タグ： かなきみ

実家が忍者をやっている。 小学生までは祖父母の言うとおりに修行をしていたが、中学生になったくらいから、周りから浮いていることを自覚し始めた。 普通の子供は普段から隠れられそうな場所を探したり、錠前を見ても鍵開けの練習をしたりはしないらしい。 時代錯誤も甚だしいと、修行をボイコットするようになったのが高校生に上がってすぐのころ。 両親、特に婿入りしてきた父は理解を示して自由にさせてくれたが、祖父母からは顔を合わせるたびに𠮟責を受けた。 そうして一年も経つと、どうやら失望されきったようで、廊下ですれ違っても無視されるようになった。 祖父母は6つ下の妹を目にかけることにしたらしい。 妹は兄を反面教師としたのか時勢を読むのがうまく、祖父母にもいい顔を見せるし外でも何事もないかのようにふるまっている。 6つも年が離れると外で話す機会もないし、家では祖父母にべったりなので顔を合わせることも少ない。 どんな風に見られているのだろうか。軽蔑、とまでは言わないまでも、要領の悪いダメな兄だと思われているのだろう。 居たたまれない思いも抱えつつ、今日も少しだけ窮屈で大いに平穏な日常を送っている。 そろそろ大学も卒業する。そうしたら東京に出るのもいいかもしれない。 名残り惜しくないと言えば噓になるが、誰も知らない場所に行けば、新しい人生を始められる気がする。 と、本人は供述している。 自分が一般人だと強く主張する男子大学生。 特殊な環境で育ったため、常識が世間一般とは著しく乖離している。 中学生になったころに自分と周囲の差に気づいて一般人になろうと決意したが、哀しいかな、一般人の尺度を学ぶ機会を与えられなかった彼は、忍者に染まった価値観で普通になろうとしてしまった。 周りのファッションを参考に洋服に手を出してみたが、鎖帷子は常に下に着けた。 手裏剣や苦無の修業は時代錯誤だとサボるようになったが、護身の手段は絶対に必要だろうと考えた彼は拳銃の練習に励んだ。 足音は立てないし息をするように闇に溶け込むし大抵の毒物には耐性がある。そんな自称一般人。 ちなみに、忍者として当然仕えるべき主人がいるし、小学校から大学まで同級生として陰日向に守り続けている。 きっと周りのみんなも表立って言わないだけで、誰か主君に仕えているんだろうと信じこんでいる。

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