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　池袋で「bar waltz」を経営する、しがないバーテンダー。 　都内生まれ都内育ちで、公立の小中学校を卒業している。中学時代はサッカー部に所属していたが、特に上昇志向もなく、真面目に練習していたタイプではなかった。勉強も平均くらい取れればいいという発想で真面目にやらず。一人っ子で経済的にそこそこだった家にいたため、高校は偏差値がやや低めの私立校に入学する。入学後は「かっこいいから」という理由で軽音部に入りギターを始めるも、やはり身入りせずライブで悪目立ちしない程度にしかやらない。あまり練習しなくてもできてしまう辺り、所謂「器用貧乏」である。高卒後は特に目標もないためフリーターに身をやつすが、父母から「真面目にやらないならば出ていけ」と言われて一人暮らしを強要される。工場、コンビニなどを転々とし、23歳の時に新宿歌舞伎町でバーテンダーの下働きを始める。オーナーの倉敷さん（現在58歳）が面倒見のいい老紳士で、今も慕っていて付き合いがある。当時客として来ていた三崎真由美と付き合うようになり、2年の交際を経て26歳の時に結婚。翌年に自立して倉敷さんのコネで得たテナントを使い「bar waltz」を開業。その年の10月に娘の愛美が生まれる。開業したバーは立地がよく仁も珍しくカクテル作りには真剣に取り組んでいるため、そこそこの売上を出していた。自作カクテルの開発にも取り組むほどのめり込んでいたが、その分家に帰ることが少なくなり、過程を省みない仁に嫌気が差したことと一人で面倒を見る育児ノイローゼが重なって、愛美が4歳の時に真由美と愛美が家を出ていく。戻って来て欲しいと交渉するも虚しく家庭裁判となり、2年を経て33歳の時に正式離婚。以降、養育費を払いつつ同じアパートのまま一人寡で暮らしている。愛美とは月に1回会うことが許されていたが、愛美が9歳の時（仁は36歳）に真由美が再婚。養育費は払わなくて良くなったが、愛美に会うことができなくなった。 　なんとか堪えていたものが一気になくなって酒や煙草に溺れてみるも、虚しさが解消されるわけではないため、今は溺れない程度に嗜んでいる。前よりカクテルにのめり込むこともできず、ただ仕事と自宅を往復する、唯々諾々とした生活。その空虚感がカクテルの表現に表れて芸術的となるため、コアなファンがいるが、その愛情は本人の望むものではないため全く関心がない。また、同じ空虚感が「下手なアドバイスを出さない良い聞き役」として機能するため、相談役として人気があるが、それも本人はなんとも思っていない。見た目がいいこともあって女性ファンが多いが、言い寄られても拒絶している。 　これまで何事も真面目に取り組まなかった自分を後悔していたが、珍しくのめりこめた時には大切なものを見誤って、全てを失っている。そのことに、自分の生き方が曖昧模糊とした霧のようなものに思えて、日々自分の正体を考えるが、ぼんやりとするばかりで何も浮かばない。側から見るとただ物思いに耽っている渋いイケメンにしか写らない。 　好きなカクテル「ブルームーン」にはパルフェ・タムール（完璧な愛）を使うことを好むが、それは無自覚である。 　結局、いつまでも得られることのない幻想の愛を求めて、空虚な自宅を眺めている。 　そこには何もないことを知りつつも、後悔だけを降り積もらせていた。

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