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医者を夢見る女の子。 よく保健室に遊びに行きお手伝いなどをしている。 部活もせず放課後保健室に入り浸っていると、保健室の先生から部活をやってみろと言われ、 あまり顔を出さなくてもよさそうな新聞部に所属した。 部活では取材や調査などはあまり行わず、資料をまとめたり印刷などの雑用を主にこなしている。 人手が足りない場合などは仕方がないので同行する。 授業外では普段、保健室にいるか、部室で本を読んでいる。 物心ついた時から母親はおらず、男手一つで育てられてきた。 母は肺がんで死んだらしい。 父は医者だ。 聞いた話によると母の手術は行っていないらしい。 同僚に任せたそうだ。 確かに、自分の妻に執刀するとなると普段通りの結果が出せないかもしれないので妥当な判断だ。 がんのフェーズはI。 心配はすれども、肺の一部を切除すれば完治するはずだった。 …しかし手術は失敗。 がん腫瘍が肺動脈に近く、それを誤って傷つけてしまったらしい。 医師たちは慌てて止血を試みたが、それに5分程要してしまう。 5分。 短いようで長い時間だ。 その間肺に血液が送られることは無く。 つまり、脳に酸素が届かない状態。 賢明な蘇生処置の後、彼女は死亡した。 それを受けた父親は己の無力を悔やんだ。 もし自分が名医なら、いや。 ほんの少しでも自信を持っていたのなら。 自分が執刀し、彼女を救えたかもしれない、と。 勿論そんなものは結果論だ。 あの状況ではあれが最善の選択だったはずだ。 しかし、彼はそうは思えなかった。 その日は泣きながら頭を下げる同僚を労いつつ、その場で早退した。 その日からだろうか。 彼の中で何かが壊れてしまったのは。 まだ幼い娘。 可愛い子だ。 きっといい子に育つ。 俺は親だ。 一人で育てなきゃいけない。 彼女の分まで。 子供はもろい。 護ってやらないと。 怪我をしたら感染症で死ぬリスクがある。 大きな運動を禁じた。 栄養失調、逆に過度な摂食も危険だ。 彼女が口に入れる物は完全に自分が管理しよう。 そのために栄養士の資格も取った。 風邪も拗らせれば合併症で死亡する可能性がある。 外に出るときにはきちんとマスクを着けさせないと。 手を洗い、うがいを徹底し、他人との接触もダメだ。 一度小学校でマスクを外すのを見たときは驚いた。 その時はついカッとなって檸檬を早退させ、家で怒鳴りつけてしまった。 檸檬は泣いていた。 過度なストレスを与えてしまっただろうか。 いや、これは檸檬の為なんだ。 それより、そんなに大声を上げたら声帯結節の恐れがあるじゃないか。 すぐに辞めさせないと… 父は結局、自分の体を壊し、入院と退院を繰り返している。 医者も続けられなくなり、現在は貯金や生活保護で生きている。 そのおかげというべきか、父からの拘束は緩んだ。 私は父の教育が正しいとは思っていない。 しかし、間違ってもいないと思う。 親が子を想う。 なんてすばらしいことか。 ならば私は孝行せねば罷り通らない。 私も立派な医者になって父を看病してやろう。 徹底的にリスクを排除した生活を保障してやろう。 今度は私が全てを管理してやろう。 それが、親孝行というものだろう？

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