タグなし

一人称：私、ヌル 二人称：あなた、○○様 丁寧な話し方をする。好意を持った相手には少し子供らしい話し方をする。 自分を安く売ることは普通だと思っている。ので、簡単に的にもなるし捌け口にもなる。 ヌル：存在しない　ブルーム：開花する 現在。 ある海賊が船員を募集している様だ。その船を探し出し、子供は荷物に忍び込み今か今かと出航を待っている。 産まれは過去にも魔術師を輩出する名家の生まれ。だった。 朗らかで温かい母、毅然とした真面目な父、魔術師ではない優しい普通の小さな姉 上には他にも兄弟がいるらしい。魔術師として協会にいるのだとか。父が言っていた気がする。喜びとは違う顔を浮かべながら 産まれてからの事は覚えている。毎日挨拶に来る姉、忙しいであろう隙間に見に来る父、その時ばかりは仕事は終わったのかと注意する母 母は言う、「こんな幸せが続くようにがんばるわね」と。これが幸せというものなのだろうと彼は覚えた。一歳にも満たない子供は。 誕生日を迎える日、目の前が火の海になったことを覚えている。 人の焼け焦げた匂い、使用人の悲鳴、自分を探す両親の声。と、遠くで聞こえる人間の詠唱。1歳になる子供は自分を守る術を窮地で発現できた。 火が鎮まる頃、辺り一面は暗く静かになってた。燃え痕から両親か使用人のものかわからないが大人の腕が見え抱えて眠りについた。 翌日、魔術協会を名乗る人たちが、何やら言いながらやってきた。 「むごい」「こんなことが」「かわいそう」幸せと言われたそれとは違うものだとすぐに悟った。子供は姉を見本に大人しく大人の様子を伺った。 ここにいるのは一歳の子どもだから大人の口はよく滑った。父、母以外の大人は使用人以外見たこと無かったがなんとなくの善と悪を学んだ。 子供は聞いていた。父が子供の存在を協会に隠匿していたことを。その事で不興を買い、火の海になった顛末を。そして兄弟には知らされていないことを。 一歳で魔術協会に預かられた彼は、「ヌル」と呼ばれ天才だった。自分を拾った魔術師は浮かれ、周りから疎まれているのは明白だった。 事故に見せかけ魔術を受けるのは日常となり、言葉の意味は理解していないだろうと陰ではなく正面切って毒を吐かれることももちろんあった、物理的な力がない事をいい事に体に触れてくるモノもいた。目立つところに傷があろうと誰かがかばうことはなく、無様だと笑い、暴き、辱める。 それを当たり前と受け入れ、無邪気を装うことが普通になる頃奇人が現れた。 その奇人は、他人から子供を隔離し、ひっそりとした小屋へと住まわせた。 罵声を浴びせるでもなく魔術で力を振るでもなくただ住まわせ、少しの教養と衣食の保証。冷ややかな場所から温かな場所を提供した。 奇人は協会でも奇人であった。上の言う事を聞かず、好きに行動し、周りの毒は力でねじ伏せる。他と違い我が道を行く。奇人の背中は子供にはかっこよく見え、初めて家族以外の大人に好意を示した。 好意を示したその日から、子供は奇人と床を共にするようになった。特に何をするわけでもなく奇人に抱き着き奇人の腕に抱かれ眠りにつく。 子供は久方ぶりに幸せを得ることができた。 6歳の誕生日を迎えた日の夜、子供は自ら奇人に口づけた。辱められた方法を用いて人を悦ばす術を。 奇人は驚いた顔をしていた。戸惑いと快楽と…複雑な思いをした表情がどこか遠い父を感じさせた。 初めてではない行為はどこか違うことを感じ、どこか幸せを感じた。 誕生日の翌日、協会に一人呼び出された子供が小屋の方に戻ると、懐かしい嫌なにおいが漂ってきた。 メラメラと燃えた小屋は、燃えているのにどこか冷めて見えた。子供は繰り返さないよう自身を守り火の海に飛び込むもそこには、椅子に縛られ脚の無い焼け焦げた奇人の姿。出来る力で奇人を外に出した時には虫の息だった。縄を切り開放する。弱弱しい腕は強く子供を抱きしめた。 耳元で奇人は声を絞り出す。焼けた喉から出た音は、かすれていた。「姓をブルームと名乗るんだ…可愛い私達の、弟よ。外に出て沢山、素敵なものを」 声は途切れ、腕から力が抜けていった。自分を優しく抱いていた腕は今はもう何処にもない。子供は、奇人を運び出しその夜森で、口づけし腕に包まれ眠りについた。翌朝は森は騒がしく、奇人の腕だけ貰って彼を森に埋めて子供は壁の外へ出た。彼との約束の為に 壁の先には図鑑で見た世界より広いものが広がっており、子供は目を煌めかせた。立場を隠し、奇人を隠し、真実を隠し。全てを隠して街に出る。 子供は港へ向かう。図鑑で見た海へ。広く先の見えない世界を夢見て。知らない世界を求めて。自分にとっての素敵なものを奇人と共に見るために。 そして現在。 ある海賊が船員を募集している様だ。その船を探し出し、子供は荷物に忍び込み今か今かと出航を待っている。

※歌詞を引用、及び記載することは禁止となりました(Youtubeや歌詞サイトのURLだけ書くことをお勧めします)。
↑ページ上部へ