タグ： ブラックドッグ エネミー 魂の救済

戦争が頻発する国に生まれ、戦争が日常の生活を送ってきた。 戦争孤児という厳しい社会地位でありながら、彼は恵まれないなりに、人にだけは恵まれ育っていった。 いつも面倒をみてくれる兵隊たち、いつか恩返しがしたいとさえ思えるほど、彼は兵隊たちに敬意を持っていた。 しかし、抱いた恩を返す相手は、今は枯れた大地に還っていってしまった。 ギルドを利用し、戦争に勝利した戦争屋は、前田を捕縛し、兵隊として再教育しようとした。 抵抗する前田に、ついには銃口が向けられた。 やがて、前田は「痛みにより魂が浄化される」と信じて疑わなくなっていた。 そのとき、拠点に客が入る。 ギルドからの使者だった。 男は後藤となのったが、容姿はくすんだ銀髪に堀の深い目鼻、濃いくまと、三節昆のように細長い手足と日本人離れした身長。前田は一目で日本人ではないことを悟った。 後藤と名乗る男は、戦争屋となにやら話していたが、覗いていた前田を見るに、戦争屋に前田を指さし説明を求めた。 戦利品だと気味の悪い小笑い交じりに話す戦争屋に、後藤は抑揚なく、「これをよこせ」と端的に言った。 男は焦り、訳を聞きたがった。後藤は「被検体に若い体が欲しい」と述べた。 男は恩を売れると感じたのか、二つ返事に承諾した。 前田は、被検体がどれほど杜撰な扱いを受けるのかを知っていた。しかし抵抗もせず、後藤という男についていくことにした。仲間を残しのうのうと生きながらえた贖罪の機会を神が与えたのだと悟った。 日本へわたり、ギルドの支部を訪れた。 後藤は、前田の衣服を脱がせるでもなく、何を教えるでもなく、手始めに苦い苦いブラックコーヒーを手渡した。 手渡されたコーヒーを不格好に飲み下す。毒をろ過したように苦いコーヒー、食堂を登ろうとする胃液。 ついにはコーヒーしか入っていない胃の中を床にぶちまけてしまう。 しかし後藤は、手に持ったコーヒーカップを置くと、「飲みなれないか」と問うてきた。 前田は、瞳を濁らせる。ああ、ここでも自分は救われないのか。だったらせめて。 「被検体にしてください。」 意志のない声がこざっぱりした部屋に響いた。 後藤は暫く前田を見つめたあと、立ち上がり部屋を後にしようとする。 扉を開ききったのち、後藤は前田のほうに向きなおり、こういった。 「あたりまえだ、そのためにうばってきたのだからな。」 前田は酷く安心した。これで、救われる。

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