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「やあ、ボクはしがない画家さ。 そうだ、今度街外れの公園に来てくれよ。娘と絵を売っているんだ」 12歳の娘を持つ父親木崎　幸臣（きざき　ゆきおみ）。 大学時代の同級生の妻と3人で穏やかに過ごしている。 仕事が休みの日は娘と一緒に路上で絵を描き売ったり、投げ銭をもらったりしている。 油絵や水彩を得意とするアナログな父とは違いハイテクなものに詳しい娘で、 同じモチーフを幸臣はアナログで、娘はYou Padで描き、二つのイラストを セットで売るスタイルだ。そんな仲睦まじい姿が近所の人たちに好評で、 出店を開く日は少なくない見物人（たいていが暇な年寄りだが）が見てくれた。 夕暮れになると並んで帰り、馴染みのサンドイッチ屋さんに寄り、 稼いだ金でその店の名物であるソーセージ卵レタスサンドを買って帰るのだ。 そんな平和な毎日を幸臣は嚙みしめながら過ごしている。 12年前━━ 「幸臣さん、このニュース……」 「なにかな？」 妻に呼ばれリビングに行くと、テレビには悲惨なニュースが流れていた。 「なんて惨い……………」 妊娠8か月の妻は、絶句と言った様子で口元を抑えた。 「見るべきじゃない。キミのためにも。この子のためにも」 愛する妻の肩を支えながら、寝室へ案内する。 ━━しかしニュースの被害者が自分の娘だったらと思うとぞっとする。 12歳の少女が誘拐され、拷問の末に殺害……？ 考えるだけでおぞましい。 我が子は絶対にボクが守り抜く。そう決意した。 〇木崎　幸臣（40歳） 芸大で付き合い始めた彼女と26歳で結婚。28歳の時に子供が生まれる。 現在は高校の美術の非常勤講師と路上画家の二足の草鞋。 生活費のベースは妻が働いて稼ぐ形で、幸臣は家事全般、娘の送り迎え、 食事の用意などもろもろをこなしている。 〇木崎　沙知緒（40歳）さちお 幸臣の妻。現在はWEB関連のデザイン事務所でチーフとして働いている。 幸臣の作る作品の繊細さと優しさに惚れ仲良くなったものの、 付き合っていくうちに本人の落ち着いた人格と公平な視点に尊敬の念が芽生え 結婚を決意した。 〇木崎　幸子（12歳）（みこ） 両親の芸術性を余すことなく受け継いだ一人娘。 決して裕福ではないが、イラストのための道具は何でも買ってもらえる 環境に満足している。将来の夢はイラストレーター。 【はらからきょうきょう】

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