タグ： 藤双樹 上級 LM ギャング編バッカーノ

【経歴】 　彼女の名前はクラウンピンク 　笑いと娯楽の力によって世界平和を目指す秘密結社、道化戦隊クラウンジャーの一角である！ 　……という設定で動画配信をしている少女。なお今のところ、彼女以外の隊員が画面に映ったことはない。 　道化戦隊の看板に恥じないテンションの上がり下がり、いわゆる躁鬱が激しく視聴者を選ぶ動画が多い。年頃の少女がしちゃいけない顔芸を頻発するスタイルは、彼女の整った顔立ちもあって徐々にチャンネル登録数を増やす程度に好評。 　また、面会時間（テンションが比較的安定している時間帯をファンはこう呼称している）のトークは軽快であり、地頭は悪くないのだろうと言われている。 　さらなる娯楽のクオリティ追及を求め、人気配信者に弟子入りしたクラウンピンク。 　しかしそこ、【カインドファミリー】は世界征服を目論む怪人の巣窟だった！ 　がんばれクラウンピンク！　負けるなクラウンピンク！　明日の平和はキミの肩にかかっている。 　まずは安全を確保するため、ゴマをすりまくってご機嫌を取るのだっ！ 　深淵を覗く者は深淵からも覗かれている。 　ならば、この逆もまた然り。 　深淵に十五年間覗かれ続けた者は――どうなる？ 　ある日突然、母と姉が死んだと聞かされた。 　母の遺体は比較的綺麗だったが姉の方は損壊が激しく、原形をとどめているもっとも大きい部位が右手首という有様。 　明らかにパーツが足りておらず、犯人が持ち去ったのだろうと警官は顔色を悪くしながら言った。それでも現場に残された血液は本人のものと断定されており、その出血量から生存は絶望的だと、努めて淡々と説明してくれた。 　信じられなかった。 　姉は生きている。そう確信して懸命に探した。 　そして事件の黒幕であるところのFHの警戒網にあっさり捕まり、特段殺す価値もないと十把一絡げのモルモットとして研究セルに送られた。 　それがひとつめの転機。 　その研究セルで、彼女は選ばれた。 　あまたの犠牲を出した研究に適合し、オーヴァードとして覚醒した。 　そしてそのタイミングで研究セルがコードウェル博士にとって不都合なものになったらしく、“マスターレイス05”ヨハン・C・コードウェルが完膚なきまでに破壊した。その混乱に乗じて逃げ延びることができた。 　それが二つ目の転機。 　脱出したけど、家に帰ることはできないことくらいには、自分の状況が理解できて。 　FHに戻るのは論外。だからといって、UGNに所属しても目的は遂げられない予感があった。 　姉を見つける。見つけてどうしたいのか、自分でもわからない。けれど、もはや強迫観念だった。 　そんなときに目にした、とあるオーヴァードが行ったネット配信。 　調べてみると元マスターエージェントが起こした新興勢力。UGNでもFHでもない第三勢力。時間が無い。伝手が無い。このままでは未来が無い。 　いちかばちか、庇護を求める先としては十分すぎた。これが三つ目の転機。彼女は賭けに勝った。 　警官の話を聞いたとき。 「あのバケモノが寿命以外の要因でこの世を去るなどと、そんな都合のいい話があるわけがない」 　世界はそんなにやさしくない。十五年の人生でさんざん思い知らされていたから、信じなかった。 　彼女の名前は波渡（はわたり）杏里（あんり）。 　強力な磁石の隣に置かれた鉄が磁力を帯びるように。 　『異常』に観察され続けた結果、ごく当然の帰結として歪んでしまっただけの、ごく普通の女の子だ。

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