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至って普通の少女だった天花寺愛美。彼女の日常が変わってしまったのは、彼女が14歳になった頃。 どこから嗅ぎ付けたのか、彼女の体内に眠る賢者の石の存在を知り、FHに誘拐される。 幸い大事に至る前に、付近のUGNイリーガルによってセルは鎮圧、回収されたが、賢者の石の扱いで意見の割れた当時のM市UGNは、臭いものには蓋の精神で愛美の記憶を独断で消去（本部への報告はせず）、両親には警察から事故死として通達し、彼女は同名の新しい戸籍で生活をすることとなる。 彼女は事故（として扱われた）前後の記憶を失い、身分を隠したUGNの担当から、事故によって家族を失ったこと、自分だけが奇跡的に助かったこと、そして今後の生活は加害者側が保証すると言っていることを聞かされた。 UGNとしては、そのまま適当なオーヴァードを保護者扱いとして監視に付ける算段だったが、既にノイマンシンドロームを発現していた彼女は直感的にその裏の意図を察知。 資金援助だけを受け、一人暮らしを希望することで、実験動物扱いから逃れることに成功した。 尚、この企てに賛同した以前のM市支部関係者は、愛美が中学を卒業する前に事態が露見、全員然るべき措置を取られた。 高校入学後は、無意識的に発現する異能のおかげで勉学にも人間関係にもさしたる苦労はなく、充実した毎日を送れているようである。 先日の入院以降、どうも妙な夢を見ることが増えた。 怒号、炸裂音、激しい雷光、怖ろしい物が過ぎては消え過ぎては消えていく。 逃げ出したいのに足は動かず、手はまっすぐ前に伸びている。 ――助けて、と叫ぶ声は音にならない。 そんな彼女を優しく抱きしめ、背に庇って立つ彼。 「――愛美は僕が守る！」 かろうじて見える横顔は平時とは全く違った厳しい眼差しをしていて、そこで決まって彼女は目覚める。 何やらファンタジックな世界観で、血まみれの理緒にお姫様のような扱いをされていたことは確かに憶えており、高校二年にもなって夢見る内容にしてはちょっと恥ずかしい。 が、たかが夢とはいえ、流石に何日も続くと多少気にかかっては来る。 とはいえ、こんな内容を本人に話すくらいなら彼女は二度と睡眠を取らないほうがマシだと思うし、友人には校内での諸々で散々バカップルだの何だのウンザリされている。 相談する相手も思いつかないまま、所詮は夢ということで彼女の優先事項からは外れている。 桜庭理緒とは高校入学後からの付き合い。向こうはクラスメートとしての初対面時に興味を持ってくれていたようだが、実は愛美はもう少し前から桜庭理緒に関心を寄せていた。 彼の纏う人を阻むような気配、危ういほどの強い意志、何処と無く彼に惹かれるうちに、自然と想いは募っていった。 前回見事結ばれる形となったが、男は手に入れると飽きるということなのか、なんだか最近は彼の態度がやたら余所余所しい。 隠し事をしていることはとうにバレているが、内容によっては血を見ることになるやもしれない……

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