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「さて、今回の記事こそ、歴史を変える瞬間になるぞ！」 ごく一部からカルト的な人気を誇る、マイナー誌のライター兼レポーター。 ペンネームは『常夜 ミカゲ』。 今でこそ社宅で暮らす彼だが、少し前までは当てのないネットカフェ生活を送っていた。 家族仲が悪いわけではないが、あまり連絡はとっていない。 とはいえ親に心配されてないわけではなく、たまに安全や体調を気にするメールが届いている。 彼はかなり早い頃から一人暮らしをしていた。 具体的には、中卒時点で家を出ている。 元々はかなりの田舎暮らしだったが、このままではやりたいことができず、金も稼げないと考え、一人都会に出た。 本人曰く、「あそこでの生活は快適だけど息苦しかった」とのこと。 高校時代は日々を生きることで手一杯で、部活などには所属していなかった。 傍目にはかなり大変そうな生活だったが、彼自身は日々のバイトと勉強、時々趣味の一人旅だけで十分だと考えていた。 なぜなら、そこには少なくとも、かつてのような息苦しさはなかったから。 高校卒業後も家に帰らず、短期バイトを転々としながら、旅ブロガーとして日銭を稼いでいた彼。 帰りたくない一心で都会にしがみつくも、徐々に尽きていく生活資金。 そんなとき、彼の元に転機が訪れる。 きっかけはブログに載せた一枚の写真。 この写真が心霊写真ではないかとネットで話題になり、プチバズを起こしたのだ。 自慢の写真を心霊写真扱いされた形だが、彼はこれをチャンスと考えた。 どんな形であれ、法に接さず自分に非がない形で記事が目立てば、それは広告収入につながる。 いよいよネットカフェ代すら払えなくなりつつあった彼は、自らの写真と記事を引用し、心霊現象の考察記事を書いたのだ。 この考察記事がとある出版社の目にとまり、契約社員として雇用してもらえることになったのだ。 この時の契約金は、実はライターに支払うにはかなり少額なものだった。 まして彼は、今回スカウトされた側。 有り体に言えば、出版社に足元を見られた形だ。 それでも彼は迷わず飛びついた。 もはやそれしか都会に残る手段がなかったから。 彼が担当することになった記事は、国内各地の辺境を訪ね、その地域の伝承や信仰、超常現象を考察するというもの。 結局行先は田舎になるが、社宅は都会(都心ではなく郊外の僻地)にあり、あくまで出張だということで了承した。 仕事自体は、元々旅ブログで広告収入を稼いでいたため、さして苦労もしなかった。 そして何より宿がある。 かくして、彼の生活は安定した。 貯金をできる収入ではないが、一人で暮らす分にはギリギリ問題ない。 昇給の見込みは薄いが、日々の生活すら怪しかったこれまでに比べれば大幅な前進だ。 仕事は激務だが、出張は趣味の旅を兼ねているため、実質毎日が趣味の生活と言えるだろう。 「……これ、結局だめじゃね？」 まともに考える余裕ができたことで、ようやく彼は気がついた。 このままでは、結局やりたいことができず、金も稼げない、今の会社に搾取されるだけだと。 これでは田舎にいた頃から何も進歩していない、寧ろ悪化していると。 そして彼は、数日悩んだ末に答えをだした。 「仕事と並行で個人ブログも書かせてください」 本業がダメなら、副業で稼げばいい。 元々バイトとブログで生活費を稼いでいたのだ、契約社員になったからといってブログをやめる必要はない。 法的手続きがあるため会社の許可は必要だが、逆に言えばそれだけでいいのだ。 直談判の結果、 　1. 担当記事の執筆に支障をきたさないこと 　2. 担当記事に使用した、あるいは使用予定のネタは、ブログでは使用しないこと 　3. 副業に伴う税務処理等は自分で行うこと 　4. その他会社に不利益を与えないこと を条件に、彼は副業の許可を得ることができた。 こうして今度こそ、彼は安定した毎日を過ごせるようになった。 これが今年の1月の話。 ちょうど成人を迎えたタイミングである。 そういえば、彼は今年から実家に稼ぎの一部を入れるようになったとか。 一人暮らしを始めたときから、育てられた恩を意識するようになっていたらしい。 しかし、それでも田舎に帰りたくなかったこと、そもそも仕送りできるほど収入がなかったことから、実際には送っていなかった。 気恥ずかしさがあったのも事実だろう。 だが、一番の理由は、自分本位な理由で家を出たことへの後ろめたさだった。 そうした過去を乗り越え、自ら実家に仕送りを送れたのは、都会の荒波に晒される中で、彼が精神的に一皮むけ成長した証拠だ。 ちなみに彼には知る由もないが、両親は送られてくる仕送りの額は気にしていない。 どちらかというと、彼が今、仕送りを送れるくらい心身共に安定した生活をしていることに安堵し喜んでいる。 少し前までの惨状を知ったときには、彼を無理やり連れ帰ることも検討していたが、今はそのつもりはない。 どれだけ離れても、そこにどんな理由があっても、両親は彼を自分達の息子だと思っているし、いつ帰ってきてもいいように準備している。

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