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クトゥルフ PC作成ツール
コウ
ID:5367921
MD:81bf7abe864a608a651438c9a1c9c7e2
コウ
タグ:
亜月式NPC
振斗
天国送りの折れた角
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生まれ・能力値
STR
CON
POW
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初期
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その他増加分
一時的増減
現在値
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CON
POW
DEX
APP
SIZ
INT
EDU
HP
MP
初期
SAN
アイ
デア
幸運
知識
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SAN
現在SAN値
/
(不定領域:
)
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非表示
簡易表示
通常表示
技能
職業P
/
(うち追加分:
)
興味P
/
(うち追加分:
)
表示
初期値の技能を隠す
複数回成長モード
非表示
簡易表示
通常表示
<戦闘技能>
成長
戦闘技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
回避
キック
組み付き
こぶし(パンチ)
頭突き
投擲
マーシャルアーツ
拳銃
サブマシンガン
ショットガン
マシンガン
ライフル
非表示
簡易表示
通常表示
<探索技能>
成長
探索技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
応急手当
鍵開け
隠す
隠れる
聞き耳
忍び歩き
写真術
精神分析
追跡
登攀
図書館
目星
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通常表示
<行動技能>
成長
行動技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
運転(
)
機械修理
重機械操作
乗馬
水泳
製作(
)
操縦(
)
跳躍
電気修理
ナビゲート
変装
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通常表示
<交渉技能>
成長
交渉技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
言いくるめ
信用
説得
値切り
母国語(
)
非表示
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通常表示
<知識技能>
成長
知識技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
医学
オカルト
化学
クトゥルフ神話
芸術(
)
経理
考古学
コンピューター
心理学
人類学
生物学
地質学
電子工学
天文学
博物学
物理学
法律
薬学
歴史
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戦闘・武器・防具
ダメージボーナス:
名前
成功率
ダメージ
射程
攻撃回数
装弾数
耐久力
その他
%
%
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簡易表示
通常表示
所持品・所持金
名称
単価
個
価格
効果・備考など
価格総計
現在の所持金:
、 預金・借金:
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通常表示
パーソナルデータ
キャラクター名
タグ
職業
年齢
性別
身長
体重
出身
髪の色
瞳の色
肌の色
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その他メモ
ネオ特徴採用 1-10:負けず嫌い 君は勝負事には負けたくないタイプである。あらゆる抵抗ロールの成功する範囲に+10%。 2-9:マジシャン 君はものを隠す技術に長けている。<隠す>の基本成功率は50%となる。 職業:ビジネスマン 職業特記:経理に+10%のボーナス。 経歴を理由に、職業ポイントや興味ポイントに余剰が発生している。 ◇ 『恐らく脳の損傷による逆行性健忘……つまり、今の貴方は記憶喪失状態にあります』 どうやら自宅らしき場所で医師の言葉を思い返す。その言葉の通り、僕は僕のことを何一つとして思い出せなかった。 真っ白な病室で目覚めて、その白の新鮮さに頭痛がしたのがつい昨日のように思える。過去のことを全く思い出せない僕の元に、誰かわからない人達が見舞いに来て、どうやら丸っきり変わってしまったらしい僕に対して皆が残念そうな顔をして帰っていった。そんな人達を見送りながら流されるようにリハビリに励み続け、そして数ヶ月が経った今日、ようやく自宅療養まで漕ぎ着けたのだ。 生活がこなせる程度には回復したがあまり上手に動かせない手足……医師によると恐らく一生残る後遺症を持つそれらを動かして、自宅の電気を点ける。視界に映った光景を見て、なんだか妙な部屋だなと思った。インテリアの一切隙がないオシャレさは自室にしては居心地が悪いし、その癖細かなところの整頓がされていなくて荒れてる。どうやら僕の新生活は以前までの知らない自分の後片付けから始めないといけないらしい。これからの大変な人生の幕開けを感じて、思わずふぅとため息が漏れる。 それにしても、以前までの僕は一体どんな人間だったのだろう。見舞いに来てくれたのは、良い身なりをして自分に自信がありそうな人達ばかりだった。そんな人から見れば今の僕が残念に思えるのも仕方のないことだと思う。 理由は分からないが、僕の心には目覚めたときから「多分全部自分が悪かったんだろう」というとめどなく湧き上がるような罪悪感や焦燥感があった。みっともない姿は見せたくなかったから一応背筋は伸ばしてはいたが、きっと態度にこの自信のなさが現れていたんだろうな。今の僕にあんな上等なスーツを着こなせるとは思えないし。 この出処不明の感情の正体を、そして以前までの自分自身を知りたい。この家にある物はその答えを教えてくれるだろうか。そんなことを考えながら、とりあえず放置されていた空き缶をゴミ袋に詰めるところから始めた。 ◇ 「なんだ、これ……」 思わず顔を顰める。僕の抱いた疑問に対して、この家は意外にもあっさりと答えを示した。予想できる限りでは最も気分の悪い形で。 至る所から見つかったのは、以前までの僕が抱いていたであろう凄まじい怨恨の数々だ。出てきた情報から照らし合わせるに、恐らく以前勤めていた会社の上司にあたる人と、親族の女性の二人。その人達に対して僕は……八つ当たりとしか思えない恨みを持っていたらしい。 ああ、僕の胸に湧く罪悪感の正体はこれだったのか。これらの恨みが八つ当たりなんじゃないかと思えたのは、きっと自分が悪かったのだという先入観をもって以前までの僕の主観だらけの情報を知れたからだ。あまりにも僕に都合の良い書き方をされているけれど、それだけでは誤魔化しきれないほど……過去の僕の言っていることは酷い。 もしかすると前までの僕も、心のどこかでは自分が悪いと分かっていたのだろうか?だから脳が損傷して記憶をなくした拍子にその罪悪感だけが残って、その感情から生まれたのが今の僕……なのだろうか。 いや、そんなことはどうでもいい。とにかく重要なのは以前までの僕は最悪の人間性をしていて、それによって人を恨んだり傷つけてばかりだったということ、そして今の僕はその行いの罪深さを客観的に見つめられるということだ。 少なくともこれからの人生は、以前までの生き方を精算するように慎ましく生きていきたい。きっとそれだけが罪滅ぼしの道だろうから。 運良く指紋認証機能で開くことができた僕のスマホを起動する。そこに登録されていた連絡先は知らない名前ばかりだったが……あ行の名前のうち一つだけは、知っているものになった。 以前までの僕が嫌っていた元上司と思しき男性の連絡先。しかもこの名前、確か僕が記憶を失くすきっかけとなった事故の現場に居合わせた人と同じものだった気がする。親族の女性の連絡先は分からなかったが、この人なら……。もしも彼さえ構わなければ、以前までの僕の人柄について何か聞き出せないだろうか? きっと前までの僕が失礼を働いていたはずだから、相手からの心証も良くはないだろう。彼が僕のお見舞いに来なかったことからしてもそれは明らかだし、もちろん僕が悪いので文句はない。だからこれは断られることが前提のダメ元での申し出だ。 とにかく相手を怖がらせたり傷つけたりはしたくない。どんな文面にすればいいのか長時間悩みながら、僕は彼へのメールを打ち込んだ。 ◇ ガンガンと響く急な頭痛に思わず呻き声が漏れたのを、目の前の男性が心配そうに見つめている。 「大丈夫かい!?えっと……」 「だ、大丈夫です、すみません……。英景村正さん、ですよね……?」 「あぁ、そうだよ。そうか、本当に記憶を失くしてしまったんだね……」 悲しそうに眉を下げられていたたまれない気持ちになるのを、グラスに入った水を飲み干してなんとか誤魔化す。少しだけ頭痛も落ち着いた気がした。 まさかダメ元の申し出に了承が貰えるとは思わなかった。彼……英景村正さんから提案されたカフェで僕達は話をすることになったのだ。村正さんは改めて僕に自己紹介をして、以前までの僕や事故当時のことを彼の知る限りで教えてくれた。 僕は階段から落ちて頭を打ち脳を損傷した……というのが聞いていたあらましだったし、実際その場に居合わせて通報した村正さんは救急隊にもそのように説明したらしい。だが僕が自分の過去を知りたいと強く思っていることを知ると、声を潜めて顔色を変えた。 「目覚めてから君自身の状況について説明を受けたとき、自分が退職直後だったことは教えてもらったかな?」 「はい。その、トラブルがあった?とは……伺っています。多分、僕が何かをやってしまったんですよね」 「…………心苦しい返答になってしまうけど、そういうことになるね。君は俺の企業で働いていたんだけど……」 苦々しい顔をした村正さんは、一呼吸置いてから意を決したように口を開く。 「……俺は環境のおかげで、見ての通りの若さなのに重い立場に就かせてもらってる。事故に遭う前の君は……多分、そんな俺のことが気に食わなかったみたいでね。俺に対していくつかのトラブルを起こしたから、解雇ということにさせていただいたんだ」 「…………すみません、何も、覚えていなくて。本当はちゃんと思い出して謝りたいし、償いたいんですけど……」 「いいんだ、そんな。身に覚えのないことを責められるのも酷だろう?それにこの件は解雇という形で正式に決着がついているんだから、今の君が気にすることじゃないさ」 「そう……なんですかね。それで、えっと、事故当時の状況というのは?」 「あれはね、俺が解雇を伝えた数日後だったかな。階段の上で君と居合わせて……はは、こんなことをあまり言いたくはないんだけど……君がね、俺を突き落とそうとしてしまったんだ」 「えっ…………な、え、ご、ごめんなさい。そんな、命を奪うようなことを……」 「いや、俺の方こそごめんね。今の君にとっては心苦しい話になってしまって……」 申し訳なさそうに笑う村正さんいわく、剣道の心得があった彼がそれを避けると、結局バランスを崩した僕の方が落ちてしまったらしい。村正さんがすぐに通報して命は助かったものの、その結果として僕の脳は損傷、記憶を失くして手足にも後遺症が残ったとのことだ。 暗い顔をする僕を励ますように、彼は話題を変えて近くの席をこっそり示す。 「実はね、あそこにいるのは俺の友人なんだ。それに君の元同僚でもあって……俺が君に会ってくると話したら、君を見張りたいと言って隠れて着いてきちゃったんだよ。すまないね」 「そうなんですね、あの人も……。すいません、やっぱり思い出せはしないんですが、僕を見張りたいというのは当然のことですから気にしないでください」 「ありがとう。でもこれできっと、今の君が前までとは違うということを彼も見て分かってくれたと思うよ。その変化が君にとって喜ばしいものかは分からないけれど……」 「……僕は、自分勝手に人を傷付ける人間であるよりは、そうじゃない方が……いいと思います」 「……そうか……うん、俺もそう思うよ」 それから彼は僕の知りたかったことを分かる範囲で教えてくれた。仕事内容や普段の振る舞い、好きなものに嫌いなもの。企業の代表の立場なのに従業員個人のことを何故そこまで覚えていられるのか尋ねたら、「ははは、君は優秀だったし、俺の直接の部下に当たる人材だったからね」と朗らかに返された。優秀な自分、というのもあまり想像がつかなくて変な気分だったけど、多分この人が言うなら嘘ではないのだろうとも思った。 彼がお見舞いに来なかったのも僕を気遣ってのことで、以前までの僕が彼を強く嫌っていたからこそ自分のせいで心を乱したくないと思っていたらしい。ただ嫌われているのだろうとしか考えていなかった自分が申し訳ない。 「……本当に、ありがとうございます。僕なんかのためにわざわざ出向いて、こんなに話を聞かせてくれて……どうお礼をすればいいのか」 「お礼なんて、そんなつもりで来たわけじゃないから気にしないでくれ」 「けど、これでは僕だけが貰ってばかりで、あまりにも貴方にとって得がないです。村正さんの命を奪いかねなかったことも含めて、何かをしないと気が済まなくて。僕のワガママなんですけど……」 「うーん、そうか……確かに納得はしたいよな……。じゃあ、俺のお願いを一つ聞いてもらってもいいかな?」 「! はい、もちろん。今の僕にできることは少ないですけど……やれることなら何でもやりますよ」 「ありがとう。俺はね、こんなことを言うのは良くないんだけど……君が記憶を失くしてしまったからこそこうしてまた君と話せることが、本当はちょっと嬉しいんだ。以前までの君とも和解したかったんだけど、それは俺では難しかったからね」 寂しそうに微笑んだ村正さんは、首を傾げて僕の目を覗き込む。 「もしよかったら……もちろん、君の気が向く範囲で構わないのだけど。こうしてまたお茶をしたり、これからの君の近況なんかを教えたりしてほしいんだ。まあ要は、今後も俺と仲良くしてくれたら嬉しいなって話だね」 「えっ…………い、いや……申し訳ないです、例え村正さんが構わなかったとしても……僕は貴方に酷い迷惑をかけたんですよね?」 「なら、君が飲み込めるような言い方をしよう。過去の君は確かに俺に迷惑をかけてしまった。そんな君がまたふとした拍子に昔の人格に戻ったとして、そのまま俺にまた迷惑をかけるのは、今の君にとっても不本意だろう?」 「それは、そうです。僕は……僕が全部悪かったんだという気がしてならないんです。叶うなら、もう二度と悪い生き方はしたくない」 「そうだよね。まあ全部が君のせいということはないだろうけど……ともかく、君の近況を俺が把握できている状態は互いにとってメリットがあるんだ。気持ちの良くない表現をするなら、君が俺への加害を働く気がないか監視ができてるということになるからね」 「……確かに。僕側の状況をちゃんとお伝えできた方が、村正さんにとっても安全ですよね。正直な気持ちを言うなら、僕も過去の自分を知っている方が身近にいてくれるなら……心強いです」 そう答えると彼はニッコリと笑い、そうだろう?と囁く。 「分かってくれて嬉しいよ。本当は……ふふ、照れくさい話なんだけど、君と仲良くなりたかったんだ。少し奇妙な形ではあるけど、こうしてまた関係を築けて良かった」 「……どうしてそこまで、優しくしてくれるんですか?僕は……僕なら今でも、自分を階段から突き落とそうとした人間と仲良くしようとは思えないです」 「それはもちろん監視のためさ、って言ったら納得してくれるかな?それに俺は……単純に人と仲良くするのが好きなんだ。今の君も例外じゃないよ」 あっけらかんと笑う彼に思わず呆気に取られる。自分を嫌っているだろうと、そしてそれは当然のことだと思っていたのに、まさかここまで良くしてくれるなんて。 呆然と村正さんを見つめていると、彼は腕時計を見てあっと声を上げた。どうやら次の予定があるらしく、そこで初めて空き時間を作ってまで僕に会いに来てくれたことを知る。もっと感謝の言葉を尽くしたいのに戸惑いで声が出せない僕に、荷物を纏めた村正さんが声をかける。 「そうそう、もう一個提案があるんだ。君のことをあだ名で呼んでもいいかい?親睦を深めたいのと、君自身も以前までの君と今の自分とを区別しやすい方がいいんじゃないかと思ってね。もちろん君がよければでいいんだけど……」 「あだ名ですか……確かに、自分に名前を付け直せるならいっそのことそうしたいかもしれません。僕はなんでもいいので、お好きに呼んでいただいて大丈夫ですよ」 「いいのかい?それなら俺が考えようかな。かっこいい名前にしたいよね!じゃあ、そうだなぁ……」 別にかっこよくある必要は……と言いかけたが、顔を上に向けて考え始めた村正さんを見て口を閉じた。少しの間そうしていた彼は、何か思いついたのか指を一本立てる仕草をして、それから僕に握手を求めるように手を差し出した。 「全く馴染みがないのも違和感があるだろうし、名前から取って"コウ"なんかはどうだい?」 「コウ……コウ、いいですね。病院では名前も呼ばれていたので、なんとなくしっくり来ます。ありがとうございます」 差し出された手を恐る恐る握り返すと、彼はしっかりと力を込めて握手に応じた。 「こちらこそ、勇気を出して俺に頼ってくれてありがとう。慌ただしくてすまないね、また次に会える日を楽しみにしているよ、コウ君」 「はい、僕も……楽しみです。お気を付けて」 軽く片手を挙げた村正さんは明らかに二人分の会計を払い切れる枚数のお札を置いていくと、僕がそれを呼び止めるよりも前にさっさと退店してしまった。 ……まただ、また頭が痛い。彼の去る背中を見ると動悸が激しくなるのが分かる。 これは多分、僕の罪悪感のせいではない。以前までの僕が持っていた彼に対する憎しみの残滓のようなものだろう。自分を抑えるため無意識に握り締めていた拳がヒリヒリと痛む。 それでも、握り続けた。好きにさせてたまるか、僕は……僕は、自分が正しいと思った道を生きる。例えこれまで歩んできた人生とは全く違ったものだとしても、それでも構わない。僕は過去の悪行と決別して、コウとして生きるのだから。 あんな良い人に対して嫉妬して、勝手に恨んで憎んでたなんて、馬鹿げてる。前までの僕は随分とあの人の内心を邪推してたようだけど……こんなの内心がどんなものであったとしても、悪意で手を出した僕が完全に悪いに決まってるだろう。 それでも、そんな僕にでも、彼のように手を差し伸べてくれる人がいる。僕はそれに報いたいし、報いなければならないのだ。 ◇ 異変が起きたのはそれからしばらく後のことだった。あれから村正さんとはときおり近況報告会をしつつ、未だ連絡先が分からない親族の女性に謝罪をするため過去の自分の情報を再度洗い直したりしていた。段々と生活にも慣れてきたし、情報を調べていた甲斐あって、全貌とは言わずとも……人生の断片的な情報をほんの少しずつ思い出していった矢先だった。 その日ぼんやりと思い出したのは、僕が村正さんの企業に入る前に務めていた会社で起きた事件のことだ。その事件をきっかけに会社は倒産して、それで、それで……きっとその記憶は僕にとって重大なものだったのだろう。思い出している最中に酷い頭痛に襲われて、そのまま自室で気を失ってしまった。 それだけなら、まだよかった。 記憶に、穴が空いている。 過去のことではない、今の僕自身の記憶だ。気を失ってから一日分の記憶がすっぽり抜け落ちている。丸々寝てしまっていたのかと焦ったが、明らかに気を失う前とは違う場所で違う服を着ていると気付いて更に焦った。初めは脳機能の障害によるものかと思って病院にも連絡したが、医者からの回答も不明瞭なものだった。 次に起きた異変は、村正さんに指摘されて気が付いたことだ。その記憶が抜け落ちている日のうちに、全く身に覚えのない連絡を僕が彼に送っていたのだ。文面を読んだ村正さんが直感的に違和感を抱いたらしく、改めて僕に確認してくれたからこそ気付けたが……この明らかに異様な事態はなんだ? 抜け落ちている記憶。身に覚えのないメール。その間にも減っていた自宅の消耗品や食料。気を失う前に着ていたものとは違う衣服に違う部屋。 あぁ、嫌な予感がする。どうか、どうか外れていてほしい。 ◇ 最悪だ。嫌な予感が当たった。きっともう、彼には会いに行かない方がいいんだろう。 目覚めてから寝ぼけ眼でスマホを確認すれば、また一日分の空白が発生していた。ハッとして体を起こせば、視界に飛び込んできた、の、は。 割れた食器、ひっくり返された家具の数々に、荒らされたベッドやクローゼット。とても正気とは思えないような筆舌に尽くし難い惨状が僕の家を襲っている。 でもこれは強盗だとかの仕業じゃない。僕には分かる、いや、僕だからこそ分かってしまう。力の入らない足で立ち上がり部屋を見渡せば、めちゃくちゃになった机の上に不自然に置かれた一枚の書き置きが目に入った。それを、見る。見てしまう。 『俺の体を返せ』 ぐしゃりと紙を握り潰し、壁に思い切り投げつけようとして、腕を下ろす。ダメだ、これをしたら、僕も同じ穴の狢だ。 何が、何が俺の体だよ。恨むなら、自分が悪いんじゃないかと少しでも思ってしまった、その自分の心の弱さを恨めよ。僕は"それ"から生まれたんだから。そうやって物に八つ当たりすることしかできない、自分の卑怯さを憎んでろよ。 湧き上がる怒りを抑えつけるために、荒れた呼吸を半ば無理やり深呼吸に移行させた。これは、これはまずい事態だ。対処を間違えちゃいけない。震える手でスマホを取り出して彼に電話をかける。 「……もしもし。村正さんですか」 「あぁ。どうしたんだい?コウ君……だよね、何かあったのか?」 「忙しいのにすみません。あの、……僕って、昨日村正さんに連絡を取りましたか」 「……電話がかかってきたよ。またお茶をしたいから日程を取り付けたい、って。……やはり君ではなかったんだね」 「わ、かったんですか?そいつは、多分……」 「声色を聞けばわかるさ。俺の方はね、まだ予定が分からないと言って断ったから問題ないよ。君は大丈夫かい?」 「……大丈夫です。それで、お伝えしたいことがあって」 「うん。なんだい?」 「今後、直接会おうという連絡が僕から来た場合は全て断ってください。それは全部僕じゃないです、絶対に。……少なくともこの問題が落ち着くまで、僕は貴方に会うのをやめます」 「…………そうか……ごめん、一番難しい時期に力になれなくて」 「まさか、今まで貴方にはお世話になりすぎていたくらいです。頑張って……どうにか、してみせ、ます。きっと」 「分かった。俺も君の平和のために手伝えることは手を貸すよ、直接会うのは難しいだろうけど……工夫次第で連絡を取る方法はいくらでもあると思うから」 「……分かりました。甘えさせてもらうかも、しれないです」 「ぜひそうしてくれ、俺が俺のためにやってることだからね。俺もコウ君も……ただ平和に生きたいだけだ、そうだろう?その為には手を取り合うべきさ」 「そう、です。僕は……俺は、誰も傷付けることなく穏やかに生きたい。そのためなら、自分自身とだって戦って、勝ってみせます」 「うん、その意気だよ!俺も君が誰かを傷付けずに済むような、心穏やかな人生を送ってくれたら本当に嬉しい」 「はい、ありがとうございます。俺……僕、頑張ります」 ◇ コウと名乗る29歳の男性。階段から落下する事故をきっかけに事故以前の記憶を失っており、しばらくの期間の自宅療養を経た今は保険や何故かたくさんあった貯金で生活しつつ求職活動中。とはいえ知識や体に残っている技術と忘れてしまった技術とがまちまちなので、今は勤務時間短めのバイトで職業訓練中である。 目覚めた瞬間から「自分が全部悪かった」という謎の罪悪感や焦燥感を抱えており、どうやら過去の自分が悪人だったらしいことを踏まえても、できる限り慎ましく誰のことも傷付けずに生きていきたいと思っている。しかしその望みや大人しい態度に反して結構自我は強く、自分がこうすると決めたことは曲げたがらない性分。 どうやら過去の自分の人格が目覚めたであろうことに強い危機感を持っているし、自分の記憶が無い日の比率が少しずつ増していってるので焦ってる。まだまだ人格の主導権を握っているのは自分だが、完全に主導権を掌握される前に悪人としての自分をどうにかしたい。もう一人の自分を完全に消したっていいと思っている。 コウというあだ名は与えられたものであり、戸籍上の名前を「近々藤 幸也(こんこんどう こうや)」という。コウと呼んでほしいのでこの本名はあまり名乗りたがらない。 過去の自分が犯した悪行を謝罪するために恋乃美という名前の女性を捜していたが、もう一人の自分が目覚めてからは彼女に危険が迫る可能性を考慮し捜索を中止している。同様にお世話になっていた英景村正についても、今はSNS上での連絡を取り合うに留めて会わないようにしているらしい。
※
歌詞を引用、及び記載することは禁止となりました
(Youtubeや歌詞サイトのURLだけ書くことをお勧めします)。
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エラーメッセージ
「クトゥルフ神話TRPG」は
ケイオシアム社
の著作物です。
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