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日本舞踊藤間流神無月家の次期家元。 一卵性の双子の兄 紅葉が次期家元であったが、4年前に他界し、次期家元となった。 幼少期から厳しい稽古を受けていたが、身体が弱く床に伏しがちだったため、幼い頃から全ての期待が紅葉に向かってしまっていた。親からの関心も薄く、稽古以外は放任されていた。 双子の兄は溌剌として朗らかな人物であり、よく病床に落雁を持ってきてくれてはたくさんの物語を聞かせてくれていた。そのおかげもあってか表現力だけは豊かに育った。兄の事を羨む気持ちはあったが、あの家の中で兄だけは自分の事を必要としてくれており夜中にこっそり部屋に来ては一緒に寝てくれることもあった。仲の良い兄弟だった。この世界には兄と自分だけでよかったのにと願うほどに兄の存在が自分にとっての光だった。 成長するにつれて病に臥せることは減り、兄に追いつこうと芸を磨いていた矢先、兄が劇中事故で亡くなった。 舞台照明が落下し、兄は粉々に砕けた照明に背中をズタズタに引き裂かれ真っ赤な血溜まりの中で死んだ。 舞台が紅葉に覆われたように美しくも凄惨な光景だった。不思議と兄の死に顔は穏やかで、まるで苦しみから解き放たれたようにも見えた。 半身を失った悲しみに囚われ一時期は半狂乱になった。兄が背に受けた傷が何故か自分にも浮かび上がり背中には引き攣るような傷跡が残った。まるで呪いのようだ、「おまえが死ねばよかったのに」と世界中から望まれているようだと感じた。自分でもそう思った。兄ではなく、自分が死ねばよかったのだ、あの時から焼け付くような焦燥が消えない。 秋は嫌いだ。葉が色付いていく度にあの事故を、兄を、思い出し背の傷が痛む。 兄に寄せられていた関心はすぐに自分に一心に向かった。兄がいない世界を受け入れられず、とにかく兄の真似事を始めた。兄のような溌剌とした人物であろうと装った。兄が得意としていた剣舞をひたすらに磨いた。兄になろうとする度に「自分のほうが死ねばよかった」という気持ちが大きくなり、ついに自傷しなければ耐えられなくなった。 「紅葉」であり続けるために「若葉」を殺さねばならない。初めは二の腕だった。着物の袖で隠れる範囲に一閃、また一閃と深くナイフで赤を流す度に心が落ち着いた。次は太もも。腹。赤を見る度にあの日死んだのは「若葉」で、「紅葉」は生きていると感じられた。 衝動は日に日に大きくなっていった。いつしか自分が死ねば兄が帰ってくるのではと思い始めた。箪笥の角にサラシを括り、首に引っ掛けて眠った夜、はじめからこうすればよかったと妙に腑に落ちた夜、ようやく代役は終わり兄が帰ってこられると思った夜、その日に限って女中に見つかり当たり前のように朝が来た。 その日の朝焼けは惨たらしいほどに赤かった。 兄が死んだあの日に、世界も終わればよかったのに。そう願わずにはいられない。 好きな物:落雁、本 嫌いなもの:秋、もみじの葉

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