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■狂気山脈　登山家ベース HO1A：孤高の人 「ワオ！ここがジャパンの富士山！これは確かに美しい！」 「ボクの名前はチャールズ・ネイサン。気軽にチャーリーと呼んでおくれ、頼もしいチームメイト」 にかーっと笑う親日カナダ人。 富士山の美しさに惹かれて親日派になった経緯を持っている。 人懐っこく、愛称「チャーリー」で呼ばれることを好む。 彼が山頂を目指す理由は「カッコいいから」である。 苦労して先に見える景色がカッコいいのはもちろん、ここまでやってこれた自身も含めて、最高に生きててよかった、そう感じるのだ。 一番好きな山は日本の富士山。 他国の山々に比べれば標高は飛びぬけて高いわけではないが、富士山には何といっても美しさがあるからだ。 登山を始める前に、写真を見てワクワクさせただけでなく、はっと息をのむような美しさがあった。そのなだらかな造形、降り積もる白い雪、青空とのコントラスト。それらのバランスがほかの山にはないものであった。 この山の頂点に自分がいる、想像するだけでグッと胸元をつかまれるような、自分も芸術作品としてこの山の一部になるというような気持にさせられた。そこから彼の親日精神は生まれたのである。 彼の人生を振り返るのであれば、人とのかかわりは多くなかった。 幼いころより父の仕事の転勤に伴う転居が多かった。早ければ数か月、長くても1年くらいしか同じ家に帰ることはなかった。 その結果、友人が少なく興味を自分から閉ざしていた。正直言えば、それは彼にとって心細く、また不幸なことだと思っていた。それを哀れんだ母がよく見せてくれていたものが世界各国の写真である。そして母はこう言っていたのだ。 「貴方は果報者よ、チャーリー。だって同い年の子たちはこの写真のすべてを生で見るチャンスが貴方よりもずっと少ないのだから。あなたはどこへ行くというのがとっても自由なのよ。」 人とのつながりだけでなく、世界の広さを知ることで自身につけていた不幸の烙印を消すことができた。 ふと、1枚の気になる写真を見つけた。それは山頂から見える日の出の景色だった。母に尋ねれば、自分が生まれる前に父とともに登った山の頂の景色だと教えてくれた。さらにそこで父からプロポーズを受けて、結婚に至ったのだという。それを語る母の顔はいつもよりも優しく、また幸せそうであった。母は最後に一言「最高に生きててよかったと思ったわ」といった。 そしていつの日か、自分もこの写真の景色を見たい。そう思ったのが登山を始めるきっかけになった。 未だに母が見せてくれた写真以上の頂を彼は見たことがない。いつか、自分も、同じ気持ちを。 登山は一人でできるものではなかった。 仲間とともに助け合わなければならない。そうなれば必要になるのはコミュニケーションだった。だから彼は積極的に笑いかけ、人懐っこくあろうとした。 すべては彼の目標である山頂に立つためだけに。彼がコミュニケーションをとるのはあくまで目標達成のための手段に過ぎない。要は山頂に立ったあとのことは基本的には考えていないのだ。生きててよかった、そう思うのはその頂の景色を見てる瞬間だけだからだ。 結果、彼の登山チームはその場限りになることが多い。普通であればある程度の年数が重なれば大体同じような人とチームを組むものだが、彼は未だにチームをあちらこちらとしている。 人懐っこいという仮面を適度に取り付けながら、高い場所だけを見据えている。 「何、寂しくなんてないさ。だってボクは果報者だ。色んな景色を誰よりも自由に見に行けるのだから」

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