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　――田辺五郎は、高校球児であった。 　幼い頃から、プロ野球選手に憧れ、焦がれ、目指し、燃えていた。 　才能にも恵まれ、努力を惜しまなかった彼は、中学卒業と共に、スポーツ推薦で、強豪校へと進んだ。 　高校に入っても、彼は、腐ることなく、数多のライバルたちと、切磋琢磨し、自らを高めていった。 　そして、高校生活、最後の夏。 　甲子園、決勝の舞台。 　彼は、投手として、出場していた。 　９回裏。 　満塁、２ストライク、３アウト。 　ここで打たれれば、さよなら負け。 　抑えれば、逃げ切りだ。 　田辺五郎の手のひらに、汗が湿る。 　じわりとするその汗は、暑さで掻いたものとは、また違うように感じた。 　プレッシャーがかかる。 　頭がどうにかなりそうだった。 　この一球にチームの行方が、そして、自分の全てが伸し掛かる。 　田辺五郎は、人生で初めて、ボールを投げるのが怖くなった。 　逃げたい、と、そう思ってしまった。 　 　プレッシャーに、心が折れそうになる。 　 　――その時だ。 　プレッシャーから、遠ざかっていた音。 　声援の中、突き刺さるように、それは響いた。 　それは、応援ソングだった。 　その音が、その曲が、耳を通じて、身体へと染みわたる。 　緊張をほぐしていく、プレッシャーを跳ね除けていく。 　 　残ったのは、程よい緊張と、持つべきプライド。 　ニヤリと、一つ笑みを浮かべると、田辺五郎は、渾身の力を込めて、最後の一球を打ち込んだ――。 　■　■　 　ヒーローインタビューで、田辺五郎はこう語る。 　――あの時、あの時の曲がなければ……たぶん打たれていた、そう思います。 　――あの曲が、俺にチカラをくれました。もうだめだ、と折れかかっていた心を支えてくれました。 　――音楽のチカラって、すごい、ホントに、そう思いました。 　――俺も、あんな風に、人にチカラを与えられるようになりたいです！！！ 　その言葉の意味を、多くの人間が、“野球”で、だと判断した。 　まさか、その言葉のまま、プロ入りの切符を蹴って、インディーズバンドとしてデビューする、そう捉えた人間は誰一人としていなかった。 　高校球児、田辺五郎。 　今は、龍雲寺カガヤキという名前で、売れないインディーズバンドやってます！ （※ここまで全部、技能＜投擲＞が８５もある理由です）

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