タグ： 自主引退

元医者のホステス。 唯一の肉親である弟を救うために医者になったが、施す手もなく2年前に息を引き取った。 無力感から医者を辞めた。以降、何をするにも無気力になる。生きている理由が無くなったためだ。 年の離れた弟は両親の忘れ形見だった。 両親と弟は車に乗って彼女の元へと向かっていた。塾が終わった彼女もそれを待っていた。だが迎えはいつまで経っても来なかった。 ──ファミレスでご飯食べるって言ったじゃないの。今日はハンバーグ食べさせてくれるって言ったじゃないの。誕生日、祝ってくれるって言ったじゃないの。── いつまでも来ない迎えを待つのにも疲れて徒歩にて家路につく。パトカーが、救急車が、他人事のように通り過ぎていく。「ただいま」声を伴って帰って来れたのは16歳の彼女だけ。両親は物言わぬ肉体となり、8歳の弟はそれから目すら開けることもなく病院で寝たきりとなった。 弟が亡くなる前は世話焼きで喜怒哀楽のはっきりとした人物だった。 そのうえ美人であるため患者さんからは大変人気があったし、有無を言わさぬ眼光と卓越した能力から先輩医者には怯えられ、同期や後輩からは相談役として常に周りに人が絶えない人物であった。 勤めていた病院からセクハラを根絶させたのは彼女の力である。故に女性看護師からの人望もあった。 だが病院も男社会。揉まれに揉まれ、物怖じしないたくましい人物へと成長していった。 だが今は見る影もない。 生きている意味がないため、誰かに自分の行動の指針を求めている。 そのため街のキャッチに言われるがままに風呂に沈められそうになったが、上の人がその美貌に目をつけホステスになった。 にこりとも笑わない人形のような女ではあるが、その美貌と知性、求められることをすべて行おうとする異常性に物好きな客がついている。 彼女が欲しいものは、たった一言である。 どこの誰でもいい。彼女は待っている。一緒に死んで欲しい、その一言を。 心中はいちばん幸せな死に方だと思っている。 でもこんなからっぽな自分と死んでくれるひとなんていないし、自分から幸せになってはいけない(心中を誘ってはいけない)と喪失感から思っているため、身体中には傷痕だらけだろう。

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