タグ： 嶋田ハヤ

海枯れHO1、露木碧の前世。 寡黙な青年。心根は非常に優しい。 帽子を深く被り、顔をあまり見せようとはしない。顔自体も画材でいつも汚れている。 物心ついた頃から、歳の離れた"兄"と共にいた。彼が本当に血の繋がった兄だったのか、それとも赤の他人だったのかは今ではもうわからないが、兄と呼んで慕っていた。兄は、いつか金持ちになってこの貧民街を出ることが夢だと言っていた。そしたら綺麗で大きな屋敷を建てて、一緒に美味いものをたらふく食べて、ふかふかのベットで寝ようと笑いながら話をしてくれた。貧民街での暮らしは酷く苦しいものだったが、どんなに辛いときも兄がいて、側で助けてくれた。優しい兄だった。 ある日、兄から良い仕事をもらったと報告される。なんでも、仲間の伝手で貴族の屋敷に奉公に出られると言うのだ。もちろん仕事は雑用ばかりになるだろうが、貧民街から出て今よりいい暮らしができるという話だった。自分は準備をしてから行くから、先に仲間の元へ行ってと待っていて欲しい言われ、その通りにした。 しかし、待てども兄は来なかった。先に行こうと言う兄の仲間を名乗る男たちに、待って欲しいと再三頼み続けたところ、痺れを切らしたように告げられる。 兄が自分を売った事実を。 丁度、顔の良い少年少女を高値で買い取る趣味の悪い貴族がいるらしい。男たちは貧民街の孤児、中でもとりわけ顔立ちの良いスカイに目をつけ、兄に金銭の交渉したところ、その要望を呑んだそうだ。 話を終えると男たちはスカイを捕まえて強引に連れ去ろうとしたが、品物のために乱雑には扱えなかったことが幸いしてか、隙を作って逃げ出した。 命からがら寝床にしていた場所へと帰ると、兄の姿はもう何処にもなく、以来二度と姿をみせることはなかった。彼は兄に裏切られた。 以来、人を信用できなくなった。何かに期待すれば、その分喪失が大きいことを学んだからだろう。酷い絶望感を感じながら、荒んだ心を抱えながらも、それでも1人でうまく生きていかねばならなかった。そんな孤独な少年時代に出会ったのが、「天使の歌」だった。心を満たしていた絶望に一筋光が差したように思えた。この時はじめて、彼は新しい自分だけの夢を抱いた。 しかしこの貧民街で、1人で生活しながら絵を描くのは簡単なことではなかった。生活は苦しくなる一方で、人々には評価されず、周囲からは無駄なことと馬鹿にされた。段々と最初の情熱が失われていくのを感じていた。それでも夢に縋って描き続けた。酒場のポスターを真似て描いた女の絵が高値で売れるまでは。贋作は評価された、一方で自分の絵は見向きもされなかった。周囲の言葉は決して間違っていなかった。全て無駄なことだったのだと思い知った。そして彼は夢を諦め、贋作家として生きていく道を選んだ。 しかし心の奥では、誰かに自分だけの絵を見て欲しい、認めて欲しいと願っている。

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