タグ： なまこ式 花火職人 火炎の計画 西原殺

2015特徴表：不思議ちゃん、眼鏡をかけている …………………… ……おあ？ お客さまかい？ んーーいらっしゃい。よいしょっと。悪いね、散らかりっぱなしで。ささ、そこ座って。今お茶を持ってくる。 ごほん。改めまして、不破井屋花火堂へようこそ！ 僕はここの店主、七代目印座宝と申します。以後よろしく。 ああ、あんまり畏まらなくて大丈夫。見ての通り、僕はかなり軽薄な人間だからね！ にしても、珍しい人もいるもんだよ。こんな冬場に花火やろうって思い立って、しかもここを見つけるなんてさ。Amazonかどっかに余りの在庫あるだろ、今のご時世。……別の用事だったりする？ …………はーん、やっぱりそうか。恐くて嫌ァな世の中だねぇ、全く……へへへっ……てことは、もちろん合言葉も持ってきたわけだ。 ……はい、確かに！じゃー早速案内するよ、僕について来て。ちょっと込み入った場所にあるから、迷子にならないようにね。 ……そういえばさ、さっき言ってもらった合言葉ってどこで知ったんだい？ 確かアレ、いつも黒シャツ着てる50ちょいのオッサンにだけ教えておいてたやつだと思うんだけど。 え、あなたがその息子さん？じゃああのオッサンどうなったの？ ……あ、あー……なんというか。ごめんな、うちの商品が。悪いやつらじゃないんだよ。でも、扱いが難しいことは認める。あんたも十分気をつけて使ってくれ。 ……おっとと、通り過ぎるところだった。ここの壁が開くようになってんだ。もちろん、ここの場所も誰にも言わないようにね。ささ、立ち話もなんだし、入ろっか。 実名は「不破 乾大（フワ ケンダイ」。不破井屋花火堂の店主、特定の会員に向けて爆発物を違法に売り捌く個人ブローカー、自らの作品を用いて建造物やモニュメントを破壊する爆弾魔、若年にしてアメリカで高い学位を得ている現役の化学者など、様々な顔を持っている。 あくまで彼の自己認識の中では、花火職人という肩書きが最も大きな本分になっているらしい。元より百数十年以上前から続く老舗ではあったが、伝統を守ることと引き換えに規模を縮小していった現状を変革すべく、原始的な火薬と金属のみを使ったそれまでの手法を丸ごと一新し、人々から「空域の魔術」と称されるほどの派手なパフォーマンスを可能にした稀代の天才である。 とは言え、誰にも知られていない裏側には黒い事情がある。不破一族は元々爆弾魔の一族であり、それと同時に破壊行為に対して独特な価値観を持つ宗教めいた集団でもあった。 彼も概ねその思想を吸収して育ったものの、形骸化した規範によって多くの進歩が阻まれている事実を直ぐに見抜いた。前世代の人間が持つ凄まじい頑固さを数百回に及ぶ衝突の末に思い知った彼は、綿密な計画の元に家の中の権力者を一人残らず爆殺した。日常的に火薬の山を捏ねる人々を事故に見せかけて殺すことは、彼にとってあまりにも簡単だった。こうして、不破乾大は家の仕事をたった一人でコントロールできるようになった。 初めに彼は、今まで花火にしか用いられていなかった数々のノウハウを新たな手段で活かすために方法を考えた。それは物質の配合を考えることや、完成図をイメージすること、何よりも安全に注意を向けることなどが集合したものだった。 意外にも現代の人間たちは極度の派手好きであり、それは彼の新しいビジネスにとって非常に大きなチャンスだった。テレビもYoutubeもみんな爆発を愛していた。彼は仕事を繰り返した。求められたことを実現する途中、少しのサプライズを加えて、人々に感動と驚きを贈る。彼や彼の祖先が成したことと比べても、決して劣ることのない輝かしい事業だった。 しかし、男はやがて自分の正体を知った。 他ならぬ自分自身が喜びを感じ取るトリガーのことを、彼はその時まで大きく誤解していた。 人々に感動を与えることではない。期待に応えて金銭をより多く手に入れることでもない。大義や未来のために古い物質を吹き飛ばして身勝手に想いを巡らせることでもない。行いを通じて出来た仲間と通じ合うことでもない。 不破乾大は、ただ物が壊れることだけが好きだった。 幸いにも、彼には資産と技術があった。彼しか知らない秘密のアイデアと組み合わせて、彼は自らの欲望を放牧するために手を尽くした。 視界に映る全てを。興味を唆る何もかもを。美しさと醜さを。天と地を。存在の意味でさえも。 思いの儘に。

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