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（あだち　けい） 物心ついた時には孤児院にいた。実の両親など覚えてもいなく、ないものを求める事もない。ただ生まれた時に包まれていた毛布の感触だけが何年たっても好きだった。今でもふわふわしたものに包まれていると心落ち着く。季節が夏を過ぎ肌寒くなる前には、その感触が恋しくなる。 孤児院には小学にあがる頃まで生活していた。親のいない子供だけの時間がながい生活は当然生傷の絶えないものだったし、身を守る手段として手や足のよく出る所謂やんちゃな子どもだった。孤児院から引き取られる時は友だちとの別れに泣いたし、真っ当な情緒を持ち合わせていたと思う。 養家は優しくて立派な母親と父親が迎えてくれた。朝ご飯に焼き魚に大根おろしが添えられ、出汁から取った味噌汁が並ぶような、経済的にも人柄的にも満たされた家だった。そんなに穏やかな家なのに窮屈さを感じてしまう自分がおかしいのだろうか。養家の両親の事を愛していたし、だからこそ立派な職につこうとジャーナリストを目指した。そこは幸せで少し窮屈な満ち足りた生活だった。 偶にどうしても解放感を求めてしまう時は、家を抜け出して空き家を自分の陣地にして時間を過ごした。そこで知り合った夜に徘徊するような友だちが実は何人もいるのだが、家には知られないように細心の注意を払っている。こんなに良くしてくれている養家に悪いという気持ちもある為、顔色を伺う事が息を吸う様に出来る。特別に華やかでもなければ、特別にお喋りでもない、その辺にいそうな男。何かをする前にじっと息を顰め様子を伺う癖がある。どこか自分を蚊帳の外に感じてしまう事があり、そんな疎外感からオカルトめいた熟知されていない世界に親近感を持つこととなる。オカルト雑誌の記者は、警戒されにくい自分が話を聞く事がしやすく割と天職。 祭りについての情報などほとんどない。逆にジャーナリストとして興味が沸くほどの餌がないのにこんなに引き寄せられるのが不思議でしょうがない。毎年 8 月 30 日に祭りがあるとそれだけ書いたホーク急便の人は何のためにそれを書いたのだろう。少なくとも、その人を頼れば少しは祭りの事がわかりそうだ。島の住人が巨大な蜘蛛を信仰している話は、調べれば調べるほどネット関係で調べられる事は匿名で信ぴょう性もなければ言っている事もまちまちだった。オカルト板から得た情報は、歯が何本もある、と言ってる人から、人間のような顔をしていると言ったものまで様々。自分はジャーナリストだ。時間が少ししかなくとも、地道に手間をかけこの巨大な蜘蛛がいて島民はそれを信仰している、の「噂の正体を知りたい」と思っている。そうすればこの「懐かしさの正体もわかる」だろうか。 真崎　暁人

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