タグ： 長船M-Ⅱ

金鯱に生きる地を焼かれ地下に収まり切れなかった愛知県民は、2028年8月8日を吉日とし、住む地を求め北へ侵攻を開始した。愛知県の北、つまりはかつてより「名古屋の植民地」と蔑された岐阜を現実に植民支配せんがための侵略である。 愛知県は午前零時より音もなく侵攻を開始、その夜のうちに羽島市・大垣市・笠松町などの愛知県一宮市に面した主要都市を接収。各市町の庁舎を破壊しその瓦礫の上に瞬く間に要塞を建設した。それはさながら墨俣一夜城の再現のようであった、とかつての岐阜県民は語る。 愛知県軍はこの要塞群を足掛かりとし岐阜南部の市町を次々と侵略。残された岐阜美濃地方の各市はこの最中にも生来の輪中根性からか足並みはそろわずろくな連携を成せず、また住民たちも「愛知県になれるなら」という戦意の低さから徴兵も全く間に合わず、愛知県の一方的な有利が続いた。 比較的粘りを見せた各務原市および県庁所在地たる岐阜市は、各務原市に駐留する自衛隊航空部隊に応援出動を要請。しかし国家に属する自衛隊からの返答は「自衛隊は国民を外国から保護するための部隊であり、国民同士の争いには平等を保つため介入しない」という無情なものであった。 成す術がなくなった岐阜県はついに県庁より降伏を宣言。2028年8月15日、奇しくもかの大戦の終戦記念日と同じ日であった。この県知事による僅か1週間ほどでの降伏は、当時こそ非難されたものの、現代では「人的被害を最小限にとどめた小心者の英断」と評されている。 愛知県はこの降伏を受け入れ、愛知岐阜間で和睦条約が制定された。しかしながら、表向きには和睦条約であったが、実質は敗戦県である岐阜が愛知に接収されるも同然の内容であったという。 これに異を唱えたのは、侵略戦争中無言を貫いていた飛騨地方であった。もとよりほぼ名古屋の属県扱いで大した抵抗もせず降伏した岐阜市を始めとする美濃地方の行動を良しとせず、岐阜県は郡上市と美濃市を含む飛騨地方と残りの美濃地方に内部分裂、下呂市の南端およびV字型の関市の中央を割くように巨大な壁が建造された。岐阜県はさながら冷戦中のドイツのように愛知県属下南岐阜県と飛騨県に分かたれたのだった。 さて、ここで疑問が残るのは「何故関市は市として岐阜の南に属するでもなく北に属するでもなく、南北真っ二つに分かれてしまったのか」という点だろう。答えは「自らそう望んだから」である。 関市は市民を説得してまわりその説得に納得した関市民は城壁建立のための土地を明け渡し、はたして壁は関市民の手によって建てられた。その結果市民は何を得たか、巨万の富である。 関市はこの事業により北側の飛騨県からは土地および施設の使用料や維持費として大金を継続的に得て、南側においては岐阜の南と北の流通を一手に担う、まさに関の街として繁栄を極めることとなる。唯一岐阜の南と北が行き来できる大門を要する東桜町近辺は一大商業都市へ成長し、またかつてより刀工のまちとして栄えていたため鉄鋼業をも極め、その技術力を世界へ示すためショーモデルとして街全体を城壁で囲んだ城塞鋼業都市と化した。以降城塞都市内は”ネオセキ市”と称され、かつて県庁所在地だったころの岐阜市を凌ぐほどの、旧岐阜県地域で最も繁栄した都市となった。 勝目兼定（本名：勝目一也）は岐阜市出身の美濃伝派刀工である。 ”兼定”の称号は、ネオセキ市美濃伝刀工協会に定められた難関の試験と制作物の審査を通過した、優れた刀工に与えられる。少子高齢化により世襲制がままならなくなった関の刀工たちが、この地で一定以上の修行を積み実績を得た外の者にも兼定の銘を名乗ることを許した、いわばブランドマークのようなものである。 彼は幼き頃から刀工（とかいうちょー変わった仕事就けたらマジかっけーじゃん）を志し、中学卒業と共に城塞都市ネオセキ市内で最も伝統のある、唯一「兼定」を世襲で継ぐ刀工の下に弟子入りし、鍛冶の技術を磨いた。結果、セキでも珍しく18歳という若さで兼定認定試験を通過し、第564号認定兼定となった。（しょーじきその前から全然いけんじゃね？とは言われてたけどさすがに未成年はダメじゃね？とか言われて先延ばしにされた。シジョー初となる未成年での兼定認定～とかすげー称号、ほしかったんすけど！） 彼は刀鍛冶のみでは飽き足らず、機械工学も学び刃物と機械の融合を図ろうと日夜新兵器の開発に没頭した。（やっぱいっちゃんかっけーのってメカじゃん、変形機構じゃん）革新的な奇策で繁栄したセキ市においてはこの試みが異端として非難されることはなかったが、問題は「作ったところで卸先が無い」ということであった。彼の師匠はこの若く一途で熱意に溢れた才能を「金にならんから」と否定することはできなかった。 そこで目を付けたのが「邪神対策本部」であったのだ。今日本において最も武器類を必要としているのは間違いなくこの組織だった。かねてよりこの組織に販路を広げようと画策していた美濃伝刀工協会は、勝目を最先端の美濃伝刀剣および派遣刀工の宣伝として、また邪神対策本部の内情視察として、「技術交流」という形で送り出したのだった。（ま、俺の造った機構兵器が心置きなく実戦でぶん回せて、しかも試作製造改造し放題！ってんなら俺マジたのしーし大満足！）

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