タグ： きみは100億万ドル

※本来は女言葉でしゃべります ハロー！　私の名はロナ・S・ナチグロ。日系アメリカ人だ。みんなからは親しみを込めてロニーって呼ばれてるぜ！　よかったらアンタもそう呼んでくれよ、なあに立場の違いなんか気にするもんじゃあない。ここは自由の国Americaだぜ？　多少の不自由はあるがご愛敬ってところだ、狭い檻に閉じ込められてきゅんきゅん泣いちまうのは可愛いパピーだけで十分だろ。……は？　マジで呼ぶの？　あっそ、せめて様をつけろよ貧乏人。 私を生んだのは中流階級のしがない父と母だ。毎日顔を合わせりゃおはようシュガーキューブだなんてキスしてくる夫婦だぜ、朝っぱらから食うトーストには甘すぎて何杯もミルクをおかわりする羽目になるような、な！　んなあきれた親がどうしてビッグ・ベンのてっぺんみたいな最上階で朝食をとれてると思う？　なあわかるだろアンタ、言ってみな？　不動産業の財産？　貧乏人は財布の中どころか脳みそまでスッカスカなんだな。 何故かって言えばだ、慈愛と甘ったるさしか持ち合わせてない夫婦にも神より授かった宝があったからだ！　そう、この私、ロナの存在がな！　どういうことなのか聞かせてやろう。どうせ暇なんだろ？　おっと失礼、貧乏暇無しって言葉があったな。まあたまにはアンタの棒っきれみたいな足にだって休息が必要だろ、このパンでも食いながら聞いていな。まず私が3歳の頃の話だ─── ▼▼▼▼▼ 一般家庭に生誕し3歳の時に作り上げたキッチン便利グッズが大好評。 その後半年毎に新しい生活雑貨を作成し、4歳の頃に両親が会社を設立。瞬く間に大企業へと成長させた。 彼の作った「らくがきちょう」は突拍子もないアイデアが山ほど書かれていたが、そのどれもが実現不可能な物質の存在が必要不可欠。 しかしとある企業秘密の手段によってあらゆる製品の開発・量産が可能になった。 それも「らくがきちょう」の末端に書かれていた化学式によるものだと噂されているが真偽のほどは定かではない。 唯一わかっていることは利用されている未知なる新物質の成分が水溶性の結晶体、無菌の膨張剤と少々の植物性有機物で構成されていることだ。 この技術は模倣不可能とされており、特許を取得しているというのにその内容は秘匿されているという前代未聞の事態となっている。 ▲▲▲▲▲ 神に愛され授けられた技は、ひとつの家族を天国へ誘うのに十分だった。幸いなことにこの国には得体の知れねえもんの独占を禁止する法律はない、私の作り上げたものは世界中で誰にも正体がわからないまま寄り添ってるんだ、それこそ神みたいにな！！　アハハ！！ だというのに私は孤独だった。当然だろう、誰も彼も私とは立場が違って理解することもされることもないのだ。普通とはなんだ貧乏人、「一般的」から逸脱した天才は如何様に「一般的」な社会にて生きればいい？　皮肉なことだな、誰の隣にも存在するものを作った私が誰よりも一人ぼっちであったなどと……。 まあクソほどどうでもいいことなんだが。 なんだその目は、まさか私が孤独を憂いてこんな下級国民の労働する環境に身を置いているとでも？　アンタの思考はどこまで行っても一般的なんだな、まあ貧乏人であれば当然か、この国の末端にまで蔓延るサブスクリプション雇用者なのだものな。おっと殴るなよ私はタフだぞ。アンタがそのフォークで私の丁寧に生えた親知らずをカチ割ったところで私にはタンピングランマーとアスファルトでアンタをサンドイッチにする余裕くらいは残るんだ。無駄な足掻きは Fxxk!!　だからってマジに殴るこたねえだろ！！！！　お互いここで職を無くしていい目に合う立場でもないだろうが！！　ったく……しかしアンタもそこそこスタミナがあったな。さすが下級労働者だ……おい！　そのプラスチックスプーンを私に向けるな！！　 ……なに？　その割に私も体力があるだろうって？　ふふーん、当然だとも。私はまだくたばるわけにはいかないのだ。なぜかわかるか？　コラコラ聞け聞け食パンもう一枚やるから。美味いだろ？　私も好きなんだそれ。 そう、あれは私が13の頃─── ▼▼▼▼▼ たたき上げでもボンボンでもなんでもなくただ自分の力でのみのし上がったことを誇りに思っており、接するものに関しては友好的な態度をとらない。 特に自分に対して中身のない称賛の言葉を投げかけてくるような人間が大の苦手なため全力で見下した発言を返しがちになる。のに、こちらに対して軽率な態度をとらない(あるいはいつもの世話焼き)ハニーと出会い心を奪われた。 友達と感じるものなどいなかったため彼に強い感情を抱く。ゲームセンターに立ち寄ったり外食をして談笑したりなどの時間があまりにも愛おしかった。 それ故、友人などという軽率な名の付く関係性に満足いかなくなった。彼とより深い関係になるにはどうすればいいだろう？ 思い浮かんだのは両親の姿であった。 そうだ、性転換して結婚しよう。 ▲▲▲▲▲ おっと、ようやくこっちを見たな貧乏人。他人と会話するときには人の乳房を注視するのがお前の故郷での礼儀作法か？　それならさぞお前の母親は子沢山だったんだろうな！　父の日のプレゼントはさぞ苦労するのだろう、ん？　そうさ、私は何もかも捨てて単身外国へ向かったのだ。海を越え空を行き宇宙を眺めても、どこにいたって金を積めば人はなんだってしてくれるし態度も改める。アンタから見たら愚かだったか？　なら聞くが今更どうやって人間と関係を結べって言うんだ。　いや、答えんでいいのだ。私はもう愛しのハニーさえいればそれで構わないのだから。彼と生涯を共にできればこれほど幸せなことは無い、なにも不安も無いしすべてが愛に満ち溢れるのだ！！ それがどう体力につながるのかと？　まあ……現実はそううまくは進まなくてな…… ▼▼▼▼▼ 資産をつぎ込んだ大手術は一片の憂いもなく完了された。 しかし療養期間中に超低確率で発現する感染症に罹る。その生存確率わずか100億分の1、費用の中抜きによって一部劣悪になった環境が要因であった。 生死の境を彷徨った脳内に浮かぶのは愛しのハニーの姿のみ、（譫妄により）彼とは顔見知り以上の関係になっただろう、強く深く揺るがない友情を感じたのだから盤石に違いない、こんな気持ちは初めてだったのだから彼だって同じに違いないと強く信じた。 それどころか彼はこちらに対して挑発的な姿勢を見せたり愛の言葉を囁くなどしていた。 二人並んで眺めたあの海や登頂した黒い山、月でのピクニックなどは何よりも幸福であったし、蜜月の夢想は既に無いモノを強く疼かせた。 死ぬわけにはいかない。ただその意志だけが100億分の1をつかみ取り、屈強な体を以て再びハニーの待つ地を踏ませたのだ。 ▲▲▲▲▲ これこそが愛だと呼ばずになんとしようか、相思相愛無くしてこの奇跡を何と呼ぼうか！　呼ばれてたまるか！　こうして私は強い想いと体を得たんだぜ……素晴らしいだろう、ほら色情症、涙しろ！　歌え！　立ち上がって両手を叩くといい！　……しないのか？　あっそ、ノリ悪いなアンタ。 まあ治療費で財産は吹き飛んだし秘書には辞められるし会社は傾いて破産申請もしているが大したことじゃない。私は感じたんだ、この世は愛こそすべてなんだって！！　金ならまたこうして稼げばいい、幸いなことに私には取締役時代に培った運転技術も健康な体も残っているのだ。そうとも、どれだけ挫けようと1K4畳半に住もうと風呂トイレが無かろうとこの、愛だけは、愛だけは私に残っているんだから！ さて、ご清聴ありがとう貧乏人。そのパン祭りのシールは話代として譲ってくれ、もう少しでお皿がもらえるんだ。 ……なに？　その企業秘密を売りさばけば金になるだろうって？　ほほう、少しは頭が回るみたいだなアンタ。だがそうしたいのはやまやまなんだが、アレは外に出せるものではないんだよな。 ▼▼▼▼▼ 銀の匙を咥えて産まれてきた。それどころか半年に一回喉から出てくる。 匙は調理器具の大匙と同程度の大きさであり、自分の口内に突っ込んで取り出すとひと匙の小麦粉が出てくる。 これを水と塩とでよく捏ねて膨れさせるとどんな稼動や状況にも適応できる粘性の物質へと変貌する。 焼いて食うと非常に腹が満ちるが、採掘時の体調によって味がとてもよく変わる。 基本的にミルクの風味があり、甘いことが多い。 ▲▲▲▲▲ っと、リーダーがお呼びだ。そろそろ休憩時間も終わりらしいな。今日も一日気張っていこうじゃないか。 ところで貧乏人、そのパン美味いか？ ……そうか、良かった！

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