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夜雀 蒿雀(よすずめ あおじ) 彼は勤勉かつ誠実で本を読むことが好きな青年であり、両親、妹と四人で生活していた。 彼が大学院を卒業する頃、深夜家に帰ってきた彼は、血を流し廊下に伏す母親を見つける。発見した時には既にこと切れており、彼は父と妹を探し急ぎ寝室に向かう。 そこには血の付いた刃物を手にした一人の男が立っていた。男の奥には娘を抱きかかえ、何度も刺された跡がある父の背中と、父の腕の中で呼吸もままならない状態の妹の姿があった。 そこからの記憶は無くなっていた。我に返ると、自分があの男の持っていた刃物を握っていること、そしてその男が足元に倒れており、動かないことだけが分かった。 彼は家を出た。目的も無く走った。走り続けた。彼の足が棒になったころ、彼は警察に連絡をする。「強盗に遭いました」と。 彼は正当防衛が認められ、罪を問われることはなかった。彼は独りになった。誰もいない家の中、眠ると必ず夢を見る。苦しむ男の顔、自分の手を強く握りながら喋る事もできず静かに固く、冷たくなっていく妹の夢を。起きると目には必ず涙の跡があった。 数日間、何ものどを通らなかった。一日に口にするものは少量の水のみ。何をすることもなく、彼はただ茫然と日々を過ごした。 ある朝目覚めると、目に涙の跡はなかった。鏡に映るひどい顔をした男に彼は問いかける。 「ついに涙も枯れたか」 彼はもう一度家を出る。誰も入らないように、またいつか戻ってこられるようにきちんと鍵をかけて。 彼は殺し屋である。依頼を受け、承諾すれば対象を殺すことになる。 彼は対象を殺す際、必ず義眼を着ける。自分の殺す相手の死に様を見届ける責任が自分にあることを、彼は理解しているのだ。 彼は遺書屋である。対象に遺書を書かせ、殺した後、必ず遺書を渡したい相手に届け、姿を消す。 死ぬべき人間、死にたい人間、死ぬ人間。対象の辞世の句は彼の手によって伝えられ、どこかに、誰かに、残り続けるのだ。 彼が遺書屋としての仕事を始め、数年が経ったころ、彼は独りの人間をスカウトする。 彼の目となってくれる人間を。 いつか自分の遺書を渡すことになる相手を。

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