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君愛葬、紙魚のうたネタバレあり 3-4 戦士　（まあ編集って戦士だよな・・・） 2-10 前職（画家）52P　 2015評論家ベース 【設定】 割といい出版会社に就職できた。 元々容量がよくコミュニケーションもうまくて、すり寄れるタイプの自信があった。 就職活動で口から漏れ出る思ってもいないのに出る一言一句に、自分自身が呆れるほどだった。 そんな中でわざわざ編集という仕事を選んだのは、本は好きだったからだ。 好きな作家は純文学系統のものが多く、彼らが紡ぐ全ての言葉が生きているなと思う。 その文に憧れて、過去に筆を手に取ったこともあった。 陳腐でありきたりな文字たちを書き連ねては原稿用紙ごと握りしめる毎日が続く。 唯一書き上げられたのは｢刹那｣という題名の本だった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ｢刹那｣ 1人の少年の話。 小説家を好きになった少年がその刹那的な恋を理由に目の前で小説家の原稿用紙を読みもせず破った。 幻想世界ではなく、現実の自分を見て欲しいと。 細かく千切れて行く紙は綺麗で、その景色は小説家の書く作品そのものだった。 小説家はその光景を目を見開いて見つめた後、腹を抱えて笑った。 その瞳は少年を捉えずただひたすら舞う紙だけを見つめた。 次の日、家を訪れるとギイギイと宙に揺れる彼の体が目を焼いた。 その原稿用紙は元々、死を選ぶ小説家の最後の遺作だったのだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この頃ちょうど母親が病で亡くなったのだ。 子供心ながら、母の死を昇華しようとしたのかもしれない。 それとも、この頃から自分は｢死｣というものに囚われていたんだろうか。 今となってはもう何もかも分からない。 才能はなかったようだ。 少なくとも、持ち込んだ出版社はそう判断し首を横に振る。 まるで母の死さえ否定された気持ちになり、帰り道に涙が止まらなかった。 でも、受け入れられていたら嬉しさで満ちてしまう。それはそれで、母の死への冒涜な気がして自分に吐き気がした。 活字たちを包むハードカバーの美しさ。 本という存在の外観もとても重要だと思っている。 ならば、と絵を描き始めた。 ほとほと本と言うものが好きなのだと思い知らされた。 作家によっては編集にもハードカバーの相談をしてくれるらしい。 いつの日か一流作家の編集になってやりたい。 自身の選んだカバーをつけた本を並べてベストセラーにしてやる。 それが次の夢になった。 ……………………………… そう思っていたのに、実際に担当についたのはバカ作家だった。 しかも官能小説 は？ 腹が立つ腹が立つ何だこの文章、ぐっちゃぐちゃすぎるだろなんでドヤ顔して締切守ったぞみたいな顔してんだ？ いや携帯小説に憧れて？理由まで馬鹿すぎる、なんで俺がこいつの担当に？！ 編集長に抗議に行ってもあのこぽやぽやしてるからさー君ならピッタリかなって、面倒見てあげてよって言われて返された 一番腹が立つのは何故かめちゃくちゃ売れてる事だ、俺はなんでこんなエロ文章を必死に直してる！？(バリバリ直しながら) 今すぐ辞めたいのに、編集長が2年そこで頑張って成果出したら佐藤先生(一流作家)のとこにつけてあげるって言い出したから辞められもしない！！！！！！ なんで俺はこんな女と男がエロいことしてる表紙を選んでるんだ…？ でも、官能小説のその文の中に時々光る惹き付けるものとか、どこか心を捉えて離さない才能のようなものを読んでて感じて、俺はその度にやるせない気持ちになる。 こんなふざけたやつがこんな文章書くなよ。 自分の中にある作家へ尊敬のような気持ちと、同時に馬鹿にしてる奴へそんな気持ちを抱くことへ酷く劣等感を覚えながら。 頭をガリガリかいてまたペンを走らせた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 君愛葬を終えて 【喪主挨拶】 並木先生のご霊前に、謹んでお別れの言葉を捧げます。 この度は誠に突然の訃報に接し、驚きとともに深い悲しみの気持ちでいっぱいです。 先生の作品はどれも素晴らしく人の心をうつ物ばかりであり、私はその一端を担うことができるこの仕事を誇りに思っていました。 そのため、このような形で先生とお別れをすることになり悲しみは募るばかりです。 先生と初めてお会いしたのは、5年前に先生がデビューされた時でした。私はまだ入ったばかりで経験が浅く、先生の元で本当に様々な仕事を学ばせていただきました。先生はいつも夢を追い、懸命に執筆に取り組まれ、すぐに誰からも愛される小説家になられました。先生の文はたしかに大ぶりで一見荒くも見えますが、中に通る芯が太く、私はその一文一文に目を通すたびに感銘を受けました。 きっと読者の皆様もそうだったと思います。 思えば、仕事のパートナーとして、先生とともに高い山を目指して登っていた気がします。初めて出版された第一版をいただけた時、先生には言いませんでしたが…とても嬉しかったです。あの方と頂上の景色を見ることができて良かったと思いました。 私の編集者としての道のりを、先生が手を引いてともに登ってくれたからこそ、私の今があると思っています。 願わくば、ずっとこの先もそうでありたかったです。でも、あなたの姿をいつも思い浮かべ、前に進むべきなのだと思います。 さようなら、先生。 どうか安らかにお眠りください。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー どこが前に進めているんだろうか。 今も隣で死体として存在する彼を見てひどく心が締め付けられる。 自分のたったひとつの作品である小説を思い出す。 刹那的な欲求で、取り返しのつかない選択をする少年は今の自分にそのまま当てはまった。 先生の作品をこれからも読むことは出来る。 でも、先生は死んでいる。 自分のせいで。 作家にとって世界観の吸収は命と言えるほど大事なものだ。 日常的に感じる美味しさ、温かさ、嬉しさ、悲しさ、人との触れ合い、様々な人との交流、 全てが作家を育てて作品を豊かにしていく。 あんたの全てを止めたのは、壊したのは自分だった。 もうこの人は外の世界の何も感じることはできないし、この人と共にいられるのは自分だけなのだ。 嬉しかった。 悲しかった。 欲しかった。 欲しくなかった。 謝ってももう取り戻せない。 そして欲しかったものを手に入れた。 他のものは全部あの街に捨ててきた。

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