タグ： ママ つばめ

昼は小劇団の裏方スタッフ、夜は歌舞伎町でバーテンダーとして働いている人当りの良い青年。 劇団では大道具・小道具などの美術製作全般に携わるほか、人手が足りないときは音響・照明を兼ねたりもする。唯一台本読みにだけは駆り出されることがないが、これはどんな台詞を言わせても普段のにこやかな様子からは想像がつかないほど全てが棒読みになってしまうからだと言う。劇団の仲間からはエンちゃんと呼ばれている。 このコロナ禍で劇団も大打撃を受け解散寸前なので、最近はほぼバーテンダー仕事がメインで大体週５で店に出ている。穏やかで接客も上手いがもっぱら聞き役に徹するのが常で、自分のことは一切話さない。ママや店の常連からはエンちゃんと呼ばれている。 劇団の仲間は燕がバーテンダーをしていることを、ママや店の常連は燕が劇団スタッフとして働いていることを知らない。 趣味はカメラ。余計なものが映らないのでいいらしい。 出身は青森県むつ市――"恐山"。 日本三大霊場の一つである恐山菩提寺近くにて放置されていたのを、イタコの一人が拾った。四歳までは恐山で育ったが、五歳の誕生日を目前に控えていたある夜、彼を養っていたイタコがとある口寄せに"失敗"し廃人と化したため、色々あって関東の孤児院へと移ることとなった。 「＊＊＊さんはねえ、イタコとしては正直みそっかすで……でも何て言ったっけね、あの赤ん坊を拾ってからは急に、怖いくらいに口寄せが上手くなっていったねぇ。みんな悪口言ってたよ、本当に口寄せしてんのはあの坊ちゃんなんじゃないのってねぇ。そんなわけないんだけど、アッハッハ！　……あの坊ちゃん、生きてたらもうすぐ二十歳ぐらいかねえ。元気にしてるといいんだけど。不思議な子だったね。何が不思議かって？　誰も――泣き声を聞いたことがなかったんだよ。泣かない赤ちゃんなんて、ねえ、フフッ」 基本的に自分の身に影響がない限りは何もしないが、時折成り行きで誰かに"助け"を求められることがある。そんなとき、燕は出向いてゆく。謝礼をもらうときもあるし、もらわないときもある。 滅多にないがどうしても自分の手に余る事態に遭遇した場合、燕は深夜、自分のスマホではなく公衆電話を使い、ある人物に電話をかける。その相手は、彼をつばめちゃん、と呼ぶ。 現在、混迷を極め退行に近い症状を起こしている。

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