タグ： ざいちか 028

文学部英文学科の大学教諭。映画観賞が趣味ということで映画サークルの顧問も勤めている。鋭い目つきが相応しい厳しい先生だが、顔全体を見れば整った印象であり多少の厳しさになど目を瞑ってしまうという女生徒も少なくなく密かに人気を集めているらしい。最近では、ある女生徒に付きまとわれている姿がよく目にされる。苦労人の素質があるのかもしれない。もっとも、人によっては満更でも無さげに見えるらしいが実のところどうなのかは本人と神のみぞ知る。 彼は恋をしている。否。崇拝と言った方が的確かもしれない。 彼が初めて彼女を見たのはこの学校に赴任してから間もなくのことだった。丁度多忙を極め映画鑑賞という趣味活動が疎かになっていた頃である。一目で彼女に心を奪われたのだ。漆黒の髪に映る夕焼け色のハイライト。影になっていても分かる白い肌。そして、逆光でも眩しさを感じるような彼女の笑顔に、己が目が、心が、釘付けになった。一目彼女を見ただけで映画を一本分見たかのような満ち足りた気持ちになったのだ。それどころか彼にとっては永遠に近しい時間だった。勿論この時彼が見た彼女は偶然はたと目に止まっただけであり、すぐにその場から去っていってしまう。どこか名残惜しさを感じて翌日、彼はまた同じ道を通るのだ。彼女を一目見るために。また翌日、また翌々日、と行為は続いていく。それどころかエスカレートしていった。道の脇で彼女を眺めるだけでは飽き足らず、彼女の制服から学校の特定を、そうすると今度は彼女の通学路を把握し家の特定、次は家族構成、その次は一日の生活を記録し始め、遂には盗聴器や盗撮なども始める。自身の行いに疑問など抱く筈がなかった。これは「有栖川未紅」という一人の少女を題材にした映画を作るのに必要な行いなのだ。また、彼女の身を守るためのものでもあるのだと、信じてやまないのである。 さて、転機というのは前触れもなくやってくる。大学のオープンキャンパスで彼女と会うとは思いもよらなかった。その上、彼女のスマホを拾うとはなんたる幸運だろうか。当然のように彼女のスマホのロックを解除し盗聴できるよう施して返却。また、オープンキャンパスに来たのだからと入る意思があるのではと考え、後日大学の偉い人に推薦枠を取らないかと持ち掛け、彼女が大学に入れるよう仕向けた。彼の睨んだ通り彼女の入学が決まった。これでもっと近くで彼女を観ることができる。ここまで実に順調に事が進んだのはいいのだが、一つ問題があるとすれば彼女が自身の思っているよりも自分に興味を持ってしまったことにある。あまり勘ぐられては自身が影でやってきたことがバレるかもしれないと危惧するのと同時に彼女の物語に自分は必要のないものだと考えており、どうにか彼女の興味が別のものに向かないだろうかと苦悶している。 ─彼女の所作が、彼女の指が、彼女の髪が、彼女の横顔が、彼女の唇が、彼女の瞳が、全てが愛しい。 この目に直接彼女の姿を収めることにすら罪を覚えてしまう。─ 誕生日:5/2 誕生星:くじら座δ星 星言葉:無関心を装った自我 【通過シナリオ】 ・紙の檻 ・狂愛の檻にて愛を喰む

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