」 ミリエルは一瞬驚いた顔をして、それからふっと笑った。 「ありがとう、ノエリス……とってもきれいだよ。」 しゃがんでノエリスと目線を合わせ、小さな花冠を両手で大切そうに受け取る。 そのとき、ふわっとゼラニウムの香りが鼻先をかすめ、胸の奥がきゅっと熱くなった。 (……こんなに優しく、愛されているんだ……ボク、ずっとノエリスを守らなきゃ……お父さんとお母さんを守らなきゃ……この笑顔を、絶対に……) 「お兄ちゃん、つけて!つけてみて!」 「ふふっ、わかったよ。」 ミリエルは笑いながら花冠をそっと頭に乗せると、「どうかな、似合ってる?」とおどけてポーズをとってみせた。 「わぁぁぁー! 王子さまー!!!」 ノエリスがパチパチと手を叩き、母は笑顔で拍手し、父は「立派な王子だな!」と笑った。 「じゃあ、次はママの分ね!」 ノエリスは一生懸命、もう一つの花冠を母に差し出した。 「ママはお姫さまだから、これ!」 「まあ……ありがとう、ノエリス!」 アリーチェは花冠をそっと手に取り、微笑んでノエリスの髪を撫でる。 「お姫さまにしてくれるのね。嬉しいわ……」 母は優雅に頭に花冠をのせ、くすくす笑った後、 小さなカーテシーをしてみせた。 「ふふっ、どう? 本物のお姫さまみたい?」 「ほんとだー!ママ、おひめさまだー!」 ノエリスがぱぁっと顔を輝かせる。 「じゃあ、最後はパパの番だな」 父が笑って手を広げると、ノエリスは「うん!パパは……勇者!!」と元気に宣言し、少し不器用に作った三つ目の花冠を父の手に押し込んだ。 「勇者……いいな!」 ガブリエーレは屈んでノエリスの頭をわしゃわしゃと撫で、「ありがとう、ノエリス。パパ、これからもいっぱい守ってやるぞ!」と花冠をかぶった。 そして最後に、ノエリスは自分の頭に、少しだけ特別な花冠を乗せた。 「ノエリスは、王さまなんだよ!!」 「えっ、王さま!?」 「うんっ!だって王子さまもお姫さまも勇者もいるから、ノエリスは一番えらいの!」 ミリエルは思わず吹き出し、母は笑い、父は「さすがだな、王さま!」と頭を撫でた。 ノエリスは胸を張り、小さな王様気取りで手を広げる。 「えっへん! ノエリスが、みんなをしあわせにするのっ!!!」 そして小さな手を胸に当て、照れ笑いしながら言った。 「ねぇねぇ、みんな知ってる? このお花の花言葉!」 「えっ、ノエリス、知ってるの?」 「うん! えっとね……勇気と、愛情と、幸せ、だって!」 少し得意げに笑い、「だから、みんなが幸せでいられますように、って作ったの!」と胸を張った。 「まあ……ノエリス、すてきね……」 母が感激したように口元を押さえ、父はにこにこと娘の頭を撫でた。 ミリエルは心の奥がじんわりと温かくなり、少しだけ目元が熱くなるのを感じた。 「さあ、勇者さま」 母がそっと父の手を取る。 「せっかくだから、踊ってくれないかしら?」 「おっ、いいな。おい王子さま、王さま、おまえたちも!」 「やったー!おどるー!」 ノエリスは笑顔でミリエルの手を引き、小さな草のステージで、家族は輪になって、手をつなぎ、くるくると回り始めた。 「ノエリス王さま、しっかりつかまれよー!」 父が勇者の剣をかかげ、ノエリスを背中に乗せてぐるぐる駆け回り、「きゃああー!!たかーい!!!」とノエリスが歓声を上げる。 ミリエルは笑い、母もくすくす笑い、その輪の中に、春の光と風と、家族の笑顔が重なった。 笑い声が、丘の上に響いた。 春の風が、花の香りを運び、蝶がふわりと輪の周りを舞う。 その瞬間、空の向こうに、そっと星が一つ、またたいた。 その日、ノエリスは熱で寝込んでいた。おでこのタオルを取り替えたり、母が作ってくれたリーゾ・ボッリートを食べさせたり、手を握ったり、ずっと隣に付き添って看病した。 「大丈夫だよ……ボク、ここにいるからね……」 小さな声でささやき、汗をかく妹の手をぎゅっと握って。 「うん……にいちゃ……」 ノエリスはかすかに笑って、眠りの中で兄の名を呼んでいた。 一緒に寝てと裾を引っ張られて、既にノエリスとネーヴェがいるベッドに邪魔にならないよう横になった。 ノエリスが体調を崩すたび、ボクが変わってあげられればいいのにと思う。辛そうに息をしているところを見て、そんなふうに考えた。 実際、ボクができることなんてせいぜい気休めでしかない。大人になったらすごいお医者さんになって、ノエリスを守ってあげたい。そしたら、お父さんとお母さんのことも診てあげられるし、家族を守ることにも繋がる。 そう考えていたらだんだん眠くなってきて、瞼がゆっくりと落ちていった。 ぱちぱち、ちりちり。突然異様な熱気を感じ目を開ける前に、母が部屋に飛び込んできた。 「ノエリス、ミリエル!!大丈夫!?怪我はない!?」突然抱きかかえられ、慌てながら周りを確認する。 階下の扉の向こう、父が必死に叫んでいる声が響いた。 「アリーチェ!子どもたちを連れて上へ行け!!早く!!!」 ミリエル──少年の小さな胸は早鐘のように打ち、頭の中で何度も繰り返した。 (火……火事……?違う……なんだこれ……!?) 視界の端、階段下に見えたのは、壁を這い、床を舐め、笑うように“ぱちぱち”“ちりちり”と音を立てる赤い塊たち。 それは炎ではない。熱の塊が生き物のように蠢き、壁を、家を、蝕んでいく。 焦げ臭さと、熱せられた金属の匂い、そして火薬の鋭い匂いが、2階の奥までじわじわと染み込んできていた。 母は泣きじゃくる娘を抱き、息子の肩を抱き寄せ、必死に落ち着かせようとした。 「大丈夫……大丈夫だから……」 「にいちゃ……こわい、こわいよ……!」とノエリスがボクの服を掴む。 (妹も母さんも、父さんも、みんな……どうして、どうしてこんなことに……!) 「いやだ……いやだ……なにこれ……!」と彼は混乱し、泣きそうな顔を母に向けた。 母がボクたちを抱きしめる。 2階の部屋、階下の音と熱気だけが迫ってくる。 見えない──父はどこにいるのか、何をしているのか。 聞こえるのは扉を抑える重い息遣い、叫び声、そして最後の覚悟を決めた男の「頼む!!!」という叫び。 少年は泣きそうになりながらも、階段の影をじっと見つめる。 (父さん……父さん、どこ……!?父さん……!!) だけど、何も見えない。 視界に映るのは母の涙と、妹の小さな震える体だけ。 次の瞬間──爆発音。 家が大きく揺れ、床と壁が鳴り、少年の足元を突き上げるような振動が全身を駆け抜けた。 耳に響く破裂音と、鼻腔を焼く火薬の匂い。 (父さん……父さん……!!!!) 「ミリエル、聞いて……」 アリーチェは震える声でボクにささやく。 「屋根裏部屋の……天窓から、逃げなさい……」 泣いて動けないミリエルは母に力いっぱい背中を押され、天窓の下へ。 爆発は家の骨組みを破壊し、屋根裏の天窓の上にも大きな亀裂を走らせた。 唯一の道は──天窓だった。 この家には、昔、母が星を見せるために作った小さな屋根裏部屋があった。 母は最後の力で彼を抱き上げ、屋根裏部屋の隅、わずかに開いていた天窓の下に押し込んだ。 「逃げて……上へ……お願い、私の星の王子さま……」 瓦礫の崩落で屋根に大きな穴が開き、そこから熱気が噴き上がってくる。 家の中はもう限界だ。 ミリエルは泣きそうな顔で振り返ったが、母はもう微笑みながら彼を見上げている。 ミリエルは震える手足で屋根裏から屋根の上へ這い出した。 焼け焦げた瓦の熱が足の裏を焼き、瓦に手をつくたび、指の皮膚がズキズキと痛む。 (怖い、痛い、辛い……でも……でも、ボクが行かなくちゃ……!) 痛む体を引きずり、必死に空を見上げた。焼け焦げた瓦の上、灼熱の屋根、痛む体を引きずり、必死に空を見上げた。 (父さん……母さん……ノエリス……ボクだけが……) 視界に、夜空の一番星が輝いていた。 (お願いだ……ボクに、意味を……!) 耳の奥でまだ「ちり……ちり……」という音がささやき続ける──人間には理解できない、異形のささやき。 それでも彼は泣き声を上げず、ただ屋根の端までよじ登り、瓦礫の向こうへ飛び降りた。 痛みが、暗闇が、意識を呑み込む中──最後に見たのは、空の一番星。 意識を取り戻したのは、薄暗い病室のベッドの上だった。 体はズキズキと痛み、全身には包帯が巻かれ、息をするのも苦しい。 でも、何よりも苦しかったのは、手を伸ばしても、母も、父も、妹も、いなかったことだった。 なにも、できなかった。あれほど、大切だって、守りたいって、思ったのに。結局ボクは逃げることしかできなかった。 白い天井、白い壁、漂う消毒液の匂い。 耳に届くのは、時折響く看護師たちの足音と、機械のかすかな電子音。 病室はひどく広く感じた。誰もいない。誰も来ない。 (……ボクだけ……) 体を覆う包帯が熱く息苦しく、重く感じる。 ミリエルは小さな手をわずかに動かし、そっと胸元に触れた。 家族の姿が、頭の中をよぎる。父の笑い声。母の優しい手。妹の小さな笑顔。 ――全て、燃えて、消えてしまった。 カーテンは閉められ、病室の照明も落とされ、ただベッド脇の小さなナイトライトだけが、淡い光を灯していた。 (……母さん……父さん……ノエリス……) 呼吸が浅くなり、胸がきゅっと痛む。 体が熱いのは火傷のせいか、それとも泣き出しそうなせいか、もうわからない。 そっと、手を持ち上げようとするけれど、力が入らない。 代わりに、シーツの端を小さな指でぎゅっとつかむ。 「……っ……」 声が震え、目尻に涙が滲む。どうして、どうしてボクだけ、なんで。 瞼を閉じると、焼け落ちる家がまぶたの裏に蘇る。 妹の手の感触、母の優しい声、父の叫び。 熱い、熱い、焼ける匂い──全部、消えてしまった。 「……いやだ……」 声がかすれ、涙が一筋、頬を伝う。 「いやだ……いやだよ……」 ボク、ひとりなんて……いやだよ⋯ 周りの大人たちは、慰める言葉を探して目を逸らすか、黙って去っていく。 もう、慰めなんて欲しくない。 それで家族は戻らない。 (……母さん……父さん……ノエリス……どうしたら……ボクは……どうすればいいの……) ぽたり、ぽたりと涙が枕を濡らす。 握りしめたシーツの端が震え、喉の奥で小さな嗚咽が漏れそうになるのを、必死に噛み殺す。 (ボク……生きてる意味、あるの……?ボク……これから、どこへ行けばいいの……) 夜が、静かに、更けていく。 孤独と絶望の重さに押し潰されそうになりながら、少年は小さな体を丸めるようにして声を出さずに、ただ涙を流し続けた。 ある日の朝、ミリエルは包帯だらけの体でベッドに横たわり、じっと天井を見上げていた。 もう、こうして戻らない家族のことを想うのは何日目だろうか。 もう何年もこうしているような気がする。あの日から時が止まったままだ。 (母さん……父さん……ノエリス……) 閉じた瞼の裏に、赤い光と焼け焦げる匂いがよみがえる。 妹の手、母の腕、父の声──すべて、熱に呑まれ、消えていった。 涙が、枕を濡らす。声は出さない。出せない。 (……なんで……ボクだけ……どうして……) その時、足音が二つ、三つ、ゆっくりと近づいてくる。 病室の扉が、そっと開いた。 「……彼か。」 低い声がした。鋭い、感情のない声。 「生き残った目撃者、いや――被害者。危険度、監視対象レベル。」 ミリエルは、顔を上げた。 そこには見知らぬ大人たちが立っていた。黒い服、冷たい瞳、書類を手に持った者、耳元の通信機に触れる者。 彼らの背中には、確かに「人間」であるはずの重みが、どこか欠けているように見えた。 (……この人たち……だれ……?) 「少年。」 一人が近づく。声は冷たいが、完全に突き放しているわけではな異様な気がした。 「突然で申し訳ないが、君はこれから我々デルタグリーンの保護下に入る。安全のためだ。……ただし。」 言葉が少しだけ途切れた。 「君が見たもの、知ったものは──通常の世界では扱いきれない。」 ミリエルは、布団の端を握りしめた。 「……ボク……」 声は震え、乾いた喉から掠れるように漏れた。 「ボクは……もう家族が……いないのに……」 沈黙。 その時、別の隊員がそっと一歩前に出た。若い男だ。彼は、背後の同僚たちに視線を向け、何かを渡される。 それをミリエルのベッド脇にそっと置いた。 焼け焦げ、端が黒くなった小さなぬいぐるみ。 焦げた金属片のような、父の工具箱からのかけらで作られた星形のネックレス。 そして、炭化しかけた譜面の端。 「……きっと、きみにとって大事なものだ。」 若い隊員は小さくつぶやく。 「……持っててくれ。オレらは……きみに全部渡せるわけじゃないけど、これくらいは……」 その瞬間、ミリエルの胸が強く詰まった。 わけもわからず泣き声を上げそうになるのを、必死に堪えた。 (父さん……母さん……ノエリス……ボク……まだ、ここにいるよ……) 父は腕のいい職人だった。木工も金属加工も得意で、誕生日に手作りの銀の星形ネックレスを作ってくれた。 「お前は母さんの言う“一番星の王子さま”だからな。」 そう言って笑いながら渡してくれたものだった。 ずっと肌身離さずつけていて、もちろん事件の時も首にかけていたが気づいたらなくなっていた。きっとあの時にちぎれてなくしてしまったんだろうと思っていた。 実際チェーン部分はちぎれてしまっているし焼け焦げているが形はなにも変わっていない。なんだか、ネックレスが自分のことを守ってくれているような気がした。 母は夜ごと、ピアノを弾いてくれた。お気に入りは“星の歌”。 縁は焦げ、紙は変色し、表紙の文字も読めない。 けど最後のページには、まるで夜空の挿絵のように、五線譜の上に星の形をした音符が踊っていた。 星型の音符の隣には、小さく手書きの言葉。「夜空でいちばんの星を、あなたに。」 母が昔、ボクのためだけに書き足したもの。 焼け焦げて黒ずんだ紙の中で、このページだけがかろうじて残っていた。 これはきっと、ボクの星だ。 ノエリスが大事にしていた、小さな白いうさぎのぬいぐるみ。ネーヴェ。 焼け焦げ、耳も片方失われている。当時の白さはどこにもない。 普通なら捨てられていたかもしれない。きっと、あの優しい人が回収してくれたのだろう。 ノエリスの無邪気な笑顔を思い出す。目のパーツもすすけてしまっているが、まんまるなフォルムがどうしても似ているな、と思った。 退院の日、病院の廊下は静かだった。 窓の外を春の風が吹き抜け、桜の花びらのような影が、ガラスにかすかに映っていた。 少年──ミリエルは、渡されたシャツを来て、包帯だらけの体を覆うシンプルなコートを着せられ、その胸元には焦げ跡が残る小さなぬいぐるみと歪んだ星形のネックレス、炭の譜面がそっと抱き込まれていた。 案内してきた人たちは無口だった。 「荷物は……ああ、もうこれだけか。」 「ヘリは手配済みだ。急ぐぞ。」 短く、乾いた会話が耳をかすめる。 ヘリに向かう途中、外を歩きながら故郷の街並みを見つめていた。 曲がりくねった小道、赤茶の屋根、丘の上のゼラニウムの花。 (……母さん……父さん……ノエリス……さよならも、言えなかった……) 機内では、言葉はほとんど交わさなかった。 隊員たちは耳元の通信機で何かを呟き、短い指示を交わし、ほとんど少年に目を向けることはなかった。 食事を差し出されても、喉を通らなかった。 乾いた機内の空気が肌を刺し、心臓の奥がずっと冷たい。 (……ボクは……これから、どうなるんだろう……このまま、どこかに閉じ込められて、終わるのかな……) 暗く、冷たい廊下。 靴音が規則的に響き、少年はその中を小さな歩幅で進んでいた。 足を引きずるような歩み。焼け跡の痛みが、まだ完全には癒えていない。 「部屋はこっちだ」 突然声がかかった。けれど、説明はそれだけ。 ここはどこ?どんなところ?ボクはこれからどうなるの? 聞きたいことは山ほどあった。でも、口を開く勇気は出なかった。 廊下の壁は冷たい灰色のコンクリート。扉はすべて無機質な鉄。 壁の高いところには、赤い監視ランプがわずかに点滅していた。 一つの扉が開けられ、少年は部屋に押し込まれた。 「ここが君の部屋だ」 部屋の中は小さかった。ベッド、机、椅子。 床は無機質な白、壁は灰色、天井の灯りは昼でも薄暗い。 窓には格子がはめられており、外の景色はほとんど見えない。 空調の音だけが、ひゅう、ひゅう、と細く耳に刺さっていた。 施設に着いてからの数日間、ほとんど何もできなかった。 食事は決まった時間に運ばれ、質問には最小限の答えしか返ってこない。 「質問は控えろ」 「もう少し待て」 「詳細は上からの指示を待っている」 ミリエルはただ言われるまま、眠り、食べ、起き、じっと座り込んでいた。 心の中では、何度も同じ問いが反響していた。 (ボク……このまま、何もさせてもらえないの……?) 星形のネックレスを胸に抱き、じっと自分の膝を見つめていた。 (母さん……父さん……ノエリス……どうして……ボクだけ……) 夜、ベッドに入っても、眠れなかった。 かすかな空調音と、赤い監視ランプの点滅が闇の中でずっと彼の意識を刺し続けた。 心臓の奥が、冷たい針でじわじわ刺されるように痛んだ。 数日が過ぎた。 何も説明はされないまま、同じ部屋で、同じ食事、同じ監視の繰り返し。 ミリエルの中で、不安はやがて焦燥に変わっていった。 (このままじゃ……ボク、何のために……) (閉じ込められて、監視されて、誰も答えてくれなくて、何もできなくて……) 夜、裸足でベッドから床に降り、部屋の隅から隅まで歩き回る。 机の角、壁のひび割れ、ベッド下のわずかな影。 何かを探すように、けれど何も見つからない。 冷たい床の感触が、焦燥をさらに募らせる。 突然、扉が軽くノックされ体が飛び跳ねた。 扉の向こうから「今、大丈夫か?」と声がする。あの時、ボクに遺品を渡してくれた人の声だ。 「⋯あ、えっと、はい!大丈夫、です」 本当に急だったので、思っていたよりも大きい声が出てしまった。 扉の向こうの人はこちらの鍵を開け、静かに入ってくる。ここに人が来るのは初めてで、ドキドキする。 「こんな夜更けにすまないな」話しかけてくる彼の声はこちらを気遣うように優しく、今までの冷たい人たちとはかけ離れていた。 「全然⋯眠れなかったので⋯」 そうか、と返されしばらくの沈黙。のち向こうから口を開いた。 「寒いだろう、春なのに。ここは空調が効きすぎているから⋯」 「あ⋯⋯そ、そんなことないですよ。」 「気を使うことはないよ。オレもイタリア出身だ。」 道理で英語の発音がすこしイタリア語に寄っているはずだ。ボクは思わず顔を上げた。 「そっ、そうなんですか?」 「ああ。ここはあの華やかな街とは大違いだ。殺風景すぎる。」 驚くボクに彼は続けて言う。 「きみの病室に向かった時に、久々にイタリアの景色を見た。やっぱり、オレはイタリアが好きだよ。」 青年は少し目を細め、懐かしむように笑った。 「オレがイタリアにいたころ、住んでいた家があるんだ。……きみの父さんが建てた家だよ。」 「……!!」 胸がぎゅっと詰まった。 「きみの父さんは、街では有名だよ。すごい家だった。手に触れるもの、柱の彫刻、窓の枠、すべてが温かくて。家族のために建てた家って、ああいうものを言うんだろうな、って思った。オレはそこで、あたたかい時間を過ごさせてもらった。」 胸の奥がじわりと熱くなる。 あの父の仕事を、見てくれていた人がいる。 その言葉が、胸に優しく触れた。 「……ああ、デルタグリーンのことも、ちゃんと話しておかないとな。周りは無愛想で無機質な奴らばかりだから⋯なにも説明してもらってないだろ?」 「あ、はい⋯聞かせてください!」 青年は表情を引き締め、静かに言葉を続けた。 「この組織は、政府に公認されているわけじゃない。神話的な存在、異常な事件、常識の通じない脅威⋯そういうものに対処する。きみがあの日出会ったのもそうだ。ときに法律を曲げ、人間性を犠牲にすることもある。」 彼の声は静かで落ち着いていたが、言葉の奥には重みがあった。きっと何度も辛い場面を経験してきたのだろう。 「正義のヒーローみたいなものじゃない、と思う人も多いだろうな。でも……そうだな。」 彼は一度息をつき、そっとこちらを見た。 「きみの父さんが作った家は、オレにとって大事な居場所だった。オレは、そういう“誰かにとっての場所”を守りたくて、ここにいるんだ。」 ボクは、はっと息を呑んだ。 「ミリエル。」 名前を呼ばれると、胸がぎゅっと締めつけられるようだった。 「きみは、きみが信じたことをしていいんだ。誰かに決められた道じゃない。自分が信じて、自分が歩きたいと思う道を選べ。オレたちはもう、それを選べなくなった人間ばかりだからな。」 「……ボク……誰かのヒーローに⋯なれる⋯?」 震える声で問いかけると、彼は優しく微笑んだ。 「ああ。」 その声は、胸の奥にそっと灯るように響いた。 「きみはきっと、誰かの星になる。だから、その光だけは、絶対に捨てるな。」 泣きそうだった。けれど泣きたくなかった。 「……はい……。」 かすかに、精一杯の声で返す。 「また、話しに来るよ。」 青年がそう微笑み、立ち上がろうとしたそのとき。 「……あのっ……!」 思わず、ボクは声を出していた。彼は少し驚いたように振り返った。 「ん?どうした?」 胸が高鳴る。 喉がひりつき、息が浅くなる。 けれど……言わなきゃいけない、気がした。 「……あの日……なにが、あったんですか……?どうして、ボクの家は……」 震える声で問うと、青年の表情が、ふっと曇った。 少しの間、沈黙。 彼はゆっくり椅子に座り直し、軽く息を吐いた。 「……あれはな、ミリエル。」 彼の声はいつになく低く、重かった。 「クトゥグァ、っていう存在を知っているか?」 ボクは、小さく首を横に振った。 「クトゥグァは、炎の神だ。…いや、“神”というのも、人間が勝手に呼んでいるだけかもしれないけどな。あの日、きみの町ではクトゥグァの信者たちが、召喚儀式を行っていた。」 喉が詰まる。頭がクラクラするような感覚に襲われる。 「……ただ、彼らは失敗した。」 彼は目を伏せ、苦々しい笑みを浮かべた。 「クトゥグァそのものは呼べなかった。だが、その周囲に存在する“炎の精”だけが、門を越えてきてしまったんだ。」 「……そんな……。」 身体が冷たくなっていくのを感じた。 それは、知らない世界の話だったはずなのに。ボクの家族を奪ったのは、そんな――信じられない、異常な存在だったなんて。 「信者たちの儀式のせいで、町のいくつかの家々が巻き込まれ、焼け落ちた。」 青年は視線を戻し、真っ直ぐボクを見つめた。 「……きみの家は、その中でも最初に被害を受けた家のひとつだった。」 「……ボクの、家族は……。」 声が震える。心臓が痛い。彼は静かに、首を横に振った。 「……それ以上は、言わなくていいな。」 優しい声だった。 「…その人たちは……どうして、そんなことを……?」 言葉にしながら、自分でも分かっていない問いだった。けれど、聞かずにはいられなかった。 「どうして……わざわざ、そんな恐ろしいものを呼ぼうとしたんですか……?ボクたち、何もしてないのに……」 彼は少し沈黙し、深く考えたあと口を開いた。 「……そう思うのは当然だ。きみたちは何も、全く悪くない。だけどな……信者たちは、普通の精神状態じゃないんだ。」 ボクは固唾を呑んで、じっと彼を見つめる。 「彼らは“世界を新しくする”とか、“旧き神に選ばれる”とか、そんな妄信に取り憑かれている。人間が信仰を越えて、狂気に至ったとき、もう『誰が巻き込まれるか』なんて考えない。むしろ、無関係な人々を犠牲にしてこそ、その信念が試されると思ってしまう。……そういう狂った世界なんだ。」 彼の声は穏やかで、けれどどこか遠くを見ていた。 「オレたちデルタグリーンは、そういうものと戦っている。この世界を、そういう狂気から守るために。」 ボクは小さく、唇を噛んだ。恐ろしい、怖い、理解できない、でもその奥に、かすかに……分かる気がする、というボクもいた。 「……ボクも……そういうものと、戦えるかな……。」 ぽつりとこぼした言葉に、青年は目を細め、優しく笑った。 「戦えるさ。」 そして、そっと手を胸に置くような仕草をした。 「きみの中にある光は、本物だ。何が起きても、何を知っても、それを失わなければ、きみは、きっと戦える。」 心の奥で、ひとつ、何かが静かに灯った気がした。ボクはゆっくり、深くうなずいた。 「……はい。」 「きみは――よく、生き延びた。」 青年は、そっと口元に微笑を戻した。 「きみは、奇跡だ。あの日、あの灼熱の中から生きてここに立っている。だからこそ、きみには未来があるんだ。」 ボクは、小さく震える肩を抱きしめた。知らないことを知ったことで、悲しみがまた胸に押し寄せる。けれどその横で、確かに、何かがそっと灯っている気がした。 「……ありがとう、ございます……。」 かすかに、でも確かにそう言うと、彼は深くうなずいた。 「さあ、今日はもう遅い。少しは休むんだ。……それが、きみの力になる。」 「……はい……。」 青年は最後にもう一度笑い、今度こそ立ち上がり、そっと扉を閉じた。静かな病室に、また静寂が戻った。 けれど、もうさっきまでの孤独とは、少しだけ違っていた。 胸の奥に、かすかな光が、確かに宿っていた。 その翌朝、食事を運んできた監視員の前に、ミリエルは立ちはだかった。 震える声、荒い息、それでも、諦めない目。 「……戦い方を教えてください……神と戦えるようになりたい……!!!あれを、倒せるように……!!ボク……もう……このままじゃいられない……!!」 監視員は驚き、短く笑った。 「無理だ。子供が……正気か?前例がない、規定外だ。」 そう言われても、決して目を逸らさなかった。 唇を震わせ、言葉を噛みしめ、かすかに涙が滲む。 「……何もしないまま生きるなんて……耐えられない……!!」 その目の奥、幼さの向こうにあったもの―― それは、絶望と痛みの底で、それでもなお光ろうとする、小さな意志だった。 やがて、組織は決断する。異例中の異例として少年の訓練を許可することを。 最初の射撃訓練、6歳の手で銃を握った時。冷たい金属の感触が手のひらに食い込み、指先は細かく震えて汗ばんでいた。 「3、2、1――」 教官の低い声が響き、撃て、と命じられる。 銃を構える小さな手は、声が響くたびに震えを増し、引き金を引いた瞬間、体が、心臓がビクッと跳ねる。衝撃に両足がわずかに浮き、つま先が床を叩く音が耳に届いた。腕の中が痺れ、肩に伝わる衝撃が痛く、思わず顔が歪む。 こわい、こわい、こわい……!火だ、火みたいだ……!! 目の前に弾ける火花が視界の奥を刺す。瞬間、胸がきゅっと縮こまり、喉の奥が詰まり、呼吸が乱れる。 小さな胸が上下し、耳鳴りが広がっていく。脇で銃声が響き、火花が散る。瞬きするたび、まぶたの裏に蘇るのは、あの夜の炎。屋根裏、熱い煙、家族の声、母の腕、妹の手─ (嫌だ、こわい、こわい……やめたい……でも、やめたら、ボクは……何のためにここにいるの……!?) 涙が込み上げ、視界が滲む。それでも、必死にリロードに入る。小さな手は細かく震え、弾倉を外す指が滑りそうになる。思わず両手で抱えるようにして持ち直し、歯を食いしばる。 (落としちゃダメ……落としたら、終わりだ……!) 口の中が乾き、唇が引き攣る。肩は硬直し、肺がうまく動かない。浅い呼吸を繰り返しながらも、再び構える。引き金を引くたび金属の反動が骨を震わせ、指に伝わる熱が肌を刺し、耳を裂く破裂音が頭を揺らす。 (こわい、こわい、こわい……!!でも忘れたら、家族が消えてしまう気がする……忘れたら、なんでボクは生き残ったのか、わからなくなる……) だから選んだ。最も怖いものを、最も近くに抱えることを。 銃は恐怖だった。炎の音だった。 それでも――手を離すことはできなかった。 何度も何度も、涙をこらえ、震える足で立ち続けた。小さな背中は、叫びたくなるような恐怖を噛み殺し、精一杯の“決意”を貼り付けた表情を浮かべる。ボクはヒーローだ……ヒーローは、逃げない……怖くたって、震えたって、絶対に逃げない……! 幼い胸の奥、泣き出したい鼓動を抱きしめて、小さな少年は銃を握り続けた。 そんな日々も、1年も経てば多少は慣れた。背も伸びたし力もついた。 マシンガンの標準の上手い合わせ方も、リロードのコツだってわかった。重火器に慣れる気配はない。 心の余裕だって生まれてきたし、実践に投入もされた。デルタグリーンで最年少だったボクは「どうせお荷物だ」「足を引っ張るだけ」なんて影で言われていた。でも実際はどうだ。 ボクの執念がそうさせたのか、戦地での体の身のこなしや使い方、緊急時に取るべき行動諸々すぐに覚え、大きめの任務にだって行けるようになった。 ボクだって戦えるのだ。笑えるのだ。命を張れるのだ。誰かのために。もうあの頃とは違うのだ。 ボクはこの銃を持って、正義に基づき神から人を救うのだ。 深夜。廃工場跡地。錆びた鉄骨の影が夜に沈み、奥の建物から滲むのは異様な赤光と重い空気。 (ここだ……ボクたちが向かう場所……) 後方につき、銃を握る手が震える。けれど他の隊員たちは冷静そのもの。無線が飛び交い、確認が済み、武装した隊員たちは慣れた足取りで廃墟を駆ける。 ミリエルは隊の最後方、小柄な体で小銃を握りしめていた。目を伏せたまま、何度も息を吸う。 「ミリエル、後方待機。指示があるまで動くな」 「……了解です」 短く返事をしながらも、喉の奥が乾いて仕方なかった。仲間たちの背中がどれも大きく、怖いくらいに堂々として見える。ボクの手は震えていた。大丈夫、ちゃんと……やれる……。 耳元で「3、2、1――突入!」と号令が飛ぶ。 前線が動き出し、ミリエルも小さな足で遅れながらついていく。 中はがらんどうだった。大量の鉄骨と錆、床にこびりついた黒い液体の跡。部屋の中央で、なにかが蠢いていた。 赤黒く、光をまとった異形。虫のような外殻、細長い肢、甲虫と軟体を混ぜたような不気味なシルエット。 「……ミ=ゴ由来の兵器!? 馬鹿な、完全廃棄されたはずじゃ……!?」 「前線、構えろッ!!」 前線が一斉に武器を構える。銃声が響き、閃光弾が飛ぶ。焼ける肉と金属の匂い。 だが、連中は怯まない。むしろ、光弾に耐え、甲高い鳴き声をあげて隊列を突き破る。 「くそっ、数が……! 装甲が硬すぎる……!」 最初の爆発が、突如、右方の小隊を飲み込んだ。続けて、背後から悲鳴が響く。 仲間が押し潰され、引き裂かれ、叫びながら崩れていく。 「……っ、なんで……!」 ミリエルは銃を構える。が、トリガーが引けない。震えている。熱い。胸がきゅっと縮まる。視界がぐにゃりと歪み、指先が冷たく痺れる。 (ダメだ……発作……いや、落ち着け、落ち着け……!) 小さな体が、かすかにしゃっくりのように震え始め、喉がひゅっと詰まる。耳鳴りの中、幼い頃に焼け落ちた家の幻影がちらつく。 (……また、あの時と同じ…………!) 銃を撃つ。火花が走る。視界の端で、誰かが叫ぶ。 「囲まれてる!退け、退けぇぇぇッ!!!」 弾が尽きた。リロードに入る。だが手が震えてうまくいかない。こぼれた弾丸。火花。目の前で、誰かが音もなく潰された。 「いや……やだ……!!!」 次の瞬間、爆発。右頬に熱が走る。右目に、灼熱の閃光と裂傷。血が滲み、右の視界が赤く染まる。倒れ込むミリエル。混線する音。悲鳴。異形の咆哮。 瓦礫の下で、ミリエルは目を覚ます。頬に血。体が痛む。右目の視界がない。あたりは静かだった。 静かすぎた。 動かない仲間。破壊された鉄骨。瓦礫の奥、異形の虫影が数体、音もなく溶けるように消えていく。胸がひゅっと縮み、喉が詰まりそうになる。手足が冷たくなり、視界が滲む。息が漏れそうになるのを必死で噛み殺す。 そのときかすかな足音が近づく。 銃を向けようとした手は、もう動かなかった。 「……! 見つけた!生存者だ!」 数人の後続部隊がミリエルを担ぎ上げる。 聞き覚えのある青年の声が、どこか遠くで響いた。 「……無事で……よかった」 意識が途切れる直前、彼は右目にまだ熱の残るミリエルの手をそっと握った。 後日。 「……20人中、生存者は一名。ミリエル・エリレナ。」 「まるで、死神だな」 誰かがそう呟いた。 回収から数日後。 医療施設の窓辺で、ミリエル・エリレナはじっと外を見つめていた。 透き通ったガラス越しに射し込む春の光。庭に咲く小さな花々が、そよ風にそよぎ、かすかな花の香りが漂ってくる。 右頬にはまだ白い包帯が巻かれ、右目の視界は未だぼんやりとかすんでいた。それでも、こうして光を感じられること、空の青さを見上げられることが、胸をじんわりと温めていた。 (……ボクは、生きてる……) 小さな指をそっと胸の前で組む。だがその指先には、あの地獄の感触がなおも残っている。銃の冷たさ。引き金を引くときの恐怖。火花の閃光、耳を打つ破裂音。熱い破片が頬をかすめた感覚。血の匂い、仲間の絶叫。 胸の奥が、きゅっと縮こまる。 「はぁ……」 吐き出した息はかすかに震え、膝の上で握った手は冷たい汗で湿っていた。 夜になると、夢にうなされた。 燃える家、泣き叫ぶ妹、父の怒号、母の震える背中。 そして……作戦の夜の光景。焼け落ちた小隊。燃え尽きた影。右目に走った熱の痛み。 夜中に何度も飛び起き、薄暗い天井を見上げ、喉がカラカラに乾いているのを感じるたび、涙がにじんだ。 数日後の夜。裸足の足が、冷たい床をそっと踏む。小さな影が、部屋の隅から隅へと彷徨うように歩き回った。机の角、壁のひび割れ、ベッドの下の暗がり。何かを探すようで、けれど何も見つからない。胸の奥がそわそわと焦り、指先が毛布の端を掴んだまま冷えていく。 ──トン、トン。 扉がノックされ、心臓が跳ね上がる。 「今、大丈夫か?」 扉越しに、いつもボクに優しくしてくれる人の声が聞こえる。 「⋯あ、はい、どうぞ⋯!」 思った以上に大きな声が出て、慌てて口を押える。ドアの向こうで、くすっと小さな笑い声がして、やがて鍵が回され静かに入ってきた。 「こんな夜更けにすまないな」 青年は手に湯気の立つ紅茶と、小さなソーサーを持っている。 「砂糖は……ひとつだっけ?」 「ふたつ、です。甘いの、好きだから……」 「そうだったな。じゃあ、今日は少し多めにいれようか」 柔らかな笑みが、冷たい病室の空気をほぐした。 「……あの、どうしたんですか⋯?」 青年は静かに腰を下ろし、紅茶を渡しながら少し笑う。 「なにかを話そうというより、きみの顔が見たかったんだ」 「……どうして?」 「きみが……ひとりで泣いてるんじゃないかと思って」 その言葉に、ミリエルの胸が、ちくりと痛んだ。 ぎゅっと毛布を握り、吐息が浅くなる。 「……ボク、今日……色々思い出して、泣きそうになったんだ」 「どうせきみのことだ。そのあと、明るく考えようと無理やり思考をシフトさせようとしたんだろ?」 「……だって、ヒーローだから……泣いちゃ、だめだと思って……」 言葉を絞り出すと、目の奥がじんわりと熱くなった。 「また誰かに言われる、ボクは死神だって。誰かがボクといると、また死ぬって……」 「それは違う」 青年の声が、きっぱりとした強さを帯びる。 「きみは、生き残った。それは、きみが弱いせいじゃない」 「……でも、ボクしか残らなかった……!」 声が震え、涙が睫毛ににじむ。 「……あれは、ミ=ゴの連中が放置していった生物兵器だ。……完全廃棄されていたはずの、危険な異星生物。通常部隊が遭遇する相手じゃなかった。……きみたちは悪くない。巻き込まれただけだ」 胸が、じわっと締め付けられる。肩をぎゅっと縮め、声が細くなる。 「……でも……」 青年はゆっくり手を伸ばし、ミリエルの肩にそっと触れた。 「きみのせいじゃない。絶対に」 ミリエルは膝の上に顔を伏せ、かすれ声を絞り出す。 「……ボク、こわかった、怖かったんだ……火花も、熱も、銃も……またボクのせいで、誰かが死ぬ気がして……」 「……だからこそ、オレはここにいる。きみが光を失わないように。……大丈夫、ミリエル。きみは、もうひとりじゃない」 ミリエルは瞼をぎゅっと閉じ、ひとつ、震える息を吐き出した。 「ミリエル、頑張ってるな」 「……ボク、怖いよ」 「当たり前だ。大人でも、子供でも、あんな地獄を見て平気な人なんていない」 ミリエルは唇をかみしめ、うつむく。青年は続けた。 「無理に強がる必要はない。泣きたいなら泣いていい」 「でも……泣いても、もう、戻らない……」 「そうだな……悲しみが消えるわけじゃない。でも、悲しみの中で立ち止まるか、それとも歩くか、それはきみが決められる」 ミリエルは顔を上げ、涙で濡れた瞳で青年を見た。 「……ボク、歩けるのかな……」 青年は微笑んで、そっと頭を撫でた。 「きみの歩幅でいい。走らなくていい、焦らなくていい。少しずつでいい。生きている限り、道はきっと続く」 「……ボク、みんなの分まで、ここで生きるべき⋯?」 「いや、ミリエル。それは違う。きみはきみのために生きればいい。きみはきみだ。きみの命は、きみのものだ」 胸がぎゅっと詰まるような感覚がして、ミリエルはぐっと唇をかみしめた。 「……名前、教えてもらっても……いいですか?」 青年は微笑み、手を胸に当てた。 「ロベルトだよ。ロベルト・フェリーニ。」 ミリエルは、ようやくほんの小さく笑った。 「……ありがとう、ロベルトさん」 「今夜は、少しでも眠れるといいな」 青年はそっと立ち上がり、ベッド脇のライトを柔らかく調節した。 「おやすみ、ミリエル」 「おやすみなさい……」 数日後の訓練場。広い射撃レンジの片隅。 小さな体に大きな銃を構え、ミリエル・エリレナは肩を震わせて立っていた。薄い頬、まだ痩せた腕、その目の下には、かすかに青い痣のような疲れの影。 「⋯やるのか?」 静かに声をかけたのは、ロベルト・フェリーニ。 デルタグリーンの中でも珍しく、穏やかで、人間味を捨てきれない男。 「はい……やります」 かすれた声でミリエルが答える。 銃の引き金にかかる指が小さく震えた。リロードの瞬間、カシャリ、と金属の音が跳ねるたび、心臓が強く締めつけられる。 (……怖い……また、炎が出る……火花がはじける……) 息が詰まり、喉がからからになる。 「ミリエル、深呼吸しろ」 そっと後ろから声がかかる。 「ロベルトさん……ボク、できるでしょうか……怖いんです……銃も、炎も、全部、怖くて……」 「……怖いのは、やめたほうがいいって合図じゃない」 ロベルトはミリエルの肩に優しく手を置く。 「怖くても立ってる。それは“逃げてない”ってことだ。十分、誇っていい」 ミリエルの瞳が、すこし潤んだ。それでも顔を上げ、銃口を正面に向ける。標的は、遠くの人影を模したマネキン。過去に見た光景が、胸をざわつかせる。燃える匂い、焼ける音、叫ぶ声。 「ミリエル」 呼びかけられ、はっと我に返る。後ろのロベルトが、にっこりと微笑んで言った。 「やれ。“お前の手で”な」 震える小さな手が、そっと引き金を引く。 パン、と乾いた破裂音。心臓がビク、と跳ねる。視界の隅が白くチカチカする。 「……よくやった。さあ、もう一発」 「……はいっ!」 カシャリ、と手が震えながら弾倉を差し替える。一瞬右目の視界がぼやけ、少しかすれて見える。 (この目も……あの時の、残骸がまだ残ってるんだ) (でも、それでも……) 小さな銃声が続くたび、遠くのロベルトが優しくうなずく。 「いいぞ、そのまま、そのまま……!」 乾いた音が、少しずつ、恐怖の底を叩き割っていく。撃ち終えた瞬間、銃を抱え、膝をつき、荒い息を吐くミリエルの背に、そっと暖かな手が置かれた。 「……もう十分だ。よく頑張ったな」 ロベルトの声が、ひどく優しく響いた。 「……ボク……ボクは……」 「立派だよ。胸を張れ、ミリエル・エリレナ。」 ミリエルの胸が小さく震える。涙が、音もなく頬を伝った。 また少しの療養を経て、ミリエルとロベルトは再び訓練場に立っていた。指先に残る銃の熱気の記憶が、胸の奥をひりつかせる。 「これを使ってみろ」 優しい声がして、手渡されたのは――思っていたよりも長く、重い銃。細身のマシンガン。 「えっ……これ……?」 「小さな体でも扱いやすいように、特別にカスタムしたやつだ。軽量で、反動も抑えてある」 ロベルトが、少し誇らしげに笑った。 「……ロベルトさんが?」 「ああ。きみの訓練を見て、これが合うと思ったんだ」 胸が、熱くなる。 ボクのために――ボクのためだけに――。 「ありがとう……ございます……!」 ロベルトは笑い、そっとミリエルの肩を叩く。 「さあ、撃ってみろ。きみなら、できる」 銃を構える。細身の指が、引き金に触れ、ぐっと深呼吸。銃口の先、標的が霞む。胸が痛む。指先が震える。 (怖い、でも……) 銃弾を放つ乾いた音が響き、ミリエルの体が小さく跳ねた。それでも、撃てた。 「……すごいな、きみは」 ロベルトが静かに呟いた。ミリエルは振り返り、照れたように微笑む。 「まだ、怖いけど……頑張ります……」 その背後、射撃訓練場の見学スペース、ひとりの人物が腕を組み目を細めていた。 「……なるほど、強い子だ」 訓練を終え、銃をそっと置こうとするミリエルの背中に、ふと声が届く。 「きみ、名前は?」 驚いて振り返るミリエル。彼は⋯確か、シックス。顔を見た事はあれど、深く話したことはない。一体なんだろうか。 「……ミリエル・エリレナ、です」 「……いい名前だな。ミリエル」 シックスは軽く笑い、手を伸ばす。 「君、デルタグリーンでは埋もれてしまう。上が腐っている。もう限界だ。私は新しい組織を作るつもりだ」 「……組織……?」 「ああ。私たち自身で選んだ未来を作る。神話的な脅威を、ただ祈って見逃すんじゃない。無駄死にもしない。人間性も、笑顔も、救えるものは救う。君が来てくれたら、心強い」 言葉が耳に届いた瞬間、胸がずきり、と熱を帯びた。 ボクは……生き残っただけの人間じゃない……?でも⋯⋯ 「少し、考えさせてください⋯」 シックスの言葉が、胸に刺さったままだった。 “君、デルタグリーンでは埋もれてしまう。新しい組織を作ろう”――。 訓練後のシャワーを浴び、部屋のベッドに座り込む。濡れた髪を拭きもせず、膝を抱え、視線は床に落ちたまま。 (……どうしよう……どうすれば……) デルタグリーンには、確かにもう限界があった。訓練は順調だった。銃の扱いも、走る速度も、筋力も、6歳の頃に比べれば雲泥の差。教官たちは口数少なく厳しかったけれど、ボクの技量を認めてくれていた。ロベルトさんもいつだってボクを見守り、支えてくれていた。でも、ここにいると……火薬の匂い、銃声、痛み……胸が苦しくなる。 胸に手を当て握りしめる。制服越しに小さな心臓の鼓動が、震えるように感じられた。この場所は、彼に「戦うこと」を教えてくれた。だけど同時に、彼に「人間性を失う覚悟」を問うてきた。 ──デルタグリーン。 任務のためなら仲間を置き去りにし、時に無関係な人々さえ犠牲にしなければならない。それが、この組織の正義だ。 (……ボクは、これでいいの……?家族を失って、戦うためにここに来て……でも、ボクが欲しかったのは、戦うだけの毎日でもない……) 拳を握る。思い出すのは、笑顔で髪を撫でてくれた母、力強く背を押してくれた父、笑いながらこちらへ走ってきた小さな妹。彼らを思い出すと、胸の奥がちくりと痛んだ。 夜更け。廊下の灯りは落ち、冷たい空気が建物全体を満たしていた。 ミリエルは薄い寝間着のまま、裸足でそっと部屋を抜け出した。床の冷たさが足裏にじわりと伝わり、ひやりとした感覚に思わず身を震わせる。けれど、それすら頭を整理するための刺激として、ありがたかった。 (……相談しなきゃ……ボク、ひとりじゃ決められない……) ロベルトの部屋の前に立つ。拳を握り、深呼吸をひとつ、ふたつ。だめだ、やっぱり緊張する……。 けれど逃げたくない、そう決めていた。 小さくノックをし、「⋯ミリエルです」と声をかける。すると、すぐに中から優しい声がする。 「……どうした、こんな時間に」 扉が開くと、そこには見慣れたロベルトの顔。ゆるく笑う目尻、疲れを見せない落ち着いた空気。それだけで、ミリエルの胸が少し軽くなる。 「ロベルトさん……あの、ボク……」 声が震えて、途切れそうになる。ロベルトは一歩引き、扉を大きく開けた。 「入れよ」 中は小さな部屋だった。古びたソファに、控えめな照明。テーブルの上には開きかけの本と、湯気の立つマグカップ。生活感があるのに、どこか落ち着く雰囲気。 「……ほら」 ロベルトがもう一つの紅茶が入ったカップを渡してくれる。 「今ちょうど入れたばかりだ」 「ありがとうございます……」 両手で抱きかかえると、じんわりと温かい。ミリエルの指先が、少しずつ緊張を解きほぐされていく。 「で、どうした?」 ゆったりとソファに座り、優しい目で見つめてくれる。 「ボク……シックスさんに、誘われたんだ」 「ああ、例の⋯」 ロベルトは驚いたようでいて、どこか予想していたような口ぶり。 「ボク……どうしたらいいんだろう……デルタグリーンは、ボクに居場所をくれた。ロベルトさんがいてくれたから、ここまで頑張れた……。でも、ボクはもっと、強くなりたいんだ。もっと、誰かを救えるヒーローになりたい……」 涙が浮かびそうになって、必死にいつもの顔を作ろうとする。けれど、作りきれなかった。 ロベルトは小さくため息をつき、そっと手を伸ばしてミリエルの頭を撫でた。 「……きみはな、強いよ」 「えっ……?」 「わからないことに、ちゃんと立ち止まって考えようとするやつは、強いんだ。オレなんか、とっくに自分の限界を見切ってる。でもきみは、まだ先を見てる。だから、迷ってる」 ミリエルは膝を抱え、顔をうずめた。 「ロベルトさんがいなかったら、ボク、きっとここまでこれなかった……!」 「違う」 低く優しい声。 「オレは背中をちょっと押しただけだ。歩いてきたのはきみ自身だ。あのとき、引き金を引くのがどれだけ怖かったか――オレは知ってる」 ミリエルの肩が震えた。胸が熱く、涙が落ちそうで、でも笑顔になりたくて。 「オレは後方支援の仕事がまだ残ってる。しばらくはここを離れられない」 ロベルトは少し笑って、拳をそっと突き出した。 「だから、きみは行け。ミリエル。」 ミリエルは泣き笑いの顔で、小さな拳をそっと合わせた。 「……ボク、頑張る。ぜったい頑張るよ!」 ロベルトは優しく笑ったまま、 「いい子だ」 と一言。その言葉だけで、ミリエルの胸の奥はいっぱいになった。 後日、日は暮れ施設は深い静寂に包まれていた。廊下の灯りはところどころ落とされ、わずかな非常灯だけが緑色の光を投げていた。 ひとり、薄暗い廊下を歩く。心臓の鼓動がやけに大きく響き、足元から冷たい空気が這い上がってくるようだった。 廊下の突き当たりに、彼の部屋はあるそうだ。デルタグリーンの隊員、シックス。 震える手でノックをする。 「……失礼、します……」 静かに扉を開けると、部屋の奥に座るシックスが顔を上げた。 「やあ。……君か。どうした?」 少しも驚かない。むしろ、来ると分かっていたかのような微笑み。ミリエルの胸が一瞬詰まった。 「……あの、ボク、迷ってて……」 小さな声が、空気に溶ける。 「何のために戦ってるのか、分からなくなりそうで……」 シックスは黙って聞いていた。少年の言葉を、遮らず、焦らせず、ただ静かに待つ。 「ボクは、家族を失って、……戦うことを選んだ。でも、戦うためだけに生きたくはないんだ……」 拳を握りしめ、目を伏せる。 「ボクは……光を探したい。誰かのために、光を届けるヒーローでいたい……!」 静寂。シックスの椅子がわずかに軋む音がして、彼は立ち上がった。 「いい目をしているね」 ミリエルが顔を上げると、優しい声が降ってきた。 「戦いだけの人生ではない、光を求める心。それを失わない限り、君はきっと折れない」 一歩、二歩と、シックスが近づいてくる。 「ミリエル・エリレナ。君は、もう“こっち”に足を踏み入れている。ならば一緒に来てくれ。新しい組織で、世界を照らす光になってくれ。」 胸が熱くなる。胸の奥、ずっと抱えてきた孤独、苦しみ、恐怖……そのすべてを包むような温かさ。 「……ボク……」 唇が震えたが、必死に堪え、深呼吸する。目の奥がじんわりと熱くなる。 「……ボク、行きます……!」 「新たな景色を、見たい……!」 震える拳を、胸の前でぎゅっと握りしめた。 シックスの微笑みが、やわらかく、しかし鋭く光る。 「ようこそ、ミリエル・エリレナ。これからは、その光を胸に、進め」 少年の足元に、新たな影が伸びた。もう、後戻りはできない。けれど、その背には、確かな光が宿っていた。 小さな荷物とマシンガンを背負い施設の前に立つミリエル。ロベルトが隣で言った。 「飯はちゃんと食え。無茶するな。怪我したら無理せず休め」 「う、うん……!」 「寝るときはちゃんと毛布使え。冷えたら身体に悪い」 「わかったってば……!」 「笑えよ、ヒーロー」 ロベルトが肩を軽く叩き、帽子を深く被る。 「最後にもう一回だけ言う。ヒーローは、泣かない。光の方を、ちゃんと見ろ」 でも、ちゃんと心の奥の自分も大切にしろ。涙が出そうで、笑顔を必死に作った。 別れ際、ロベルトは屈み、ミリエルの身長に合わせて言った。 「オレは見守ってるよ。どこかで、ミリエルが世界の表舞台に立つ日が来たら⋯オレは観客席のいちばん奥から、誇らしげに拍手を送ってやる」 「ロベルトさん……!」 「だから、絶対、背中を丸めるな。絶対、地面を見るな。ミリエルは光のほうを見て歩くやつだから」 泣きそうな顔で頷いたミリエルに、ロベルトはそっとポケットを探った。取り出したのは、銀の小さなチャーム。それは、羽をかたどった、小さなペンダントヘッド。 「オレが若い頃、イタリアの教会で買ったものだ。特別な祈りは込められてないけど……お守りくらいにはなる」 ミリエルの小さな手のひらに、そっと置いてくれる。 「これ、ボクに……?」 「そうだ。いいか?ヒーローは一人じゃない。辛くなったときは、これを握れ。オレの応援が届く」 ミリエルの喉が詰まり、声が出なかった。 ただ、ぎゅっとチャームを抱きしめ、何度も何度も頷いた。 「ロベルトさん……絶対、また会おうね……!」 ゆっくりと歩き出し振り返ったとき、ロベルトは少し離れたところで、被っていた帽子を軽く持ち上げて手を振った。 「行ってこい、ミリエル」 「ありがとう、ロベルトさん……!」 ――小さな背中が、未来へ向かって走り出した。 「約束だ。きみが立派なヒーローになったら、世界のどこかでまた会おう。」 アルカナ結成から5年。 プリマ・ステラ、光の名を冠し、絶望の前線に立つ「最初の星」。 隊の中で唯一、何度も前線から生還し続ける者。けれど、彼と共に行動した者は、悉く還らず、必ず惨たらしい最後を迎える。 仲間たちは彼を「死神」と囁く。 作戦開始前、簡易ブリーフィング。 狭い部屋の中、誰もミリエルの方を見ない。 新しく組まされた隊員たちは、視線をそらし、そわそわと落ち着かない様子で装備を確認していた。 「……まじかよ、なんであの『死神』と……」 「クソ、最悪のチーム分けじゃないか……」 「聞いた?あいつの過去の戦績、全滅率……」 低い囁き。皮膚の上を冷たい針が這うような感覚。 (大丈夫、大丈夫……ボクは、ヒーローだ……☆) 微笑む唇の奥、歯がわずかにカチカチと鳴った。 戦場は廃棄された研究施設。 ミリエルは最前線。 笑顔を保ったまま、華麗に、優雅に踊るように銃を撃つ。 だが。 「ぎゃああああ!!!!」 背後で弾ける肉塊。足元に転がる首。 駆け寄ろうとした隊員が、何かに引きずられ、壁に叩きつけられ、音もなく崩れ落ちる。一人、また一人、血飛沫を上げて消えていく。 「くそっ、……!!助け――ぐぁっ!!!」 ミリエルの伸ばした手が、届かない。 指先が、空を掴む。 耳に響くのは破裂音、悲鳴、湿った肉が潰れる音。 (やめて……お願い……やめて……!!) 笑顔が崩れないように、頬の筋肉を引き締める。口元がひくつき、胸の奥がぎゅっと潰れそうになる。 なのに脚は止まらない。 「お前のせいじゃない」なんて言葉は、もう誰も口にしない。 「また一緒に行こうな」なんて笑いかける者は、もういない。 瓦礫の山を越え、一人帰還する。制服は血で濡れ、右目の傷が赤く濡れて光った。。 迎えのスタッフが無線で報告を飛ばす。 「……生存者一名、プリマ・ステラ……また、彼だけ……」 死体収納袋がいくつも運ばれる。 血塗れの防弾チョッキ、破れた小隊章、散らばった破片。 スタッフたちは冷たい視線でミリエルを見た。 「またか……」 「結局生き残ったのは彼だけ……」 「隊の死神だな」 囁き。蔑み。嘲笑。かつては称賛の声があった。 けれど、今はもうない。 「プリマ・ステラ、任務成功おめでとう」 皮肉交じりの言葉。 「すごいね。隊長どころか全滅じゃないか。よく一人で戻れたね」 言葉の端に、冷たく刺さる棘。 夜、ミリエルはひとり訓練場の隅に座り込んでいた。 膝を抱え、目を伏せる。 誰も近寄らない。誰も声をかけない。 月明かりの下、彼の影はひとつきり。 ……ボクは、ヒーローだ……ヒーロー、なんだ……と暗示するかのように繰り返し、喉の奥が震える。 胸の奥で、誰かの声が消えていく。 静寂が、ただひとつ、彼のそばに寄り添っていた。 笑顔の裏、貼り付いた仮面の内側。 ボクは、何人分の命を背負っているんだろう。ボクの後ろに、今、何人の影が並んでいるんだろう。 それでも、やめられない。 正義のヒーローである限り、足を止められない。死神と呼ばれても、ただ一つ、子供の頃に母に読んでもらった絵本を信じて。 「どんな夜も、暗闇に負けず、一番最初に光る星が、みんなを導いてくれるんだよ」 だから、ボクが……導かなきゃ……! 悲しみを飲み込み、笑顔を貼り付け、血塗られた正義を背負い、今日もプリマ・ステラは優雅に微笑む。 仲間を抱きしめるように、そのマシンガンを握り、何度でも、何度でも戦場へ降り立つ。 光の中に、ボクはひとりだ。でも、それでいい。今は六等星でも、いつかみんなを守る一番星になるから。 ◆性格と喋り方の理由 ① 心を守る仮面としての言葉遣い → 過酷な日々の中で、ヒーローという理想像をまとわないと自分が壊れてしまいそうで、自然と演技が癖になった。 ②世界への願掛け → 暗い現実に対して、明るい言葉、優雅な言葉で対抗しようとしている。自分自身の精神を引き上げ、周囲を明るくするための意図。 ③ 精神的トリガー回避のための習慣 → 炎や死の記憶に沈まないよう、明るく非現実的な言葉選びをすることで、感情を調整している。 🔫アルカナでもマシンガンを使ってるのはロベルトが自分のために用意してくれた思い出があるから。今は使ってないので部屋に置いてます。 📱Noahはカスタムしてないです。 この後はチョトしたおまけとイメソンです。読んでもらわなくてもOK ★ 「なんだこれは……?火が、早すぎる……!?」 ガブリエーレが扉越しに目を凝らすと、そこに見えたのは、壁を這い、床を舐め、熱を撒き散らしながら蠢く“赤い塊”たち。 それは炎ではない。形がある。 笑うように、ささやくように、「ちりちり」「ぱちぱち」と音を立て、天井や扉を登り、溶かし、崩していく。思わず震えた。 「クソッ……これは……火じゃない……ッ!!」 火の化け物たちが、扉を舐めるように這い、笑うような音を立てる。家の中は熱気で満ち、扉の隙間から、あの異形の光がにじみ出そうとしていた。 じっとそれを見つめ、その場に膝をつき、震える腕で火薬の箱を抱え込んだ。 (アリーチェ……ミリエル……ノエリス……) 頬に熱風が当たり、皮膚が焼けるように痛い。 それでも彼は目を閉じ、ぐっと奥歯を噛みしめた。 (オレはもう、だめだ……けど……お前たちは……生きてくれ……) 家の中には、彼の作業場があった。 木材、道具、そして――小規模な修繕用の火薬、発火剤。 それを逆用するしかない。 化け物が扉を突き破る前に、彼は扉の向こう側で火薬を叩き込む。それは化け物を完全に消すものではなくと、一瞬だけ、強烈な爆発で勢いを吹き飛ばすことはできるはずだ。これで、妻と子どもたちが逃げるための一瞬の隙を作る。 手に持つ発火装置がかすかに震え、汗が滴り落ちる。 迷わなかった。 この家を、自分の手で壊すことは、彼にとって迷うことではなかった。オレが作った家だ。オレが壊す。そうして、あいつらを生かす。それが、オレの最後の仕事だ。 炎が、扉を突き破ろうとした瞬間。 ガブリエーレは最後に、階上の家族に向けて声を張り上げた。 「アリーチェ!!!頼む……!!!どうか……!!! 子供たちを……!!!!」 次の瞬間、彼は火薬を叩き込んだ。 轟音。 家の骨組みが砕け、視界が真っ白に弾ける。天井が震え、屋根裏の天窓に大きな亀裂が走った。骨が砕けるような衝撃。 でも、心の中は、不思議なほど静かだった。 (……アリーチェ……ミリエル……ノエリス…… 生きろ……絶対に……) 胸の奥、ずっと抱き続けていた家族への愛が、最後に、ほんの少し微笑むような光を灯した。 (……オレの……誇りだ……) そして、すべてが炎に呑まれた。 最後の父の顔は、ミリエルの心には残っていない。 残ったのは、声と、音と、あの瞬間の振動だけ――。 それがずっと、彼の胸を刺し続けるのだ。 ★ 母の腕の中、ノエリスが、かすかに兄の方を見上げていた。 顔は涙と汗でぐしゃぐしゃで、呼吸も弱々しく、胸は小刻みに上下している。あれほど元気だった声も、今はもう、掠れていた。 小さな妹は、最初は泣いていた。 「にいちゃ……こわい、こわいよ……」 兄にしがみついて、袖をぎゅっと握って離さなかった。その手が、もう力を込められないほどに弱くなっている。けれど、母の腕の中で苦しそうに身を縮めながらも、ノエリスは兄の姿を最後まで追いかけていた。 (……にいちゃ……いって……にいちゃ……) その瞳の奥に、祈りが灯る。ほんの、ほんの一瞬。小さな心の中に芽生えたのは、幼いながらも、はっきりとした願いだった。 「お兄ちゃんだけは、助かって」 本当は怖くて、さみしくて、傍にいてほしくてたまらないのに。それでも、兄が生きることを選んだ。だいすきだから。だいすきだから……。 ノエリスは、震える腕をほんの少しだけ、兄に向かって伸ばそうとした。指先は震えて、空を掴むようにふるふると揺れた。 だが、手は届かなかった。 けれどその想いは、確かに兄の胸に刻まれていた。 そしてその瞬間── 兄は、天窓の光の中へ飛び降りた。 火の轟音と崩れゆく天井。 そして、涙の音も届かぬ場所へ、飛び降りた。 ★ 熱。痛み。焼けるような息苦しさ。 腕の中のノエリスが、小鳥のようにぐったりと力を失っていくのがわかる。 「あぁ、ノエリス……お願い、頑張って……!」 母は震える声で娘を励まし、必死に抱き寄せる。 (お願い……神さま……まだ……まだ連れていかないで……) 階下から、笑うような「ちり、ちり」という音が聞こえる。 火の化け物たちが、扉を這い、床を舐めるように迫ってきている。 アリーチェは夫の決意に気づいた。 (お願い、あなた……どうか……) 頬に涙が伝う。けれど、今は叫ばない。 ミリエルも、妹の顔色が青ざめていくのが見えていた。 「いやだ……いやだよ……!!」 手が震え、目に涙が滲む。 ノエリスが、兄の名をかすかに呼ぶ。 「……にいちゃ……」 その目が、兄を探すようにほんの少しだけ動く。 「にいちゃ……いって……」 唇がかすかに動く。声にならない小さな願い。 けれど、ミリエルにはしっかり届いていた。 母は、最後の力で息子を押し出した。 「逃げて……上へ……お願い、私の星の王子さま……」 小さな手が、兄に向かって伸びかける。 でもその指先に、もう力は残っていなかった。 アリーチェはぎゅっと娘を抱きしめ、最後に微笑んだ。 (お願いミリエル……あなたまで、ここに沈まないで……ノエリスの分まで、生きて……) 視界の端、扉の向こうで光が弾けた。 夫の声が響き、骨が砕けるような衝撃が家を揺らす。 それでも腕の中の娘を離さず、ぎゅっと抱きしめ、心の中で何度も何度も、愛する人たちの名を呼んだ。 (ありがとう、ガブリエーレ……ありがとう、ミリエル……ありがとう、ノエリス……) (あなたたちは……私の、誇り……) そして、すべてが光に呑まれた。 ------------------------------------------- 01 正義のヒーロー ------------------------------------------- ARCANAの死神 /// 【正義】JUSTICE - 正 君は『アルカナ』最古参メンバーの1人だ。 小さいころに神話的現象に巻き込まれ家族を失って以来、君は正義に基づき神から人を救うことを決意した。 アルカナ発足前は一時期『デルタグリーン』に所属していたが、ある任務中に1日で20人もの隊員が死ぬ事件が起こった。同じ任務にいて生き残ったのは君だけだ。その際にデルタグリーンを見限り、「一緒に新しい組織を作り世界を守ろう」と手を差し伸べてくれたのが今のアルカナトップ、【666(シックス)】である。君はシックスのことをとても慕っている。 アルカナが出来てから5年間、君はシックスの期待を裏切らないよう任務に励んでいる。しかし、君とチームを組む隊員は必ず任務で戦死してしまう。それも惨たらしい方法で。何度も何度も仲間の無残な死を見届けてきたが、どれだけ仲間から「死神」と恐れられようと、いくら人間性を犠牲にしようとも、君は正しく「正義のヒーロー」なのだ。 ------------------------------------------- 君の家族は全員死んでおり、頼れる親戚もいない。現在はアルカナ本部で生活をしている。 ここ暫くは単独で任務をこなしていたが、数日前、シックスから新しいチームを組んでほしいとの連絡があった。 また、君は「火」に関する何らかのトラウマを持っている。 詳細は自由に決めてもらって構わない。 ------------------------------------------- CS作成 指定職業:なし 推奨技能:銃火器技能、心理学、オカルト HOボーナス ● CON18固定(他技能16以下) ● 任意の戦闘技能に合計+100P ● 銃火器技能の初期値が全て50 ● クトゥルフ神話技能に+10P HOデメリット ● 狂気発症時▬▬▬▬▬▬【削除済み】 ------------------------------------------- 💫イメソン💫 ▶六等星/ざらめ https://youtu.be/5Y-2neQjQLw?si=iZ7peuFB7Os0Hcmb ▶死ぬな!/こっちのけんと https://youtu.be/Z2wKQLY1XcQ?si=NDYDxfenXpYZIlZX ▶貴方だけが、幸せでありますように。/アメリカ民謡研究会 https://youtu.be/Q7MY_mV2yto?si=2myEHVXkFKSYYve0 ■簡易用■ Prima・Stella(プリマ・ステラ)(男) 職業:アルカナ隊員 年齢:15歳 PL: STR:13  DEX:16  INT:11 アイデア:55 CON:18  APP:14  POW:14  幸 運:70 SIZ:13 SAN:80 EDU:9 知 識:45 H P:16  M P:14  回避:dex*2  ダメージボーナス:1d4 ―――――――――――――――――――――――――― [技能](職業技能点:180 個人技能点:110) (書式:職業/個人<成長>[その他]) ―――――――――――――――――――――――――― [持ち物] ・武器 ――――――――ここに記入―――――――― ・防具 ――――――――ここに記入―――――――― ・所持品 ――――――――ここに記入―――――――― [プロフィール]