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丹比 羽姫 □設定 翻訳家、妹キャラ、世渡り上手、少し腹黒 「はっ…はっ…は…っ…」 大切な人が亡くなるとき、私はいつも間に合わない。 ありがとうもごめんねもだいすきももっと普段から言えればよかったけど、せめて今際の別れで気持ちを伝え見送ることができればどれだけ救われただろう。 ​─────── 最初のお別れは実の兄。 思春期、辛いことが重なった兄はビルの屋上から飛び降りた。 相次いで両親の死。 海外出張から日本に帰ってくる予定の飛行機の墜落事故だった。 そして私が成人するまでほとんどの面倒を見てくれていた祖母は趣味の山登りの途中瀕死状態になり、駆けつけた頃には息を引き取っていた。 大切な家族が亡くなり日本に思い残すことがなくなった私は海外へ発ち、ホームステイ先でセロ・フィッツロイと出会った。 フィッツロイ家は皆仲が良く、私とも家族のように接してくれた。だが、長男であるセロが家族から孤立するように山登りに打ち込み皆を心配させる姿が家族を失った私には理解ができず、恨めしかった。 ある日登山から帰ってきたばかりのセロと家で鉢合わせ、2人きりになってしまった。 「おかえりなさい、疲れたでしょう？」 いつも通り笑顔で声をかけたが、セロは言った。 「いいよ、無理に笑いかけなくても」 「僕のことを心配している家族のことを思っているんだろうけど、君の家族だってここにいる君のことを心配しているだろう」 履き古した登山靴の手入れをしながらそう言う彼は視線を合わせない。 笑顔で接して来たつもりだが内心軽蔑していたことを見抜かれていた私は平静を取り繕い、自分の家族はもうこの世に居ないことを伝えた。 ようやくこちらを見た彼は謝り、しばらく考えると言った。 「ハネキ、君はどんな景色を見れば満足して人生を終えられると思う？｣ 彼の声はいつになく優しい。急になに、と思いながらも耳を傾けてしまう。 ｢家族の泣き顔に見舞われて？あるいは日常の景色の中で？｣ 彼は続ける。 ｢…不謹慎だけど君の家族が最期に見た景色はきっと、素晴らしいものだった」 本当に不謹慎だ。だが、考えたこともなかった。家族が最期に見たものは思えばどれも高いところから見渡す景色で、そのとき家族が何を思ったか。死ぬ時は苦しいに違いないが、その直前に見た景色が素晴らしければ自分自身が想像しているよりも思い残すことは少ないのだろうか？ 大切な人たちの死に際に立ち会えなかった薄情な自分を悔いてばかりだった私に、一筋の光が差した。 ​─────── 澄んだ薄い空気、風の音、心臓の音が包む中、私の目の前にはセロの背中があった。額に汗を滲ませながら必死に彼に着いて行くと、今まで積もりに積もらせたやり場のない気持ちが地面を踏みしめる度に山へと消化されていくような感覚を覚えた。 単純だろうか、あのセロの言葉で私の世界は180°変わったようだった。 気づけば数え切れないほどの山を登っていた。 眩しい朝日と美しい展望を見る度、大切な人たちの最期に見た景色もきっと綺麗だったと自然に思うことができる。 セロは何を考えているのだろう。 もう幾度も彼の背中を追いかけて山頂に辿り着いても、彼の心には到底辿り着けそうにない。 しかし、山は私たちの全てを受け入れてくれるだろう。 自殺願望こそないが、危険なクライミングにのめり込む彼が山で死ぬことがあればその時は、私も同じ景色を見たいと、そう思っていた

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