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……テセウスの船、って知っているかしら ……そう、まあ有名だものね 別に、ただ、例えば船のパーツのように体の隅々までを別のものに置き換えたとして、その成れの果てを人間と呼べるのかと、ふと気になっただけ 暮薙光凛は後天性のオーヴァードである。物心付く前にFHに囚われ、人工的にオーヴァードへと覚醒させられた。 彼女は優秀な実験体であった。生命力が強く、どのような人体実験にも耐えてきた。耐えてしまった。 彼女に施されたのは、レネゲイドを扱うのに特化した生体パーツのテストと称された実験であった。 最初は、心臓。 次に眼。 彼女の身体のパーツは次々と人工培養されたレネゲイドウイルスを扱うのに特化したものへと置き換えられていった。 彼女が6歳になった頃には、彼女は実験の成功例としてFHの戦闘員として実戦に投入されるようになっていた。 実験の結果彼女の五感は他のオーヴァードと比べても非常に鋭く発達していた。それに加えて彼女には戦闘のセンスもあったため、戦闘員として頭角を現すのにそう時間はかからなかった。 彼女が特に得意としていたのは夜戦だった。鋭い五感を駆使し真っ暗闇の中でも標的を正確に撃ち抜く、いつしか彼女はコードネーム『ナイトウォッチ』と呼ばれるようになっていた。 転機は9歳のときに訪れた。 彼女の所属するFHセルがUGNによって打ち倒された。 彼女は自分もまたほかのFHエージェントのように殺されるのだと思い、しかしそれでもいいと思っていた。 生まれてから実験と訓練と任務しか与えられてこなかった彼女にはもはや生きる理由がなかったからだ。 しかしそうはならなかった。彼女はUGNに保護され、シルヴァーナ・神代によって生まれてはじめて人並みの愛情を知ることとなる。 それから6年が経った。 暮薙光凛は優秀なUGNチルドレンとしてそこそこ有名になっていた。 こんな自分を実の娘や妹のように接してくれるシルヴァーナのことは彼女もまた実の母親か姉のように慕っている。 性格は寡黙で現実主義者。その鋭い五感のせいで見たくもない人の嘘や陰口を見抜いてしまうことから、彼女がUGN内で気を許しているのはシルヴァーナのみであった。 また、『ナイトウォッチ』としての彼女を知るUGNエージェントの内には、彼女の存在を快く思わない人間もいるようだ。 尖すぎる聴覚の抑制のため、常にヘッドホンを着用している。 服装に関しては無頓着だったが、シルヴァーナに可愛いと褒められて以降は最低限身だしなみに気を配るようになった。 1話終了後　追記 彼女の寄る辺はその強力なオーヴァードとしての戦闘力だった。彼女は自分自身の価値はそれしかないと思っている。 実験体として、戦闘員として、そしてシルヴァーナ・神代の娘として、自分が必要とされるのは自分が有用であるからだと。 彼女は今の環境に満足していた。神代は愛情を持って接してくれる。長らくそういった温かみから遠い人生を送ってきた彼女にとっては、それだけがあればよかった。 だからこそ彼女は任務達成のために手段を選ばない。いくら自分の体が傷つこうとも、必ず任務をやり遂げてきた。それだけが彼女が自分の存在を証明する手段だったからだ。

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