タグ： 科学部OB卓 kwemk 狂気山脈_k

新進気鋭の山岳カメラマン。 被写体としては朝日、夜景、野生動物、高山植物などの自然物を得意としている。 吃音持ち。小学校に入り、その喋り方と体型からいじめにあう。 元々内向的だった性格もあり、歯向かうことも出来ず、親にも相談できないまま鬱々と続く日々に嫌気がさしていた。 登山経験者の祖父母と共に富士に来たのは、山で遭難すれば自然な形で死ねるのではないかと思ったからだった。祖父母が休憩を取っている間、遥は登山道を外れ、針葉樹林の奥へと進んでいく。 何日経っただろうか？座り込んでいた遥の元に男がやってきた。男は遥を寝袋で包んで背負い、携帯食と水を渡した。 山小屋に向かいながら男は「山はどうだった？」と聞いた。遥は「怖かった」と答えた。 整備された登山道に出るのと、夜が明けるのは殆ど同時だった。 鮮烈な光を浴びながら、遥は泣いた。酷く疲れていた。寒かったし、寂しかった。感情が渦巻いて止まらなかった。 男はしばらく朝日に目を細めて黙っていたが、遥が落ち着いて来た頃 「君はたった1人で五合目から八合目まで登った。大したものだ」 と呟いた。遥は顔を赤らめた。 それから遥は山登りをする為に身体を鍛え始めた。 いじめはしばらく続いたが、遥は気にもとめなかった。富士で味わった恐怖と絶望感に比べたら、全く大したことなかったからだ。 泰然とした遥の態度に、周りの人の接し方も徐々に変わってきた。 大学を出ると世界中の山に挑むようになった。現地のガイドは遥と初めて対面すると「子熊がきたぞ」などとニヤニヤしてはやし立てたが、下山してから遥を笑うものは誰一人としていなかった。 遭難した時に助けてくれた男は佐伯万路と言った。 万路に孫を助けられた祖父は彼の姿に感激し、日本の山を登る際には無理を言って同行させてもらい、その勇姿をカメラに収め、彼の功績を記録した。 万路と共に登山中に不幸にも滑落してしまった祖父は、遥が駆けつけた際に一時的に意識を取り戻し「続きはお前がしなさい。あの方は伝説になる」と語り、胸に抱いていたカメラを手渡し絶命した。

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