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佐取静夏は小説家になりたかった。 けど、私には他人に共感を得られる文章なんて書けなかった。 人の心を知るために読み漁った本の数々は私に人の心が分かると錯覚させただけに過ぎない。 自分の事さえわからない、文才もない自分に人の心を見せる小説が書けるわけがなかった。 お前は小説家にはなれない。 本を読むたびに、それを思い知らされている。 生物学上の性　　心の性　　恋愛対象 私は他人から云わせると顔の作りが非常に良いそうだ。 単純な遺伝なのだろう。それ以外に特別なことは一つもない。 だが、顔が良いというだけで人は人を好きになるらしい。 はじめて他人から女という認識をされていると理解した時、強い嫌悪感を抱いた。 それからは、そう見られないよう粗雑に振る舞い、年を重ねるごとに理想の男を演じるようになった。 しかし高校三年の夏、ずっと仲の良かった友人に告白された時に自分は驚愕した。 彼女が自身に男としての役割を求めていることに気付き「無理だ」と思ったのだ。 そう振る舞った自分が悪いことは承知していた。 しかし、自分は彼女の期待には応えられない。その自信が自分にはない。 自分は「女」と見られることも、「男」と見られることも受け入れることが出来なかった。 ことの終わりの始まりは、おそらくはこいつだろうというのがある。 20代も半ばを過ぎた頃、知り合いから見合いの話を持ち掛けられたと母親が訪ねてきた。 その時、母親から「男として産んであげられなくてごめんね」と言われたことが、どうも自分にはダメだったらしい。 それ以来、私はこの世から消える方法を探している。 首でも吊ってみるか？手首でも切ってみるか？ だが、その死体を見た人はなんで思うのだろう。 哀れな女か、はた迷惑なメンヘラ女とでも言われるのだろうか。 死んだ後の他人からどう思われるか、どうでもいいはずなのにそう簡単に切り捨てられなかった。 どこか誰にも知られない場所で、誰とも思われずに、密やかに消えてしまえないだろうか。 佐取静夏は”自殺志願者”だ。

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