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黒井慎二/バッファローマスク ●ビルドメモ 年齢によるEDU成長+3 年齢によるAPP減少-1 ●概要 慎二はかつて「バッファローマスク」の名で日本中から嫌われたプロレスラーだ。 -- 慎二が生まれたのは1967年。 中学校に上がる直前に父と見た猪木vsアリの試合と、その晩深酒した父の寝タバコが起こしたボヤ騒ぎが慎二の人生を決定付けた。 -- 火事で顔がケロイド状に爛れた慎二は、しかし体格にだけは恵まれた。 プロレス事務所の親方は「燃え盛るボロアパートから臨月の母を運び出した」という慎二少年の男気を買って黒井一家の面倒を見たのだった。 -- 慎二はバッファローのマスクを被るヒール役として活躍した。 ヒーローが慎二を打ちのめし、バッファローマスクを脱がすと、慎二の火に炙られた醜い顔が全国中継された。 慎二はプロレスラーとして火事で死んだ父の代わりに母と妹を養い、日本中から嘲笑され続けた。 -- 結局、母は幸せだったのだろうか？ 慎二は今でも考える。 母は焼死した父を恥じ、慎二のことを世間様から隠しながら、細々と生きて静々と死んだ。 母の最期の数年は人生への呪詛にまみれていた。 そしてそれは男に逃げられて自殺した妹も似たようなものだった。 -- 慎二が日本中から笑われてでも守ろうとした母と妹は死んだ。 じゃあ彼の人生は無意味だったのだろうか？ 「そんなことはない！」 慎二は家族の墓前で叫んだ。 彼の腕の中には、亡き妹が産み捨てた赤子がいた。 -- そして2017年。 忌まわしき灼熱が車両ごと慎二の妹の娘を焼いた。 全身を焼かれる彼女の叫びを、慎二は彼女を迎えるはずの駅のホームで聞いていた。 -- いくつかの偶然。 いくつかの魔法。 いくつかの深淵。 いくつもの禁忌。 ……慎二はようやく偉大なる片道切符を手に入れた。 【大岩雁次(おおいわがんじ)/メテオ大岩】 ●概要 雁次はかつて「メテオ大岩」の名で日本中から愛されたプロレスラーだ。 -- 雁次が生まれたのは1967年。 プロレスブーム真っ只中において、恵まれた体格と甘いマスクを持つ雁次がプロレスラーに憧れたのは当然のことだった。 -- ジャイアント馬場よりわずかに大きい雁次は瞬く間に注目を集めた。 特にポールの上から跳躍し相手にその巨体をぶつける必殺技は見るものを熱狂させ、その技から雁次はメテオ大岩として順調に出番を増やしていった。 また、雁次は敵役にも恵まれた。 バッファローマスクの名で知られるその男は、雁次と同じ体格と才覚を持つが故にいつも雁次と名勝負を繰り広げ、しかし雁次と違って醜かったが故にいつも負けて醜態を晒してくれた。 時代と体格と才覚と容姿と敵役に恵まれた雁次は、やがて馬場・猪木に次ぐプロレス・スターとなっていく。 -- 「そういえばジョン・レノンも熱狂的なファンに殺されたんだっけ」 雁次は救急車の中でそんなことをぼんやりと思った。 突然雁次に液体をかけてきたそいつはよく試合やサイン会で見かける男だった。いつも酒だとか菓子だとかの差し入れを渡してくるやつで、今日のプレゼントは濃硫酸だったというわけだ。 一命を取り留めた雁次は、しかしその美しさのほとんどを失ってしまっていた。 世間は美しくないメテオを認めなかった。むしろ雁次から目を背けることで思い出を美しいまま留めようとしているようだった。 雁次は復帰後にわずか2試合だけ行いすぐに引退を宣言した。 最後の試合の相手はバッファローマスク。雁次はその日はじめて彼に負けた。 -- 現在、雁次はプロレストレーナーとして生活している。 以前の栄光など望むべくもないが、とはいえ彼にはプロレスしかないのも事実。 雁次は今年で54歳。今日も暗く埃っぽいジムのリングを舞う。 かつて日本を熱狂させたメテオはいまだ健在であった。

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