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都市の一角でスキューバダイバー…らしきものをしている女性。 実態はと言うと、水底に沈んだガラクタを回収しては売却して日銭を稼ぎ、それ以外の時間は釣りや素潜り、日雇いバイト等をして食い扶持を稼いで日々を過ごしている。 彼女は生まれた直後に親に捨てられ、籠に入れられて海に流されている（なんでも、父親の人格に問題があったようで子供が生まれるのを良しとしなかったようだ）。 そしてその籠が流れ着いた先。都市部沿岸、少子化が進み今や誰も寄り付かなくなったとある砂浜で彼女はとある女性に拾われた。 その女性は『森谷　ユキ江』と言い年齢は60歳前後といった風貌だ。後に『ばっちゃ』と呼ばれる存在である。 『ばっちゃ』はこの砂浜で簡易的な家を作り暮らしていた（とはいえ廃材をかき集めただけのボロ家だが。） そんな折に籠に入った赤ん坊が流れて来たものだからたまらず飛びついて救助、保護をする。 透き通る様な水色をした髪を見るに、よほど特殊な生まれでもしたんだろうと考えた『ばっちゃ』はここで拾ったのも何かの縁と考え、育てる事を決意した。 苗字は自分の森谷を充てるとして、名前をどうするか考えた際にまず思いついたのが死別した旦那の事だ。 『ばっちゃ』は元々若い頃に海女として海での作業に勤しんでいた。ある日いつもの様に海に潜り作業をしている所、突然海流の流れが強まり沖の方角へ流され始めた。海女としての経験がまだ浅いため慌てふためき、海水を大量に飲んでしまい意識を手放してしまった…そんな若かりし『ばっちゃ』を助けたのが当時海軍として近海で訓練をしていた『森谷　太陽（もりたに　たいよう）』だ。溺れる『ばっちゃ』を見て思わず船から飛び込んで救助に向かったのだそう。 その出会いから始まった二人の関係。子供には恵まれなかったが幸せな人生を謳歌出来た━━━。 そして数年前に旦那が心臓の病気で死去。それ以来は天涯孤独の身として生きていた。旦那の蓄えてあった財産は、必要な分のみを残し、他は全て募金へ回した。そうして一人慎ましく、旦那との思いでが多く詰まった砂浜で海を眺めつつ過ごしていた…所にこの赤ん坊が流れてきたのだ。 少し考えた後、『ばっちゃ』は赤ん坊に『真理音（まりね）』と名付けた。旦那が海兵、ＭＡＲＩＮＥだったためそこからとった。いつかこの娘も、旦那の様に誰かを助ける事の出来る優しく強い子に育って欲しいという願いを込めて…。 そして赤ん坊を育てると腹を決めた『ばっちゃ』は数十年振りに海女の仕事を再開。周りからは止められたが、真理音の分まで稼がなくてはならないため張り切って作業に勤しんでいた。 そんなある日、とうとう真理音が言葉を発し始めた。まずは自分の事を呼んでもらおうと、「ほぉら、おばあちゃんだよぉ～！」と呼びかけ続けた。 …その結果、真理音の口から飛び出たのが「ばっちゃ！！」である。以後、なんど訂正しようと試みてもこの呼び方が変わることは終ぞなかった。 真理音が物心ついた頃からは、『ばっちゃ』は彼女に生きる術、引いては海女の心得を叩き込んだ。真理音はそれ割と素直に受け入れ、どんどん吸収していった。生長していく真理音の姿を見て親心を感じ思わず心が熱くなる『ばっちゃ』であったが、この子が結婚する姿を見る事は出来ないだろうと薄々感じていた。そう、身体にガタが来始めたのだ。つい最近は血の混じった咳なんかも出始めたためいよいよか…と覚悟を決め始めた。 だが表面上だけでも取り繕うと決めている。この子に情けない姿は見せない。最後まで元気な『ばっちゃ』で居ようと。 「ばっちゃ…最近顔色悪いよ…？今日くらい、お仕事休んでも…」 「何言ってんだいこのバカ娘！ばっちゃはね、一生現役だよ！それこそ、あんたがシワシワの婆さんになってぽっくり逝くのを横で看取ってやるともさね！」 だが、やはり限界は来た。娘が高校を卒業した辺りで呼吸すら苦しくなる日々が続き始めた。最近、物忘れもひどくなり、もう到底海には潜れそうにない。 もう、あの娘は一人で大丈夫だろう。そう考え、手紙を残して夜中に家を出て行ったのだ。 『少し遠くの海へ出稼ぎに行ってくるよ。結構帰りが遅くなるから、その間は一人でどうにかしな。どうしようもなくなったら、ばっちゃの布団の下に通帳があるからそれ使いな。多少は食いつなげるからね。…最後に、ばっちゃが帰ってくるまでに良い人を見つけておくこと。もし見つける事が出来たのなら、ばっちゃからご褒美があるからね。楽しみにしておきなさい。』 …時は流れ、現在。真理音は今日も元気に海へダイブしている。『ばっちゃ』の残してくれた財産を少しづつ切り崩してはいるが、ある程度は自分で稼げるようになっている。現代では科学が進み、様々な事が機械で代用されていく。いつか自分の日常も機械に奪われるのだろうが、その日が来るまで…いや、その日が来ようと、彼女はそれでも懸命に生きるだろう。『ばっちゃ』とまた会える、その日まで。 「…いやぁ、流石にスキューバダイビングの体験教室とかは機械で代用出来ない…よね…？」 「…お！？めちゃくちゃ引いてる！大物の予感っ！…ありゃりゃ、バレちゃったか…」 …大丈夫そうだね。

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