タグ： るぴ

生まれは貧民街のイーストエンド。生まれた時から親はいなく、どうやって育ったのかすら覚えてはいない。雑草が根付く様にそこで這うように生きて来た。そんな兄弟たちがこの街には溢れている。戸籍がないため苗字がない。「フレンドリーな。幸運な」そんな親しみを込めてジルと呼ばれている。 寒さも飢えも経験し、寄り添いどうにかして生きて来た。世を儚んでもどうしようもない、これが自身の置かれた当たり前の環境なのだから。生きる為に盗みを働いた。ゴミも漁った。行き倒れそうになれば乞食のように金を恵んで欲しいと空き缶を置いた。偶には空き巣にも入った。プライドなどどこかへ捨てて来た。世の中の底辺で生きていた。 それでも明るく生きていられたのは持ち前のバイタリティがあったからだと思う。絵を売った僅かな金で兄弟たちに一斤の食パンをちぎってわけた。それが一番嬉しいひと時だった。いつか自分で絵を描いて、それを売った金で兄弟たちを腹いっぱい食べさせてやるのが夢。 絵というものは、自分が評価をするものではないと思っている。誰かが評価して初めて値がつくものだ。だからきっと、画家として有名になりたいなどではなく、自分の絵がだれかにとっての最上の絵と思われたいという思いが強いのかもしれない。「天使の歌」を見て揺れ動かされた自分のように、誰かの心を揺り動かせるような絵を描いてみたい。 貧民街で見かける綺麗な男の子。一目見た時に天使の様だと思った。見かける度に大人と一緒にいる事が多かったからか、貧民街の中に居る事は知ってはいても話をしたことはない存在だった。屋敷で初めて出会った時にすぐに目を惹かれたのは、いつの間にか貧民街から消えていた彼がここに居た事を理解したからだ。初めは安堵した。彼がここで人間らしく暮らしている事に。夜に辛そうな声が聞こえてきてからは心配に変わった。ここは、衣食住を保証される代わりにダルマンが人間を好き勝手に出来る場所なのだ。男娼とメアリーの事を案じながらも声をかける事すら叶わずもどかしい日々を送っている。 贋作を描くことは、貧民街出身の為、どこか仕方ないと思っている部分もある。それでも諦められない夢を、いつかは叶えたいとデッサンを空き時間に繰り返している。偶には男娼の顔もあるかもしれない。ヴェールを被っている分表情は想像によるものが多いのだが。あの目を惹く整った顔立ちで、彼はどんな風に笑うのだろうか。

※歌詞を引用、及び記載することは禁止となりました(Youtubeや歌詞サイトのURLだけ書くことをお勧めします)。
↑ページ上部へ