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「坊主、うちに来な」 冷たい雨の日に、老人は少年に傘手を差し出した。 どうして天涯孤独の身になったのかは覚えていない。どうして雨に打たれていたのかも覚えていない。 老人は武人の手をしており、一般人とは思えぬ覇気を持っていた。 連れられてたどり着いたのは日本家屋の大豪邸で、1人の少女が出迎えてくれた。 彼女には両親がいないのだと言った。年齢も同じ程度で、とても親近感を感じた。 それからというもの、老人に武術を叩き込まれる。最初の頃は戦う力など不要と思っていた。 しかし次第に、命を救われた恩を返すため、そして隣で笑う少女を守るために、日々の稽古に励んだ。 ある日、老人に蔵に仕舞われた一振の刀を見せられた。 光を鈍く重く反射するその刀身に、魅了された。 この一族に伝わる霊刀の1種で、この一族はそれを受け継ぎ妖怪の類を退治してきたのだという。 そして、いつかは自分に託しても良いと同時に語った。振るわぬのが最も良いと笑いながら。 本来の継承者の彼女に戦わせるのは、自分としても許したくはなかった。 優しき日々は続かない。 出会いの日と同じ、冷たい雨の日に終わりは訪れる。 何が起こったのか理解できなかった、理解したくなかった。 黒く光る表皮を持ち、長いその体を畝ねらせ、黄金の大きな瞳は少年を見下ろしていた。 壊れ燃えるその家屋の瓦礫と共に、見慣れた老人の腕が転げている。 少女の姿はない。何かの偶然で、何処かで生きていてくれと願った。 咄嗟に無事な蔵へと逃げ込んだ。あの巨大な化け物に勝てるとは思わなかった。 眼前の怪物は妖怪だ、ならばこの霊刀で屠れぬはずはない。 刀の仕舞われた桐の箱を開ける。あの怪物が動く度に大地が揺れる。 震える足を堪え、逃げろと警鐘を鳴らす己の心を奮い立たせた。自分の何倍もの大きさの相手に勝てるはずがない。 しかし負ける訳にも行かない。自分に日常をくれた恩人たちのために。 最後の一閃が怪物を屠る。辺りは恐ろしい程に静かだった。 赤い雨が降り注ぐ中、少年は怪物の死骸の傍らに転がるキーホルダーを見つけた。 少年が見間違うはずがない、それは少女と老人と出かけ、少女と揃いで買った、少女のキーホルダーだった。 そして目の前の怪物が、ジャームであることを察し、そのジャームが元は誰だったのかを察し、そして自身の全てを想起した。 自分はUGNチルドレンで、力が極めて微弱なために一般人として暮らしても問題がないと判断され、記憶処理を施され、放り出された存在であったことを。 こうしてジャームをレネゲイドの力を使わずに退治したことで、UGNの監視下に置かれることとなった。 都合のいい連中だ、使えるとなれば道具のように使い潰すなんて。 それでも、老人の教えを受け継ぎ、そして何も知らずに大切な人を己の手で殺すような人間が生まれぬように、戦うしかない。 嫌々ながらもUGNと協力しながら、イリーガルの少女と、チルドレンの少年と任務をこなす。 『賢者の石』が覚醒のきっかけとなったことを知り、それを使用した人間を探している。 その中でとある海底施設で賢者の石の研究が行われていたことを知り、見学・協力の為に潜入し、知人がジャームと化す姿を見た。 多少なりとも自身にもその責があると考えており、彼の引継ぎという形でUGNに再度所属することを決める。 その方が、『賢者の石』に近付けることを知って―。

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