タグ： 狂気山脈

チリ北部アリカ生まれ。山岳ガイドの父親から登山を学び、アメリカで地質学を学んだ。大学卒業後はチリで大学の研究機関に所属しながら、フィールドワークとしての登山で趣味と実益を兼ねている。 　マリアには母親がいない。収入の安定しないシングルファザーの一人娘には風当たりも強く、学校はつまらない。ファッションも、SNSも、いくつもの娯楽も、恋だって、マリアには遠いものだった。 　父と行く山は彼女の好奇心を悉く集めて、マリアは山に全てを、知性を、家族の愛を、肉体の限界を捧げることにした。山岳、その度し難い性質を理解することが生き甲斐であり、山へ挑み、その厳しさを味わい、その性質を紐解くこと、そして山と共に生きる人々へ資することが自分の人生への愛の示し方だと信じることにした。 　狂気山脈、その存在を知ったのは研究の一環で南極に滞在していた際のことである。研究所内で噂が流れた。アメリカの大学チームが未踏峰に挑む───噂程度のものだが、面白そうだと思ったものの、積極的に出所を確かめようとはしなかった。「本当に実行されるなら必ず自分の耳に入るだろうから」だ。南極は特殊な地域だ。著名な大学のチームが登頂するのなら調査を綿密にし、そしてその結果は公表され、さらに十分に検討されるだろう。その結果は自分の興味を惹くかもしれない。少なくとも、どんな結果であろうとも益に資するに違いない。 ところが、そんな噂の次に入ってきた情報は、未踏峰に挑んだ第一次登山隊が丸ごと行方不明になったという知らせだった。マリアは違和感を覚えた。事前調査の状況も、登頂の行程も、何一つ情報がなかったからだ。おそらくは意図的に隠された──だとしたら、大学は登山隊の失踪に責任がある。 　山。山に過酷さはあれど秘密はない。あれほど大きなものが存在するのだから。現代ならば、隠そうとしてもいずれ誰かが見つける。それなのに隠そうとするのはなぜか。「南極」は金にならない。油田があろうが、鉱山があろうが、それを使って商売はできない。 ならばなぜ？ 何を隠そうとしたのか？

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