タグ： 花冷えHO2

花冷えに亡く季節　HO花 ラナンキュラスの咲く少女。 ハイネ。 アゲハモドキの学名 　背骨に沿ってラナンキュラスが咲く。そのため衣服の背中のところを大きく切り取ってしまっていて、だって花が擦れて仕方ないから、ハイネは諦めたようにぞんざいに言う。滑稽だろ、ぽつぽつと脊椎に並んでいる。脊椎。春だろうと夏だろうと関係ないんだから、花と言えるかどうか。養分を吸って咲いているかもしれない、という点においては花かもしれないね。 　……ハイネは毒性ある蝶に擬態する蛾の名前でね。どこが何にとは言わないが、それらしいと思わないかい。花にとまっているかのようだって、さ。花が本体なのかもしれないよ、こうしている私こそがヤドリギのような……。 　脊椎から咲くのであれば、この血液中を種子が巡り体内で発芽しているんだろう。それをきっと、私は……物理的に切除するのか、それとも内側から枯らすのか、あるいは……例えば、お気に入りの本に挟んで押し花にしてしまい込んでおくのか……宿主が用済みになる以外の将来があればの話だけど。 　ほら、あんまり近寄ると養分を取られるよ、君にも花がつくかもしれない。空気感染するようなものだったらよくないよ、私はたまたまこうして生きているけれど、君は全てを取られてしまうかもしれないよ。だからあんまり近寄らない方がいいよ。私がこうして生きているのは、もちろん親がいるからだけれど、きっとそういうことだから、私は人から遠ざけられたし遠かったんだよ。 　ーーあと三年で、きっと花は枯れる。 　「きれいだ」ハイネは引き結んだ口を微かに動かして小さく呟く。それは彼女にとっておまじないのようなもので、そして自らの救いとなる一言だった。呪われた花を背負ってどれほど経ったか、芽吹いたそれが背中を破って咲き誇るのを自慢に思ったことなどなかった。この花のせいで彼女は一人きりだった。 　図鑑をなぞってそれは恐らく「ラナンキュラス」だと知ったが、それが何の救いとなっただろうか。彼女は自分の脊骨に沿って咲く花を、疎ましい以外に思うことがあっただろうか。いや。過去にたった一度だけ、彼女のそれを綺麗だと言ってくれたことだけが支えであった。 　あと三年でこのサナトリウムを出て、花を枯らすことができる。そうすれば人並みには、……しかし過ぎるのは、これをきれいだと言った誰かの影である。 　「きれいだ」ハイネは小さく呟いた。そればかりが頼りで生きてきた彼女にとって、脊椎に咲く花が枯れることは果たして。 　ハイネ。 　アゲハモドキの学名。あるいは愛の詩人。 花冷えに亡く季節　2025.7.19 ハイネ・アンデルソン

※歌詞を引用、及び記載することは禁止となりました(Youtubeや歌詞サイトのURLだけ書くことをお勧めします)。
↑ページ上部へ