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「魔女」の名を持つ男性。いつもフードを目深に被っている。常に敬語で話す。 疑り深く、警戒心が強い。一方、幽霊や狼など付き合いの長い人間は信用しているのか砕けた口調で話すこともある。 戦闘は苦手で、後方支援や情報収集がメイン。メンバーからの依頼は報酬次第で受けているが、幽霊からの依頼は必ず断らない。 人の名前を名乗る必要がある時は「ジュン」と名乗っている。 （以下背景） ――――― かつては医者の一人息子だった。中学までは厳しくも優しい両親に育てられ、不自由なく育った。 中学2年生の時、両親から「自分たちには血の繋がりがないこと」を聞かされる。 子を授かるも相手に逃げられ、お産の金もなく両親を頼った女性がいたのだと。 子供に恵まれなかった両親が、そんな自分を実子として引き取りここまで育てたのだという。 少なからずショックは受けたが、これまで愛されて育ってきたことも事実。さして時間もかからずに受け入れることはできた。 両親のことは愛していた。 ただ、知りたかっただけなのだ。 好奇心から、自分のルーツを知りたくなった。 母親はどんな女性だったのだろう。父親はどんな男性だったのだろう。今はどんな暮らしをしているのだろう。 義理の両親にそれとなく聞いても、はぐらかされてしまう。寂しそうな目で、私達が本当の親子だからと諭される。 彼らをこれ以上悲しませたくなくて、ちょっとばかりの罪悪感と共にこっそり自分で調べることにした。 養子縁組ネットワークを調べ上げ、女性の出どころを探る……苦戦はしたが、どこか宝探しのようでワクワクした。どこを調べても情報は引っかからず難航していた時、両親の経営する医院の、カルテのデータを閲覧することを思いつく。当然セキュリティはかかっていたが、知りたいという欲求には勝てず、それを卸して中を暴いた。 そうして、真実を知ってしまった。 自分は取り替えられていたのだ。 子を授かり、相手に逃げられていたのも事実だった。 お産のお金がなかったのも事実だった。 ただ、その女性は子を産むまでその性別を知らなかったのだ。 義理の母は、元々子供のできにくい体質だった。その上、父の家からは男児を産めと強くプレッシャーをかけられていた。第1子をようやく授かるも、性別は女児。父の家には打ち明ければ、責め立てられるのは目に見えていた。母は心を病んでしまっていた。 「この子が男の子であったのなら」 「男の子が産まれてくれたら」 「男の子が欲しい」 そんな時に転がり込んできたのが、“男の子” を孕んだ実の母だった。 胎児の性別を知り、母は狂喜した。 「男の子が、手に入る」 父親も加担した。実の母に性別を誤魔化し、彼女達の出産予定日を調整し、そして、同じ日に産まれた男の子と女の子を入れ替えた。男の子を我が子に迎え入れるために。 実の母を見に行った。可愛らしい女の子と、幸せそうに暮らしていた。 彼は名を捨てて、姿をくらませた。 繋がりを求めて、実の父親を探し始めた。 過去、母親との間に子を生した男。情報としては頼りないが、彼にとっては十分な手がかりだった。根気強く調べ続け、やっと1人の男性を見つけ出した。 そして、会いに行った。男は彼の登場に喜び、抱きしめ、家族になろうと甘い言葉を囁いた。男にとって、彼が実子であるかはどうでもよかった。ただ、利用できそうな人間が向こうからやってきたことに喜んだ。 男は金が必要だと言った。 彼はなんでもした。男が紹介した友人伝いに犯罪行為に手を染めた。荒事は不向きだったのでハッキングや薬の売買が中心だった。男は薬に依存しており、定期的にまとまった金を要求した。用意できなければ暴れるが、金さえあれば自慢の息子だと褒め、温もりを与えてくれる。血の繋がった親に求められる生活は、彼にとっては幸せだった。父のためならどんなことでもするようになった。勤勉な性格が功を奏し、それなりに「使える」人間になった。 男が「友人と飲みに行ってくる」と言った日。少々ばかりの好奇心で男の端末をハッキングしてみた。最近手にした技術を、身近な人間で試したかったのだ。そうして、通話内容を聞き取った。 男が会っているのは友人ではなかった。彼が男のためにやってきた犯罪行為で、裏稼業の人間から目をつけられたのだ。命惜しさに、男は叫んだ。「アイツが勝手にやったことだ。俺はアイツとは無関係だ」彼の居場所を伝え、彼を足切りにしようとした。 彼は再び姿をくらませた。 後日、男は身元不明の死体としてお茶の間のニュースのひとつになった。 現代社会の歪みだ、とコメンテーターがもっともらしいことを言って、あっという間に他のニュースに埋もれていったのを彼はぼんやりと聞いていた。男との暮らしを思い返せば、自分が愛されてなどおらず、ただ利用し尽くされただけなのだとわかった。その怒りをぶつける相手はもうどこかの港に浮かんでしまったらしい。虚しさだけが心に広がった。 義理の両親が懐かしく思えて、手放してはいけないものだったように思えた。温かい記憶を頼りに生まれ育った家へと帰った。「ただいま」……そんな言葉と一緒に顔を見せれば、父さんも母さんも迎え入れてくれるような気がした。彼らはどうしているだろうか。彼はすっかり慣れた手つきで電子機器をハッキングし、今の彼らの様子を盗聴した。そして知ったのは、既に自分は死んだことにされており、新しく迎えた養子と平和に暮らす両親だった人達。帰る場所などとうの昔になくなっていたのだ。 幽霊に声をかけられたのは、その頃だった。 「そこはもう君の生きる世界ではない」 幽霊は居場所を失った彼に仕事を与え、組織という住処を与えてくれた。その中で今は生きている。幽霊が持ってくる仕事は絶対断らない。 好きなものはお金。嫌いなものは無知。 余談だが、偽名として使う「ジュン」は実母の娘として暮らしている少女の名前。だって、本当は自分につけられる名前だったのかもしれないのだから。

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