タグ： きしちゃん

　十年前に大切な人たちを失ってから、何かに駆り立てられるかのように旅をしている。 　特に目的もなければ、将来のことすら何も考えていない。 　 　どこかに決まった居場所を作らないのは、また誰かを失うのではないかという恐怖からである。 　変に仲のいい人間を作らず、静かに、波すら立てずに生活することを目的としていた。 　遠ざけるためにわざわざつんけんするわけではないが、壁を作るようにして懐までは入らせない。 　 　しかしそんな生活を続けていたせいか、夜になると孤独感に押しつぶされそうになることもしばしば。 　家族に会いたくないか――などと質問されれば、揺らいでしまうのも仕方ないだろう。 　会えるわけない、分かってはいても、自然と体はバイクにまたがり、アクセルを吹かしていた。 　生き返ってほしいわけじゃない。十年も過ぎ去った時間の中では、新たに人生を紡ぐことの方が難しいだろうから。 　ただもう一度だけ会いたい。 　さよならも言えず別れたことがいつまでも心残りで、毎晩あの凄惨な光景が夢に出てくる。 　わずかな可能性を頼りに、頭夢児島を目指す。

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