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人工知能工学の権威としちゃあ随分女々しい趣味なもんだ。俺は黄色のクーパーの助手席に身をかがめて乗り込んだ。 「すまない、梓重工のエリートには少し窮屈だったようだね」 ハンドルを握る教授は、空いた左手でピースを薦めた。が、すぐに引っ込めた。「シナモンの匂いがするね。アイコスかい」「さっき一服してきたところでして」 シートベルトを締めるとクーパーは緩やかに発進した。この駐車場はいつまでたっても舗装が古くてガタガタ揺れる。 「それで、やつの様子はいかがです」 「大したもんだよ。柔らかな肌、生き生きした目、自然な立ち居振る舞い、そして人間以上に人間らしい情動反応--おっと、これはうちの仕事だったな。ともかく、誰も彼がアンディーだなんて気が付きやしない。彼自身だって、自分の正体を、つゆとも疑ったことはないだろうね」 報告書の通りだが、直に接している人間から聞くと安心度合いが違う。教授は源五郎の出来に随分満足しているようだった。 「あの様子なら、オプショナルAIもなんなく載せることができるだろう。それで、御社は何をご希望なんだね。ゼミの学生の間では、司書AIなんかが合うだろうって結論だったよ。ま、ようはレポートを手伝って欲しいんだな」 先月の終わりに教授の研究室のAIを誉めそやすレビューを送って以来、教授は随分態度を柔らかくしている。重工の心理分析グループには恐れ入ったものだ。しかし---今日の要件を告げても、このままの関係でいてくれるだろうか。教授は、自分達の多種多様なAIを本当に自慢に思っているのだ。 「それで、ご希望は？」 教授は上機嫌にハンドルを回した。 「美空ひばり、です」 右折レーンに入って、停車すると、教授はハンドルを２回指で叩いて、それから視線だけ俺の方に向けた。 「面白い冗談を言うね」 それから首も俺の方に向けて続けた。 「メインAIはうちの傑作なんだ。そいつに歌わせてどうしようって言うんだ。あれは倫理的に賛否両論だったし、はっきりいって、ブランドを傷つけるよ。だいいち---君たちご自慢の、源五郎のボディは、男物じゃないか」 「それでもです」 「理由を話したまえ。その結論に至った理由を」 「理由はありません」 教授は、一瞬怪訝な顔をした後、ハッと目を見開いた。 「まさか」 「そのまさかです---決定したのは、あなたに納品いただいた、マギシステムですよ」 教授はハンドルを握った腕の間に頭を埋めた。 「青になりましたよ」 深いため息と共にアクセルが踏まれ、ご機嫌な色のクーパーはまたのろのろと街を目指し始めた。 職業セット：歌手 聞き耳 芸術/製作（歌唱） 心理学 目星 魅惑または説得 任意の他の技能3つ ▼トブ老人 クトゥルフ神話+2 ▼シラナイ老人 SAN-1　心理学+6 不定の狂気５セッション　自分が人間ではないのでは？と疑い始める・・・

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