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クトゥルフ PC作成ツール
ユウナギ
ID:4612983
MD:f9897747f7de757b6df695ea79600754
ユウナギ
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生まれ・能力値
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その他増加分
一時的増減
現在値
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初期
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アイ
デア
幸運
知識
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SAN
現在SAN値
/
(不定領域:
)
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技能
職業P
/
(うち追加分:
)
興味P
/
(うち追加分:
)
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初期値の技能を隠す
複数回成長モード
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<戦闘技能>
成長
戦闘技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
回避
キック
組み付き
こぶし(パンチ)
頭突き
投擲
マーシャルアーツ
拳銃
サブマシンガン
ショットガン
マシンガン
ライフル
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<探索技能>
成長
探索技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
応急手当
鍵開け
隠す
隠れる
聞き耳
忍び歩き
写真術
精神分析
追跡
登攀
図書館
目星
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<行動技能>
成長
行動技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
運転(
)
機械修理
重機械操作
乗馬
水泳
製作(
)
操縦(
)
跳躍
電気修理
ナビゲート
変装
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通常表示
<交渉技能>
成長
交渉技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
言いくるめ
信用
説得
値切り
母国語(
)
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<知識技能>
成長
知識技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
医学
オカルト
化学
クトゥルフ神話
芸術(
)
経理
考古学
コンピューター
心理学
人類学
生物学
地質学
電子工学
天文学
博物学
物理学
法律
薬学
歴史
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戦闘・武器・防具
ダメージボーナス:
名前
成功率
ダメージ
射程
攻撃回数
装弾数
耐久力
その他
%
%
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所持品・所持金
名称
単価
個
価格
効果・備考など
価格総計
現在の所持金:
、 預金・借金:
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パーソナルデータ
キャラクター名
タグ
職業
年齢
性別
身長
体重
出身
髪の色
瞳の色
肌の色
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その他メモ
職業ベース:薬師(シナリオ指定) 以下興味ポイントの割り振り ・聞き耳、目星…患者の様子を見たり、話を聞いたり。 ・料理…少しは自炊をしなきゃねぇと始めた。 ・博物学 …薬に使えるものがないかとか自然に探し始めている癖みたいなものがついた。 一人称:僕 二人称:あなた、キミ 仕事一筋で、薬の開発、研究をしてきた頭がお固い。そしてあまり力仕事は得意ではない。 生活は質素なもので最低限なものにしている。食事も雑炊や乾燥芋など渋めなものを好んでいる。 雑炊は味噌入りがお気に入り。質素な生活の中好き嫌いはしてられないので、嫌いなものはない。よく食べる。 好きな時間帯があり、夕方が好き。自分の目の色と同じだから、というよりかは、夕焼けの色が好きであり、一日の終わりと少しの寂しさ(一日でほんの少ししかない時間だから)を感じられるからだという。(←理由まで話したっけ話してない気がする) 両親はいないと思っている。というのも物心ついたころにはすでに教団内で暮らしており、そのころからだろうか「人のために」と思ってきた。 そこから知識を蓄え、薬師になった。 アンのことは、端的に言えば「不思議な存在」。 助けた人間に恩義を感じていてもわざわざ「カゾク」という関係を作りたいという人間はいなかったからだ。それに教団に崇められているのもそう思わせる一因だ。 カゾクが形式上のものではあるが、妹である彼女を少なからず大切に思っている。 仕事をしている合間の面会を大切にしている。 仕事であった面白いこと、アンが何に興味を湧くか反応を見るのに研究で使用している薬の材料だったりを持ち込んで見せたりしている。(どんなのを材料にしてるかにもよるけど、動物の残骸とか過激なものは除く) ↓↓↓↓野狗子と薬師のネタバレがあります。↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ▼序 カイコウイチバン アカネという、人の姿、思考を持つ、教団の人が「犬」と呼んだ彼女を見て、自分の中の定義が揺らいでいる。 ヒノモトを殺したには変わりないが、実験をされていたことやあの暗闇にいたことを踏まえると攻撃される可能性はあったため憎しみ、よりもヒノモトに対する不用心さが気になっている。本能から生きるためといえばそうだと思っている。逆に自分が生き残ったことが不思議だった。 アカネと名付けたのは、髪の色が夕焼けの茜色と同じだったから。 ▼閑話休題 - 壱 カンワキュウダイ-イチ 「ユウナギのこと話してよ」 自分が線引きをしている人間だとつくづくアカネに言われ気づかされる。それに自分についてなど、あまり考えたことがなかった。何を話かも迷った挙句自分の仕事の話をしていた。自分のことと思ええず謝罪を入れたが、何が出てくるかわかんないしと一風。…頭が固いと言われても仕方ないと感じる。そういえばと思い、自分が夕焼けの時間が好きだと伝えた。喜んでいたようで、少し嬉しくなった。人のために、確かに生きてきたが、人だけではない、何かのために生きる、ということもしてみてもいいかもしれない。 無責任なことを言った、自分がアカネを引き取ると。アンとの約束も守れず任務を全うしている自分が言うことではなかった。しかし…僕は、あの暗闇の中にはいたくないと感じた。だからつい口走ってしまった。上が許すか分からないと濁した。 アンとの約束の日でもあった。そのことを口に出せば、練習しといた方がいいんじゃないのかとアカネに言われ、花冠を作った。…いびつなものにはなったが、初めて作ったのがアンの前でなくてよかった。かっこがつかん。だがこれはこれで笑ってくれただろうか。元気にしているといいが。 アカネを寄越すくらいなのだから危険な旅だろうとは思っていたが、災難続きであった。……少しは自分自信を守れるようにした方がいいだろうか。痛む体では満足に動けないだろうと思い、難航を調合しようとしたが、いつもと環境が違うからかうまく作ることができずにいたが、なんとか調合に成功した。軟膏をアカネの比較的新しい傷に塗り込む。彼女は手当される度に嬉しそうにしている。テントの脚を折った時も直せるからいいだろと言っていた。直せるからという安直な考えで怪我をしないで欲しいものだ。てんやわんやあり釘を刺すのを忘れてしまっていたが、次そのようなことがあれば言っておくことにする。治せはしても戻りはしない。食虫植物の甘い香りに当てられあの場所が最高の場所と勘違いをした。新たな調合材料があることに越したことはないが、アカネが戦っている中、思うべきではないことであった。…休息もしかと取らねばならん。兎に触れ、猫を避け、鷲に狙われ、小鳥についばまれ…ようやく明日、地図に記された拠点へとたどり着く。 ▼破 - ヨウトウクニク - ヨウトウ 「うめ~!」 地図に記されていた場所、オオマガドキ教団ハカタ支部へとたどり着く。ニホン支部以外の支部に来たのは初めてのことだった。たどり着いて早々、ここで料理を作っているともこさんという女性に出会う。食事をふるまっているようで、ご厚意に甘えて食事をいただくことにした。ハカタ支部に入る前から匂っていた匂いをアカネはいい匂いと言っており、ニンゲンでない彼女がそういうのは珍しいものだった。いざ食べてみれば、辛子明太子の入った握りとモツ煮込みである。ニンゲンの食べ物を美味しそうに食べるアカネ自身も食べ終えてからというもの違和感を感じているようだった。確かにそれには同感だ。支部内にいるニンゲンに話を聞けば、ここハカタ支部では祭りが定期的に開催されており、食事の材料も取り仕切りも支部長と副支部長のみで仕切られているという。彼らは雑務をこなし手伝いという形で恩恵を返している。…だいぶニホン支部とは形式が異なっている。そもそもここに立ち寄ったのは、勅令のためだ。支部長に何をすればいいかわからない。支部長などが出てくる祭りを待つ…前に彼らの方から出迎えてくれた。彼らは本殿に僕らを通すと、「祭り」を僕らの歓迎に行うという。ご神体。僕には、あれが、ご神体には、思えなかった。しかし、直前アカネが僕に何かをした。気づけば、彼女と入れ替わっている。…どういうことだ。何が起こっている。混乱のまま、祭りが開始を告げた。 「俺にはそれができるようには思えない」 祭りの参加費として、供物を捧げることとなった。その供物を探さねばならない。入れ替わっているまま。入れ替わりはアカネが僕が耐えられないだろうと読んでやったことだという。一体、君は何を知っている。祭りが始まれば、状況も変わる。外の人たちは正気を失っていた。これが祭りだというのか。アカネの体にいる以上、襲ってくるのなら戦う意識はあった。が、それができるようには思えないとアカネに釘を刺された。意思はあっても、実際にできるかは自信がなかった。だから薬を使って、と思っていた。命令されたい願望でもあるのか、逃げる手もある、と言われ、ハッと気づく。…焦燥に駆られていたようだ。彼女の体は軽く、鉤爪は破壊力のあるものだった。そうして、正気を失った人々から逃げつつ、目的の供物の物にたどり着く。山羊の頭。十二支の南西を指している場所羊に当たる。本殿へと戻り、南西の場所へ供物を置いた。正解だったようだが、飾りを壊すのはいただけないと支部長との戦闘に。やはり、自分に人は殺せない。あちらの殺意を受けながら、自分は手加減をしていた。アカネにはあれくらいなら平気じゃないかと言われていたが、それでも一歩間違えば人を真っ二つにできる力をふるうことになってしまう。アカネも僕の体でこぶしをふるっていたが…あんなにへっぽこだとは思わなかった。こうなるとわかれば少しばかり鍛えていたかもしれないのにな…。そう思ったのもつかぬ間、アカネが切られ気を失う。そこをかばったのが…ともこさんだった。なぜあのタイミングで、アカネを、いや僕に見えていたかもしれないが、庇ったのかは今となってはわからない。アカネにとって死はあまり実感のないものだったのか、故人に対して声を掛けている様子は僕にそう感じさせた。ニンゲンは簡単に死ぬ。再び剣をふるおうとするハナマルとキイチ。ここハカタ支部では、ニンゲンの命など軽く見られているのかもしれない。……一瞬、殺意というものが湧いていたかもしれない。そんな僕の耳に届いたのは、ともこさんの声だった。かつ謎の空間がここに現れた。ハナマル達は慌てている様子であったが、そんな中、アカネがあの輪の中に行くぞと言って持ち上げようとしたが持ち上がらず、僕の手を取った。なぜだか、抵抗はしなかった。僕らは輪の中に飛び込んだ。 ▼破 - ヨウトウクニク - クニク 「治療するこの手が好き、でも仕方ないって言って欲しくなかった」 気づいた時には、僕らは浜辺に打ち上げられていた。ともこさんがここまで運び、海から浜辺までアカネが運んでくれたという。何故か自分には、無数の締め付け痕があったが、理由は分からない。海の中で何かあったのかもしれない。……海は初めてだった。広くて不思議な場所であった。あの輪の中からまさか海に繋がっていたなんて。掟では海の中に入ってはいけないとされていたが、入ってしまった。アカネには、掟のことなんとも思ってないのかと聞かれたが、生活の一部となっていた以上、不信には感じつつも身に染み付いてしまっていた。…アンのこと(自分が破ったことで影響があるかも分からないため)を考えると勝手に破るわけにもいかないのが現状でもあった。海の感想を述べつつ、使われていない漁に使用すると思われる機械を使い魚を釣り上げようとしたが、現れたのは魚人だった。ニザカと名乗る彼は、ここに1人で住んでいるという。お風呂から飯から寝床まで有難い限りだった。なんでもここを明日には立とうとしており、おっかさん、を探しに行くそうだ。タイミングが良かった。また驚くことに彼はニンゲンだった頃があるという。元ニンゲンということだ。しかしニンゲンに戻りたい訳ではなく、過ごしているうちに魚人は魚人だと思い始めたらしい。アカネと同じことをいう。食事をいただく前、アカネと話をした。自分が避けていればともこさんが傷つかずにすんだのに、と。僕の体は戦闘向きじゃない。やはり鍛えればと改めて思う。しかし僕のせいでは無いと口をこぼす。自分は傷つけることしか出来ないと。そして僕の手をとっていうのだ、「治療をする手は好き。だからこの手で誰かを傷つけて欲しくなかった。ごめん」と。あの状況では仕方ないと思っている。それに僕からすれば、気絶させられたもののニンゲンはやはり簡単に死ぬとアカネの体を使っていて感じた。ともこさんを治療しなかったじゃないか、そうアカネは言った。医者だった僕はその経験を何度もしている。だからだった。手が止まる。死んだとわかった時点で止まるんだ。アカネは、殺してきた側できっと多くの死を見ている。今こうして綴っている時にようやく気づく。救えるものなら救いたかったと思わず口にした、ならそれでいいじゃないかと軽く返されたが、きっと消えた命を救おうとはしないんだろうと自分だ思う。彼女にはあの場所に入れられる前の記憶が無いという。どこに住んでいたかも、生まれも、ましてや名前も。それでもニンゲンではないということは記憶しているようでそこに違和感を感じた。食事を頂きつつ、ニザカと話せば彼は医者を目指していたようであった。東洋医学や充実した医療物資。それらが裏付けとなっていた。寝る前、手足の痺れに気づく、若干呼吸のしづらさも感じた。あのハカタ支部の人々に出ていた症状だ。道中、これらの症状に効く薬草などがあれば問題ない、はずだ。アカネにも伝えておいたが、もしハカタ支部で食べたものが原因なら、アカネにも影響はありそうなものだが……手当できない彼女なりの治療を受けつつ、僕は久しぶりの心地よい布団で眠ることにした。 オオマガドキ教団は、僕らに何をさせたいのだろう。セカイキュウサイのため、ほんとにそうだろうか。誰かが傷つく必要があるんだろうか。不信感は前から感じていたものではあったが、それは一層募っていくばかりだ。アンの身が気がかりだ。 「絶対殺す。それはやだ」 就寝後、気づけばアカネが僕の手を動かせないほど、強く握っていて血が犬歯から滴っていた。何事かと思えば部屋の隅に行って寝てしまった。触れようとすれば、はじかれてしまった。混乱しているように見えたため、その日はそのまま寝ることにした。翌朝、ハカタ支部の人々に出ていた症状が酷くなっていた。自然と震えるし、呼吸もしづらい。…どうにかせねば。アカネに昨晩のことを覚えているかと問えば、覚えているという。僕が食べ物にしか見えなかった、殺してしまう、と。てっきり血を欲しがって来るかと思っていたが、それ以上踏み込んでしまうと本人がセーブしてのことだった。そうしているうちにニザカが来て、僕らの状況をみて、治したいと言ってくれた。そして症状の要因ともいえるハカタ支部の料理について話す際、ともこさんのことを口にする。変なところで縁とは繋がっているようで、ニザカが言っていたおっかさんがともこさんだった。…彼女は亡くなっている。そのことを話せば、彼は別部屋に行ってしまった。無理もない、探すと意気込んでいた母親が死んだと伝えられればショックを受けていた。しかし、彼は、自分の目で見るまで信じないというのだ。強い人だ。強がりなだけなのかもしれないが。治療の代わりに僕らは、ともこさんの料理の味を再現する約束をした。恩返しでもある、しっかり約束は果たしたい。それに加え、僕らが食べた料理はヒトが使われていたようだ。…まさか自分で食べることになろうとは。口を思わず手で覆った。「気持ち悪いか?」と聞かれ、正直なところ、気持ち悪いが正しい表現ではない気がしていた。同種を食べる、あってはならないものであっても同種を食べる生物もいるのは事実だ。それを僕は気持ち悪いとは思えなかったのだ。口を覆ったのはまさか自分が食べるとは思わずと驚きの方が多い。どういったものかと悩んでいれば、話が別の話題へと変わる。症状は出ているものの、近くの村にいかねば、自体は動くことはない。僕らは移動することにした。たどり着いた先、村のルール、ということで顔に化粧をした。タロハ・ナコ村。ついたやいなや、村独自の洗礼を浴びることになる。ここでは、訪問者の歓迎のため、村人と訪問者両者とも踊る必要があると…。筋力や体力に自信がなかったため、男性側にアカネが行くことに。僕は果たしてそれでよかったのだろうか。未だにわからない。他人の裸体は見ることはあっても、自分の裸体をさらすことはほぼない。……気持ちが落ち着かなかった。ざっくり振付を覚えて、踊りを披露することに。初めはやはり戸惑ったものの、慣れてきたのか、アカネともうまく踊ることができた。なんとかうまくいった。がだいぶ疲れた。思い返してみれば、いつのまにか羞恥心よりも楽しさがあった。アン以外とあれだけ多くの時間を過ごしたのは初めてであり、ニンゲンでない任務のための、など忘れてしまいたいほど、楽しかったのだ。その日の夜、アカネはまた僕に覆いかぶさっていた。今度は確実に僕はその一部始終を目にする。自らの手に噛みついているさまを。やはり、抑えているようで、なぜと再び問いかければ、しゃぶる舐めるだけでは足らない、と。本当は約束していたように血を飲ませようと思っていた。しかし、アカネが自らを抑えてまでしているのだ。許せば、本当に死ぬのだろう。僕にできることがあるか、そう聞くことしかできなかった。逃げてくれと薬を使ってくれ、そして耐えれたら褒めてくれと。無力だと思った。翌朝、彼女を褒めた。枕元には丸薬があり、どうやらニザカが作ったものらしい。飲んでみれば効果があるように思えた。あったらお礼を言おう。一夜明け、村に出てみれば慌ただしくニザカがしており、代わりに村の患者を診ておいてくれという。医者としては放っておけないため、代わりにみることにした。風邪のように思えたそれはアレルギー反応であり、薬を煎じれば治るものであった。村の各所で材料を分けてもらい、煎じることにした。牧場を訪れた際、馬が足を怪我しており、見て見たところニンゲンが食べたかのような痕があることが気になった。何もなければいいが。薬を飲ませる際、少女は兄と僕を重ね合わせて見えているらしく、お兄ちゃんと何度か読んでいた。脳裏にはアンがよぎる。彼女は元気にしているだろうか。思えば、この少女のように、助けたところからアンとカゾクになったのだと思い出していた。 「奇跡だったよ」 民家の方にも治療が必要な人がいると、治療しに訪れていた。各所噛まれた形跡があり、ニンゲンの歯型、と言ってもおかしくはなかった。話を聞くと、驚いて逃げる前にやられたのだとか。聞いてる最中は疑問を呈さなかったが、出たあとアカネは彼が隠し事をしているように見えていたらしい。馬の傷のこともあり、気になったため聞きに戻れば、死んだはずのコウの姿だったから、だという。村の人間をそして村の宝を襲うのは果たして本人なのか、わからない。そして、僕自身死んだ人間は生き返らないと考えている。もし話をする生きているならそれは奇跡だ、とも。村の教会へと足を運べば、そこは旧世界の時に建てられたものであることがわかった。信仰している神や亡くなったものへの餞がされていた。大切な人に花を送ったことがあるのかとアカネに言われ、そういえばなかったと思い至る。実験に使う植物は見せたことはあるが贈ったことは無い。まさかこんなに長く旅に出ることになるとは思ってもみなかったから、今となっては後悔するばかりだ。伝えられる時に贈れる時にするべきだと。不可思議な体験をした。物が空中で止まるのだ。声が聞こえたことから僕らには見えない何かがそこにはいる、ようであった。教会を後にし、落ち着いたらお礼をしたいと言っていた村長の元へ訪ねた。美味しいお菓子を頂きつつ(アカネにはやはり合わなかったようではあったが)話を聞いた。この村で困っていることを。物資を準備させて頂いていると思っていた僕は、できることは助力したいと伝えた。話を聞いて欲しかっただけかもしれないが、中途半端に首だけ突っ込んで、というのも気が引けていた。しかし実際はどうにもならないようにも感じてはいたのだ。その日の夜、夢を見た。アンの身になにか起こっているかのような悪夢だ。知らぬ間に汗を大量にかき、引き戻されるようにして目が覚めた。そして異変は近くでも起こっていた。アカネがいない。僕は思わず、アカネを探しに家を出た。畑の中を探してみても居らず、教会に行けば、昼間の不可思議な現象を起こしていた…なんだアレはそれに出会った。この村で信仰している神の使いと言っており、村に良くしてもらっているお礼にと、思う人に今何が起こっているかを見せてくれると言う。一瞬アンのことが脳裏に浮かんだが、それよりも目の前で起こっていることを解決したかった僕はアカネの居場所を教えてもらった。………アカネは誰かを殺していた。僕は、アンのことも見せてもらった。ゴースティング、つまり相手に知られずだったにも関わらず目が合う。彼女は追われるようにしてその身をボロボロにしながら駆けていた。何が起きている。そこで終わってしまったため、僕はアカネの元へと向かう。月明かりに照らされた彼女を見た時。本当に、ニンゲンではないと、確信づいてしまった、気がした。アカネの傍らには安らかな顔をして眠っているコウの姿があった。アカネに状況を聞こうとして、状況は変わる。異常を駆けつけた村人たちがこの惨状をみて、アカネを責めた。そしてそれを皮切りに教団への戦争をしかけるべきだと悪い方向へと進もうとしていた。…僕は、訴えた僕が伝えられることを、彼らに伝えた。しっかと伝わったかはわからない。だが、村人たちは武器を置いてくれた。安堵した。無駄な血を、惨劇にならずに済んだと。改めてアカネに何があったかを聞けば、コウと話したという、そして、頼まれたのだと。もう1人教団の者がいたが、それは食べたと。ヒノモトさんも同じように食べたのだと、彼女は言った。僕は怒れなかった。どうしようもなかった。怒りを感じていない訳では無い。ただ、生き物が生きようとして、それで誰かが犠牲になった、と客観的に見ればそうだったからだ。それを伝えれば、「大切な人だったらどうするんだよ」と聞かれ、僕は怒鳴ってしまうかもしれないと、彼女に伝えた。もしかしたら怒鳴るだけでは済まないかもしれないが……それ以上、どうすればよいのだ。僕には、分からなかった。頑張ったアカネを褒めていれば、夜は明けていた。ニザカから完成した丸薬を貰い、恐らく、いや確実に症状は治まるだろうと思った。ニザカも誇らしげであったことを嬉しく思う。ニザカにともこさんの料理の味を再現してみせ、お礼をした。この先も旅を共にするのかと思えば、彼らがこの土地から離れ旅をするのについて行くという。僕らと居ても彼の目標が達成されるかは微妙であったから、良い事だと思う。それに医者はタロハナコ村の人々には必要だ。卵を孵化させるためにも。村の名馬である、白馬と黒馬を譲り受け、僕らは一足先に別れを告げる。少々寂しさを感じつつも僕とアカネは次の目的地へと歩みを進めた。 ▼閑話休題 - 弐 「まずいけどうまいよ」 タロハナコ村のみんなとニザカと別れて、新たな目的地へと僕とアカネは歩みを進めることにした。…が、別れて早々緊張の糸が切れたのか、僕が熱を出した。らしい。よほど意識がはっきりしていなかったのかあまり覚えていないが、アカネがパッと見て休むという判断に至るくらいだ。相当、顔に出ていたんだろう。幸先悪いスタートとなってしまったが、朧気な記憶の中では、アカネが草食動物である馬の彼らに肉を与えようとしていたのを覚えている。一日ばかりの休みをもらい、次の日気を取り直して、出発することになった。…しかしだ、しっかりと寝たにも関わらず回復しきっていなかったようだった。カーラーにも休めと言わんばかりの顔をされた。また休憩をとり、再度歩き出すことになった。歩いていれば、行商人に行き合う。行商人は何か買ってほしいようだったが、生憎、僕が欲しいと思うものはなかった。強いて言うなら黄金の林檎であったが、最後の行商人の意味のわからない売り文句を聞いて買うという選択肢は僕の中でなくなってしまった。なんでも叶えるものがあれば誰もが欲しがるだろうし、医者不足になんぞなっていない。不死なんてもってのほか、であった。夢がないと言われればそれまでだが、どうも僕はそう思ってしまうのだ。アカネにふと、人間を食べるのは全身かと聞いてみれば、吸うように食べる、のだという。てっきり、物理的に食べるものだと思っていたのだが、確かにヒノモトさんのことといいタロハナコ村の時の教団員といい、あの短時間で残っていたのは残りかすのようのものだけだった。そして食べている時の記憶はないのだという。本人にもわからないことがあるとは不思議なものだった。その日の夜寝ていれば、アカネが酷く苦しそうにしていた。ニンゲンでなくても、悪夢を見ているようだった。気がかりになり、声を掛ければ、飛び起きアカネは涙を流していた。何かに追われている夢、だそうだ。相当、彼女にとって怖いことだったのだろう。必要なのは安心、だろうか。僕は彼女を抱きしめていた。何も言わず、安心させるように。誰かに教わったわけじゃない。だがなんだって怖いものを見た時はひとりになるのは怖くなるものだと僕は思っている。俺の名前は、なんて急に自分がどこのだれかと自身に問うアカネに、アカネだろうと答えた。納得したようにしていたが、僕から見ればアカネ、というだけであり、本当の彼女を知っているわけではない。知らないことばかり、だが、自分たちの歩幅で知っていけばいいと、思う。まさか旧セカイの武器で狙われるとは思っていなかった。レイダーは物資と馬を置いていけば命は助けるというが、馬を置いていくわけにはいかない。大事にすると約束している。レイダーを気絶させて僕らはその場を後にした。道行く先でまたあの猫に出会った。…あそこからここまでかなりの距離があるはずなのだが…。よく首輪を見て見ればハカタ支部の支部長も同じような織物をつけていた。まさかとは思ったが、猫は危険を知らせていたのかはわからない。足元は蟻地獄になっており、咄嗟に抜け出せなかったためアカネの手を借り何とか抜け出すことができた。カーラーに無理をさせてしまった。次、あの猫に会ったら気を付けることにしよう。食料があまり余裕がないことに気付き、アカネが自分は食べなくてもいいと言ってきたが、僕が二人で食べたいだけだと言えば、上機嫌でお結びを頬張っていた。やはり、味としては美味しくないらしいが、美味しいという。不思議なものである。だが、一人で食べていることが多い僕にとって、誰かと食べたほうが美味しいと感じるようになった。味は変わらないのに。昨晩、いつぞやアカネが歌っていた歌を子守唄にしてみたがそれに味を占めたのかまた歌えとせがんできた。寝れなくなるのも困るので致し方なく歌うことにした。僕は歌がうまくはない。…本当に若干の違いを除いてしまえば、ニンゲンであるのに。こうも……。彼女が寝たことを確認し僕も就寝した。殺意、無数の足音、ここに来るまでで感じてきたものだった。アカネと話、この場を走り抜けることにしたその矢先、僕は手を強く引かれカーラーから落とされた。そして咄嗟にアカネ僕はここだと叫んでいた。ここから先僕の意識は途切れてしまった。 「出てくるな」 目を覚ませば、そこは牢獄だった。…どうやら僕はあの時連れ去られたらしい。身ぐるみも剥がされ手足に枷がされた状態で転がされていた。それにしてもここがどこなのか、自分を連れ去った理由はなんなのか、様々な疑問が浮き上がってくる中、僕を連れ去った時の馬と同じ装飾の施された男たちが入ってきた。そして、教団のニンゲンかと言ってきた。この時点で、教団のニンゲンではないし、レイダーでもないと感じた。レイダーだったらその場で殺されている。反抗的な態度をとれば、そいつらは暴力を振るってきた。…正直に答えなければ、僕は殺されるだろう。一旦、正直に答えることにした。割れたガラスから錠前のダイアルを開錠できるだろう数字を見ることができた。舐めすぎだ。しかし、運がよかったからそんなことを思えるのだと思う。次に聞かれたのが「アンという少女を知っているか」だったのだ。なぜ、この場でアンの名前が出てくるのだ。あの子は今、どうしているのだろう。ここで知っていると答えれば、僕がアンの居場所を知っている可能性があると聞かれ、アンの身にも危険が及ぶかもしれないと咄嗟に思った僕は嘘をついた。相手もただの素人ではなかった。嘘がバレ、鞭を打たれ、水に頭を沈められ窒息させられそうになった。拷問とはこのことを言うんだろう。だけど僕はそれでも知らないと言い続けた。僕自身、今の彼女がどこにいるかも無事かもわからないのに。運がよかった、といったのはきっとあの時の爆発音がなければ、拷問され続け、同じ牢獄の骸たちと同じ運命をたどっていたかもしれないからだ。アカネが助けに来ていたかもしれないが、先に僕が死んでいたと思う。僕はそこまで強くはない、これは自分でも自覚していることだったからだ。爆発音は彼らにも想定外のことであったようで、僕を放置して去っていってしまった。その隙に施錠を解除した。近くにあった資料におもむろに目を通してみれば、オオマガドキ教団のことが書かれた手記だった。僕が知らないことがたくさん書かれていた。辛うじてDOGとランコの文字は記憶にあったものの、それ以外には検討がつかなかった。…アカネと旅をし始めてからというもの僕の知らないセカイばかりであったが、ここでもそれを痛感させられた。手記を読んでいれば、見ず知らずの人物が…いやぱっと見は人物である人が僕に話をかけてきた。どことなく、彼を見た時、アカネに似ていると感じたのだ。彼は自分をイブンと名乗った。彼からは拷問してきた男たちのような気配も殺気も感じられなかった。今この状況で、少なくとも味方、といえる人物であった。ここはレイメイ派の施設であるという。ゆっくりしている場合ではないことをイブンも僕も感じ取り、上へと目指すことになった。その間で、資料室というところに来た。目を疑った。ここには今のセカイには到底考えられない状態で大量の書物が保管されていた。旧セカイの物を、ではなく新しく作り上げたものと見えた。僕はその中から3冊拝借することにした。イブンに丁寧な言葉遣いをする必要はないと諭されたが、元々だ。それに拝借、と言っても返す気は毛頭ない。本を拝借したのち、さらに上を目指す。日はすっかり落ち、辺りは暗闇になっていた。しかしそれを照らすかのように燃え広がっていた。イブンが駆けだした方向へ離れては危険だと思った僕は、肝を冷やした。それは足元からせり上げてきた槍。囲うようにして立ったそれの周りにはニンゲンが多く集まり、謎の平たい物体を持った女が叫んでいた。教団のやつらには制裁を、と。僕を見世物のように殺すつもりなのだろう。と思った矢先、僕はまた目を疑う。目の前にフラフラと現れたのはアカネだったのだ。彼女は唸り声とぽたぽたと何か垂らしながら、手の色の染まり具合から血、だろうが、歩いてきた。アカネは頭を振りながら僕へと勢いよく向かってきた。僕はその時、クスリを使えば何も言わすことなく自体は収集しただろうが、アカネを抱きとめていた。混乱している様子のアカネに様子を伺いつつ落ち着かせることにした。鉤爪で貫かれてもおかしくはない状態だったが、アカネを信じていた。僕はアカネとしか彼女を知らない。その一方で不思議なことも言っていた。窓がたくさんと。しかしそれを詳しく聞いている場合ではなかった、大人数に囲まれてはアカネでも厳しいかと思ったその時である。ハカタ支部支部長副支部長のハナマルとキイチが現れたのだ。……今日はとことん目まぐるしく状況が変わる日だ。彼らから貸しを借りつつ、レイメイ派の施設から抜け出す際、イブンが一人の少女を連れてきた。アカネは面識があるらしかった。突然現れたイブンにハナマルとキイチも警戒心をあらわにしていたが、今はそれどころではない。両方を宥め、城壁を抜けた。少女の容態はいい状態ではなかった、すぐに治療が必要な状態だ。ハナマルとキイチに話を聞けば、ニホン支部からの命令で僕たちの護衛しに来たという。ニホン支部では、何者かの襲撃にあい、数名命を落としたものもでる被害だったようだ。あの時見た悪夢が関連しているのだろうか…。しかもエイコーンというのがアンだと推察された。ここまでくるとあれだけ知識を蓄えておきながら無知だと思わされる。旅を続けるには今目の前で起こっていることを解決していかねばならない。選択は迫られている。 「悪い奴やっつけなくていいのかよ」 この先どうするか、話をつける前に目の前の少女を治療する必要があった。人工呼吸による応急処置を施したものの手術は必要だった。イブンにそのことを伝えれば彼は考えていた。何を考えているか聞いてみれば、どうにかする方法がないかを思考していたという。好奇心知識欲を満たすためにレイメイ派の施設に入り、知識を得る代わりに彼らに知識を与えていたのだという。ところどころ見たことのないものを見かけたが彼の与えた知識の産物だろうか。そういえば気になることがあった。イブンがなぜこの、ミメイという少女を助けたかだ。彼はミメイの声が聞こえなくなるのが嫌だという。それだけで、十分だった。誰かの命を助けるのに理由はいらないと僕は思っている。傷ついているのならその傷を治すだけだ。イブンはそれに加えて、この機に乗じてレイメイ派のニンゲンを殺すのか、と。その時ミメイが起き、自分たちの思想に反している、どうして嘘をついていたのかと怒った。症状が悪化するだけの行為だったために思わず止めに入ったが、それでもミメイは続ける。それほどに彼女、レイメイ派の党首ミメイはショックを受けていたのだろう。だが、レイメイ派は反教団組織である。現に僕は殺されそうになった。この機に乗じて、という考え方もあるだろう。でも僕は、その考えまで至っていなかった。眠らされたミメイの、患者の容体の方に気をとられすぎていたのだ。話を戻し、今後の方針を決めるべきである。それにしても教団側が攻めてきたわけでもないのにどうして拠点が炎に包まれているのか、イブンによれば、教団の内通者が多くいたため、全員火炙りにするという意図があったらしい。想定外に火が燃え移り、大事になった。つまり簡単に言えばレイメイ派の内部抗争、に近いのだろう。レイメイ派に教団が多くいるのであれば、あの場にいるのも多数が教団のニンゲンということにもなる。アカネはオオマガドキ教団には恨みしかない。…アカネすれば当たり前の話であった。またハナマルとキイチに話を聞けば、きな臭いという。理由まで聞こうとして、先ほど受けた傷が治れば口もきけると、遠回りに傷を治してくれなければ話さないと言われているようであった。治療しないわけもない。そうして治療をすれば、レイメイ派の城壁にオオマガドキ教団の門、ハカタ支部でともこさんが斬られた後僕とアカネが飛び込んだあの輪、が刻まれていたという。反教団組織に刻まれているのはおかしい、と。教団の内通者がいたのがわかっている以上、そこから出入りしていたという可能性は高いと見える。どこに繋がっているのかは定かではない。ふと、自分がここに連れてこられ、アカネがここにいるということは、カーラーとサフェードもいたはずだ。アカネに聞けば、繋ぎとめたままだという。急いで向かってみれば無事な彼らを見つけることができた。どうやら心配をかけてしまったようだ。聡明な彼らが酷く怯えているようであったため、一緒に連れ歩くことにした。どの道ここに繋ぎとめたまま、というのも危険なことだろう。それに約束を守れなくなる。馬たちを探す傍ら、城壁の様子を伺ってみたが熱波が酷く近づくことさえ難しいと判断できた。一体、何人のニンゲンがあの中にいるのだろうか。いやな考えを振り払い、荷物整理をしていたところ、レイメイ派の資料室から適当に持ち去った本はあったが、小箱がないことが判明した。…拷問を受けた時そのままあの男がもっていったのかもしれない。失態だ。しかしあの熱波の中あの男を探すのも難しいと考えていたが、ニホン支部に現状を伝えたらいいんじゃねーのというアカネの提案があった。現状、どうすることができない上、手術の必要な患者がいるのなら、それも手である。頭に入れつつ簡単に持ってきた本を読めば、アカネが吐いた。突然のことに驚いたが、本の後から足された文章を気味悪がった。背中をさすりつつ、落ち着くのを待って次の本を読むことに。旅を始めてからというものの知らないことばかりであったが、ここでもそれを痛感させられた。そして最後の本ではアカネが食い入るように見て読み書きができないはずのアカネが文字を読んでいたこれならわかる、と。学習能力が高いから、というわけではないだろう。彼女に関係のあることが何かを呼び起こしているのかもしれない。僕にはその何かは全く見当はつかないが…。ここに来る祭、アカネがミメイと出会っていたことを思い出し、何を話したのかと聞いてみれば、「カイン」と呼ばれたという。「アベル」と一緒ではないのかと。そして咄嗟に逃げ込んだ先で、アカネとどう見たって僕ではないのに僕が一緒に笑って写っている絵と窓の中のニンゲンが歩いているのを見たという。その状況が僕には理解できなかったが、「カイン」という言葉に伝えていない事柄を思い出した。牢獄で見たあの手記の内容。あそこにはカイン、アベル、そしてハナマルが話していたアン、つまりエイコーン。一体、なんだというのだ。アカネはアカネであり、アンはアンだ。僕も。教団は何を知っている。現状その疑問に対する回答を得ることはできない。上記すべてを踏まえ、僕はこの場から撤退、つまるところ脱出する方針に決めた。あの城壁に書かれた門を、利用するのだ。悪い奴を殺さなくていいのかとアカネは言う。僕がそうだなと言えば、彼女は満足そうに笑った。笑っていられる状況ではないが、どこか満足気な彼女を見るとアカネだと漠然と思うのだった。方針が決まれば行動に移すのみだ。城壁の門を探し出しーーーー…突如目を疑った。つくづく僕は知らない世界が多すぎると思う。現セカイの文明の域を超えるものはなんだ?あの男は誰だ?何を言っている。しかしその場でわかるのは、死だ。茫然としていれば死ぬことは察しがついた。僕らは門の中に飛び込む。イブンが食い止めると、残った。関係ないと言っていた彼があそこまで必死なのは、ミメイを救いたいから、だろうか。振り返らない彼の背中を見つつ門は閉まる。 どこか心地の良い、中で、僕は . ▼急 ー ヨウカンサンジョウ 「ここが暖かいの」 soirée=calme、それが僕の名前だ。バスクの街に住んでいて、両親から譲り受けた診療所を静かに営んでいる。家族は妹のアリッサだけ。両親は旅行先の事故で随分前に亡くなった。そのアリッサも今は合衆国のウィンタースクールに行っている。病気を持っているが、ここ最近調子がよく診ている僕自身が許可を出した。小さい頃から家にいてばかりだったから、窓枠の世界だけではなく広い世界を見てほしいと思っていた。アリッサがウィンタースクールに行って3日後、僕は聖堂院の敷地で、彼女を見つけた。カイン、のちのガランスだ。彼女は重傷で、僕は気付けば診療所に彼女を運んでいた。運び出す途中で彼女は通報しないでと僕に言った。何かしらの事情があるのだろう。それは、彼女が所持していた拳銃からも伺えた。彼女に治療を施したものの三日三晩つきっきりとなる。それほどに重症であり、そして何らかの心的外傷を負っていることも伺えた。どうしてこんなにも傷ができているのか、僕は彼女に対してできるだけのことをしていた。ウィンタースクール中は診療所は休みをいただいていてタイミングが良かった。こんな状況では他の人を見る余裕はない。そして4日後、彼女が目を覚ました。首にかけていたドックタグからカインという名前なのかと思い、目覚めた際に名前を呼んでみた。帰ってきた返答はイマイチで、彼女は記憶を失っていることが分かった。いわゆる記憶喪失。だからと言って呼ぶ名前がなければ色々と不便であったため、僕は彼女をカインと呼ぶことにした。三日間カインの体は治すためにエネルギーを消費していたようで、カインの腹から音が鳴る。僕はカインにポトフをふるまうことにした。久々に台所に立った。料理はお世辞にもうまいわけではない。だが、僕の作った料理をカインはたくさん食べてくれた。食べる元気があるのであれば、数日かからず、退院することも叶うだろう。…付きっきりだったというのを言い訳にするわけではないが、家の中は荒れ放題であった。最低限片付けていかねばと思った僕は、カインの手を借りつつ診療を片付けることにした。診療所の棚は一段目以外は両親の本をそのままにしている。今更ながら見返してみればことわざの本が目に留まった。酷く、懐かしく感じた。記憶の中の両親は確かにユーモアが好きだった。カインが手伝ってくれた様子を見ていれば体の方はほとんど問題ないように見えた。問題は記憶喪失であり、何をきっかけに思い出すかわからないため、街に出て様々なものを見て回ることにした。僕にとってはとても馴染み深い街並みでもカインにとっては新鮮なもののようであった。なんでもチカチカする、と。こういった街並みでチカチカするということは、こういった街並みがカインにとって馴染みがないということだろうか。お土産屋やお菓子屋を巡ってみたが、カインの記憶の手がかりは一向にない。ただテディベアが気になっていたようなので、キーホルダーを購入した。気に入ったようで、ベルトホルダーに着けていた。お菓子屋ではアリッサの話を軽くした。なぜここに来たのかと言われて、そういえばアリッサが好きだからここに来るようになっていたが、僕は大前提でここのショコラムスーが好きだった。そう答えればカインは微笑んでショコラムスーを飲んでいた。あっさりしていて飲みやすいと喜んでいたようだった。昼食にレストランへと赴き、舌鼓をした。それにしたってよく食べる。が、カインはこうして誰かと食事をした記憶がないという。記憶がない、というよりはそんな感じがする、という曖昧なものだが。自分が過去に誰かと一緒にいることが少なったのかもしれないとも言っており、誰かと食べる食事は暖かいもの、という。僕自身家族みんなで食べていた時期は食事が暖かく感じていた。アリッサと一緒に食べていた時も同様だった。あの感じをカインは感じたことがないのだろうか。僕はカインに誰かと一緒に食事をするというのは胸のあたりが暖かくなることだよと伝えた。記憶を取り戻すことももちろん大切だ。だが、心的外傷を受けているのなら、ここにいる間くらい、暖かい気持ちを僕は知ってほしいと思った。 「カインと呼ばないで!」 再び街に繰り出した僕とカインは、この街にある海洋博物館へと歩を進めた。ここは、水族館と博物館が併設されており、家族連れが多くみられる。カインには家族を見ると、ここが(胸のあたり)ぽっかりと穴が空く感じがあるという。ますますカインには、家族というものがいなかったのかもしれない。僕はこの場所で空しく感じてほしくなかった。家族唯一この場所には全員で訪れて楽しかったのを記憶していたからだ。そばに誰かがいる気分がどんなものかカインはわかっていないようだった。なら僕と一緒にここを見て回るのはどうだろうか、と思った。水槽に用意されている説明パネルを見つつ歩を進める。ふと家族と来た時を思い出していた。なかなか外に出れないアリッサは、活発に生物について知っているかを僕に聞いては知り、聞いては知っていた。アリッサは今どうしているだろうか、同じウィンタースクールに行った子供たちと仲良くやっているといいが。水族館の中にはふれあいコーナーが用意されており、海洋生物と触れ合うことができるようだった。カインは海洋生物を触ることは独断苦手というわけでもないらしく平気で触っているようだった。海洋生物も生き物だから優しく触れるんだということを教えた。しかしながらこれだけ歩き回っていながら一向に記憶の手がかりはない。それだけ、カインが蓋をしてしまった記憶は僕の想像以上のものなのだろうか。ふれあいコーナーには別の種類があり、ドクターフィッシュが用意されていた。人間の角質を食べてくれる彼らは手を水槽に入れるだけ寄ってくる。……恥ずかしい話ではあるが、僕はこのドクターフィッシュのように手をくすぐられる感覚がどうしてもなれず、くすぐったく感じてしまうためすぐに手を水槽から出してしまう。その様子は滑稽なものだと思う。すぐに手を出してしまう様子を見てカインは笑ってくれた。カインは平気そうに手を入れ続けており、こうも差が出るものかと思うとやはり気恥ずかしさが勝る。だが、笑みが見られたことは良いことだった。ふいに綻びを見せてくれることは緊張が和らいでいることを指しているともいえるからだ。僕は医師だが、心のケアは専門ではない。だから、内心的な部分の治療はできない。だからこうして笑ってくれることは僕にとって嬉しいことだった。食料品の買い出しを済ませ、自宅へと帰ってくる。経過観察を見る、そして記憶を取り戻すまで自宅にいてもらうことにした。自宅についても診療所と同じく、荒れており、カインに手伝ってもらい片付けをしつつ、部屋の案内をした。両親やアリッサの部屋を貸すことも考えたが、容体が急変したりすることだってある。それに加え、カインを見つけた時の状況から誰かに狙われているかもしれない、ということもある。僕は自分の部屋でカインに寝てもらうことにした。もちろん患者にはベッドで。そうして、アリッサと両親の部屋の掃除の手伝いもしてもらった。アリッサの部屋では、見たことのないアクセサリーが落ちていた。アクセサリーを持っていてもおかしくはない、が、あんな宝石をつけているネックレスを持っていることは知らなかった。いつの間に手に入れたのだろうか…大人になったのよと僕を驚かせたかったのだろうか…。いろんなことを考えてはみたが、何よりこのネックレスを見ると心が落ち着かなかった。一旦僕の方で預かることにした。両親の部屋では、家族写真を見つける。あぁそういえばこんな写真を撮った。しかしふとアリッサが付けているネックレスが気になった。アンティーク調のネックレス、気にしていなかったがそういえばいつからアリッサは付けていたのだろう。僕が気づいたときにはもう、こうして首にかけられていたのだ。どうしてこのタイミングで僕は不思議に思ったのだろう。そうした疑念を抱きつつ、部屋の掃除を終えた僕とカインは、夕食を食べ、僕は寝る前に気になったアインシュタイン方程式の本を読むとカインに伝え、先に休んでいてもらうことにした。ある程度読み進めた後僕も寝ることにした。……その日の深夜のことだった。カインは、酷くうなされていた。ごめんなさいと顔を真っ白にして謝るカインを見て、名前を呼びながら彼女をゆすれば、彼女は強く僕の手を弾いた。カイン、それは彼女の名前だ。横に座り、彼女の手に自分の手を重ねる。先ほども言ったように僕はメンタルケアはできない。だけどこうすれば多少落ち着けるのではないかと思ったのだ。人の体温が近くにあるだけで安心感を得られる、と。呼ばれるのが嫌だったのかと問えば、夢の中でカインと呼ばれ責められ続けたという。何かから逃げ続ける夢であり、立ち止まれないと。カインでいたくなかったと彼女は言う。名前は、その人を形成する一部分だと僕は思っている。だから名前は大切なもの。だが、カインと再び呼べば、彼女は手を払い外に出て行ってしまった。いくら名前が大切といっても、カインでいたくないという気持ちの方が今は強いのだろう。僕にできることは何だろうか。僕は彼女からドックタグのついたネックレスを取っていた。そしてそれをゴミ箱へと捨てた。自分で名前は大切なものと言いながら呆れたものだ。僕にメンタルケアは向いていないとつくづく思う。だけど、それでも、カインでいたくないという彼女をここではカインではない、誰かにしてあげたかったのだ。記憶が戻るまでの間だけでも構わなかった。少しでも少しでも彼女の心が休まればいいとそう思っていた。しかし流石にゴミ箱に捨てるのもどうかと拾い上げようとすれば、そのままでいいとガランスは言う。ガランス、僕の国の言葉で茜を指す。ガランスの目は綺麗な茜色をしていたから。そういえば、夕暮れ時、彼女は夕焼けを見て、綺麗だといった。そして僕と同じ目の色だと。少し嬉しかった。僕自身は夕暮れになると少し寂しい気持ちでいたからだ。一日が終わる。そんなことを感じさせる一瞬の時間帯でもあったから。拳銃についても自ら話をしてくれた。ガランスの持ち物に拳銃があったことは知っていたが、拳銃のことを話そうとは思わなかった。何が記憶が戻ってくるトリガーになるかもわからなかったからだ。印象強いもので記憶が戻るかもしれなかったが、そんな強引に行かずとも街にあるものでも思い出すかもしれないと僕は思っていた。ガランスはここがあったかくなったと僕の足元で寝ようとしていたが、心が温かくても体には悪い。足元でいいというガランスに横に来るように言って、僕とガランスは肩を寄せ合い眠ることにした。ガランスが穏やかに眠っていることに僕は安堵した。もう少し起きるのが遅ければ、ガランスの寝顔を見ることはなかっただろう。朝食の準備中うっかり火傷をしてしまった。火傷したことに落ち着かないガランスを眺めつつ、朝食をとり、引き続きガランスの記憶を取り戻すために街に赴くことにした。…昨日の件もあり、少し僕はガランスが記憶を取り戻すことが本当に彼女のためになるのかと考えていた。知らない方がいいのかもしれない。僕が迷ってはいけないはずなのに、迷い始めていた。しかし足は止まらない。次の日、本屋へと向かえば、珍しくガランスが興味を見せた。スポーツ系の雑誌に興味があるらしい。体格的にもスポーツをやっていてもおかしくはない。し興味があるというのもわかる気がした。一方僕はスポーツはあんまりであり、小さい頃乗馬を一回経験したくらいだった。馬を扱うのが上手みたいねなんてガランスに言われたが、馬に扱われていたのかもしれないと冗談交じりに返す。その一環で、不気味に感じる記事を見た。ゴシップ記事、ということもあり、あまり気には留めなかったが、あぁいった大衆がみる雑誌に書くにはいささか向いていないような内容であった。昼は昨日行ったレストランとは別のレストランへと足を運んだ。ラジオでは覆面博士、なんていうニュースが流れて行った。有名になって父親に会いたい、という割には正体を現さないのは不思議に思える、なんてことを考えていれば、ガランスがどこからから視線を感じるという。出所まではわからないものの視られているという感覚はあるようで、僕とガランスは早々にレストランを出ることにした。映画館へと足を踏み入れれば甘いキャラメルの匂いが立ち込めていた。映画はあまり見ない方…時間がない、というのも理由にはあるが、見ないために適当に見て見れば開いた口がふさがらない、とはこのことなのだと実感することになった。いくらB級とはいえ、あんなインド映画のように終わるとは思っておらず、妙にキレキレのダンスが頭に残っている。ガランスも同様の様子であった。なんだか味気ないともう一本見ることにした。…こちらもこちらとて、なかなかに悲しいものであった。ガランスは、僕のような人が居ればあの親子は受け入れられて助かったかもしれないと嘆いていた。確かに、彼らを受け入れていたかもしれない。いくら人じゃなかったとしても、再会することで抱き合って涙を流せるのだから、絶対的な悪、ではないのだ。しかし世間は、人間以外を恐れそれを大勢で排除しようとする。もし仮に僕があの親子を受け入れたとしても僕もろとも大勢に殺されていただろうと思う。辛気臭い雰囲気になってしまった僕とガランスは気を取り直して植物園へと向かう。植物園では様々な種類の研究に用いられている植物が保管されていた。新薬を作るという名目で、草木にも興味のあった僕は植物が好きになっていた。話しているうちにガランスは、この名前をもらってから軽くなったという。やはり彼女が蓋をした記憶は、重い枷になっていたらしい。少しでも軽くなっていたのなら僕としては嬉しいと思う。そんなガランスに興味あるものはあるかと聞いてみれば、色んなものを見てきたが僕が近くにいるからすべてが面白く見えた、という。連れ回ってよかったなと僕は思う。チカチカして見えていたものが少しでも面白いと思ってくれることが嬉しかった。今日も一日中歩き回り、僕とガランスは帰路へ着く。アインシュタインの本を読み進めることにした僕の後ろでガランスは座ってこちらを見ていたが、ぼふっという音と共に寝てしまった。穏やかな表情で眠るガランスを見て、よく眠ってくれることを願った。その日の深夜だ。診療所の方に急患が来る。ヒノモトさん、僕の父親のような兄のような存在、の奥さんリザさんが高熱を出した息子さんを連れてきた。僕はすぐにリザさんを診療所の中へ入れ、息子さんを診察することにした。この子は、ヒノモトさんとリザさんの大事な子だった。咽頭結膜熱、幸いにも治療ができるものだった。手は震えていたし、一瞬頭も真っ白になったが、しっかり診察することができた。近親者でも落ち着いて診ること。ヒノモトさんからの教えだった。独学でやってきた中で実践的部分を享受してくれたのはヒノモトさんだった。リザさんに息子さんの症状を伝え、治るものだと伝えれば、安堵したようだった。ヒノモトさんへと連絡をしていた際、久々に声を聞いた。現在は日本で引っ張りだこだという。また合衆国ではテロが多発しているとも言っており、僕の脳裏にはアリッサのことが気がかりだった。しかしアリッサのことは信頼のおけるユウドマリ先生に頼んでいる。何かあれば連絡をいれてくれるはずだ。大丈夫と自分に言い聞かせていたかもしれない。ヒノモトさんとの話を終わりにし、リザさんに一晩は診療所で泊っていってくださいと伝え、暖かい飲み物を渡し、僕はその場を後にした。少しでも安堵してほしかったからだ。どこも開いていない中、僕の診療所もお休みをいただいているのにここを頼りにしてくれて嬉しい限りだった。ヒノモトさんにお世話になった分、僕もしっかり恩義を返していきたいと思う。そうして落ち着いたころ部屋に戻れば、ガランスは相変わらずぐっすり眠っていた。あれだけドタバタしていたのに起きないものなのかとも思うが、安心していると思いたい。異変はガランスが気づいた。アリッサの部屋で、物音がするというのだ。一人で行くというが、いかんせん心配になり、僕もついていこうとして、しくじった。一人の男が不法侵入していた。男は僕が鳴らしてしまった音に振り返り襲い掛かってきたのだ。なんとか撃退したが去り際カインと呼んでいたところを見ると、カインの知り合いであるようだった。ガランスには覚えがない、と記憶が戻っているわけでもなさそうだった。部屋は物色されていたが金目のものなどは取られていないようだった。もしかしてと以前アリッサの部屋で拾ったネックレスを見て、ガランスが指輪を拾ったのだと渡してくれた。そして夢を見たのだという。炎の夢、魔女を殺さなければ自分に価値がない、無価値だったんだと。僕は思わず、いつもより大きな声で、無価値なんかじゃないと口に出していた。自分でも思わずハッと我に返った。僕は価値のない人間なんていないと思っているからだ。それに価値は自分で決めるものでもある。自分で決めてもいいのかとガランスは不安げであったが、僕はそうだとはっきり頷いた。自分はこの世界にいていいんだと少しでも思ってほしかった。両親の部屋も荒らされていないか確認するために、入ってみれば特段酷く荒らされた形跡はなかった。しかし改めて、部屋を見て見れば、本棚にレールがついておち、ガランスに動かしてもらいそこにあるものを見た。そこには魔女関連の書籍と母さんの日記があった。恐る恐る日記を見て見れば、僕が知らない家族のことが描かれていた。正直のところ、アリッサの違和感に気付いたのなら、相談してほしかった。まだ小さい頃だから心配させまいとしたんだろうけど、今こうして日記を読んだ僕からすれば、当時力になれたかもしれないと感じたからだ。今となっては遅い話、ではあるけれど。家族が大好きな僕としては、家族のことを知れてよかったと思っている。今となっては会うことも話すことも叶わないけれど、それでもそう思う。家族のことが知れたとはいえ僕がやることには変わりない。ガランスの記憶を取り戻すために再び街へと踏み出すことになった。朝の騒動もあり、部屋を片付けていれば、昼になっていた。お腹を満たすため、レストランへと赴く。思いのほか、食欲はわかなかった。それを見てなのか、ガランスが自分の分を取り分けてくれた。患者に心配されるとは、いささかどうしたものか。しっかりと食べて、大聖堂に繋がる通りを進んでいくことにした。すると、3日前に修理を依頼したショップの定員がわざわざ修理が早く終わったからと持ってきてくれた。ショップ店員がどこで買ったのか尋ねるほど、多機能の携帯らしい。しかし結局パスワードがわからず入れずしまいだった。気を取り直し、近くにあった公園に寄ることにした。…それにしても拳銃に、高性能の携帯。軍事機関にいたのではないかという可能性が僕の中で浮上する。ガランスは、知らない方がいいこともあるのかと聞いてきた。僕は母さんの日記を読めて、家族のことを知れてよかったと伝えた。彼女は、そうと短く返す。服のすそを掴んできた。不安、なのだろうか。服のすそを掴むことが彼女にとって安心することなら、僕はそのままでしておきたいと思った。ガランスの頭から雪を払った。…その時のことだ。逆側から服を掴まれていた。そちらを見て見れば、小さな女の子が今にも泣きそうな、不服な顔をして僕を見上げていた。僕はどうしたのだろうと少女の視線に合わせ聞いてみた。そうして少女は、兄とはぐれたから探してほしいという。迷子、ということの様だ。ガランスと、と思い振り返ってみればガランスは忽然と姿を消していた。すぐにガランスを探す、というわけにもいかず、ステファニーの兄を探すことになった。カップルや公園に佇んでいる女性に聞いてみてもステファニーの兄は見つからない。その探す過程で、ブランコの起源について調べたことがあった。アリッサに聞かれて、答えられなかったのが悔しかったのか、よく調べたもののアリッサには話せない内容だったがために知らない。とつき通した記憶がある。こんな時に思い出すなんて。アリッサのことを考えると不安になる。考えないようにしていたという部分もある。その後ステファニーの兄は見つかり、一件落着となった。タイミングよくガランスが帰ってきてくれた。なんとレイというガランスの友人に会っていた。なんでも急に話しかけられたようで、ガランスが少し嫌そうな顔をしているのが気にはなったが、知り合いに会えたことは幸運だと思った。レイはすぐにガランスを引き取る、と言い出した。しかしながら記憶が戻っていない以上、経過観察を名目に見舞いにとどめてもらうこととした。彼は忙しいらしく、すぐにその場を後にした。その際、急に写真を撮られたものだから、引きつった笑みになってしまった。せっかくの写真だったため、少しでも笑おうとした結果だった。お世話にならなくなる日も近い、とガランスはこぼし良かったという。やや強引な友人であったが、確かに友人の近くにいたほうが思い出すきっかけは多いと僕は思った。すこしでも喜ばしいと。でも、この少しの違和感はなんだろうか。それはすぐにわかることになる。 「あなたのその優しい手が好きよ」 公園での出来事をしり目に僕とガランスは大聖堂を目指す。閉館時間ぎりぎりで滑り込めたその先には幻想的な空間が広がっていた。大聖堂の身廊には大きな壁画があった。カインとアベル。創世記の話は、カインの追放で幕を閉じていた。心なしか寂しい印象を受けていた僕にもしソワレが神様だったらどうしてた?とカインは問う。僕だったら、カインを愛していることは変わらないんだろうと思う。何をしてしまっても、カインはカインだ。それは変わらないし、死んでほしくないと思う。だから同じ行動をすると思うよと返答すれば、ガランスは同じことをするのねと悲しそうにしていた。そういうガランスだったら?と問えば、カインの印象が強くて、神様の立場は考えられないが愛してくれるならもっと嘘をつかない前にしてほしかったと。君はもしかして…。それ以上言葉を紡ごうとはしなかった。僕はそこまでその言葉にそれ以上の意味があるとは考えていなかった。身廊を抜け、祭壇へといってみれば、気味の悪い像が置かれていた。あまりミサなどにも参加していなかった僕はここにずっとあったにもかかわらずこの気味の悪い像をまじまじと見たことなかったのだ。タイミング的には良かったのかもしれない。立ち入り禁止になる前に拝むことはできた。こうも気味が悪いとは思わなかったが。この祭壇は後程立ち入り禁止になるらしく、あまり訪れない僕にとっては最後の機会になるだろうと踏んだからであった。しかし胸糞悪いことには変わりなく、僕はここを早めに出ようと提案し、ガランスも同意してくれた。チャペルへと足を踏み入れればそこには多くの聖遺物が置かれていた。ガランスが言うにはここには聖遺物が多いと。普通だったら盗まれたりすることが多く残っていないことが多いと。今思えば、記憶喪失の君がそんなことは言わないはずだと気づくこともできただろう。でも僕はそうと思わず、記憶喪失であるとずっと思っていた。聖遺物の一つが少しケースがずれていたのだ。ケースがずれていてはそれこそ盗まれてしまうだろうと僕は、ケースを戻しにそれに近づいた。しかしそれに違和感を感じた。その聖遺物は小さな小箱で、目立った装飾もなかったのだ。不思議に思っていた時だった。二人の携帯が同時になったのだ。僕はかけてきた相手を見て、身構えた。ユウドマリ先生からだったから。出てみれば、ユウドマリ先生は慌てた様子で、告げる。アリッサが居なくなったと。彼女に口止めされており、アリッサが病状が悪化していたこと。今は空港にいて、そこで探し回っているということ。僕は血の気が引いた。不安に思っていたことが現実に起こってしまっていたのだ。ガランスの方はどうしたかと聞いてみればレイが迎えに来る。という。どうにも彼は待っていられないらしい。僕はタクシーで空港へ、ガランスは診療所へ戻ることになった。迎えに来る、というのならきっと会えるのはここで最後だと僕は思った。タクシーに乗り込む前、ガランスは僕の手を取り自身の頬に寄せた。そしてあなたのその優しい手が好きだと言ってくれた。嬉しかった。僕の手は誰かを救うためにあるから。僕は、ガランスともう少し話をしたいと思った。知りたいと思った。だから、記憶が戻ったら一報くれたら嬉しいと連絡先を渡した。そして、もし記憶が戻ってそれから逃げたくなったらいつでも待っていると。僕にできることは話し相手になることと暖かい食べ物を一緒に食べることくらいだったから。連絡がなければそれ以上会うことはないのだろうとさえ思っていた。ガランスは連絡先を受け取ってくれた。そして、6番ゲートから発つと。日時は決まっていないとは言っていたが。自身が旅発つタイミングを教えてくれること、僕は嬉しく思っていた。元気で。そんな言葉を最後に僕らは別れた。…その別れがすぐに再会に変わることも知らずに。空港に向かった僕は、6番ゲートには直行しなかった。日時が決まっていないことを信じていたからだ。ロビーから順に探し回ったもののアリッサの姿は見つからない。それよりも不審な男たちを目にしたことで僕の中の不安は募っていった。順に見ていったところで最終的に6番ゲートへとたどり着く。そこは立ち入り禁止になっており施錠されていた。それでも、その時聞こえたのは確かにアリッサの声だった。アリッサがこの先にいる。そう思ったら僕は足を踏み出していた。扉を通り抜けるとはさすがに思わなかったけど。そしてその先に見えたのは赤だった。多くの人間が、まるで踏み潰されたようにその場で死んでいた。死んでいたのだ。あっけにとられる僕を現実に戻すかのように足を誰かが掴んできた。その男はもう手遅れの状態で、僕にはどうすることもできなかった。引き返せといっていたんだろう。しかし僕には引き返す理由はなかった。むしろ進む理由しかなかった。僕は赤いカーペットの上を歩いていく、その先にアリッサはいた。無邪気にとっびこんでくる彼女を受け止めながら、僕は息苦しくなっていた。十分抱きしめたあとアリッサは僕を抱きかかえたままだった。その次の瞬間から僕はずっと混乱したままだった。銃がアリッサに向けられていたのだ。そして、その先にいたのは、ガランスだった。彼女は瀕死の状態で倒れていたのだ。その手に銃を持って。アリッサは楽し気にその様子を眺め、ガランスの仲間をなぎ倒していった。アリッサのスカートからは触手が伸び、この世の物とは思えないものが見え隠れしていた。そしてアリッサがお友達、といったのはどう見ても化け物たちだった。僕はアリッサどうして、何が起こっている、と繰り返すばかりだったように思う。理解ができなかった。アリッサは妹だ。活発で賢く、両親や僕を好いてくれている病気と闘っている少女のはずだ。それがどうして、人を、こうも簡単に面白がって殺している?どうして僕はこの子に抱えられている?わからない。理解できない。ただ見ていることしか僕にはできなかった。目の前で戦っているのは瀕死になっているのは記憶喪失だったガランスじゃないのか。記憶が、戻っていたのか。どうして彼女を殺そうとしているんだ。どうして、僕が混乱している最中だった。明かりが見えた。ガランスが、炎を身にまとっていた。そしてその刃をアリッサに、僕は咄嗟に飛び出していた。唯一の家族の前に。血が出ていることがわかった。内臓を貫いていて、いることも。僕は走馬灯を見ていた。ここに至るまでの家族との会話やアリッサに読み聞かせた本の内容、たくさん勉強した医学書の内容、ヒノモトさんや多くの人に支えられて医師になれたこと。君に、ガランスに出会ったこと。目の前の君に。精一杯の笑みで。声は出なかった。言ってあげられることはあったはずだ。僕の耳に届いたのはアリッサの悲鳴と、目の前に広がる茜と夕焼けのような炎だけだった。 これがすべての始まり。 “ Tant qu'il y a de la vie, il y a de l'espoir. ” . ▼閑話休題 ー 九四九四 「ほんとに変わらないじゃん」 目が合った時アカネはそういった。僕は「変わらないと言ったのは僕だ」と口をこぼした。言ったのは僕じゃない、ソワレだ。つい先ほどまで見ていた景色に自分に引っ張られている気がした。変な感じ、とアカネは言っていたが、僕もそう思った。ソワレがこの中にいる感覚だ。そしてアカネをみて、よかったと安堵した。何がよかったのか正直説明できるようなものではなかった。それがソワレが僕の中にいるという感覚を感じさせているものだ。殺した相手に笑みを浮かべる人だ。生きているわけではないのに、そこにガランスがいるとでも感じたのだろうか。だから、なのかはわからない。この先どうするのか僕はわからなくなっていた。漠然とアンを探すと思っていた、だがしかしアカネは殺そうとするのだろうか。口に出してみれば、怒った様子で同行者が殺そうとしてたらどうするんだと、僕はソワレと同じことをするだろうと言えば呆れたような様子をしていた。俺はお前を守りたいんだとアカネは言う。僕がアンを庇えば、守るということはできないだろう。ここまで僕が、ソワレが疑問に感じていた、あの時アリッサに銃を向けていた理由を聞かなかったのは、アカネを信用していた節はある。聞かないのが信用している、というのはアカネにとっては違っていた。僕は彼女を理解しきれていなかったようだ。改めて銃口を向けていた理由を聞けば、アリッサが何か呼び出そうとしており、その何かが人類を滅亡に追いやるものであることを知る。そして、それが呼び出されてしまえば、ソワレを守れないと思ったから、だった。それを聞いて邪魔をしてしまった、と感じた。もちろん、ガランスとしてソワレを守ろうとした結果だっただろう。対象がアリッサでなければ、また変わっていたかもしれない。だが、記憶からもわかるように、唯一の家族を咄嗟に守ろうとしたが故あの結果になったに過ぎない。唯一の家族であることは変わらない、であれば、ガランスとソワレと同じ結末にならない様にどうするべきか話すべきだった。それすらも僕の中から抜け落ちていた。混乱しているのか、ソワレと混ざっているのかわからなくなった。アカネに言われまた気づかされることになった。アンがアリッサの時と同様かはわからない。呼び出そうとしているものが何かもわからない。ましてや任務の小箱の運搬も小箱が奪われたままだ。どうするべきか悩んでいれば、今まで勉学に勤しんできた身でありながら、また気づかされる。わからない部分をどうすることもできなかったら調べればいいのだ。とにもかくにも動かねばならない。ハカタ支部の二人は先に目覚めており、兎を狩っていたようだ。味付けしたものを受け取り、暖かいものを食べた。そして話を聞くところニホン支部は動物で情報収集をしているらしく、付近の情報を得ていたようだった。なんでも、教団から追われている村人集団と武装した大世帯がこちらに向かっている、と。教団から追われている村人集団の方には心当たりがあった。自分たちで、村から旅立ったニザカを含むタロハナコ村の人たちだ。このままにしておけば彼らの命が危うい。ミメイが起き、辛うじて出せる声でイブンの所在と協力したい旨を言ってきた。イブンについては門を通る際に足止めするといって別れてしまったことその後彼がどうしたかはわからないことを伝えた。ミメイは武装した集団について詳細を調べるべく儀式をするという。…全裸でこの真冬の中、雪に埋もれることは自殺行為だ。僕は不服そうなミメイの儀式を止めた。イブンが繋いだ命であり、イブンから任されているのだ。彼女に羽織をかけ、暖かい湯を飲ませる。体を温めることも必要ではあるが今はこれしかできないだろう。儀式をした彼女が言うには多少の猶予がある、という。武装集団を誘導できないだろうかと考える傍ら、考えてる余裕なんてないんじゃないというアカネ。状況を見る必要もある、といったが、状況次第で見捨てるのかと言われた。そんなわけはない。彼らを助ける前提で、言ったことだった。状況次第ではこちらに誘導をできるのではないか、もうすでにかち合っていれば加勢するだとかそういった具合だ。僕は僕にできることをする。そうと決まれば、カーラーとサフェードに乗り、彼らの元へと向かう。状況はすでに戦いが始まっている様子だった。まさにその直後だった、ニザカとハツが目の前で肉塊になりかけた時だった。砂埃が舞い散り、何かが見え隠れしている何かが武装した男たちの銃をへし折っていた。イブンだ。彼は以前見た姿ではなかった。何本もの足、に複数の眼球。僕がイブンだと思ったのはそれに顔のような頭部が見えたからだ。武装した集団がこちらに襲いかかってきた。村人たちに加勢した最中カーラーが傷を負った。持ちこたえてくれた。治療はせねばならない。武装した集団を倒した後、イブンはこちらを見たもののその場から姿を消した。姿を消したのは、イブンだけではない。ニザカとハツの姿も見えなくなっていた。……やるべきことはまだたくさんあるようだ。 「俺だってアカネのままでいたいよ」 レイメイ派の襲撃後、ニザカとハツの姿は近くにあった。ハツは応急手当として、散弾銃をくらったニザカに処置を施していた。しかしハツにも限界があったのだろう僕らを見れば頼りにしてくれた。ニザカを診てみれば、弾が皮下にある状態とみていた。もちろん、教団にいた時の設備や上司はないない。それに加え、ソワレの時の実践的記憶はあれどもこの戦禍の状況には出くわしたことは無かった。僕の知識と経験だけではこの内臓や幹部に弾が届いていないという断言が正しいことかも分からない。弾は取り除くべきだ。だが、この状況下でやることは感染症を引き起こすリスクがある。このまま放置することも検討はしたが、それはあくまで内臓等に弾が到達してないと見立てればの話だった。そうして僕が迷っていればアカネが手を握ってきた。ビビってんのかと思って、この手なら救えるだろと。なにを迷っていたのか、アカネの言葉を受け僕はニザカから弾を取り出すことにした。緊張で汗が止まらないこんな寒い中だというのに。そして、手が震えた。本当に僕のこの手で救えるのか?不安だった手の震えはその不安によるものだった。その時だ、アンの声が聞こえた。アンは確かに僕に囁いた。不思議と不安は何も無くなっいった。そうして、処置を施していけば、ニザカが目を覚ました。僕らのことを幻覚といい、死んだのかなどと言うものだからまだ生きていると伝えれば痛みを思い出したのか意識を覚醒させていた。何とか上手くいった…ニザカは僕とアカネの命の恩人だった。死なせるわけにはいかなかった。そうしてニザカが声を上げたのを村人達が聞きつければ僕のことを神だと言い始め、崇め始めた。アンも同じ心地だったのだろうか。僕はニンゲンだ。神様なんて辞めてくれ。そういえばジローラがそうだと肯定してくれた。信仰しているボルグル様が嫉妬するだろうと。それに気づいた村人たちは我に返った様子だった。カインと言ってアカネに近づくミメイは、やたら懐かれているようにも思えた。アカネはしっしっと払っていたものの、カインと呼ばれるのを聞いていていい気はしなかった。そうして、どうしてタロハナコ村の人々がここにいるのかと問えば、なんでも馬に荷物を乗せた集団の中にニザカの母親、ともこさんに似た人物がいるという目撃証言のもと、フランス支部に向かっている彼らを先回りしていたところ、襲撃にあったという。それを聞いたハナマルたちは、僕とアカネの護衛以外にフランス支部に集まるように命令がされていたという。しかもともこさんは死んでいないという。確実にあの場では死んだと思っていた彼女が御神体の加護を受けた、と。そんなことが有り得るのかと僕は思った。しかしニザカの希望に溢れた顔を見ればそんなこと、どうでも良くなってしまった。しかしながらニザカもミメイも怪我が完治したわけではない。彼らにもフランス支部に向かってもらい、内部で治療を受けるべきだった。そこで、ハカタ支部の2人には彼らの護衛について貰うことにした。上には力及ばずで報告をするらしい。僕にはアカネがいる。それよりも彼らの護衛をしてもらった方が安全だと思ったのだ。ミメイは名残惜しそうにアカネに近寄りカインが最後の希望なんだと言い残していた。アカネもカインにならなきゃ行けない日がくるかもしれないとミメイの頭を撫でた。それはどういうことだと思いつつも、アカネはアカネだと僕は思うと伝えた。カインになることがあってもアカネだと。それは彼女が絶対にアカネには変わらないと言っていたからでもある。それにカインになることがアンを殺すことではないだろうと考えていたから。馬に跨り僕とアカネは、彼らと別れ、旧聖堂都市ヴィヨンヌへと向かう。つい先刻見た景色はそれとは打って変わっていた。あちらこちらは瓦礫にまみれていた。この街が懐かしいと感じる最中、僕は先程より感じていたことをアカネに聞いた。そして、アカネは妹のことばかり考えているからだと、何をしようとしてもそれがおぞましいことであっても彼女を肯定するなら自分なりの方法で世界を救うと言い放った。僕はアカネはアカネだと言ったにもかかわらず妹が何をするかによってはアカネをカインにしてしまうのだと思った。そんな大それた口を言ってすまなかったと謝罪を入れればふざけるなと一掃された。アカネだと肯定してくれる人がいなければアカネじゃなくなる。お前がこちらを向いてくれなきゃ誰が肯定してくれるんだとそうじゃなければ俺は誰なんだと。僕は彼女を振り回していた。ソワレの時ドックタグを捨てたのはカインではない何者かにしたかったからだ。アカネとつけた時、研究対象ではなくしたかったのと同じだった。名前がどれだけ大切か。ソワレも言っていただろうに。僕は彼女が1番捨てたかったカインに自らなることもあるだろうと言ってしまったのだ。どこかでアカネがアンを殺さないだろうと思ってしまった結果だ。それが彼女を傷つけた。名前だけではない。そうしたくないという思いも踏みにじったに近い。僕はアカネにアカネでいてくれと言った。アカネはそうしたいとも見捨てたらいつでもカインになれるからなと言って歩み始めてしまった。僕は、あの時アカネが、ガランスが歌った歌をくちずさんだ。それにアカネは被せてきた。すまなかった。君はアカネだ。また僕らは歩んでいけるだろうか。廃虚と化した海洋博物館へと足を踏み入れる。そのにまたアクセサリーが中にはあった。それもつかの間、足元が崩れ落ち地下空間へと入ることとなった。旧セカイ、ソワレの時にはなかった空間のように思えた。扉の前には赤い円の魔法陣があり、それをアカネは消した。どうやら危ないものだったようだ。ガランスの時の記憶からそう分かっていたのだろう。そうして扉の先に行けば、もはや見慣れた本などが陳列されていた。歩を進めていけば、ガランスが持っていた携帯電話と似たものが転がっていた。アカネは慣れた手つきでパスワードをいれロックを解除すれば、どうやら拾われて使われていたようで、なかのメモ帳にはDogと関係のあることが書かれていた。それにプロフィールは、バラバラ殺人事件の犯人のそれであり、何故その時の犯人のプロフィールがこの携帯にあるのか疑問に思っていたその時だ。 「その言葉がさ嬉しかったはずなんだよ」 地下に地響きが起きた。予想もしてなかった中、棚の本が崩れ落ちていく。地響きが収まった後、棚の本に手を伸ばそうとすれば、煙が僕の手をすり抜けていった。それは形を成し、人の形を為した。いわゆるゴーストだ。ゴーストは、自分をアケガタと名乗り、殺されたのだという。口を開いたかと思えば、アカネを最高傑作になるはずだったのにカインと言って、とんでもない提案を僕達してきた。アカネに僕の腹を割かせれば、カインとアベルについてやアケガタが乗っていた旧セカイの異物があることやレイメイ派の拠点に他世界を覗けるモニターがあるのかを、皮肉にも僕らが欲しがっている情報を代わりに教えてくれるという。僕はアカネをカインにする気は無い。だが、アカネに瞬間でもカインになるような取って欲しくない。それと同時に、僕は医者であり、治療はできる。アカネが傷を付けるならそれを治療すればいいとも思ってしまった。それで得られるものが大きいとも。アカネとして、情報を得るために必要なことかもしれないと。そう思って、アカネを引き止め、取引を受ける方がいいのではといえば、俺はカインになりたいわけじゃねぇと言った時、何も返せなくなっていた。僕はまた。彼女が1番捨てたいものを押し付けようとした。外に出ようとすれば、アケガタは僕らに襲いかかってきた。物理と言うよりかは精神的に。僕は一旦アカネにこの場を任せ外へ出ようと部屋の外に出る。しかしそこで気づく、そとが猛吹雪になっていたのだ。外に出るのは懸命では無い。引き返しアカネに伝え、アケガタを撤退させる方針を固める。彼を撤退させた後、本の内容を読もうとすれば、旧セカイのものだと分かる。描かれていた壁画の絵を見ていれば、不意に脳内に声が響く。この古代言語が読み解けるという。その声に承諾すれば、視界は漆黒へと染まる。何も見えない中で、体力だけが持っていかれている感覚がした。視界が開けた時にはとてつもない睡魔に襲われそのまま意識を手放した。夢を見た。必ず妹がいる。姿形は変われど、妹は僕しかいないと一緒にずっといたいと僕はそれに肯定的に答えていた。予想、でしかないがソワレのように繰り返して来たことだったのかもしれない。しかし夢である以上、本当のことは分からない。最後は聞き覚えのある、アンの声で、扉を開けてと僕に言ってきた。そこで目が覚めたわけだが。その後流れてきたのは壁画の記憶がエンドロールのように流れてきた。そこでは、かつて行われたセカイへの略奪と破壊、少し残された土地に住むヒトビト。永遠の生だった。それが何を意味しているのか正直わからない。目を覚ましてみれば、アカネの羽織が僕にかけられていた。少ししてアカネも起きる。夢を見た事、古代言語の本の内容を映像として見たことを伝えれば、妹が何しようとしてるかわかるかと。扉を開けて欲しいようだったが、本当のところ何をしようとしているのかはわからなかった。分からないなら調べるしかないな。というアカネに、アカネはアカネだと僕は思っていると伝えれば、その言葉がさ嬉しかったはずなんだよと。自分が何者なのか探してることにするよ。あぁ、既にあった溝を大きくしていることに僕は気づいた。その言葉には何も、返すことは出来なくなっていた。今は肯定する言葉、として届いてないと感じた。そんな中、馬たちが心配だとカーラーとサフェードを探すことになった。足跡をたどって行く先に白蛇のアンクレットがありそれを拾った。海洋博物館で拾ったもの同様何かしらの名前のようなものが刻まれているようだった。何を意味しているかはわからない。しかし先程の謎の声のように力になってくれるのかもしれないと僕はそれを持っていくことにした。馬たちを探しながら街を歩いてみれば記憶にあるお菓子屋やレストランの骨組みが見えた。僕はふと疑問に思っていたことをアカネに聞いた。いつ記憶が戻っていたのかと。彼女はさぁと曖昧な返答をした。アカネがガランスが曖昧に返すのなら後ろめたく思っているのかもしれない。それなら曖昧なままでいようとも。記憶が戻ったあとも話をしたかったソワレにとっては本当の彼女と話ができると喜んだかもしれない。しかしソワレ自身もそうすることが正解かは迷っているところがあった。予想することは出来るかもしれない。時にハッキリとしないことも必要だと、アカネが生きた心地のした3日間だと言っていて思った。それを聞いて何になるんだよと言われ、何にもならないか、今を生きてるのはアカネとユウナギだ。ガランスであり、アカネであったからつい、懐かしい街にいることもあって聞いてしまった。ガランスが笑ってくれた時ソワレが嬉しかっただろう。僕はアカネの笑顔をまた見たいと思った。その時だ、ヒュと僕とアカネに石つぶてが投げつけられる、咄嗟に僕をアカネが庇う。守りたいという気持ちは一筋のようだった。僕は…。石つぶてが飛んできた先には図体の大きい大男が僕らを見ていた。 「今度こそ絶対」 図体の大きい男は、緊張しているのかわからないやや上ずった声で僕らに食料を置いて行けという。図体が大きければ姿を現し威圧したほうが小心者には効果的であろうに姿を出さない。何者か聞いてみれば、食料を置いて行けの一点張りだった。再び石が投げつけられた。アカネが庇ってくれたがいつまでもこうしているわけにもいかない。石の飛んできている方向から、男の居場所をアカネに伝える。僕が気を引いているうちにアカネが近づき正体をつきとめた。その正体は、子供のようだった。少女とみていいだろう。彼女は離せと暴れるばかりでこちらの話を聞いてはくれず、むしろ何者だとかを聞いてくる。旅人とはぐらかしたが、それでは通じず、素直にオオマガドキ教団の医師兼研究員と答えれば、近くの教団の教団員だから配給をくれと言ってきた。話を聞けば2、3日前から教団員が姿を消し、人が全く居なくなったという。動物もまた居なくなったとか。そのため残された少女は食べ物に困っていたことだった。こちらも物資自体にゆとりがある訳では無い。しかしこのまま見捨てる訳にも行かないため、食料を分けようとした時、少女は咄嗟に僕の手首をつかんだ。そして、底に鋭いといだ石を当てたのだ。少し動けば血が出るぞと脅して。アカネはこちらに前のめりに来そうだったが、僕はそれを待つように言う。食べ物に困っているだけなら、渡そうと思っていたからだ。少女を落ち着けるべく大事にする気は無いと言葉をかけたが、少女は動揺していた。そして刃は僕の皮膚を切る。血が出た。かすり傷とはいえだ。それでも大丈夫と少女に伝えようとした時、アカネが加減なしの様子で少女に襲いかかろうとしていた。僕は少女を庇った。アカネには相手は子供だぞと言ったが、唖然としている様子だった。さらに、そこへもう1人の少女がやってきてお姉ちゃん虐めないでと泣いた。お姉ちゃんと呼ばれた少女は、もう1人の少女の登場に観念したのか、はたまた心配させたいとしたのか、僕らと話をしてくれるという。お姉ちゃんのほうがシー、もう1人はスータンというらしい。シーはスータンから離れて話をしたいらしく、僕とアカネを連れ出した。その際にアカネにどうして急に手加減もなしにあれでは大怪我をするところだったと言えば、殺そうと思ったからと言った。それが僕を守るためだったのかと聞けば、殺したいと思ったから、わからない。声が聞こえたと。今までそんなことは無かった。僕が言ったことを守っていたはずだった。もしかすると不安定なのかもしれない。カインになりたくないアカネがここ数日周りからカインとして見られていたのもあり自分が何者か探してみると言っていたことを思い出すと、不安定なのではと考えられた。アカネはシーに悪かったなと言った。話は済んだ?と確認を取られ、アカネを気にしつつも話をすることとなった。話を聞けば、教団に所属していた2人だったが、彼らはカゾクのようだった。教団では、物資もあり、大人たちから教育も受けていたようだ。幸せだったと彼女は言う。しかし急に置いていかれる形になったらしい。寒い冬に草冠を作っていれば、天使様、アンが声をかけてきたのだという。しかもそれは僕が旅に出て数日後あたりだった。つまりアンは僕が旅に出てからここに来ていたことになる。花冠作っておけばよかったとも言っていたようで、約束のことを忘れていなかったようだった。旅に出ていなければお互いに花冠を作りあっていたのだろうか。天使のようなアンに会えたことで、幸せだったとシーは言う。そうして一連の話が終わったタイミングでスータンの悲鳴が聞こえた。スータンの元へ3人で戻ってれば、ヒグマに襲われそうになっているところだった。スータンを助けなければ。アカネが石つぶてで受けた傷を手当しつつ、万全な状態で送り出す。僕にはこれしか出来ない。ヒグマは今まで見てきた動物のなかで、かなり弱っているようだった。この辺りに動物がいなくなった、ということもあってなのか、食べ物もないのだろう。子供に食料を与えるためにこちらに襲いかかってきたように感じる。ヒグマはアカネの鉤爪によって倒された。子も同じように倒れていく。スータンもかすり傷程度で済んだようだった。これ食べれるのかと彼女らは心配していたようだが、ヒグマをきちんと処理すれば保存食にも今食べるために料理することも出来る。アカネに頼みヒグマを解体してもらった。アカネがの手を見てこれどうなってんだかっこいいとシーはいう。どう作られているんだ??と興味津々のようだった。解体して貰っている間に僕はスータンの傷を見る。何してるの?と彼女も純粋な疑問を持ちかけてきた。僕が、傷が広がらないように、あとからばい菌がはいってスータンが熱を出さないようにしてるんだよといえば、神様みたい!と健気に喜んでいた。だけど、僕はそれを否定した。神様なんかじゃない。僕は1人のニンゲンだと。でも、神様はなんでも治してくれるって!アン様が言ってたと彼女は言う。そこまで万能なものではない。神様ではないしね。といえば少しスータンは、残念そうにしていた。傷の手当と解体が済み、料理をすることにした。シーのほうから手伝いたいと言ってきて僕はそれを了承した。料理をしている間はアカネにスータンが遊んでと言ってじゃれていた。お馬さんごっこ…らしい。それを聴いてすっかり抜けてしまっていたが、カーラーとサフェードについてシーに聞いてみたが見ていないとのことだった。足跡も消えていたことだ、この辺まで来ていたら彼女たちが襲っていたかもしれない。話をしながら料理をしつつ、アカネがスータンと遊んでる姿は微笑ましかった。よく思えば記憶から目覚めたあとこうして、ゆっくり食事の準備をしたりすることは無かった。そうして完成した料理と保存食、保存食の少しは2人へと分け与え僕達は料理を食べることにした。料理を食べながら、アカネが話を始めた。シーとスータンの食事を見ながら、アンとあぁして食事をしたことはあったのかと。確かに数少ない中、あそこまで食事を零しながらではなくともアンと食事したことはあった。アンは楽しげに僕に色々なことを聞き、僕は話していた。そんな記憶。アカネは、アンをそんなに信頼してるんだなと。アンのことは大事で信頼しているところはある。しかし先の夢で最後に僕の前に姿を表さなかった。声だけだ。だから僕はそれが妹なのか魔女なのか分からなくなっていた。魔女の囁きで扉を開けてと言っていたのかもしれない。単純に妹として、一緒にいて欲しくて扉を開けてだったのかもしれない。…少し妹に対して疑惑を僕は向けていた。合わせなくてもいいとアカネは言うが、合わせている訳では無い。僕自身がそう思っていたのだ。そんな妹を殺そうとしたらどうする?とアカネは言う。僕は守ると言えば、それじゃあ同じじゃねぇかと。いや、そうならないために話し合おう、模索しようと言ったじゃないか。だから僕はアカネを信じていてたカインにならないと。カインが傷つけるだけなんじゃないと。それは立場を利用するということでもあったが。カインには破壊以外に何ができるんだよ。言葉が詰まる。立場的な利用は出来るかもしれないが、そうだこう話すこともスータンと遊ぶこともしなかっただろう。僕と出会って、話してそうすることができるようになったと。名前が大事だと、でもカインは名前じゃなくて識別番号みたいなもんだと。殺して寝るだけの生活だった。それだけだった。そうか、ずっと1人で。僕は思わず、1人は寒かっただろうと言っていた。確かに1人だった時もある、しかし周りには誰かしら居たのだ。(PL:これは個人的解釈)誰かと話しをすることもあったし、アンに会ってからは2人だった。1人の気持ちがわかるのかよと言われ、環境は違えど少しはわかると僕は思っていた。だから誰かとこうして食事をすることはここが暖かくなると。アカネは戻りたくないのだろう。僕はわかっていた気でいたが、勘違いしていたらしい。信じたい気持ちを持っていただけだった。アカネはこうして、焦っていた揺らいでいた。今度こそ絶対、幾度となく繰り返した中での彼女の言葉だった。それに妹の気持ちもわかるらしい。僕はアカネにカインにはなって欲しくは無いといえば、何になるかは俺が決めるしと啖呵切っていた。自分自身の価値は、何者であるかは自分次第だ。でも僕はそう思っていると伝えておきたかったのだ。あの時言えなかったようにそんなことがないように。もう迷わないように。僕はずっとアカネが僕の目を見て変わらねぇなと言ってきてから、アカネの髪の色も目の色と変わらないと言いたくて言葉を探していた。そうしてようやく、僕はもっと早くこの茜色を見つけてあげればよかったと。もちろん、難しい話で記憶がなければ、全くを持って無理な話ではある。それでも、初めて会った時僕を殺さず気になるからでアカネが生かしたように。なにかを分かり合えたかもしれない。そうしてアカネの頭を撫でれば、彼女は顔をくしゃくしゃにしていた。安堵したのか、気持ちの整理がついたのか久々に見た顔だった。僕はアカネの手を握った。かつてソワレがガランスにそうしたように。落ち着いてきた頃に手を握り返してくれたが、ギリギリと力が籠っていた。加減して欲しい。アカネはアカネて僕は僕とお決まりになってきた歌を歌えばシーとスータンも同じように乗ってきた。これだけ穏やかで、賑やかに取った食事はいつぶりだっただろうか。アカネとも話をゆっくりする時間があり、僕らはようやく1歩を踏み出せだろうか。そうして、食事をした後、2人に言われそれぞれ、別れて彼女らからの物資を受け取ることとなった。 「助けられなくてごめん」 僕はシーとアカネはスータンと共にそれぞれの物資を受け取るために別れた。後にこちら側に合流することになっていた。僕はシーに連れられて、植物が自生している一帯に連れてきてもらった。確かにここにある草花は藥として調合が可能なものばかりだ。スノードロップ、花言葉は希望。球根に毒があり、一見薬には使わなさそうであるスノードロップは、感覚を麻痺させることができる。一時しのぎではあるが、痛覚の感覚を麻痺させ痛みを感じさせないという意味では薬として用いられることがある。薬を調合していれば、シーが調合の様子を伺ってきた。草花をよく見分けられるよな、とかこんなんで薬になるんだなといった具合だった。僕は知識をつけた結果だと伝えた。思えばシーやスータンは教団員から教えてもらっていたことがあったらしい。内容に興味を持った僕は、どういったことを習ったのかを聞いた。彼女は、カゾクについてや教団の信仰対象について等、いわゆる教団関係についてが多くだったようだ。そんな話の中、シーが提案を僕にしてきた。一緒に安全なところまで着いていってもいいか、というものだった。僕は二つ返事で了承をした。このままこの子たちを残していくのは助けられる命を見捨てるに等しかったし、旅路が賑やかになることがいいと思ったからだ。しかし、お世辞にも僕とアカネの旅は絶対安全なものじゃない。それはここに来るまでの間で証明されている。そのことは事前に伝えておくべきだと思った。シーがその危険性をどれだけわかっているかは計り知れない。しかし生きるという意思は強いと僕は感じていた。こうして彼女たちは残されており、その環境下で生きようとしていたからだ。少しの旅路になるかもしれないが、よろしくと彼女に握手の手を求めた。その時だった。シーが突然喀血したのだ。シー自身驚いたような表情をしており、僕もあっけにとられていた。診察をする暇など与えまいと僕が彼女を診る前にシーは心臓部分を抑え倒れ、手首の、カゾクの印が見える部分を強くとても強く握りしめていた。そして、間もなくシーは息を引き取った。彼女は息を引き取る直前、スーごめんねとスータンへの謝罪を入れていた。自身がこのような状況になり今後守れないから、なのかとその時の僕は思っていた。亡くなった後、彼女の死因を診てみれば心臓麻痺、だった。もしかすると偶然かもしれないしそうでないかもしれない。彼女の亡骸を寝かせ、ひとまずアカネたちの合流を待つことにしようとした、その時だった。アカネが、スータンを抱えてこちらに状況を確認しに来たのは。アカネには突然の心臓麻痺でシーが亡くなったことを伝えた。アカネの方からは、スータンの宝物を置いてある場所に魔法陣が引かれており、スータンが誤ってその魔法陣に足を踏み入れてしまった、という。その魔法陣が生贄用で、足を踏み入れれば絶対に逃げることができない、と。助けようとして、間に合わなかったという。教団が過去に使ったという形跡はあったらしく、いくつもの死体がそこにはあったと。スータンをシーの横へ寝かせるように僕は言った。少しでも、彼女たちが同じ場所に行けます様にと僕なりに思ったからだった。それにしてもこんなにも偶然的にこの姉妹が亡くなるのはタイミングが良すぎる。僕は仮説を立てた。彼女たちはカゾクの印をつけている。スータンが亡くなったことでシーも運命を共にしてしまったのではないかと。離れているところで、そんなことがあり得るのかとアカネは言っていたが、僕としての仮説にしかすぎず、本当にカゾクが関係しているかは定かではなかった。アカネはスータンの頭を撫で、助けられなかったことを悔いていた。そんなアカネの背中をさすっていた。ほどなくして僕らは、スータンからの贈り物を身にまといつつ、馬たちの行方を追うことにした。捜索は難航するようにも思えた。しかし、奇跡的にも馬たちの足跡を見つけることができた。少し前から、いやこの旅を始める以前からこの世界では何かが起き始めている。僕らはその渦中にいるのかもしれない。馬たちの足跡を追って行けば、いや、まさか。自身の目を疑った。ここは、僕のソワレの、診療所兼自宅が目の前に現れたのだ。酷く懐かしい想いだった。どうか2頭が無事であります様に。 「ユウナギの手で治ったほうが綺麗だと思うんだよ」 僕とアカネの前に現れたのは、診療所兼自宅。つまりソワレの記憶にあるものだった。その建物の前で、カーラーとサフェードの2頭と、イブンがそこにはいた。2頭が無事だった、という点は安心した。しかしながら2頭は立つ気配がない。僕たちの気配に気が付いたのか、イブンが目を覚ます。彼はだいぶ衰弱しきっているようで、僕らのことを待っていたようだった。運命を守らなければならなかった。僕らに生きていてもらう必要があったと。イブンが2頭をここに連れてきてくれたらしく、吹雪の中をうろうろしていたとのことだった。一晩、吹雪の中に馬たちを置いていってしまったことを悔いたが、彼らは賢かった。少なくともあの場に残っていれば、朝には死骸となっていたかもしれない。そしてイブンは僕たちに、話をする体力もない状態で、その状況から脱するために2頭を食べさせてくれ、という。初めは、村の人々から受け取った大切な2頭だからそんなこと、と思ったが再会したときから2頭の様子がおかしいのだ。通常馬は内臓を圧迫させない様に立って過ごす。もちろん立って眠れるような体の設計になっている。それにも関わらずこの2頭は立ち上がっていないし、立ち上がろうともしていない。この2頭も衰弱していた。…長くはないだろう。僕は彼らに額を寄せた。彼らがこの状況を理解しているとは思えない。しかし、どうしようもなくこの2頭が受け入れていることに僕は気付いた。彼らの命は残り少ない、僕はその少ない命をイブンに繋いでほしいと思っているんだとアカネに伝えた。アカネも同意してくれた。カーラーとサフェードに、世話になった、吹雪の中残してしまってすまなかったと優しく彼らを撫で、伝えた。アカネもサフェードに同じように撫で言葉を掛けていた。きっと、タロハナコ村の人たちと居れば、まだこの先生きたかもしれなかった。でも彼らは僕らについてきてくれた。それだけで十分だった。僕はイブンに馬たちを食べてもらうことにした。イブンから話を聞くために、前に進むために。イブンは、暖かかった一晩ありがとうと告げ馬たちを捕食した。捕食後、イブンは僕らに告げる。このセカイが完成しつつあると。完成、というのは教団の言い方に過ぎない。このセカイに教団、こと魔女は神を顕現しようとしている。セカイキュウサイのための任務。僕に任されたその任務はアンが僕を利用したに過ぎなかった。また、支部長の何人かは永遠の命、をすでに得ているというのだ。もちろん例外はあるらしいが…。イブンは突然、前世や生まれ変わりを信じるかと僕らに聞いてきた。ソワレの記憶の件もあり、僕は信じているところがあった。しかしイブンはそれらを信じていないという。アンは完全な生まれ変わりであるが、それは魔術的なものなら可能かもしれない、と。アカネはそれに同調し、嫌なくらい知っているという。アカネとアンはずっと対立関係にあるという。21世紀のヴィヨンヌの一件でその対立にも終止符が打たれようとしていた。しかしアンにとっての誤算が生じていた。僕が、ソワレが死んだことだ。打たれるはずの終止符は打たれることはなく、教団側が優勢となり、δグリーンの兵士たちは捕まっていった。その兵士たちは神話生物と混ぜられたり、身体をいじくりまわされたというのだ。つまりアカネは、教団に捕まって以降、身体をいじくりまわされている。現状、アカネとしての意識がはっきりしているものの、いつ乗っ取られてもおかしくない状態ではあった。シーとスータンに出会った時何かが自分に囁いたと言っていたのを僕は思い出していた。300年以上、アンは僕に固執している。兄妹としての僕を。大聖堂には、向かってもらうとイブンは言う。どの道そうするつもりであったが、何ためだと問われた。アカネは、今度こそ僕を守ると、だからついていくと言ってくれた。頼りになる。僕はアンとはアンと話をしたかっただから、アンを止めに行くと伝えた。そう言って、イブンは少し休むことになった。彼を休ませるため、そして残っていた自宅兼診療所を見るために中へと入っていった。中は当時の面影を若干残してはいたものの朽ち果てていた。ふと、幻影が僕の目の前を通って行った。ここでアンと過ごした記憶だった。無邪気に走り回るアンが、ウィンタースクールに行ける判断にまで回復した時はとても嬉しかった。アンにもっと多くの広い世界を見てほしかったからだ。そんな記憶に懐かしさを感じつつ、イブンの手持ちを確認させてもらった。彼が話せなかった部分が手荷物の中にあるかもしれなかったからだ。手帳の中には十三の球体、今まで集めてきたアクセサリに入れられた名前が記されていた。どういったものかを把握することはできた。ヤハウェ、という記述が気になったが、イブンが起きてから聞いてみることにしようと思った。突然アカネが永遠の命が手に入ってずっと一緒にいたいって言われたらどうする?と僕に聞いてきた。僕はすぐには返答が返せなかったが、アカネは気持ち悪いと吐露していた。邪神はすんごい恐ろしいもので、そんなものから生きながらえてもらっても嬉しくも楽しくもない。少しの傷を僕の手で治してもらった方が綺麗だと。僕はアカネほど、神話生物や邪神というやつに詳しくはない。だがアカネが言うように未知のものから得た物が決して綺麗というわけではないように思う。しかし僕はすこし考えさせてくれ、とアカネに伝えた。永遠の命がどんなものから与えられたとしてもずっと一緒にいられることは、嬉しいと思ってしまった。永遠なんてないとわかっているのに。そうしながら診療所の方へと足を進めれば、十三の球体の一つがこんな場所に落ちていた。それを手に取った時だ。アカネが僕の手を掴んだ。そしていうのだ。ずっとここにいちゃダメかと。僕は目を疑った。まさかアカネがここでこんなことをいうなんて思ってもいなかったからだ。ガランスの時の記憶が強くアカネの中から出てきたのだろうか。診療所に来たから?懐かしさを感じたから?とにかくアカネどうしたと聞いていれば、どうもしないと、ここにいたいというのだ。僕らは前に進むんじゃなかったのか…と思っていればアカネは、はっとした顔をした。わからないけど、急に言い出していたと。でも隣にいられることが幸せなのには変わらないという。若干心配にはなるが、いつものアカネに安堵した。気を取り直して自宅の方を確認すれば、ガランスと共に食事をしたダイニングへと来た。ここでポトフを食べたわいもない話をしていたことに懐かしさを感じつつ、僕はまたあのアクセサリーの類を見つけた。そして、まただった。アカネが僕を押し倒してきたのだ。…非力なことに僕はアカネには筋力では勝てない。アカネはさっき手に入れたリングを奪い、この場所にいたほうがいいと思うんだよねという絶対守るからここに居ろと。腕をまとめて持たれた。やはり力では勝てない。それに先ほど同様様子がおかしい。僕はアン会いに行って話をする。話をするんだよなって言ってくれたのはアカネだった。とアカネに声を掛け続ければ、また我に返ったようだった。守りたいという気持ちはあっても、このようなことはしたくはなかったというのだ。診察所ではガランスの記憶が出てきているかと思っていたが、もしかするとアカネに混ぜられた神話生物が悪影響を出しているのか…。どちらにせよしっかりしてくれとアカネには言う。その時だった。建物が軋み始めたそれは崩落する前兆であった。咄嗟にかけだそうとして躓き、アカネに抱えられる。アカネはイブンのことも抱えて飛び出す。瓦礫が目の前まで来た時、見えない何かがそれを阻害した。イブンだ。彼が瓦礫から僕らを守っていた。診療所兼自宅は積雪の重みに耐えきれず、崩落した。しかし、ここまで保っていたことが奇跡的であり、まるで僕らの帰りを待ってからの崩壊だった。そうして、跡地を後にし、僕らは大聖堂へと歩を進めた。その間に、イブンにヤハウェとは何か聞いた。父親ということらしく、本能的に合わなければならないとイブンは言っている。居場所もどんな存在かも検討が付いていないらしいが、イブンにとっては父親に会うことが目標となっているらしい。恐らく、イブンはニンゲンではないのだろう。大量の知識、見えざる何かへと変容できるのを見る限りの話ではあるが。僕らがそうして会話をしながら、大聖堂へと向かっている最中。突然煙幕のようなものが充満しだした。その中で、僕は誰かに捕まえられた。レイメイ派に拉致された時の記憶が脳裏をよぎる。僕はその場で抵抗を試みたが、頭を殴られ、一瞬のうちに抱えられてしまった。…相変らず非力なことを痛感する。そして煙幕が晴れた時、アカネがこちらに向かって名前を叫び、僕へと手を伸ばしていた。僕はその手を掴もうとしたが、門の中へと、引きづりこまれていった。あれは17世紀の頃の記憶だった。僕が医者になりたてで、誰として救うことが出来ず無力感を感じているときのことだった。一人の少女を助けた。そして、名前を、彼女につけてあげた。そんな記憶。どうして今そんなことを思い出したのかはわからない。どうにもそれが懐かしく感じていた。そうして次に目覚めたのは、日本支部の中だった。見渡してみれば、僕を連れてきた男たちが寝ている。僕はそっとその部屋から抜け出した。幸いにも気づかれずに抜け出した僕は、アンの部屋を見つけた。外から鍵がかけられ軟禁状態の部屋。僕でさえ中に入ることはなかった。アンは僕とずっと一緒に居たいと言っていた、僕が死ぬ度にこうして世界を完成させようとしている。そのアンのことを僕は知りたくなった。部屋へと足を踏み入れれば、絵画に目がいった。どれも夢で見た、聞いたことのある名前と外見が描かれていた。ただ一つ右端の絵を除いては。名前の書かれていない、アンに一番似ている肖像画。これが僕は気になった。そうして、部屋を見て回っていれば、様々な本が見つかる。机の引き出しの鍵を劇薬で溶かそうと調合しようとしたとき、焦っていたのか、バレない様にと緊張していたのか、液体が零れ火傷をした。その際に生じた音を駆け付け、連れ去った男たちが僕を再び捕まえようと僕を追いかけてきた。僕は咄嗟に机の引き出しから2冊の本を持ち出す。そのまま、駆け出した。大聖堂では恐らく神を顕現する準備が行われている。大聖堂では何が起こるかわからない。アンは僕を死なせまいと、ここまで連れてきたのだろう。安全な場所で待っているように。僕は駆けていた。すると目の前には洞窟が現れた。天国の回廊。死体を保管しておくための場所。そこへ逃げ込む。いくつもの白骨化死体がある中で、僕は見てしまった。同じ服装をした、白骨化死体を。僕は一体、と一瞬迷ったが、邪念を払った。その声を聞いたのは、旅発つ直前だった。ランコが僕を追ってきたのだ。ランコは記憶当時のままの姿をしていた。僕は、戻ることはないと告げるとランコはそれを許すまいとこちらに迫ってくる。僕は門の前までどこへ繋がっているかもわからない門の前まで、たどり着く。そして、門へと飛び込む直前、十三の球体、Scorの力を使って、天国の回廊にあった死体をすべて金に換えた。スータンの件で、教団が生贄を準備していることは明白だった。これがどれだけの阻害になるのか僕には検討がつかない。しかし、少しでも阻害できたのならアンを止めることに少しは助力できるかもしれないと考えていた。金に換えられる様を見て、ランコは慌てふためいていたが、その様子をしり目に僕は門の中へと飛び込んだ。次に気づいたときは僕はアカネの腕の中であった。彼女も突然現れた僕に驚いたらしく目を丸くしていた。お前どこから来たんだ!?と聞かれ思わず上を指す。日本支部から門を通じてここまで来た。というとえらい遠いとこまで言ってたんだな…と驚かれた。どうやらここは大聖堂らしい。ここを調べている途中で僕が降ってきた、という流れだったようだ。ひとまず、再会できたことに安堵しつつ、見て回ることになった。見て回る中で、アンについてどうするか、考える必要があった。話が通じなければ、ヴィヨンヌ空港であったことの二の舞になりかねないからだ。アカネは、300年以上続けてきたことに今更兄であるユウナギの言葉にも頷かないと思うという。確かに顕現を辞めるように言ってそれが通じるならとっくに終わっているはずなのだから。それでも、ずっと一緒に居たいという気持ちが少なからずわかる僕は、アンと話すことを諦めてはいなかった。話すこと、というよりかは説得になるかもしれないが。僕は、アンと昔のように暖かな食事を囲み、話をしたい。別れている間は寂しくもあった。しかし、ニザカやハツに出会い、シー、スータンと別れ、それらがあって今がある。そこで多くの嬉しさや楽しさ、悲しみを感じていく。それが生きていくことだと思っているのだ。いつか失ってしまうものだからこそ大切にできる。僕が懸命にアンの病気がよくなるように診てきてそれがよくなったりしたときは酷く喜んだ。限りある時間の中で、多くのことに出会い別れる。僕はアンにも知ってほしかった。この広い世界のこと。僕が好きなこのセカイを。アンと話すことは変わらない。それでも、揺るがないのであれば、この戦いを終わらせるしかない。アンを殺す以外の方法で。方法を模索していく中で、任務で渡された小箱と似た箱を見つける。その箱には錠前がされており自分たちが持っているものにはそれがなかった。どういうわけか旅の最初から今の今まで開くことはなかった小箱は、開けないよう教団側が仕組んだことだった。イブンに詳しく見てもらえば、その開錠に必要な粉を用意できるという。粉を用意してもらい、振ってみれば錠前が目の前に現れた。パスワードを入力してみれば、そこには何も入っておらず、ユウナギという僕の名前が彫られているだけだった。近くにあったメモには、魂の束縛というものが書かれていた。名前が彫られていることから僕の魂をここに閉じ込めようとしていたようだった。波長の合う、つまりカゾクの印をつけているアンをここに閉じ込めることができるかもしれない。…その場合、アンとはもう話すことも食事をすることも叶わないだろう。でもそれでも。もう繰り返してほしくはない。アカネはどんな判断でも恨みもしないし、ついてきてくれるという。でも、アカネもこの世界が好きだという。………僕は。イブンは、アンが顕現させようとしている神の中にヤハウェも含まれているという。イブンの願いを叶えるのであれば、神を誰かに依り代に降ろす必要がある。絵画に書かれていた人物がイブン自身ということをアカネが教えてくれた。これが会うということになるかはわからないが、神をイブンを依り代に降ろせばいいのではいだろうか、そういえば、自分の願いはおまけで構わないというのだ。僕は彼に何度か助けられている。そのお礼、になればいいと僕は思っていた。それにカーラーとサフェードを取り込む前、命に、礼を言えるのなら、イブンに神が降ろされたとしても悪いことはしないだろうとアカネと意見が合致していた。目の前の命を粗末にしないイブンが、ここまで協力してくれた彼が悪事をしようとは思えなかったのだ。そうして僕らは、大聖堂へと歩を進めることとなった。これが最後でありますように。 「ユウナギと一緒ならどんなものも全部新鮮に見える」 大聖堂へと向かえば、そこにアンはいた。アンの足元には多くの人たちが、人達だったものがそこにはあった。その中にはミメイの姿もあったが、彼女は厚着をしていた。村の人たちが彼女に着せたのだろうか。アンは僕らの方を振り返る。幸福に満ちたその穢れなき表情で。僕の見慣れたアンの顔だった。アンは僕に、怖いのも痛いのも嫌、大切な人と別れ離れにならないそんな正しい世界を作りたいという。怖いのも痛いのもそれは僕だって嫌だった。でもそれが生きていることだとも思っている。別れはいつかくる。別れがあるからこそ、失うということがあるからこそ大事に大切にすることが出来る。怖くたって、痛くたってそれを治したり寄り添うことだってできる僕はそう思っている。アンは、神様と話をし、それらがない世界ができるのだから、そんなのなくたって大丈夫よと僕に言う。そしていうのだ、アンがお兄ちゃんの中に入ればいいのよ!そしてたらずっと一緒だと。つまり、僕の体にアンが入り、魂はこの子箱の中へ閉じ込めるという算段だったようだ。…本当にそれが一緒にいる、ということなのだろうか。顔を見て話をして、一緒に食事をして、花冠を作ったりそうしたことが出来ないのは本当に一緒にいると言えるのだろうか。アンは知らないから怖いのよ大丈夫という。知らないことは確かに怖いことではある、だけど、アンの考えてる一緒と僕の考えは違っているように感じた。僕は唯一、アンの言う正しいセカイは間違っていると強く言った。こうして否定することなど今までなかったのに。アンは別れ離れになるこんなセカイの方が間違っているというのだ。永遠なんてない。ずっとに一緒に居たい。正直なところアンの気持ちがわからないわけではないのだ。それでも、僕は。そんな時だ、アンが僕を独占しているδグリーンが許せない言い放った。そして、あの時、ヴィヨンヌ空港で出会ったあの怪物が、僕らの目の前に現れた。彼女は、排除しようとしようとしていた。あの時と同じように。後方から大きな音が鳴る。振り返ってみればランコが汗だくで扉を開け放っていたい。そして鏡を見せる。その中にはニザカを囲む多くの人が必死に祈っていた。まだ生きたいと願い、僕らとの再会の約束を口に出したニザカが映し出されていた。これを見せランコは、この人たちを見捨てるんですか、神を顕現させれば、この人たちがこうして苦しむこともないんですよ!と。違うそれがその人たちにとっての救いとは限らない。僕は永遠の命なんてないと言い切る。永遠の命なんてないから、僕やニザカ、ハツは命を助けるために医者を目指している。言い放てば、ランコは鏡を落とした。それはまるで、戦いのゴングを鳴らす音かのようだった。アカネは召喚された奴隷の相手を僕はアンへの魂の束縛の詠唱を開始した。ランコからの攻撃で拘束される場面はありつつも、奴隷の撃退、詠唱が完了する。アンは驚いたように僕の方を見た。ふっと倒れそうになるアンを抱きとめた、アンはこれが自分に対する愛なのかと言ってきた。僕はそうだと答えた。これが絶対正しいとは言えないだろう。だけど、僕はこれ以上、ずっと一緒に居たいという願いを叶えるために、何百年も繰り返しているのを、多くの人間を巻き込んでいく様を見たくなかった。止めたかった。もっと早くこうしていればアンは、止まってくれただろうか。アンは僕を見て、私の本当の名前を頂戴と僕にいう。僕はアンと答えた。ヴィヨンヌ空港の時の彼女が一番お気に入りだと言っていたこの名前。アンの部屋で見た、一番右側の絵画。17世紀初めに僕が最初に救った患者の名前。僕の妹の名前。アンは、そうというと目を閉じた。ここに彼女の魂はない。これはただの入れ物だ。僕は彼女の額に自分の額を寄せる。すまなかった。どうか。どうかまた僕と。戦いの後、やるべきことは残っていた。イブンに神を下ろすのだ。イブンからの了承を得て、改めてカミを下ろす呪文をイブン向けて唱える。そうして降りてきたのは、大きな衣をまとった何かだった。人の姿をしおきながら人の雰囲気を感じ取ることはできなかった。イブンは自分を案内人だと名乗った。そして、自分が僕たちにできることは、別の世界へ僕らを運ぶことだという。…もしかしたら別の世界に行けば再びアンに出会うことが出来たかもしれない。しかし僕は、アカネもこの世界が好きだ。ニザカやハツ、出会った人たちのいるこの世界が。すでに壊れていて、残ったのは滅びだけだっとしても。それに再び会うという約束をしている。それにまだ見たことのないこの世界を僕ら二人は見たいとも思ったのだ。だから僕らはここに残ることを選んだ。イブン、案内人は自分にできることはないと言い残し、教団員の遺体と共に姿を消した。これですべてが終わったのだ。……僕は、アカネに友人になってくれないかと恐る恐る、提案してみた。ソワレの叶わなかったことを僕はユウナギとして、アカネに言う。アカネは喜んでと言ってくれた。よろしくと握手を求めれば、その手を引かれて力強く抱きしめられた。僕もそれにこたえる。するとさらに強く抱きしめるものだから、思わず手加減してほしいと言ってしまった。そして拳を突き出す、彼女はそれに答えてくれた。嬉しかった。僕とアカネは、残った人たちに会いに行った。彼らは相変わらずの様子だった。ハツは立派になり、ニザカもなんとか生きていてくれた。彼らが今後どうしていくのか、それぞれに聞いてみれば、村の人たちは寒さに耐えかね旅を続けつつ、南下していくという。ハナマルキイチ達は信仰する神が違うために自分たちの支部は大丈夫だろうから支部に戻る、とのことだった。しかし教団の今後の在り方については考えるしかないともこぼしていた。ニザカとともこさんはハカタ支部へハナマルキイチとともに戻るという。ともこさんの料理をまた食べたいのだという。僕とアカネはこのセカイの旅を続けることにした。まだ見ぬ地を目指して。また夕日を見るため。食事をするため。色んな人に出会うため。僕とアカネは歩みを始める。もう少しの間だけれども。それでも僕らはこの世界を歩いていく。 「大好きだ」 それはあれ以降何日も旅を続けていたある日のことだった。残り少ない動物を見たり、新しい景色を共に見たりした。長い冬も終わりを告げ、春の気配がする頃。僕はもう歩けなくなっていた。歩くどころか動くことすらままならなかった。壊れていく世界の中で、僕の体は衰弱していく一方であった。医者である僕は自分の状態がよくわかっていた。アカネも薄々気付いていたことだっただろう。アカネを近くに呼ぶ。そしてアカネが好きだと言ってくれた僕の手を彼女の頬に当てる。一緒に旅をしたこと、これまで守ってくれたこと。アカネには助けてもらってばかりだった。時につらいこともあっただろう。たくさん出会いたくさん別れた。ここまで多くの景色を見てきた。そして僕とアカネの中で暗黙の了解ができていた。僕を食べれば、アカネはあと数カ月生きられる。僕は、アカネに自分を食べてくれないかと言った。アカネはずっと空の見えない地下空間にいた。数カ月でその埋め合わせができるとは思っていないが、少しでもこの広いセカイを僕の分まで見てほしかった。それに、僕を食べることで少しでも生きられるなら、生きてほしかった。生きてほしかったんだ。これは単純な僕の願いでもあった。一人じゃ意味ないけどな、アカネは言う。一人にしてしまうこと、許してくれ。僕とアカネは違う生き物だ。それは初めからわかっていた。こうなることもなんとなくわかっていた。もっとアカネと話していたかった、食事をしたかった、色んな景色を見ていたかった。でも永遠なんてないんだ。わかってる。大好きだとアカネは言ってくれた。僕も大好きだ。 この記憶を思い出したのはここ数年の間で、それから必死に彼女を探し続けていた。でも彼女に似た人を見かけたとかも、噂も僕の耳に届くことはなかった。ぼーっと呆けていると、ヒノモトさんが僕にいつまでそうしていると声を掛けてきた。我に返って携帯を見てみれば、多くの着信が画面に映し出されていた。今日は仕事相手との顔合わせの日、らしい。用意が出来たら来るようにと言われて、僕は準備をする。その時だった、僕のすそを誰かが掴む。僕は。その先を見た時、驚きと嬉しさと、先ほどまで書き続けていたものが走馬灯のように頭の中を駆け巡った。そうして目の前の人物を数秒間見つめた後、名前を呼んだ。アカネ。茜色の髪に目をした彼女はおせえよと言って笑った。僕は、気づけば彼女に抱きついていた。ようやく出会えた。それだけで僕はよかった。今も茜とは旅をしている。二人ともそれぞれの忙しい生活の合間を縫って。僕と茜の旅はまだ続いていく。 ,
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