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（やのもり せいいちろう） かつて天才少年と謳われた小説家。 彼は弱冠十五歳にして文壇にあらわれ、そののち直ぐに"小説家の登竜門"とされる文学賞を受賞。 受賞以来出す本出す本が話題作となり、「天才少年」と呼び称されることとなる。 処女作は『血咲く青』と題された学生が主人公の推理小説。 その後二作目、三作目と推理小説を執筆し続けたが、十作目を期に恋愛小説を多く世に出すようになる。 恋愛を題材にし始めた理由は明かさないものの、 「自分自身に真っ当な恋愛経験は無いですが」と笑うあたりにその理由が見えるともいえる。 若くして華々しく文壇にのぼった彼の母親は、現在の彼の人気に負けず劣らずの売れっ子小説家だった。 しかし彼が十四の頃に母親は原因不明の死を遂げ、そんな母の跡を継ぐように彼は小説家の道を歩み始めるのだが、 ただ有名な作家を母に持つというだけで彼が若くして小説家としての道を歩むことのできた理由はただひとつ、 それは彼が母の「代筆者」だったからである。 美しいものだけを目にし、文学に浸るように育てられてきた彼の才は、幼い頃から母の満足のいく出来だった。 それゆえに十歳をむかえたとき、彼は才能を磨り減らした母の代筆者として在ることを求められ、そしてそれに応えていた。 そんな彼の存在は母と母の専属編集者のみが知るもので、 四年後に訪れた母の死を切っ掛けに、共に秘密を共有していた編集者から「小説を書かないか」と声を掛けられたことがすべての始まりである。 見た目は柔和で優し気ではあるものの、切れ長の据わった目が淡く鋭さを感じさせる。 幾分か昔を感じさせる眼鏡を掛けているが視力は良好で、物はれっきとした伊達眼鏡。 「目は口ほどに物を言う」という言葉を心から信じており、 だからこそ「本心を悟られたくはない」「瞳を覗かれたくはない」と思い始めたことが眼鏡を手にした切っ掛け。 本音を隠そうとする傾向が強く、抽象的なのらりくらりとした言葉を多く口にする。 ─ 私は不安だった。 私の髪や指を白ませるように降り注ぐ朝の光が、庭で灰色に枯れる桔梗の葉が、 台所で母のたてる包丁の音が、まるで頬を優しくなでるように薄ら寒く私の煩慮を煽った。 もう私を探す足音を聞くこともなければ、「行こう」と私の腕を掴む重さを感じることもない筈だった。 それなのに私は、後悔も罪悪感も恐怖も無く、ただどうしようもなく不安だった。 己が半身をこの手で抛った感触が消えずに残って、私の心に漠然とした不安を植え付けるのだ。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　─ 明倉 三陽『血咲く青』より ─ 【シナリオ】 ・杉山屋敷怪異譚

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