タグ： 鰯と柊

両親にあたる人間たちは凌霄が幼いころから遊びに惚け続け、世話というものを知らないような生き物だった。 凌霄を認識していないようにさえみえる両親だったため、暴力をうけることはなかったのは不幸集の幸いというべきか。 しかしひとりで生きるすべをまともに教えられることのなかった彼は見様見真似で入った風呂で溺れたり、薬の適量が分からずオーバードーズをおこしたり、無知ゆえにたびたび死にかけた。 死にかけるたびに正解を学ぶ方法をとらなければ明日などなかったのだ。 そんな死が隣り合わせの生活は幼子であれ大人であれ耐えれるはずもなく、しかし、頼れる者もいなかった。 結果、常に飢餓感で震える細い手足を抱えるように丸まって電気のつかない家で一人、(どうか助けて...本当にいるんならこの悲しさをなくしてよ、ここから助けてよ神様......)と実在するかもわからない神という存在に祈るしかなかった。 ある日両親は死んだ。通り魔に刺されて死亡したらしい。 彼は両親が死んだことには特別、感想を抱かなかった。 あるのはこれからどうなるのか、今までよりひどい環境にでも放り出されるのではないかという不安しかなかった。 しかしその不安は孤児院に預けられることで難なく晴れたのだった。 彼は初めて心から幸せだと感じる喜びを知った。 それからしばらく経ったとある日、HO2が孤児院に一時的に保護される形でやってきた。 彼女もネグレクト家庭で育ったらしく、その痩せた体は少し前の自分を想起させる。 それと同時に、HO2をその家庭から救いたいと強く思った。 だが幼い彼になにができるでもなく、ただHO2に「俺を助けてくれた神様に祈ろう」と自信の無力さに流れそうになる涙を堪えながら提案するしかなかった。 その翌日、知らされた。HO2の両親は行方不明になったと。 そんな凌霄の祈りがもたらす奇跡は口伝いに多くの人を呼び、いつしか信者という存在も集まり始め、あれよあれよと「拝掌教」の教祖として祭り上げられていた。 彼は己を主と崇めるこの繋がりを否定することはなく、むしろ愛していた。 夢に見た家族と呼ぶに値する者たち、幸せと感じている今、そして救いを求める人々を救える現状。 自分の祈っている対象は果たして本当に神なのかなんて関係ない。 ただ今は、この愛するすべてを脅かす存在が現れないよう祈るだけだ。 「こんにちは。さあ、あなたの求める救いはなんですか？」 「私と一緒に祈りましょう。」 「はぁ！？俺は...ん゛んっ！私は短気ではありません！！」 HO2には幹部たちが付けている耳飾りのかわりにネックレスを送っている。 凌霄の意味は「空をしのぐこと。志の高いことのたとえ」 モチーフである鷲の中国での別名、凌霄君からきている。 ※凌ぐ、雲霄(しのぐ、うんしょう)で文字が出る※

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