タグ： 生者の椅子

小学生の頃から鹿目紫月の下で住み込みで働いている。 過去の出来事のせいで付け続けているお面のせいで不気味がられ、友人と呼べる人物もいない。 そんな咲耶に唯一学校で話しかけ続けてくれた存在が蛭井燈真だった。 部活の先輩という関係であるその人は、学校の人気者で、なぜか咲耶にことあるごとに絡んできた。 友人と呼べる存在もいない咲耶が人付き合いが得意なわけもなく、燈真に対しても素気ない態度をとってしまうが、それでも彼は咲耶の元へ来て話しかけ続けた。 皆に好かれ、将来の夢を語る姿は、未来を見つめる姿は、過去に囚われている咲耶にとって自らを苦しめる毒でしかなく、彼を嫌いになるのは時間の問題だった。本能的に拒否してしまうのだ。 しかし、先輩後輩という立場上、いや、自分は拒否という行為をしてもいいほどの価値のある存在ではないと思っていたため彼を拒否することはできなかった。 自分は無価値な存在という認識をしていた咲耶だったが、そんな彼女にも自分に対し存在意義を感じることの場面があった。 それは鹿目紫月のもとで働いている時間だった。 咲耶は幼い頃彼の書く小説に救われた。今まで自分から自分のために行動することのなかった咲耶は初めて自分のために、彼のサイン会へ行き、身体の不自由な鹿目の姿を見て、彼のために働き恩を返したいと思った。 本当に彼のもとで働けることになったのは、人生で1番の幸運だろう。 鹿目紫月に対し、咲耶は恩義を感じている。恩義を通り越して神聖視している。 彼が笑えと言えば笑い、泣けと言えば泣き、死ねと言えば死ぬ。 ・お面について とある年の咲耶の誕生日、家族3人で車で誕生日プレゼントを買いに行った日事故にあう。 両親は咲耶を庇い、そのおかげで咲耶自身は軽傷ですんだが、咲耶の全身は両親の血により赤く染まった。 割れたガラスに映るのは血塗れな両親と自分。 その光景は咲耶にとってトラウマとなる。 意識を失った咲耶が目覚めたのは病院であり、両親の死を知らされた彼女はひどく取り乱し、ふと近くにある鏡を見る。 鏡に映る姿は、事件時と同じ血がべったりとついた自分の顔だった。 病院側は、精神的要因によるものだと診断する。 それ以降自分の顔を誰かに晒すことを拒否し、そんな彼女に担当医が渡したのは一枚のお面だった。そのお面は咲耶が両親と共に買ったお祭りのお面であり、咲耶の親戚が両親の身の上整理をする際捨てるか迷い持ってきたものの一つであった。 今も咲耶はお面をしていないと人前に立つことさえ難しい。自分の顔には未だにべったり血がへばり付いていると思っているからだ。

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