タグ： 傀逅

ーーーとある女がいた。その女は大層美しかった。男は彼女を見ればソレを我がモノにしようと躍起になっていた。ある者は女に花を贈り、ある者は女に勇姿を見せ、そしてある者は、強引に…。汚れた女は生まれた赤子を見た。吐き気を催した。ソレは美しかったはずの自分が汚れたという象徴に見えた。女はソレを捨てたのだった。 「テメェクソふざけんじゃねぇぞ！ぶち殺すぞクソガキ！」「オラァッ！」 「…ふむ……ァー…少しいいか？」 「あ？」 「なんだ？あぁ、伊織か。なんだ、遂にヤらせてくれるのか？」 「それも面白そうだが…生憎予定があってね」 「じゃあ邪魔すんじゃねぇよ」 「その少年をもらおうと思っている」 「……アンタ、こいつが何をしたか知ってるんだろ？」 「窃盗、傷害、強盗、別段その程度だろう？」 「あぁ、ソレをココで侵したんだ。そういう事だ」 「ふむ……別に窃盗やら傷害程度で何を躍起になってるんだか…私にはサラサラわからんね」 「確かに、ココはハミ出しもの、ソレも最低の中のゴミが集まる世界ではある。だがな、ゴミの中でもルールってのがある」 「あぁ、はいはい。わかったわかった。その中にルールを持ってきてやったんだ」 「……ひーふーみー…へへへ、わかった、しかたねえ。あんたの頼みだ。ここは引かせてもらおう」 「面倒な男だ。確かアッチでは少女ばかり狙う…おっと口が滑った」 「おいおい嘘つくんじゃねぇよ」 「あぁ、失礼。ついつい嘘をついてしまったよ。クチガスベッチャッタナー」 「チッ…行くぞ」 「まったく…大事な貯金を使って人助けとは…人は変わらんものだナ…畜生め」 「ガキ、お前の命はつい先ほど、私に買われた。だから、助けてやろう。お前を利用する為に、助けてやる。だから、お前は私を利用してみろ」 伊織恭弥(いおりきょうや)27歳。 赤ん坊の時に親に捨てられ、とある女に育てられた。女は赤ん坊に伊織恭弥という名前を付け、生きる力と知恵を与えた。 捨てられた場所は、はみ出し者たちが横行する場所だった。 職業は何でも屋。簡単なお手伝いから死体運びまでなんでもござれ。時には危険な橋を渡り、今を必死に生きている。 20歳の頃、仕事の帰り道で不運な目に合っている少女を見つけた。親に何度も殴られ犯され、気を失っても行動が止まる事はない。その姿を見た時、自分が幼い頃命の恩人に助けられた記憶が恭弥を突き動かした。少女を攫い、家で育てることにした。まともな勉強も受けていない少女を、自分がされたように食料を与え、知恵を与えた。親と同じ苗字なのが嫌だと言われたので名前を付けた。今は「リリィ」と呼んでいる。気に入ってくれているかはいまだにわからない。 家で待つ少女のために、自らを汚してお金を稼ぐ。恭弥は自らが生き残るためではなく、リリィを生かすために行動するようになった。 最近はリリィを独り立ちさせて真っ当な人生を歩めるように奮起している。自分のような犯罪者のもとで育つのではなく、もっと立派な人生を歩む方が幸せだと思っている。だがリリィはその意思を汲み取ってくれないので、悩んでいる。 最近リリィの作る料理が自分の作るものよりも美味しくて胃袋を掴まれかけている。 光を浴びることなど叶わなかった。そこに刺す一筋の光は、自分を照らすには眩しすぎるんだ。 伊織恭弥は幸せだ。

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