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彼は、社会の闇から闇を渡り歩く『交渉人』だ。 あらゆる者の間を取り持ち、交渉成功率は100％に近い……と言われている。 簡単な道理だ。交渉決裂した相手を『切り捨て』、交渉そのものを無かったことにするからだ。 後を汚さぬ交渉人として、彼に依頼をする者は多い。 交渉人の本名は「明松 昭介（かがり しょうすけ）」。 しかし、その名前は今やほとんど使われることがない。 これまでの人生で、彼はいろんなものを切り捨ててきた。 他人、自分、未来、そして過去。 交渉人は、過去を切り捨てた。 用が終われば依頼人の顔も忘れる。 過去はしがらみを作る。それは弱点となる。 生きているのは『今』なのだから、過去なんて必要ない。 必要とあらば、名前も身分も適当に捏造すればいい。 彼はいつの間にか、今だけを生きる亡霊となっていた。 しかし最近、どういうわけか夢を見る。 夢などに身を任せるつもりはない、と、いつものように切り捨てることはできなかった。 彼の唯一の弱点だったもの――彼のかつての恋人が、目の前に現れたのだから。 顔すらも忘れたと思っていた彼女への想いは一瞬で蘇る。 結局、完全に過去を捨てることなんてできなかった。 久方ぶりに覚えた暖かな感覚は、決して悪いものではなかった。 ～～～ PC1 キミは最近、毎夜同じ夢を見る。 いや、厳密には、前夜の夢の続きを見る。 その夢の中では、キミの、かつての、大切な、恋人が生きていて、 キミはともにその夢の中を駆ける。 その夢はただの夢とは思えない現実感を持っているが、 キミの暮らす現在とは違い、少しだけ未来のようにも見えた。

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