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いつでもだれにでも優しいと評判の小さな教会にいる神父様 「神は誰にでも平等な愛をくれるよ」 と煌々と説くその姿には見ほれるものがある また、フェンシングの腕もすばらしく、昔大会で優勝したことがあるのか、よく子供たちに教える一幕もみれるだろう 彼の救いを求めるものは多いのである 以下秘匿 彼は感情が揺れる事をひどく怖がる それは自分の両親が感情にまかせて自分に暴力をふるうからだ その汚らしい様をやきつけた彼の顔には笑顔が張り付いた 神の愛を説きながら、平等ではない愛を嘆く 人々の悩みや苦しみを受け止め、限界がくると彼は涙を流すだろう そうして耐えられなくなるのだ 彼が涙を流すとき、凶悪な殺人鬼が生まれる カレは鋭く細く細工をほどこした折り畳み式の自作フェンシングで人の頸椎を的確に貫く 感情に揺さぶられた人を対象に 自分の涙を止めるために 涙が止まる 命が止まる 心が止まる そうして今日も彼は笑顔で愛を説くのだ 平和が愛がほしいと (犯罪者で技能取得しています) 「神からの贈り物」 Joseph K Anderson(1881-1921) 愛に脅える博愛神父 [書簡の束の一部-幼い筆跡] 　神さま、ありがとうございます。父さんはじごくにおちたんですね。 　もうどなる声を聞かなくてもいいし、ぶたれることもないんですね。 　これからぼくは神父さまの言いつけをよく聞いて、はげみます。 [書簡の束の一部-男性の筆跡] 　マリー、困っているのなら隣のまちの教会へ通うと善いよ。 　小さな教会なのだけれど、とてもお優しい神父様がいらっしゃるらしい。 　誰に対しても分け隔てなく祈りと神のお教えをくださるし、それに何よりも、神父さまのおつとめが良いからなのか、……ああ、これはあまり口外しないように。 　天罰が、くだるらしい。 　愛しいマリー、もし夫の行ないに苦しむのなら、神に縋るのも善いと思うのだ。 [新聞記事の切抜] 1912/5/19 「男性一人死亡　地域民から『天罰』の声」 　昨夜未明、ニューオーリンズ郊外にて男性一人の遺体が発見された。被害者はジョン・ホワイト氏(35)と見られ、警察は殺人事件として捜査を進めている。数日間帰宅しなかったのを不審に思った妻が捜索願を出して3日後に遺体が発見された。遺体は同地域で複数にわたり発生している殺人事件と共通して頸椎を穿たれており、地域民からは「天罰だ」との声も上がっている。 [新聞記事の切抜] 1921/6/19 「教会で殺人事件？　男性一人死亡」 　ニューオーリンズ郊外の××教会にて今朝、同協会に務めるジョセフ・K・アンダーソン氏の遺体が発見された。遺体は同地域で複数にわたり発生している殺人事件と共通して頸椎を穿たれていたとのことだが、他の被害者と違い前面から刺された痕跡があるとのこと。また、凶器もすぐに発見されたことから、謎の多い事件となっている。地域民からは「不届き者から教会を守るために殉職したのだ」と惜しむ声が多数あがっており、葬儀は、……。 [書簡の束の一部-女性の筆跡] 　パパ、私これからもあの教会へ通い続けるわ。神さまは本当にいたの。天罰がくだったのよ。 　あの神父さまのおかげよ。私は今、とても自由で、幸せなの。 　神父さまは亡くなってしまったけれど、今も私たちを見守ってくださっているわ。 　あんなにお優しい方でしたもの。 　だからパパ、ありがとう。 　追伸：もしかしたらあの神父さまは、本当に神の使いだったのかもしれないわね。 [手書きのメモ] 　彼は平等と博愛を謳いながらも、その実誰よりも愛に悪い意味で敏感な神父である。幼少期に受けた両親からの虐待が切欠のようだが、結果として形成された彼の精神的な容器はとても脆く、壊さないようにするためには器へ注ぐ水の根本を壊さなければならないものとなってしまった。 　しかし、皮肉なことに彼の行ないは「天罰」として複数の他人から受け入れられ、称賛され、感謝されてしまったようだ。そんな他者からの「期待」はある種彼の最も恐れる不平等と悩みと苦しみの捌け口となってしまい、彼自身によって目一杯に注がれた水によって、最終的に彼は彼自身を壊すしかなくなってしまったようである。 　愛とは、この世で最も苛烈で残酷な激情だと言えるだろう。 　それこそ、怒りや嘆きなど、簡単に上回るくらいに。

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