タグ： Noahの舟

「患者になることはできない。私は、あくまで起点作りなだけなんだよ」 明日輝総合病院に勤める精神科医。 主にカウンセリングや依存症の患者への投薬を仕事としており、患者の話を聞きながら的確な薬や対処法を考えつくことができる。知識は、薬学面や心理学面に長けている。 顔が良いため、初めての患者の気持ちにもすんなり溶け込むことができる。仕事柄、患者の重い話を聞くことが多いため、精神力が高い。言葉遣いも柔らかくゆっくりで、動きも遅い。本人曰く、「カウンセリングで患者にゆっくり話してもらえるように、頷きとか所作をゆっくりにしてたら、何もかもゆっくりになっちゃったんだ」らしい。聞き上手。しかし、そのためからか、精神が不安定な患者にいきなり掴みかかられたり等すると、避けることは難しい。振りほどく等の力もあまりないため、身体は少し脆い。縦に長い。 機械には少し弱い方。最新機器の研究に教育係として携わってはいるが、未だにアスクレピオスを操作したり、端末に入り込まれたりすると、テンパる。 感情の起伏はそれほどないが、穏やかな笑顔の下に隠しながら感情をモロに出すことがある。喜怒哀楽はちゃんと表現できる。 常日頃から笑顔を絶やさないが、患者が何をしてもニコニコと居続ける姿は、逆に狂気であるという話も。 日頃やって来る患者のことは、大切に面倒を見る。処方もカウンセリングも丁寧に行う。患者の様々な心持ちに触れてきたが、深い感情移入はしない。共感はするが、あくまでも『治療』として話を聞いている。 以下、CoC『紡命論とシンギュラリティー』秘匿情報あり。 三年前、彼の恋人は静かに息を引き取っていた。 彼女の名前は『沙原 栞(さはら しおり)』といった。 否…もう『栞』と素直に呼ぶことは難しかったかもしれないけれど。 自分は、両親が医者の家に生まれた。 外での買い食い、外食、娯楽施設等、あらゆるものを制限されて、非常に息苦しい生活を強いられていた。学校と塾と学校を往復し、つまらない時間を過ごしていた。 自分と彼女は、家が近くだったということもあり、幼馴染だった。 家柄も何もかも違ったけれど、一緒にいることが多かった。お互いの両親も、最初こそは反対していたけど、仲の良すぎる二人を見て、その内干渉するのを止めた。 彼女は非常に快活で、底抜けに明るい女性だった。 自分は、そこまで感情を起伏させることができる彼女を羨ましく感じていた。文字を見ることを強制をされていた自分にとって、それは"刺激"に近かった。 彼女の夢は、世界を旅するマジシャンだった。黒の燕尾服に赤の蝶ネクタイをして、大きなシルクハットを被りながら世界を渡って、ありとあらゆる人をびっくりさせてやりたいとよく語っていた。自分にも、彼女自身が持っているマジックをたくさん見せてくれた。目を輝かせて披露する彼女を、微笑ましく、また妬ましく思っていた。自分は、家の中という"籠"から、逃げられない立場にあったから。 しかし、日を重ねる毎に、彼女の様子が変わり始めた。 「何でこんなところにいるの？」「私、今何してた？」と尋ねることが多くなった。口調が荒くなり、自傷したり自分に掴みかかる時が増えた。 理由を、彼女の身に何が起こっているのかを突き止めようとした。様々な医学に手を付け、最終的に精神医療学を学び始めたのは、それがきっかけだった。自分は、彼女を救いたい一心だった。 精神病とは、世の中にとっては受け入れ難いものである。患っていることを知らなければ、奇怪な行動をしているのと同じだからだ。 だからこそ、自分だけは受け入れたいと願った。 彼女が幾ら暴れようと、幾ら泣き喚こうと、自分の存在が分からなくなろうと。自分は貼り付けたような笑顔を振り撒くことにした。心は崩壊寸前だったけれど。 とある日、彼女は自分を遠く遠く突き放した。自分は相変わらず笑顔を貼り付けたけれど、それでも彼女は自分を認識してはくれなかった。「出て行け」「お前のことなんか知らない」とも言われた。 恋人と言われる関係だったのに、積んでいたものが一気に降りかかった気がした。今までは気にも止めていなかったはずなのに、その日だけは何故か、耐え切ることができなかった。 その後、「また来るよ」と暴れる彼女に言い残し、病室を後にしたが、次の日、彼女は息を引き取っていたのだ。 それを見た自分の気持ちの中に、一層強い衝動が湧き上がり、気付けば『魔術』を行い、彼女を隔離病棟に連れて行っていた。 今でも時々、彼女の様子を見に行き、傍に寄り添って過ごす。 「どんなに彼女が私を忘れ去ろうと、私が大切だと言える人は彼女しかいないんだよ」 「彼女の"中"にどんな人が現れようと、栞は栞なんだ」 「その大切な人を、火ごときで失いたくないのは、君達も一緒だろう？」

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